イベント
「IVS Crypto 2024 KYOTO」で語られたゲームの新時代。Web2ゲームからWeb3ゲームへの移行で起きていること
登壇したのは,Genopetsの共同創業者兼CEOのAlbert Chen氏,Moonveil EntertainmentのCEO兼共同創業者のMJ Wong氏,Ambrus StudioのFounder兼CEOのJohnson Yeh氏,そしてSkrice StudioのArt DirectorであるKent Pham氏だ。モデレーターを務めたのは,IVCのFund ManagementチームのKlein Sucuano氏である。
Web2からWeb3への移行:ユーザー体験を最優先に
議論の口火を切ったのは,Web2からWeb3への移行戦略についての質問だった。この移行は開発者にとっても,プレイヤーにとっても挑戦的な過程だ。各パネリストは,いかにしてこの移行をスムーズに進めているか,そして初期の関心を持続させるためにどのような方策を講じているかを語った。
GenopetsのChen氏は,ユーザーにとって馴染みのある体験を維持することの重要性を強調した。「オンボーディング体験(新規ユーザーがサービスや製品を初めて利用するときの導入プロセス)は完全に馴染みのあるものでなければなりません。多くのWeb3オンボーディング体験では,ウォレットのセットアップが必要ですが,我々は段階的な方法を採用しています」とChen氏は説明する。
具体的には,アプリをダウンロードした時点ではWeb3の要素はユーザーに見えておらず,バックエンドでウォレットが割り当てられるだけだという。そしてユーザーは,必要になるまでそのウォレットを操作する必要がない。
Moonveil EntertainmentのMJ Wong氏は,ゲームプレイ体験の重要性を強調した。「最終的に重要なのは,ゲーマーが望むもの,つまりゲームプレイ体験と製品です」と述べる。短期的にはファーミング※1やドロップチェイス※2などが見られるが,長期的にWeb2ゲーマーを獲得し,維持できるのはゲームプレイそのものだと彼は考えている。
※1ユーザーが暗号資産やトークンをロックアップ(預け入れ)し,見返りとして報酬を得る行為。短期的な高利回りを求めてユーザーが参加することが多い
※2新しいトークンやNFTがエアドロップ(無料配布)されるときにそれを獲得しようとするユーザーの行動。高値で取引される可能性があるため、短期的な利益を求めてユーザーが参加する
Ambrus StudioのJohnson Yeh氏は,自社のアプローチについて「Web2からWeb3への移行のスペクトルでいえば,我々はおそらく2.3,あるいは2.2くらいの位置にいます」と説明した。Yeh氏は主にWeb2ゲーマーをターゲットにし,ブロックチェーン技術を使ってプレイヤー体験を向上させつつ,従来のゲーム業界の課題解決を目指しているそうだ。「我々は文字通り,プレイヤーのLTV(ライフタイムバリュー)を増加させながら,ブロックチェーン技術を活用してユーザー獲得コストを削減することを試みています」とYeh氏は述べた。
Heroes of MaviaのKent Pham氏は,Web2とWeb3のユーザーを区別することなく,シームレスな体験を提供することの重要性を強調。「オンボーディング経験は,Web2ユーザーにとってもWeb3ユーザーにとっても同じでなければなりません」と彼は主張する。
Web3技術統合の課題と機会
議論は次に,Web3技術をゲームに統合する際の課題と機会に移り,各パネリストは,自社の経験に基づいた洞察を共有した。
Chen氏は,Web3モバイルアプリのApp StoreやGoogle Playでの展開における最大の課題は,外部資産の取り扱いに関するコンプライアンスだったと明かした。その解決策は,フロントエンドでは通常のアプリ内購入として取引を行い,バックエンドでブロックチェーンに記録されている資産と接続するインフラを構築することだったという。
Wong氏は,Web3要素の導入がデベロッパにとって両刃の剣であることを指摘した。Web3を取り入れると,開発の早い段階で支援者を獲得し,ビジョンを共有することができるというメリットがある。しかし,Web3の運営型ゲームでは,市場の変動性が大きな課題となる。暗号資産市場は非常に変動が激しいため,開発者や運営担当者がより俊敏で柔軟になる必要があると説明していた。
Pham氏は,Web3ゲーム開発における課題が時期によって異なることを指摘し,「初期段階では,セキュリティの確保と透明性の確立,そしてプロジェクトのセットアップが最も困難でした」と述べた。その後は,ユーザーのニーズと開発の方向性を常に研究し,最新の状況を把握することが重要になるという。
Yeh氏は,ブロックチェーンの選択が大きな課題であったと明かした。「我々は文字通り,3つ,今では4つの異なるチェーンを経験しました。昨年の終わりに最終的にSui※3に落ち着きましたが,それまでは非常に苦労しました」と振り返る。製品が機能しない,機能が不足している,安定性に問題がある,エコシステムがないなど,多くの課題に直面したという。
※3ブロックチェーンプラットフォームの一つ。1秒あたりのトランザクション処理能力が高く,手数料が安いといった特徴がある
これらの課題に対する解決策として,各パネリストは自社の取り組みを共有した。Genopetsは,ブロックチェーンの財務化の部分を活用しつつ,それを不可視にするという方法を採用している。Moonveil Entertainmentは,開発チームに高い柔軟性を求めると同時に,複数の製品を同時に開発することで市場の変動に対応。Heroes of Maviaは,ユーザーの声に耳を傾け,短期的な計画に柔軟に対応する方針を取っている。Ambrus Studioは,市場の変動に影響されにくいシステムを設計し,Web3ユーザーとWeb2ユーザーで異なる価格変動モデルを採用しているそうだ。
Web3技術の未来:ゲーム業界はどう変わるか
パネリストたちは,今後5年間でブロックチェーンやそのほかのWeb3技術がゲーム業界でどのような役割を果たすと予想しているかについても,意見を交わした。
Chen氏は,Fully On-Chain Game※4という新しいカテゴリに期待を寄せている。「これらのゲームは,我々が今まで見てきたゲームとは根本的に異なるものになるでしょう」と予測。まったく新しいデザインのゲームが出てくるとChen氏は考えている。
※4ゲームの資産だけでなくロジックや状態など,すべてがブロックチェーンに記録されるゲーム
Wong氏は,Web3が付加価値サービスと財務化※5の2つの面でゲーム業界に大きな影響を与えると予測している。付加価値サービスの面では,ゲーム内での目的達成とゲーム外での報酬のつながりや,ゲーマーの行動の検証,ゲーム内での成果をブロックチェーン資産として具現化し,エコシステム外で活用する可能性などを挙げた。財務化の面では,Web3がDeFi※6として,従来の金融が行っていた潜在的な活用領域をさらに拡大すると予想している。
※5ゲームの要素や資産を金融商品化し,経済的価値を持たせること
※6ブロックチェーン技術を利用して構築された金融サービスやアプリケーション。従来の金融システムとは異なり,仲介者を介さずに直接ユーザー間で金融取引を行える
Pham氏は,プロジェクトの柔軟性を保ち,ユーザーコミュニティからのフィードバックに常に耳を傾けることの重要性を強調した。「トレンドの最先端にいるためには,常に柔軟であり続ける必要があります」と氏は述べる。
Yeh氏は,ブロックチェーン技術がLTVを高め,コミュニティとWeb3要素を通じてユーザー獲得コストを削減する可能性に注目しているそうだ。さらに,5年後にはWeb3ゲームが主流になり,ゲームがブロックチェーン技術をどう活用しているかが重要な話題になると予測している。また,AIの進化により,小規模なスタジオや個人のゲーム制作者がニッチなゲームを作り出す「ゲームの分散化」も起きるという予測を語った。
変化する環境への対応:柔軟性と集中
Web3の環境は急速に変化している。各パネリストは,この変化にどのように対応し,プロジェクトを前進させているかについても語った。
Chen氏は,新しいプリミティブ(基本要素)に注目し,それをゲームにどう取り入れられるかを検討することの重要性を強調した。
Wong氏は,Web3の世界では流行が非常に速く変化するため,その先を行くことは極めて困難だと指摘。数か月後,何がトレンドとなっているかは誰も予測不可能だと述べた。
そのため,開発者としてWeb3ゲームを構築するうえで最も重要なことは何か,ゲーマーに対してWeb3がもたらす価値は何かを見極め,それにコミットすることが重要だと考えているそうだ。
Pham氏は,長期的なソリューションを模索しつつ,短期的にはさまざまなアプローチを試していると語った。自社の資産をほかのプロジェクトでも使用できる方法を模索しているという。
Yeh氏は,新しい潮流を研究し,その面白い部分は何か,そして自分達が何をできるのかを検討するそうで,「一部を取り入れ,他は無視する」そうだ。Yeh氏はWeb2ゲーマーを対象とし,Web3を活用して従来のゲームの課題を解決するという,方向性を重視している。
このパネルディスカッションでは,Web3ゲームの現状と将来像が有識者によって語られた。Web2からWeb3への移行は,技術的な課題だけでなく,ユーザー体験や規制対応など,多岐にわたる問題を含んでいる。しかし同時に,ゲーム業界に革新的な可能性をもたらすものでもあるだろう。
鍵となるのは,ゲームの本質的な楽しさを損なうことなく,Web3技術の利点を活用することだ。ユーザーに馴染みのある体験を提供しつつ,段階的にWeb3の要素を導入していくアプローチが有効だと考えられている。
Web3ゲームの世界は,まだ始まったばかりだ。想像ではあるが,インターネットが普及する前に,MMORPGのようなものの構想を練っていたときに近いのではないだろうか。今後のさらなる技術進化とともに,新たな創造の形が生まれるだろう。この変革の波が,ゲーム業界にどのような影響を与えるのか,今後も注目していく必要がある。
- この記事のURL:
キーワード