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Web3ゲームの最前線:VC(ベンチャーキャピタル)が語る現状と展望とは
業界の最新トレンドから投資基準,そして今後の展望まで,幅広いトピックが議論された本パネルの内容をお伝えしよう。
まずは,登壇した5名を紹介する。
●Andy Chou氏(Yield Guild Games,Head of Corporate and Business Development)
Chou氏は,Web3ゲーミングギルドの先駆者であるYGGで,企業戦略とビジネス開発を統括している。YGGは,プレイヤーがNFTを活用してPlay-to-Earnゲームに参加できるプラットフォームを提供しており,Web3ゲーム業界において重要な役割を果たしている。なお,本パネルではモデレーターを務めた。
●JACL氏(Delphi Digital,Head of Gaming Research)
Delphi Digitalは,暗号資産とブロックチェーン業界に特化した調査,コンサルティング会社だ。JACL氏は同社のゲーミング部門を率い,Web3ゲーム業界の動向分析や将来予測において高い評価を受けている。
●Jonathan Huang氏(BITKRAFT Ventures,Investments Principal)
BITKRAFT Venturesは,eスポーツ,ゲーム,インタラクティブメディアに特化したグローバルベンチャーキャピタルファームだ。Huang氏は同社でWeb2.0およびWeb3.0への投資を主導しており,両領域にまたがる深い知見を持っている。
●Tommy Chang氏(Spartan Capital,Executive Director)
Spartan Capitalは,暗号資産とブロックチェーン技術に特化した投資ファンドだ。Chang氏は同社でゲームとコンシューマ向けアプリケーションに焦点を当てたファンドを統括しており,Moonrayなどの注目プロジェクトへの投資実績を持つ。
●Ann Chien氏(IVC,Partner)
IVCは日本発のグローバル投資ファンドで,Web3分野に積極的に投資を行っている。Chien氏は同社のパートナーとして,200以上のポートフォリオ企業への投資を手がけており,特にアジア市場におけるWeb3ゲームの動向に精通している。
パネルディスカッションは,Web3ゲーム業界の現状分析から始まった。IVCのAnn Chien氏は,「過去3年間で,ゲームの品質は大幅に向上しました。トークノミクス※1はまだ模索段階ですが,ゲームからより多くのイノベーションが生まれています」と述べた。
※1トークノミクス(Tokenomics):「トークン(Token)」と「エコノミクス(Economics)」を組み合わせた造語で,ブロックチェーンプロジェクトにおけるトークン経済の設計と運用を指す。Web3ゲームでは,ゲーム内通貨としてのトークンの発行,流通,価値維持などの仕組みを指し,ゲームの持続可能性や経済的インセンティブ設計に直結する重要な要素だ
Chien氏はさらに,従来のゲーム大手もWeb3への参入を検討し始めている事実を指摘。「日本では,スクウェア・エニックス,コナミ,セガ,バンダイナムコといった大手がWeb3計画を発表しています。これは業界の成熟度を示す重要な指標です」と述べ,従来のゲーム業界とWeb3の融合が進んでいることを強調した。
JACL氏は,大手の参入について「確かに,大手パブリッシャの参入は業界にとって大きなニュースでした。しかし,振り返ってみると,既存のモデルにNFTやトークンを単に追加しただけのケースが多かったのも事実です。結果的に,それらの試みの多くが期待通りの成果を上げられませんでした」と補足した。
JACL氏の視点は,Web3ゲームの開発において,単にブロックチェーン技術を既存のゲームモデルに組み込むだけでは不十分であることを示唆している。成功するWeb3ゲームは,ブロックチェーン技術の特性を活かした新しいゲームプレイやビジネスモデルを創造する必要があるという認識が,パネリスト間で共有された。
投資基準
次に,議論は各VCの投資基準に移った。Spartan CapitalのTommy Chang氏は,投資判断の核心を次のように説明。「我々にとって重要なのは,そのチームが実際に人々が遊びたいと思うゲームを作れるかどうかです。多くのプロジェクトが次の大ヒット作を目指していますが,市場はすでに飽和状態です。AAA級のゲームと競争するには莫大なマーケティング予算と開発予算が必要です」と述べた。
Chang氏は,適切な市場規模の見極めの重要性を強調し,「自分たちのニッチを見つけ,そこで卓越することが重要です。さらに,Web3技術の使用が適切かどうか,トークノミクスが十分な需要を生み出せるか,オンチェーン経済がオフチェーン経済と比較して十分な規模があるかなどを考慮します」と付け加えた。
Jonathan Huang氏は,「我々の投資基準は,市場,創業者,製品という3本の柱に基づいています。まず,大きな市場でプレイしているかどうかを見ます。小さな市場でナンバーワンになっても,最大収益は限られてしまいますから。次に,その製品が市場を拡大できるか,ナンバーワンになれる可能性があるかを評価します。そして,なぜその創業者がこのカテゴリーで成功できるのかを見極めます」と,投資判断の枠組みをより体系的に説明した。
Huang氏は,「League of Legends」の例を挙げて説明を続けた。「League of Legendsを作った人々はゲームプロデューサーではありませんでした。しかし,彼らはMOBAの熱狂的なファンだったのです。多くの人が,彼らのMOBAへの情熱が市場を制覇する原動力になると認識しました」
この観点は,Web3ゲーム開発者に対しても同様に適用される。技術的なスキルだけでなく,ゲームジャンルへの深い理解と情熱が,革新的なWeb3ゲームを生み出す鍵となる可能性が高いことが示唆されている。
JACL氏は,さらに技術的な側面からの評価基準を提示した。「我々は,DeFiプリミティブ※2に関する理解や,Web3内のさまざまなユーザーコホートの特性を把握しているかどうかを重視します。単にゲーム開発の経験があるだけでは不十分で,Web3の特性を理解し,それを効果的にゲームデザインに組み込める能力が求められます」
※2 DeFiプリミティブ:分散型金融(DeFi)の基本的な構成要素で,トークン交換や保持などの機能が含まれる。Web3ゲームにおいては,これらの要素をゲームの経済システムに組み込むことで,より複雑な経済モデルを構築できる。
JACL氏は,過度に投機的なプロジェクトや,逆に従来のWeb2ゲームと変わらないプロジェクトは避け,「リスクを取り,実験的なアプローチを取る意欲のあるチーム」を重視すると述べた。これは,Web3ゲーム業界がまだ発展途上にあり,革新的なアイデアと実験的精神が高く評価されているからだろう。
Web3ゲームの普及に向けた課題
議論は次に,Web3ゲームの普及に向けた課題に移った。Andy Chou氏は,「世界には30億人のゲーマーがいますが,最も成功したWeb3ゲームでも,ピーク時のデイリーアクティブユーザー(DAU)は100万人程度です。なぜWeb3ゲーム一般に普及していないのでしょうか?」と問いかけた。
この問いに対し,JACL氏は「楽しさだけでは不十分です。多くのチームが,ユーザー獲得(UA)の競争に入ることを認識していませんでした。Web2,Web3に関わらず,現在の配信環境では,優れたUAキャンペーン※3が不可欠です」と分析した。
※3 UAキャンペーン:UA(User Acquisition)キャンペーンは,新規ユーザーを獲得するためのマーケティング活動を指す。ゲーム業界では,広告,インフルエンサー/SNSマーケティングなどの手法を用いられることが多い。
JACL氏は続けて,「確かに,Axie Infinityのようなヒットもありましたが,よく考え抜かれたUAキャンペーンを展開する資金がない,あるいは大手パブリッシャと競争する準備ができていないチームも多かったのです」と指摘した。
この観点は,Web3ゲームの開発者たちが直面している現実的な課題を浮き彫りにしている。技術的な革新性や「楽しさ」だけでなく,効果的なマーケティング戦略と十分な資金力が,成功の重要な要素となっているようだ。
Huang氏は,Web3要素の導入に関して慎重なアプローチの必要性を強調した。「Web3をどの程度ゲームに組み込むかは,ターゲット市場によって大きく異なります。例えば,MMORPGを開発し,トークンを重視した取引中心の経済を構築する場合,それはターゲット市場と合致するかもしれません。しかし,マッチ3パズルゲームのような,カジュアルユーザーをターゲットにする場合,同じアプローチは適切でない可能性が高いです」
具体例として,韓国のK-POPアイドルグループ「tripleS」を挙げた。「このプロジェクトでは,ユーザーは好きなアイドルのカードを1枚3ドルで購入できます。支払いは通常の方法で行われ,トークンは必要ありません。しかし,カードを購入すると,ゲーム内トークン(オンチェーントークン)※4を獲得し,それによってtripleSの活動に対する議決権を得られます。これは,通常のユーザーベースに対してWeb3体験をスムーズに提供する良い例です」
※4 ゲーム内トークン(オンチェーントークン):ブロックチェーンに記録されて管理されるデジタル資産。従来のゲーム内通貨と異なり,ブロックチェーン技術によってその所有権と取引の透明性が保証される。ユーザーはゲーム内外でこのトークンを使用したり,ほかのプレイヤーと取引したりできる。オンチェーントークンは,ゲーム内での価値交換や権利の表現に使用され,Web3ゲームの経済システムの基盤になる。
この事例は,Web3技術の導入が必ずしもゲームの全面的な変革を意味するのではなく,既存のゲーム体験を補完し,新たな価値を付加する形で行われ得ることを示している。
今後のトレンド
最後に,パネリストたちはWeb3ゲーム業界のトレンドについて,それぞれの見解を述べた。
Chang氏は,Telegram上のミニゲームに注目していると語った。「Telegram上のミニゲームは非常に興味深い実験です。WeChatのミニゲームのような成功を収められるかどうか,まだ分かりませんが,注目に値します。現在,このプラットフォームから多くのユーザートラフィックが生まれています。これをほかのゲームやほかのモデルに転換できるかどうかが鍵となるでしょう」
Huang氏は,ハイブリッドカジュアルゲームとCo-opゲームの可能性を強調した。「これらのジャンルは,VCの資金調達により適しています。また,若い世代に好まれ,低い参入障壁で簡単に遊べるようにするべきです。そして,いったんユーザーを獲得したら,コンテンツやネットワーク効果で維持することが重要です」
JACL氏は,AA級ゲームやインディーゲームの台頭に期待を寄せた。「現在,AAAタイトル,特にライブサービスゲーム市場は非常に厳しい状況です。そこで,10時間から30時間程度で楽しめる『使い捨て』的なインディーゲームに注目しています。VCの投資対象としては少し難しい面もありますが,確実に可能性のあるセグメントだと考えています」
Chien氏は,マルチプレイ要素の重要性を強調した。「トークン自体がコミュニティと密接に関連しているため,コミュニティが協力して取り組むマルチプレイモードが重要です。シングルプレイモードのみのゲームでは,トークンの必要性は薄いと考えています」と指摘した。
まとめ
本パネルディスカッションでは,Web3ゲーム業界の現状と課題,そして今後の展望が浮き彫りになった。業界は依然として発展途上にあるが,技術の進歩とプレイヤーの理解の深まりにより,着実に成熟へと向かっている。
パネリストたちの議論から導き出される主な結論は以下のとおりだ。
●品質とイノベーションの重要性
単にブロックチェーン技術を既存のゲームに組み込むだけでは不十分であり,Web3の特性を活かした革新的なゲームプレイやビジネスモデルの創造が求められている。ゲームの品質は従来のWeb2ゲームと同等以上でなければならず,それに加えてWeb3ならではの付加価値を提供する必要がある。
●適切な市場戦略
大規模なAAA級タイトルとの直接的な競争は困難であり,適切なニッチ市場を見出し,そこで卓越することが重要である。また,ターゲット市場に合わせてWeb3要素の導入レベルを調整する必要がある。
●効果的なユーザー獲得戦略
「楽しいゲーム」を作るだけでは不十分であり,競争の激しい現在のゲーム市場で成功するためには,効果的なユーザー獲得(UA)戦略が不可欠だ。これには十分な資金と専門知識が必要となる。
●トークノミクスとゲーム経済の設計
持続可能なトークン経済とゲーム内経済の設計が重要だ。単なる投機的要素ではなく,ゲームプレイと有機的に結びついたトークン活用が求められている。
●コミュニティとマルチプレイヤー要素
Web3ゲームにおいては,コミュニティの形成と維持が鍵になる。マルチプレイヤー要素やコミュニティ協力型のゲームプレイが,トークン経済との相性が良いとされている。
●新しいプラットフォームと形式への注目
Telegramのようなメッセージングプラットフォーム上のミニゲームや,ハイブリッドカジュアルゲーム,短時間で楽しめるインディーゲームなど,新しい形式のゲームに注目が集まっている。
●既存IPとの融合
人気アニメやK-POPアイドルなど,既存のIPをWeb3ゲームに活用する試みが増えている。これにより,従来のファンベースをWeb3空間に引き込む可能性が広がっている。
●段階的なWeb3導入
必ずしもゲームの全要素をブロックチェーン上に置く必要はなく,ユーザー体験を損なわない範囲でWeb3要素を段階的に導入するアプローチも有効だ。
といったようにWeb3ゲームに求められる要素は多い。技術的課題,規制環境の不確実性,ユーザーの教育など,乗り越えるべき障壁は依然として存在するだろう。そんな現状を十分に認識したうえで,このパネルに参加したVCたちはWeb3の未来に投資している。Web3ゲームが真の意味で開花するまでには,まだ時間がかかるかもしれないが,その過程で生まれる革新と挑戦が,ゲーム産業全体を新たな高みへと押し上げていくのではないだろうか。
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