業界動向
法のないところに不義はない。中国・韓国は,ゲームの法規制に対する動きが盛んに。そして日本は?
そしてその一方で,ゲームのビジネスモデルの変化や,ゲームが社会に与える影響の大きさから,法規制のあり方も問われるようになってきた。
法のないところに不義はない(トマス・ホッブズ)
日本のゲーム業界は,1983年の任天堂のファミリーコンピュータ発売以降,家庭用ゲーム機市場をリードしてきた。しかし,2000年代後半からのスマートフォンの爆発的普及により,モバイルゲーム市場が急成長。
ガラケー時代からモバイルゲームが広がっていたが,現在ではスマホ向けのガチャを利用した課金型ゲームが主流となっている。
法規制という点では,日本はいつも比較的緩やかな環境だ。1990年代後半から2000年代前半にかけては,過激な表現を含むゲームも普通に発売されていたが,2000年代半ば以降には青少年保護の観点などから,業界団体による自主規制が進められるようになった。現在でも,レーティング制度などによりゲームの内容はある程度規制されているが,そこに法的な強制力はない。
[インタビュー]今の時代におけるCEROの存在意義とは? 審査不通過による発売見送り,対象年齢外タイトルのヒット,IARCなどへの見解を聞く
CEROレーティングについては,ここ数年,審査不通過によるタイトル発売見送りや,15歳以上対象としているタイトルが小学生の間で大ヒットするといった出来事が相次いでいる。さらに,国際機関であるIARCのレーティングに対応するストアも増えている。そんな現状をどう見ているのか,CEROに聞いた。
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- ライター:相川いずみ
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【山本一郎】ソーシャルゲーム業界の「ガチャ」商法,規制強化情報乱舞の怪。いま,おまえのソーシャルの危険が危ない
切込隊長あらため山本一郎氏による連載コラム「茹で蛙たちの最後の晩餐」。今回は,皆さんお待ちかね(?)の業界ネタで,テーマは「ソーシャルゲーム業界の規制問題」について。すでに3000億円市場とも言われるソーシャルゲーム市場ですが,一方で,いわゆる「ガチャ商法」に関する議論が盛んになっています。騒がれている論点とはなんなのでしょうか。
ゲームの規制をめぐる攻防
ユーザー保護の観点からは前進と言えるが,法律の施行直後には,大手ゲーム企業のグラビティが,旧来のガチャ排出率と新法に基づく排出率に差異があったとして,ユーザーから厳しい追及を受ける事態となった。今後,こうした不正リスクへの監視の目は一層厳しくなるだろう。
※日本においても業界団体のガイドラインとしては存在するが,法規制ではない。(「ランダム型アイテム提供方式を利用したアイテム販売における表示および運営ガイドライン」,2016,JOGA)
また同じく韓国では,自国のゲーム産業保護の観点から,海外企業に対する規制強化も進んでいる。公正取引委員会は海外企業に対し,韓国国内の代理人指定を義務づける方針を打ち出した。これは中国が2003年から導入済みの制度で,韓国もこれに倣った形だ。規制の推進背景としては,同委員会はこう述べた。
韓国公正取引委員会:海外オンラインプラットフォーム関連消費者保護総合対策(韓国語)
韓国個人情報保護委員会:国内代理人指定制度について(韓国語)
中国はもともと自国のゲーム開発力が弱く,海外ゲームに依存していた時期があった。しかし,海外企業に国内代理人の指定を義務付けたことで,海外ゲームは現地法人を通じて提供されることになった。これが中国企業のゲームパブリッシングのノウハウ蓄積につながり,Tencentやシャンダ(現Shengqu Games),崑崙(コンロン)といった中国企業が,海外タイトルのパブリッシングを通じて成長する契機となった。
ただ,これはあくまでも過去の話であって,現在の状況は一変している。
日本は従来からコンソールゲーム市場に強みを持ち,モバイルゲーム時代の到来とともにソーシャルゲームという新ジャンルを生み出した。一方の中国は,この数年でモバイルゲーム市場の急成長を遂げ,ゲーム開発力や海外市場への進出度で世界トップクラスに躍り出た。
その間,韓国はかつてのPCオンラインゲーム全盛期の地位から転落。モバイルゲームへの移行の遅れや,大手メーカーが旧来タイトルのモバイル展開に偏重したことで,斬新なヒット作に恵まれなくなっていた。
現在の東アジアのゲーム市場では,日中韓3か国によるしのぎを削る競争が展開されている状況だが,その競争に勝ち抜くには,自国産業の保護と育成が欠かせない。かつて中国がそうしたように,韓国が海外企業への規制強化に動いたのは,そのための布石とも言えるだろう。
各国ともに,国内企業優遇,外資参入規制,消費者保護といった複合的な思惑から,ゲーム関連の法整備を進めている。ガチャなどで高額課金を促したり,ゲーム依存を助長したりするようなビジネスモデルには,何らかの歯止めが必要でありつつも,表現の自由を阻害するような行き過ぎた規制も避けるべきで,健全な業界を作るためにはどの方向に旗を振るべきか,まだまだ試行錯誤の余地があるかもしれない。
ワクワク感を生み出すコンテンツ……から一歩先へ
米中対立の最前線に立たされたTikTokや,独禁法をめぐってGAFAと角を突き合わせる欧州の動きを見ても,それは明らかだ。
つまるところ,ゲームへの規制のあり方は,産業戦略と表裏一体なのだ。規制を通じて自国産業をいかに強くするか,それが各国に問われている。自国にも他国にも優しい日本は,これからどこへ向かうのだろうか。
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