業界動向
2023年の中国ゲーム市場,全体売り上げは初の6兆円超え。国内ゲーム市場は大きく回復したが,海外進出は激しい競争でとどまる
中国音像・デジタル出版協会ゲーム出版工作委員会(中国音数协游戏工委,GPC)主任委員のZhang Yijun氏により報告の説明が行われたが,2023年中国ゲーム産業の状況については,以下の7つのポイントに総括された。
・中国国内ゲーム市場は大きく回復したが,まだ圧力は強く,市場への信頼感を高める必要がある
・新しいビジネスモデルの開拓に成功。技術開発およびその応用に対する模索で,生産効率および収益が向上できた
・海外市場へ継続的にアプローチ。激しい競争の中,海外市場での売り上げは若干減少した
・より優れた自社製品の開発,および中国優秀伝統文化を普及する製品が主流となった
・eスポーツのアジア展開により,業界の発展に新たな機会をもたらした
・「ゲーム+」という業界を超えた動きで,社会貢献や企業責任の意識がより高まった
2023中国ゲーム産業報告詳細(中国語)
1つ1つに触れると膨大な記事になってしまうので,ここでは数字部分にだけ注目してみると,2023年中国ゲーム産業の売り上げは3029.64億元(約6.04兆円)の前年比+13.95%で,初の3000億元(6兆円)突破となった。※
※以下はすべて,2023年12月18日のレート,1ドル=143.02円,1元=19.94円で計算している
プラットフォーム別の売り上げで見ると,市場全体の成長は,やはりモバイルゲームで牽引されている。2023年中国モバイルゲーム市場の売り上げは2268.60億元(約4.52兆円)で,YoY+17.51%。市場全体の売り上げの約75%が,モバイルゲームによるものだ。
市場別 | 売り上げ | 成長率 | 市場全体占有率 |
---|---|---|---|
スマホゲーム | 2268.60億元(約4.52兆円) | YoY+17.51% | 74.88% |
PCゲーム | 662.83億元(約1.32兆円) | YoY+8% | 21.88% |
コンソールゲーム | 28.93億元(約576.86億円) | YoY+22.93% | 0.96% |
HTML5ゲーム(※) | 200億元(約3988億円) | YoY+300% | ‐ |
※ここで言う「HTML5ゲーム」とは,チャットツールのWechatやTikTokの中にあるミニゲームを指すもので,スマホゲームの1種であるとカウントされている
とはいえ,スマホゲーム以外のプラットフォームも順調に成長している印象だ。COVID-19の影響からネットカフェが回復し,同時にPCを含めたマルチプラットフォームパブリッシングが主流となっている※ことで,PCゲームの売り上げは662.83億元(約1.32兆円)のYoY+8%と,安定成長している。
※2023年11月におけるSteamでの収益トップ100タイトルのうち,75タイトルはマルチプラットフォーム。一方コンソールゲームにおいても,トップタイトルのうち70%はマルチプラットフォームタイトルという結果になった
そして注目のコンソールゲームにおいては,本体の販売台数が成長したことが分かった。同大会で発表された「2023年世界コンソールゲーム市場報告」にある中国市場の抜粋によると,2023年中国のコンソールゲーム市場は,コンソール本体を所持するプレイヤーのうち,PlayStationシリーズの所持率がもっとも多い66.1%で,単体のコンソール本体で見るならばNintendo Switchが最も多く,56.3%となっていた。
ユーザー規模が停滞してきた中国ゲーム産業は,2023年はYoY+0.61%だった。2年連続のマイナス成長を経てからの微増だが,史上最大の6.68億人規模だ。このうちモバイルゲームのユーザー規模は6.57億人でYoY+0.38%なので,モバイルではないゲームユーザーは,2%未満でしかない。
一方で,中国製ゲームによる中国内の売り上げは,2563.75億元(約5.11兆円)のYoY+15.29%。版号(ライセンス)制度により輸入ゲームを減らしつつ,限られた数のライセンス発行をすることで,より長期的に運営できて確実に収益があげられる,ハイクオリティのゲームを開発することが迫られた結果なのだろうか。
中国内の成長と比べ,海外市場では苦戦しているのが見える。2023年中国製ゲームの海外売り上げは163.66億ドル(約2.34兆円),安定して2兆円台を維持しているが,YoYで見るとー5.65%だ。不安定な国際情勢,激しい市場競争および個人情報保護などの政策変動が,海外進出の難度およびコストを増加させたと分析されている。
中国産ゲームにおける海外進出の主要市場は,アメリカ,日本,韓国の順番で変わらず,それぞれに程度の差こそあれ増加傾向にある。
中国産ゲームが海外各地域における収益分布 | ||
---|---|---|
アメリカ | 32.51% | |
日本 | 18.87% | |
韓国 | 8.18% | |
ドイツ | 4.42% | |
イギリス | 2.76% | |
カナダ | 2.27% | |
フランス | 2.16% | |
オーストラリア | 1.79% | |
シンガポール | 1.25% | |
その他 | 24.54% |
中国ゲーム産業,前年比−10%以上のマイナス成長。低迷に終わった2022年を振り返る
2月14日に発表された「2022年中国ゲーム産業報告」によると,2022年の中国ゲーム市場全体の売り上げは約5.19兆円で,YoY−10.33%と大きく下落したのが明らかになった。全体的に売り上げ減少の一方,足枷ともなる版号制度による新規リリースタイトルの減少も見える。
また報告は,売り上げトップ100の中国製モバイルゲームに対しても分析を行っている。まず,海外市場では,トップ100の中国製ゲームの40.31%がシミュレーションゲームだ。RPGは15.97%,シューティング(FPS/TPS)が10.03%と続いた。
中国国内市場では,RPGが31%とダントツだ。続いて,シミュレーション9%,カードゲーム9%,シューティング7%などと続き,そこにとくに有意の差はなかった。面白いのは,トップ100タイトルでわずか4%(つまり4タイトル)しかないMOBAが,トップ100タイトル全体の収益の17.01%を占めていること。おそらくは,「王者栄耀」(邦題:アリーナ・オブ・ヴァラー)による貢献は高いのだろう。
IPソース分析から見ると,オリジナルIPのゲームがまだまだ多いとみられる。トップ100タイトルのうち51%がオリジナルIPで,IPを使った作品については,PCゲームIPが21%,コンソールIPが9%,モバイルゲームIPは5%,アーケードIPが2%となっており,全体の37%を占めている。コミックIPとスポーツIP(選手など)はそれぞれ3%で,原作を持つゲームの開発は意外と少なかった印象だ。
ほかにも,二次元ゲームやカジュアルゲームに対する分析も含まれている。「原神」のブームに引きずられて,一時期は似たようなゲームが投資や開発のメインとなっていた。2023年中国二次元ジャンルのモバイルゲームによる売り上げは317.07億元(約6322.38億円)の,YoY+31.01%。プレイヤーの課金意欲や課金能力が高く,上位タイトルの収益が目立つ。なお,収益が主に少数上位タイトルに集中し,トップランキングに乗り詰めなかった大多数のタイトルは肩身が狭いとも触れられている。
カジュアルモバイルゲームの市場売り上げは318.41億元(約6349.1億円)で,YoYー7.54%。そのうち,ゲーム内課金による売り上げは200.87億元(約4005.35億円)のYoY+109.7%で,ゲーム内広告による売り上げは117.54億元(約2343.75億円)のYoYー52.7%。広告に依存したビジネスモデルが変わってきていることも改めて分かった。
なお中国・杭州市で開催された2023年杭州アジア大会は,初めてeスポーツを正式種目として採用した。モバイルおよびPCの,7タイトルの競技が行われ,そのうちの4種目で中国が金メダルを獲得することで,中国国内eスポーツに対する注目が高まった。
2023年中国eスポーツゲーム市場の売り上げは,1329.45億元(約2.65兆円)のYoY+12.85%。2021年の史上最高記録には及ばなかったが,新しいeスポーツタイトルとゲームジャンルが市場に入ることで,さらなる成長が見込めると結論付けている。
2023中国ゲーム産業報告詳細(中国語)
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