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Access Accepted第775回:ハリウッドの俳優労組による,スト終結が与えるゲーム業界への影響
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印刷2023/11/13 11:00

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Access Accepted第775回:ハリウッドの俳優労組による,スト終結が与えるゲーム業界への影響

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第775回:ハリウッドの俳優労組による,スト終結が与えるゲーム業界への影響

 ハリウッド映画に出演する名だたるスターたちからエキストラまでが入組する,全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)にとって43年ぶりにして,118日間という長いストライキが終結し,Netflixやディズニー,ワーナーブラザーズのオフィス周辺で行われていた抗議運動が一斉に解散した。これまで撮影が遅れていた映画やドラマの制作もようやく再開の目途も立ったようだが,今回の決定はどのようにゲーム業界に影響するのだろうか?


SAG-AFTRAが求めるゲームでのAI利用規制


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 2023年11月9日,ハリウッドを中心に活動する16万人というメンバーを抱える全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)による労働環境改善を巡る抗議運動が,過去最長の118日間に及ぶストライキの末に終結した。これを以って,テレビ制作者連盟(Alliance of Motion Picture and Television Producers: AMPTP)との間で,具体的にどのような仮合意が行われたのかは明らかにされていないものの,SAG-AFTRAのプレジデントでもある女優フラン・ドレスチャーさんも評価額が10億ドルを超えると言われるAMPTPの譲歩を高く評価しており,Netflix,ディズニー,パラマウント,ソニー,そしてワーナーブラザーズ(NBC Universal)といった制作会社のオフィス前に集まっていたピケラインも,すでに一斉に解散したとのことだ。

 報道によると,SAG-AFTRAが求めていたのは時給や健康給付プラン,労働環境の向上などであるという。ハリウッドの俳優というと1作の出演で何十億も稼ぐような大スターを想像してしまうだろうが,16万人のメンバーのほとんどは無名だったりエキストラを中心に活動したりする人たちである。その給与や待遇が過去40年以上も変更されていなかったことにも驚くが,こうした役者たちは4か月近くにもわたってエンターテイメント界での仕事を放棄し,副業をしたり安アパートに引っ越ししたりしながらの交渉を重ねてきた。

 当連載の「第773回:他界した声優のボイスをAIで復活させた『サイバーパンク2077』。進化を続ける生成系AIはゲーム業界にどのような変化をもたらすか」(関連記事)でも紹介しているが,そんな役者たちの要求の1つだったのが,AIである。ドレスチャーさんらSAG-AFTRA幹部は,9月初めに「AIは映画やテレビよりも,ビデオゲーム業界において,役者たちへの大いなる脅威となる」と語り,9月25日には組合メンバーの投票の結果として,ディープラーニングで自分の演技を利用したトレーニングが行われたり,自分に似せたデジタルキャラクターが利用されたりした場合の補償を要求に含めた。

SAG-AFTRAのストライキ期間中のピケラインの様子(SAG-AFTRA公式Xより)。そのプラカードには「私はAIではない」と記載されている
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 またSAG-AFTRAは以前から,ゲームによるインタラクティブメディアと既存の映画やテレビなどの映像メディアのクロスオーバーについて,「けっして偶然ではなく,むしろ世界中の業界に影響を与える予測可能な問題である」と定義しており,パフォーマンスキャプチャや声優として新作ゲームに出演する予定だったメンバーたちにも,プロジェクトへの参加中止を呼び掛けたりしていた。

 ゲームにおいて,「なんとなくヒロインが最近話題の若手女優に似ている」というような既視感のあるキャラクターを見ることがある。開発者やアーティストが意図しなくても,美を追求した結果として似てしまったケースが多いだろうが,実際「グランド・セフト・オート V」のカバーアートにおいては,アメリカの人気女優兼シンガーだったリンゼイ・ローハンさんが著作権侵害だとして法廷に持ち込んだこともある。
 生成型AIのトレーニングによって生み出した“異国の美女”が,ゲーム開発者が十分に認知しないまま,女優やモデル,一般人の画像をベースにしていたなんてことは十分に起こり得ることだろう。


AIと相性の良いデジタルメディアだからこそ持つべき危機感


 SAG-AFTRAが指摘するまでもなく,ゲームと映画は以前から近しい存在にあった。調べてみると,ハリウッド界隈で名の知れた同組合メンバーがゲームに出演したのは,1992年にリリースされた珍作ゲーム「ナイトトラップ」のダナ・プラトーさんが最初だったとされるが,マーク・ハミルさんが出演した1994年の「Wing Commander III: Heart of the Tiger」,デイビッド・ボウイさんが印象的だったQuantic Dreamの1999年の処女作「The Nomad Soul」など,古くからスターたちがゲームにも起用されてきた。

 さらに,映画「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで,役者のモーションと表情,声までを一度にデジタル化する“パフォーマンス・キャプチャリング”というアニメーション技術が確立。その後,エリオット・ペイジさんやウィレム・デフォーさんらを起用した2013年の「Beyond: Two Souls」や,ケヴィン・スペイシーさんの起用が話題になった2014年の「コール オブ デューティ アドバンスド・ウォーフェア」などで,ゲームにおける役者の取り込みも進んでいる。
 今や著名な役者がゲームに出演することは珍しくなく,近年でも木村拓哉さん主演の「JUDGE EYES:死神の遺言」(2018年),ノーマン・リーダスさんの「DEATH STRANDING」(2019年),キアヌ・リーブスさんが話題となった「サイバーパンク 2077」(2020年)など,いくらでも思い浮かぶ。

 SAG-AFTRAとAMPTPがAIに関連してどのような合意をまとめる方向なのかは不明だが,リンゼイ・ローハンさんの一件のような“ピンクビキニとピースサイン”が類似性を認められて裁判案件として成立するのであれば,今後もリアルな人物表現を追求していくゲーム業界では,さらに訴訟が増えることだろう。
 つまり,ゲーム開発会社は最初から特定の役者やモデルを雇用することで,訴訟を回避する手段として,SAG-AFTRAと協力していくことになるかもしれないし,アメリカを拠点にするメーカーであってもヨーロッパの演者と契約するというような処置を取るかもしれない。

ディズニーのドラマシリーズ「ボバ・フェット」(The Book of Boba Fett)は,マーク・ハミルさんの若き時代をベースにしたディープフェイク映像であり,その声も完全にデジタル生成されている。開発したのは,YouTubeでスター・ウォーズ関連のディープフェイク映像を制作していた人物というのも面白いエピソードだ
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 生成系AIのゲーム業界への影響については,「第752回:急速に発展を遂げる生成系AIとゲーム業界」(関連記事)でも紹介しているとおり,元来デジタルメディアであるゲームにとってAIは相性が良く,すでに多くの利用事例がある。
 ただし,まだまだ歴史の浅い分野であるからこそ,今のうちに一定のルール作りも行わなければ,肖像権を無視してやりたい放題する企業や個人を抑止するのは益々難しくなっていくわけだ。今回のSAG-AFTRAのストライキはゲーム業界とは無関係でななく,今後どのような影響を及ぼしていくのか注視していく必要があるだろう。

「ボーダーランズ 3」のリース役は,もともとトロイ・ベーカーさんに声がかかっていたが,Gearbox Softwareが組合を通すことに難色を示したために契約に至らなかったとされている。ゲーム業界と映画産業の微妙な関係は,以前から存在しているのだ
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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