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Access Accepted第771回:830人を解雇してまで次の段階に進むEpic Games
2023年9月29日,Epic Gamesは全従業員の16%にあたる830人のレイオフを行うことをアナウンスした。「フォートナイト」はサービス開始してから6年が経過しているとは言え,それほどネガティブな要素がなさそうな同社だが,人員整理の発表の数日後には,ゲームコミュニティで知られた存在のセルゲイ・ガルヨンキン氏が,「Epic 5.0に私はうまくフィットしそうにない」として辞職している。果たして,このEpic Gamesが将来を見据える“Epic 5.0”とは何なのだろうか?
6人に1人の雇用者をカットする決断の背景
4Gamerのニュース記事でもお伝えしたように,Epic Gamesが全従業員の16%に相当する830人をレイオフ(一時解雇)することをアナウンスした。さらに,2022年3月に買収したばかりだったオンライン音楽配信プラットフォームの「Bandcamp」をSongtradrに売却,さらに2020年9月に買収していた子供にも安全なゲーム向け広告やサービスを展開する「SuperAwesome」を独立させるなどスリム化を図っている。
Epic Gamesは,1991年にPotomac Computer Systems,翌年にはEpic MegaGamesと社名を変えて,「Unreal」シリーズを柱にしたゲームの開発や,エンジンのライセンスにより台頭した。多くのゲーマーにとって,7000万ものアカウントを抱える「フォートナイト」,ゲーム開発の根幹的な技術である「Unreal Engine」,そして無料でもらえるPCゲームが魅力的なオンライン配信サービス「Epic Games Store」といった,ゲーム産業の中でも大きな地位を占める,確かな根幹技術とビジネスモデルに支えられた“メガ企業”という印象があるはずだ。
しかし,公式サイトでCEOのティム・スウィーニー(Tim Sweeney)氏自身が綴ったオープンレターによると,現在も成長を続ける「フォートナイト」の大きな要因はコンテンツクリエイターの努力によるものであり,その高い収益分配によって利益率は低いビジネスモデルと化し,現時点では支出のほうが大きく上回っているという。
また,10月3日に開催された開発者向けイベントのUnreal Festにおいて,スウィーニー氏はこの収益の下落傾向に気付いたのは10週間ほど前のことであったと話し,会社の経営状況は危機的というわけではなく,今後を見据えて今回はいち早く手を打ったのだと説明している。
830人,Epic Games従業員のおよそ6人に1人というのはかなりの数字であるが,解雇されたエンジニアは3%程度であり,コアビジネスや現在投資を行っている多くのプロジェクト,さらに「フォートナイト」の新シーズンなどには影響はないとのことだ。
また,「フォートナイト」のコンテンツクリエイター向けの40%,Epic Games Storeでの88%,さらにはUnreal Engineで開発した独立系デベロッパに課せられている「100万ドルの収益を得た時点での5%」といった収益分配などについても変更する予定はないという。
ゲーム開発以外の,映画や自動車,建築産業でのCG利用については価格モデルの見直しを行い,このことでUnreal Engine部門の収益を健全化させるとしている。
Epic Gamesが考える「Epic 5.0」で実現されるもの
そんな中,10月3日になってEpic Gamesからの退社を報告したのが,同社ではHead of Publishing Strategyという役職にあった,セルゲイ・ガルヨンキン(Sergiy Galyonkin)氏だ。ウクライナ出身のガルヨンキン氏は,1C CompanyやNivalでマーケティングディレクターを務めたあと,Wargaming.netにシニア・アナリストとして在籍。その時,運営に乗り出していたのが,今もPCゲームの動向調査に利用されることが多い「Steam Spy」だ。
そして,ガルヨンキン氏はドイツのベルリンにあったEpic Gamesの支社に雇用され,東ヨーロッパ圏のパブリッシング担当者となり,さらにこの6年間は本社に異動しての活動を続けてきた。
ガルヨンキン氏は,自身のXにおいて声明を発表しており,Epic Gamesがロシアの侵攻を受けた母国のウクライナに総額1億4400万ドルという膨大な寄付を行ったことに感謝するとともに,「フォートナイト」をFree-to‐Playモデルでローンチし,Epic Games Store側の収益分配率を12%(デベロッパは88%)に引き下げた活動を紹介。さらに,「Epic 4.0を作る手助けを可能にしてくれたティム・スウィーニーに感謝したい」と話すとともに,「今後,Epic Gamesはゲームデベロッパ,エンジン開発,そしてパブリッシャから,1つのプラットフォームへと変化していく。(中略)……私は,この新しいEpic 5.0に適応する人材ではない」と述べている。
この「Epic 4.0/5.0」という用語は筆者も初耳だったが,調べてみると海外ゲームメディアのPolygon誌が2016年に掲載した特集記事で詳しく解説されている。1991年からの黎明期が「Epic 1.0」だとすると,当時存在した大手パブリッシャのGT Interactiveと提携して「Unreal」で台頭した1998年からが「Epic 2.0」,「Gears of War」や「Infinity Blade」などPCプラットフォーム以外でも存在感を発揮した2006年から2011年までが「Epic 3.0」にあたる。
そして,Tencentが40%の株式を保有し,潤沢な資金をバックに「フォートナイト」のローンチ,Unreal Engineの無料化,Epic Games Storeの立ち上げを行った2012年以降が「Epic 4.0」というわけだ。“アクションゲームとしてのUnreal”シリーズを生み出したクリフ・ブレジンスキー(Cliff Bleszinski)氏が2012年に辞めたのも,ガルヨンキン氏が今回「自分は,Epic 5.0の時代にフィットしそうにない」として離職したのも,それぞれの時代の過渡期にあると見れば納得がいく。
では,これから始まる「Epic 5.0」はどのような時代なのだろうか。それは,ガルヨンキン氏が「1つのプラットフォーム」と形容しているように,Epic Gamesの“メタバース”への本格進出と考えられる。これについては,GDC 2023の「State of Unreal」でスウィーニー氏が登壇した8分30秒ほどのオープニングスピーチを「Epic’s Vision for Metaverse」と題し,自社の未来をメタバースに見出していたことから明らかだろう。
「State of Unreal」での各種発表については,4GamerのGDC 2023取材記事(https://www.4gamer.net/games/210/G021013/20230323088/)でもまとめられているが,オープニングスピーチにおいてスウィーニー氏は,今では「フォートナイト」の7000万人に加え,「Roblox」「マインクラフト」「PUBG Mobile」「Apex Legends」など,延べ6億人ものゲーマーがすでにメタバースに馴染んでいると話し,「NFTやVRテクノロジーを活用しなくても,2030年までには10億人のユーザーに達する」と強気な発言をしていた。
まだメタバースについての厳格な定義がないが,簡単にゲーム(島,と呼ばれる)が作成できるコンテンツクリエイター向けの「Unreal Editor for Fortnite」の40%という収益分配率は,スウィーニー氏がこうした潮流を後押ししようとしていることを裏付けるものだと言えよう。
スウィーニー氏はまた,複数のプラットフォームホルダーが同じ空間を共有する,例えばウェブサイトというサービスを異なるブラウザで見てもほぼ同じ体験が可能なのと同様な,「オープン・メタバース」の未来についても説いている。
「収益よりも投資が上回っている」として今回のレイオフを敢行したEpic Gamesだが,その収益悪化の原因は,「フォートナイト」の収益率の低迷だけでなく,メタバース関連分野への投資にもあったはずだ。社名変更まで行ったMeta同様,Epic Gamesもメタバースの未来へと邁進し始めているが,これから始まる「Epic 5.0」はゲーム産業やゲーム市場の今後にも大きく関わることであり,同社の動向は注視する必要があるだろう。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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