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印刷2023/09/01 15:08

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[CEDEC 2023]没入感を高める4つのアプローチ。“圧倒的な没入体験を目指して。VRアドベンチャー「ディスクロニア: CA」の体験設計”レポート

 2023年8月24日,ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2023」にて,MyDearestの末岡 青氏,黒滝智生氏,初鹿デニック氏,大川大輝氏,池田博幸氏らによる講演,“圧倒的な没入体験を目指して。VRアドベンチャー「ディスクロニア: CA」の体験設計”が行われた。

 本公演は,クロノスユニバース3作品を制作してきたMyDearestの開発メンバーが,VRゲーム業界のトレンドを概観し,VRゲームだからこそ生じる特有の課題に対して,シリーズの軸を維持しつつどのように対応していったかを,具体的な体験設計の例を交えつつ解説するというものだ。

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 クロノスユニバースとは,MyDearestが開発しているVRアドベンチャーシリーズで,Story×VRをコンセプトに,2019年から2023年にかけて「東京クロノス」「ALTDEUS: Beyond Chronos」「DYSCHRONIA: Chronos Alternate」の3作品がリリースされている。初期はテキストが中心のノベルゲームに近いタイトルだったが,シリーズが進むごとに,パズルや脱出ゲームの要素が追加されているのが特徴だ。

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 講演の最初は,末岡氏から,もともとテキストアドベンチャーだったシリーズに,ゲーム性を取り入れた理由が語られた。末岡氏によると,シリーズもので続編を出す時の重要な要素として,「シリーズの軸となる体験の継承」「より広い層に届けるためのゲーム体験の進化」の2つを考えたという。
 ここで言う“より広い層”に届けるためには,現状のVRではどうしても北米を考えなければならず,市場でヒットしているゲームに共通した“身体性を伴うアクション”を取り入れることにしたそうだ。

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 しかしここで,身体性を伴うアクションは長時間プレイに向かなかったり,パズルなどの攻略要素は没入感を削ぐ場合があったりと,クロノスユニバースの軸となる体験と,潜在的なプレイヤー層に刺さるゲーム体験の食い合わせが,非常に悪いという問題が発生してしまった。しかし,これは今後もVRでシリーズを作るなら,絶対に避けて通れない課題であるとし,軸となる体験を生かしつつ,デメリットを感じさせない体験を設計することを目標に,開発をすすめたという。

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 そこで,これらの課題への対策として実施された,4つのアプローチが解説された。まず1つ目は,黒滝氏によって解説された「没入感を“高める”アクション」だ。

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 「DYSCHRONIA: Chronos Alternate」(以下,ディスクロニア)では,VRデバイスの特性を生かした身体性を伴うアクションとして,「ステルスパート」が導入されている。ここで目指したのは,身体的な没入感を強化することによる,物語の主人公としての緊張感や一体感だ。

 没入感を強化するために行われた工夫としてまずは,「モノとのインタラクション」が挙げられた。モノに触ったり動かしたりすることで,その場に実際にモノがある,モノに触っている自分が実在するという,実在感を高めてくれるのだという。
 それに加えて,シンプルなアクションを随時挟むようにしたとのこと。一つ一つが小さい要素でも,定期的にアクションを入れることで,実在感の向上や,プレイヤーを飽きさせないことに繋がっているそうだ。

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 次に挙げられたのは「距離感・空間認識の活用」だ。これは,立体的に距離や空間を把握できるというVRの特性を生かした工夫で,狭い空間をくぐり抜けたり,高いところから見下ろしたりといった,距離や空間を意識させる場面を入れることで,臨場感が高まるのだという。

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 最後は「物語の主人公としての体験の提供」だ。これは,空間音響を利用して距離や方向を感じさせたり,物語上の重要な選択を行う場面で特別なインタラクションを行わせたりと,プレイヤーと主人公の一体感を強化させるという工夫だ。
 これらの要素を活用することで,VRアドベンチャーとして没入感の高い体験を提供しているのだという。

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 続いて2つ目のアプローチとして,初鹿氏から「没入感を“削がない”難度設計」の解説が行われた。
 一般的なゲームだと,解き方が分からなかったり行き詰まったりした場合,攻略情報を調べる人が多い。しかし,VRゲームでそれを行うと,デバイスを外すことになり,没入感を削いでしまう。これに対してディスクロニアでは,「解き方を誘導・先導させる」「ヒントを丁寧に与える」「ギミックとヒントを同じ視界内に収める」という3つの点で対策したという。

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 まず「解き方を誘導・先導させる」では,キャラクターに解き方を先導させ,パズルを解くために何をすればいいかをプレイヤーに教えるようにしたという。例えば,パズルパートに入るたびに,キャラクター同士の会話でゴール(パズルの目的)を教えたり,キャラクターの立ち位置や視線誘導で,解き方を誘導したりする,といった具合だ。
 次に「ヒントを丁寧に与える」として,相棒キャラクターにヒントを出してもらう,字幕の中でヒントになる部分の色を変えるなどの手法が紹介された。

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 最後の「ギミックとヒントを同じ視界内に収める」では,タイトル通り,ギミックとヒントを同じ視界内に入るよう配置することで,顔を動かす負担が軽減したほか,オブジェクト同士の関連性が分かりやすくなり,正答率の向上にも繋がったという。

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 3つ目のアプローチは「没入感を“持続させる”インタラクション」だ,こちらは大川氏から解説が行われた。
 ディスクロニアでは,物語を魅力的にするために,緩急をつけた演出が行われているという。その緩急を感じてもらうためには,一度に長く遊んでもらう必要がある。しかし,長くプレイしていると当然ながら疲労感も大きくなってしまう。本テーマでは,酔いや疲れが発生しにくいコンテンツとともに,疲労感を意識させない,体験に集中させられる表現が紹介された。

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 探索の際,プレイヤーの好きな順に調べてもらうと,重要な情報にたどり着いた時には疲れ始めている可能性がある。その場合,集中が切れ,大事な内容を読み飛ばしてしまうことも考えられる。その対策として,プレイヤーが調べる前に,予めキャラクターが部屋を見て回る様子を見せたそうだ。そうすることで,怪しい場所にアタリをつけてもらい,目的の物へ意識を向けさせているという。

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 また,ディスクロニアではロケーション間の移動パートが多いため,何度も同じ場所を訪れて見飽きてしまったり,移動中は物語の進行が止まってしまったりで,集中力が切れやすくなってしまっているという。そこで,プレイヤーに追従するキャラクターを用意して,アクションに対して反応を返したり,キャラクター側からプレイヤーへのインタラクションを要求したりすることで,プレイヤーを飽きさせないようにしているそうだ。

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 そして4つ目のアプローチとして「没入感を“演出する”VFX・サウンド」が,池田氏から解説された。
 VRの大きな魅力は,すべてが自視点での出来事になることだ。しかしその反面,カメラ操作がゲーム側で利かず,次の目的が伝えづらい,プレイヤーが迷子になりやすいといったデメリットも持ち合わせている。
 ディスクロニアではそんな状況を避けるため,サポートキャラの声や動きで,プレイヤーを誘導しているが,ストーリーの進行上など,サポートキャラを登場させることができない場面がどうしても訪れてしまう。そんな時に出番となるのが,VFXによる空間演出だ。

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 その一番分かりやすい例として“光の道”が挙げられた。これは,プレイヤーの移動に応じて各所で意識誘導を行い,そのテンションをコントロールしていくという演出で,サウンドとVFXの相乗効果を狙ったものだという。
 こういった“行動を誘導する空間演出”で,サポートキャラ不在でも,プレイヤーを誘導することが可能になるというわけだ。

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 4つのアプローチの解説が終わると,最後に末岡氏から総括が行われた。松岡氏によると,今回のような課題は,クロノスユニバース作品に限った話でなく,キャラクターやストーリーがIPの軸になっているコンテンツをVR化する際にぶつかりやすい課題だという。
 今後,中国をはじめとしたアジア圏での市場の伸びが予測されるVR市場において,今回の講演による知見が,長時間,疲れずに遊べるストーリーコンテンツの発展の一助になれば幸いだとして,講演を締めくくった。

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