連載
コクヨの「しゅくだいやる気ペン」は勉強を監視するのではなく,親子の幸せな姿を追求した学習ツール:身近なところにゲーミフィケーション 第1回
ゲーミフィケーションとは,ゲームの持つ要素や原則をそれ以外の分野に導入して,人々のやる気を高めたり,問題解決を図ったりすることに活用する仕組みである。
今週から始まる連載「身近なところにゲーミフィケーション」では,ゲーミフィケーションを活用した製品やサービスなどを,ゲーミフィケーションデザイナーとして活躍している岸本好弘氏とともに紹介していく。
記念すべき連載第1回で取り上げるのは,コクヨの「しゅくだいやる気ペン」だ。勉強に対する子どもたちのやる気を習慣化するという本製品は,岸本氏によればゲーミフィケーションにおける大切な要素が多く詰め込まれた製品だという。
今回は,その開発キーマンである中井信彦氏(コクヨ イノベーションセンター 学びソリューション事業部 やる気ペングループ グループリーダー)を取材した。
岸本氏:
いろんなゲーミフィケーション講座で,「しゅくだいやる気ペン」を事例の1つとして紹介する機会があるのですが,親御さんはもちろん,学生からも「そんなのが小学生の時にあったら,宿題やるのが好きになったのかも」と言われました。多くに人にとって宿題というのはネガティブなワードで,それをポジティブに変える仕掛けを考えた中井さんにお話を聞いてみたいと思ったのです。
「しゅくだいやる気ペン」公式サイト
「しゅくだいやる気ペン」は小学生をターゲットにした,コクヨ初のIoT文具だ。この製品は,市販の鉛筆に取り付ける加速度センサー付きアタッチメントで,鉛筆が動いている時間に応じてLEDの色が変わっていく──つまり文字などを書いている時間の長さを可視化するツールである。
中井信彦氏(以下,中井氏):
アタッチメントのLEDが光って,鉛筆が動いている時間に応じて色が変わっていく。これを私達は「やる気パワー」と呼んでいます。子どもたちは,宿題を頑張って片付けている時間に応じて,やる気パワーが溜まっていくという体験をするわけです。
しゅくだいやる気ペンは,専用のスマートフォンアプリと連動しており,スマホにアタッチメントを近づけて,液体を注ぐように傾けると,やる気パワーがアプリ内にある「やる気の木」に注がれる。これにより,「やる気の庭」というスゴロクのようなステージを進められる仕組みだ。ステージのゴール地点には,親からのご褒美が待っており,子どもたちをやる気にさせる。
中井氏:
ゴールに到達したときのご褒美については,家族で相談して自由に決めてもらう形にしています。ご褒美は「週末に家族で焼肉に行く」とか「今度の休日に水族館に行く」とか何でもいいと思うんです。
子どもの宿題状況を把握するという監視目的なら,ペンの動きをスマホでリアルタイムにチェックできる仕組みなどを考えそうだが,しゅくだいやる気ペンの狙いは違うところにあると中井氏は語る。
中井氏:
「親子間での会話のきっかけを与える」というのが,しゅくだいやる気ペンの大きなコンセプトの1つになっています。溜まったやる気パワーをアプリに注ぐ際にも,ゴールに到達したときのご褒美を決める過程にも,子どもと親は顔を合わせることになります。「今日はこれだけ宿題をやった」「ご褒美は何にしようか?」といった会話を通じて,子どもがやったことを親に伝える機会や,親が子どもを褒める機会を作りやすくしているんです。
岸本氏:
しゅくだいやる気ペンという名前と目的が素晴らしいですよね。日々の努力が可視化されるので,子どもはどんどん宿題に向かいたくなります。会話を通じて自然と親が子どもを褒めるきっかけが見つかり,褒められると子どもはまたやりたくなる。やる気を引き出すことによって習慣化のサイクルを生み出しています。
ゲーム的な要素で能動的な参加を促し,子どもたちの成長を可視化させるなど,ゲーミフィケーションの観点からも優れた商品と言えるでしょう。
また,しゅくだいやる気ペンには,子どもたちに世の中のさまざまなことに興味を抱いてもらえるような導線が,さまざまなところに散りばめられているという。
例えば,「やる気の庭」には,それぞれテーマの異なる全20ステージが用意されており,道中に配置された色の濃いマスを通過すると,ステージのテーマに沿ったアイテムを獲得できる。アイテムは動物や歴史的な建造物などすべて現実に存在しているものとなっており,子どもの興味を引くような詳しい解説も付いている。
中井氏:
リアルにあるものをフックにして,いろんなことを知ってほしいという思いがあります。たとえば,本をテーマにしたステージには,ピーターパンやオズの魔法使いが出てきますし,ジャポニカ学習帳とコラボして,アフリカをテーマにしたステージを作ったり。海洋研究開発機構(JAMSTEC,ジャムステック)や,南極観測隊の国立極地研究所(極地研)とコラボしているステージなどもあります。
こうした子どもたちの興味を広げる取り組みは,1歩進んで「内なるやる気をどう引き出すか」ということへのチャレンジだという。中井氏は,勉強に対する「何のためにやっているんだ?」という不毛感が,子どもたちのやる気の芽を摘んでいると指摘。逆に「自分の将来につながっている」「こういう世界に自分は行きたい」と思ってもらえれば,宿題もすごくポジティブに捉えるようになるのだと語る。
中井氏:
実際にお客様からも「子どもが,JAMSTECが駿河湾で見つけた新しい深海魚を見たいと言うので,週末に静岡まで行ってきました」という声をいただいています。商品を通じて抱いた興味をきっかけにリアルな行動を起こしてくれていることが本当にうれしかったですね。
一方で,説教臭くならないような配慮もしているとのこと。直接言葉にしないでどうやって伝えるかを常に考えているという。たとえば,しゅくだいやる気ペンでは「親子の会話を促進しましょう」「このテーマが子どもの将来につながるかもしれない」といったメッセージをほとんど表には出していない。
岸本氏:
中井さんのその考えはゲームの手法とすごく良く似ています。例えば「ドラゴンクエスト」は堀井雄二さんが書いたシナリオを辿っていくわけですが,遊んでいるプレイヤーは,“自分の冒険をしている”と思っています。
プレイヤーが冒険をしているうちに,「世界はこうなっているんだ」「あの体験がここにつながるのか」ということを,自主的に見つけたと思うからやる気が出るし,面白いんです。そこへ巧みに誘導していくのがゲームデザインです。「この先こういうことがあるから,オトクだよ」と最初から言語化されていると,興ざめですよね。
中井氏:
「スーパーマリオ」とか「どうぶつの森」とか,多くの人にとってのゲームの入り口となっている任天堂のタイトルも言語化しないという手法が多く使われていると遊んでいて感じます。
家族の暖かい時間の大切さとか,一歩を踏み出す勇気の振り絞り方とかをゲームを通じて伝えてくれるんですよね。最近,ゲームあるいはゲーミフィケーションをポジティブに捉える親が増えているのは,そうした体験があるからなのかもしれません。
「顧客を幸せにすること」を考えて作った仕組みが,偶然「ゲーミフィケーション」につながっていた
子どもの「やる気」をさまざまな仕掛けで引き出す「しゅくだいやる気ペン」だが,プロジェクトがスタートしたときのコンセプトは「親が子供の勉強を見守る」という現在とはまったく違うものだったそうだ。
中井氏:
最初は「親御さんのスマホに子どもがペンを動かしている時間をリアルタイムで連絡する」という「見守りツール」のようなものを考えたんです。当時は,共働き層が増えているということが社会の課題として取り沙汰されていました。ただ「子どもを見守る」ということは,裏を返すと「子どもを監視する」ことだったんですよね。
そもそも,しゅくだいやる気ペンのプロジェクトは,2016年に上層部から「IoT文具を作れないか」というミッションが降りてきたことで始動した。プロジェクトはクローズドで進められ,外部の人間に意見を聞くことはほとんどなかったという。中井氏はこの時期について,「社会課題を都合のいいように自分たちで解釈して企画開発を進めていた時」と表現する。
中井氏:
プロジェクトを始めてから1年くらい経ったときに,大々的にアンケートを行ったのですが,「学習に関しては,子どもの見守りはできている」という回答が7割を超えていました。
共働きだったとしても「帰宅後に勉強を見る」といったように親御さんなりに工夫して実践していました。私たちは,自分たちの思い込みのままに開発を進め,結果として誰も必要としていないものを作っていたんです。
その後プロジェクトは一旦ストップ。コンセプトの見直しが行われる最中,中井氏はとある書籍に掲載されていた,ビジネスというものを端的に表した図を見て衝撃を受けたと語る。図には,お客様が製品やサービスを通じて「幸せな顧客」に変わる過程が描かれており,それこそがビジネスであると書かれていたのだそう。
中井氏:
「幸せな顧客」というワードにドキッとしたんです。自分たちは1年間の試作期間で,お客さんが幸せになるイメージをまったく持ってなかったんですよね。
「IoT技術をどう使って商品にしようかとか」「商品をどう使ってもらおうか」ということは考えてましたが,「これを使ってお客様が幸せになるビジョン」を考えていなかったんです。新規事業の展開とかそれっぽいことを言っていただけで,一番重要なところが欠けていたことを思い知らされました。
岸本氏は,この「幸せな顧客」という考え方については,ゲーム作りやゲーミフィケーションの活用においても重要な点だと指摘する。
岸本氏:
ゲームの企画開発で非常に大事なのは,「どうやったらお客様が喜ぶんだろう」というところを考えることなんです。ゲームを遊んでプレイヤーが喜ぶ姿を想像しながら,「夢中になってくれる仕掛け」をひたすら考え続ける。すなわち,プレイヤーファースト。その意味で,ゲームの企画開発に似ているのではないでしょうか。
世の中のさまざまな製品やサービスのほとんどは,課題解決から企画開発がスタートする。社内で真面目な議論をするほど,課題解決にばかり目が行ってしまう傾向があると中井氏は語る。
中井氏:
会議では「自社のリソースでこういうことができます」とか「他社と比較して,うちならこういうことができます」とか,そういう話になりがちです。「今こういうことで困っている」というユーザーが,自社の製品やサービスを利用してどう幸せになるかという議論が大切なんです。
そこで中井氏は「実際に子ども達が勉強している姿」や「それが生活全体の中で,どんな位置付けになっているのか」などを知らなければ,自身が顧客にしようと考えている層の「幸せな姿」を言語化できないと考えたという。
子どもを持つ親達に個別インタビューを行ったところ,親は子どもが勉強に興味を持つようさまざまな創意工夫をしているケースも少なくないことが分かったそうだ。
中井氏:
たとえばある家庭では,電車に興味を持っている子どもに対して,親が駅名標を模したシートを作って漢字の勉強をさせていました。自分の子どもにとって理解しやすくするために,親御さんはそこまで力を尽くしていらっしゃる。
ガミガミ怒ってしまうのは,子どもの学びに深く関わりたいということの裏返しなんだなという発見がありました。
ここで中井氏は,「親向けのしゅくだい見守りペン」だったコンセプトを,「子どもが自ら勉強したくなるようなやる気を引き出すペン」に変更。商品名を「しゅくだいやる気ペン」とし,本格的にプロジェクトを再出発させた。
「子どもが自ら勉強したくなる」というコンセプトは経営陣を始めとした関係者にも受け入れられ,次々とプロジェクトの協力へ名乗りを上げる会社が出てきたのだという。順調に開発が進む中,現在の「しゅくだいやる気ペン」の形に大きく近づくきっかけになったのは,出資者へ「しゅくだいやる気ペンの企画会議」に参加してもらうというクラウドファンディングプロジェクトだったという。
中井氏:
製品化が決まる前に「しゅくだいやる気ペンの企画会議をやるので参加してください」という形で出したんです。お金を払ってでも,本気でテーマを共有して取り組んでくださる親子と一緒に,自分たちが今考えていることを試したかったという意図があったんですが,有料で企画会議に参加してもらうなんて結構メチャクチャですよね(笑)。
実際,しゅくだいやる気ペンの企画会議に集まった親子からは,本気のフィードバックをもらえたと中井氏は語る。特に親からはプロトタイプを見てすさまじいダメ出しをされたのだとか。
中井氏:
そのときのプロトタイプは,ペンの方はただ光るだけで,アプリはリンゴの木が生えるというだけの仕組みだったんですけど,「『やる気の木が生えます』みたいな浅いダジャレが,子どもに通用するか!」「こんなの子どもは2日で飽きますよ」とストレートに言われましたね。子どもに継続的に興味を持たせて,習慣化させることがいかに難しいか,集まった大人の皆さんは体感的に分かっていらっしゃったんです。
そうした試行錯誤を重ねつつ,子どもたちの反応を観察しているうちに,中井氏らは子どもが褒められたときが,一番幸せになるタイミングだと気づいたそうだ。
中井氏:
褒められた子どもは当然幸せだし,褒めた親御さんも幸せ。褒められた子どもは調子付いて,もっと褒められたくて頑張るという,いいサイクルになっていくんです。今振り返ると当然なんですけれども,このサイクルを中心に据えることが一番重要なポイントじゃないかと気づいたんです。
ガチャ的なもので子どもの興味を惹こうと考えたこともあるんですが,きちんと会話が生まれる場が中心にあれば,体験はすごく幸せになる。毎日,そういった幸せなことを続けていれば,勉強の習慣化につながるんじゃないかなと。
冒頭の通り,しゅくだいやる気ペン専用アプリの主軸になっているのは,スゴロクをベースにした「やる気の庭」と呼ばれるコンテンツだが,こちらも当初は単なるグラフだったという。しかしスゴロクにしてゴールに向かっていくフォーマットにしたところ,子ども達は俄然やる気になったそうだ。
中井氏:
テストの段階では、「ゴールできたときのご褒美をこれにしよう」といった会話を紙にメモしながら子どもとやっていたんですが,それがすごく楽しいと好評でした。これをアプリで実現できれば,単純に楽しいだけのものではなく,本当に会話が生まれるフォーマットにできるんじゃないかという思いのもと,いろいろ工夫していきました。
そうした過程を経て,しゅくだいやる気ペンは2019年に発売された。中井氏らのもとには,「宿題だけでは物足りない」「字がうまくなった」という子どもの声や,「親子の関係がよくなった」という親の声が寄せられるようになったという。
しゅくだいやる気ペンは岸本氏が代表を務める日本ゲーミフィケーション協会が毎年選出している「勝手にゲーミフィケーション大賞 2021」の大賞にも輝いている。しかし,上記の誕生過程を見ても分かる通り,しゅくだいやる気ペンは決してゲーミフィケーションを前提に開発がスタートしたものではない。
中井氏:
ゲーミフィケーションという言葉は知っていたんですが,理屈として理解していたわけではないんです。いろいろ試行錯誤をしている中で,いろんなものを捨てて,残ったものが結果として,ゲーミフィケーションの考え方と同じになったんです。
岸本氏:
中井さんのすごいところは「お客様を幸せにする」方法を自分自身で考えて,その結果としてゲーミフィケーション的な手法にたどり着いたところだと思います。そんなしゅくだいやる気ペンがお客様に好評だという結果を見ても,ゲーミフィケーションは子どもの勉強という問題解決に一定の効果があると言えるのではないでしょうか。
「しゅくだいやる気ペン」で日本の家庭学習を変え,若者の自己肯定感を高めたい
現在,しゅくだいやる気ペンは,小学校低学年の子どものいる家庭がボリュームゾーンで,勉強に興味を持てなかった子どもが進んで宿題に向かうようになったという事例が多く寄せられているのだそう。
中井氏:
しゅくだいやる気ペンは,あくまでも勉強を習慣化をサポートするための商品です。薬ではないですから,使ったからといって成績が上がるかどうかはまた別の話です。基本的に,なかなか勉強をしない子どものために向けているものになります。
岸本氏:
もともと勉強が好きで,成績もいいという子どもたちの中には,ゲーミフィケーションの仕掛けが邪魔という子もいるんです。しゅくだいやる気ペンも,勉強に興味を持てない子どものためにアプローチする商品ということですね。
興味のない子どもたちをやる気にさせるには,やはり親が「褒める」ということが大切なのではないかと中井氏は語る。
内閣府の公式サイトに掲載された「特集 今を生きる若者の意識〜国際比較からみえてくるもの〜」(関連リンク)によると,「自分自身に満足している」という回答者は,アメリカでは86%だが,日本はでは45.8%となっている。そのほかの項目でも「諸外国と比べて,うまくいくかわからないことに対し意欲的に取り組むという意識が低く,つまらない,やる気が出ないと感じる若者が多い」「諸外国と比べて,自分の将来に明るい希望を持っていない」といった講評が示されている。
岸本氏:
本来,子どもたちはいろいろなことに興味関心があって,やる気を持っていると私は考えています。大人だったり,環境だったりが子どもたちのやる気を失わせているんじゃないかと思うんです。
私たち,日本ゲーミフィケーション協会は,子どもたちがもともと持っていたやる気を回復させようとしているんです。中井さんの試みも同じで,親子に楽しくコミュニケーションを取ってもらい,やる気の持てる状態に戻そうとしているのだと感じました。
中井氏:
今の日本は,すごく自己肯定感が低い国なんです。昔は,親が子どもを貶めて「這い上がってこい」と。それを振り払って,今の親御さんが子どもたちのやる気を引き出す原体験を作れたら,次の世代も同じ原体験になるように自分の生活をデザインしていくと思うんですよ。
人から褒められて「自分はこれでいいんだ」と皆が思えるようになれば,10年後に人々が持つ自己肯定感は高くなっていると考えています。その時代まで,しゅくだいやる気ペンは頑張っていきたいですね。
IoTの技術と「顧客の幸せ」を軸に開発されたしゅくだいやる気ペンだが,そこには文具メーカーであるコクヨが長年こだわり続けた「書く」ということに対するこだわりも込められていると中井氏は語る。
そんなしゅくだいやる気ペンが,初のIoT文具として世に出て大ヒットしたのは,コクヨの代表取締役社長 黒田英邦氏の先進性も大きかったという。
中井氏:
今コクヨは,社長が中心となって「文房具と家具を扱っている会社」という従来イメージから大きく変わろうとしています。創業以来初めて刷新した企業理念「be Unique.」には、商品・サービスから得られる「体験」を通じて,ユーザーの創造性を刺激し,個性を輝かせるような会社になりたいという思いが込められています。また「実験カルチャー」という文化も浸透しつつあり、新しいものを生み出すチャレンジを応援してもらえる雰囲気もあります。しゅくだいやる気ペンが実現できたのは,そういった環境があったのも大きかったです。
最後に中井氏はこれからも「顧客の幸せ」を大切にしつつ,老舗のコクヨだからできる革新的なことにチャレンジしていきたいと展望を語った。
中井氏:
私は前職で家電の開発に携わっていましたが,その時はユーザーの使いやすさではなく,「とにかくカッコよくてミニマルなものを作ろう」「世界最先端のデザインを作ろう」というメーカー視点の作り方で仕事をしていました。
一方コクヨは,ノートのページが簡単には取れない堅牢さや,ページを透かしてみると裏表の罫線がピシッと重なっているなど,ユーザーの使い勝手をきちんと考えてモノづくりをしています。そういう意味では,僕がたどり着いたユーザー視点の考え方は,もともとコクヨにあったんだと思います。
今は,それをベースに次の事業を作れたらいいなと考えています。どうやったらユーザーを幸せにできるか,そこはずっとブレずに続けていきたいですね。
岸本氏:
今回のインタビューでの気づきは「顧客に対して,どんな体験を用意してあげればいいのだろう」ということを考え続けると,ゲーミフィケーションの考え方に近づくことがあるという点でした。
今回の課題は「宿題に取り組まない子どもに困っている」ということでしたが,その解決策は「子どもにどうやって宿題をやらせるか」ではなく、「子どもがどうやったら宿題をやりたくなるのか」だったのです。ゲームデザイナーは,「プレイヤーにゲームをやらせる」のではなく,「プレイヤーがゲームをやりたくなる」仕掛けを常に考え続けています。そういう点では似ているのかなと思いました。
一番大事なのは,多くの人は「無理やりやらされることは嫌い」だという点を理解し,逆に「自ら進んでやることは好き」ということに気づいて,商品やサービスをデザインすることなのです。
また,ゲーミフィケーションというと「デジタルゲームで使われている仕掛け」を考えがちですが,もっと幅広く「遊び心」を効かせたデザインにする方が良いと私は考えています。
「しゅくだいやる気ペン」公式サイト
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