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それって,ブロックチェーン使わなくてもいいんじゃないですか? 第4回:きみはマウントゴックス事件を覚えているか?
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印刷2023/05/22 12:00

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それって,ブロックチェーン使わなくてもいいんじゃないですか? 第4回:きみはマウントゴックス事件を覚えているか?

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 こんにちは! しおにくです。ちょっと時間があいてしまいました。
 前回は,暗号資産のマイニングについてビットコインを例にとり,ハッシュ値が復号できず固定桁となることを利用し,「司会者なき大喜利」によってナンス値を各ノードが求め,最初に求めたノードによってブロックが新しく追加されることでチェーンが伸び,ブロック報酬が発行されるということを説明しました。……って,こんなわけわからないことを解説したの!?

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  ブロックチェーンの概念や仮想通貨が世を騒がせ始めたころ,「マイニング」なる言葉が急に登場して「何を掘るんやろ?」と思ってた人は,きっと少なくないことでしょう。今回は,そのあたりを含めてブロックチェーン全体の話をしようと思います。

[2023/03/23 08:00]

 ブロックチェーンのプルーフ・オブ・ワークにおいては,一番長いチェーン(=ブロックが追加されていくチェーン)が正統とされます。「長い物には巻かれろ」とは言いますが,ブロックチェーンでは長く伸びたものを使用する決まりになっているんですね。このあたりも,ブロックチェーンが画期的である理由になっています。
 そこで,なぜこれが二重支払いを防止し,改竄に強いとされているのかを補足します。

長いチェーンには巻かれろ!


 連綿と続くデータがあったとして,過去のデータを書き換えるという不正を完了するには,そこから分岐した(=二重になった)チェーンを全て計算しなおし,正統なチェーンとの辻褄を合わせ,かつ長くならなければなりません。

 ですが,過去のブロックのトランザクションを一か所書き換えると,それに対応したナンス値も変わりますし,もしそのナンス値が計算の上で求められたとしても,当然次のブロックに埋め込まれるハッシュ値が変わってしまいます。すると次のブロックではそれに対応したナンス値も計算しなおさなければならず……。そんなことをしているうちに,正規のチェーンはどんどん伸びていき,書き換えを行ったチェーンはロクに伸びず,ほかのノードから見向きもされず,不正な書き換えは確定されないことになります。

 そしてこれは,「もしナンス値を求めることができたノードがいくつか現れたら?」という疑問への解にもなっています。最初にナンス値を求められたところへブロックが追加されると,そのブロックの情報がネットワーク全体へブロードキャストされます。各ノードはその情報を検証し,問題ないものを受け入れ,次の演算に使用します。

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 ブロードキャストが遅かったブロックですが,これは全て分岐したものと捉えられます。ノードによっては,ネットワーク状況などによってこれを最初に受け取ってしまう可能性がありますが,次のブロックの演算においてそのチェーンがそれ以上伸びず,ほかに伸びているチェーンがあれば,伸びなかったほうは正統なものではなくなる,というわけです。

 そして正統なチェーンでこそ発行されるこの報酬が,不正を割に合わないものにしています。過去のブロックを書き換えて分岐させ,その後のブロックの辻褄を合わせるために計算を続けるという不正のコストよりも,まっとうに計算に参加したほうが得るものが多い,というインセンティブ設計になっているわけです。

 前回書いたように,熱狂的ともいえるマイニングのブームが発生したのも,このインセンティブ設計によって,まっとうに計算に参加することこそが富を得るただ一つの道だったからにほかなりません。


莫大な富を巡る数奇な事件


 しかしながら,ビットコインを筆頭とするブロックチェーンを利用した暗号資産がいくら不正に強いといっても,トランザクションの改ざんに強いのであって,秘密鍵の取り扱いに不備があれば暗号資産は盗まれたり流出したりしてしまいます。

 秘密鍵……また新しい言葉が出てきました。秘密鍵と公開鍵を用いる「公開鍵暗号方式」や「署名」については,NFTのウォレットとともに説明するのが良いかと思いますので,今のところは名前通りのイメージで覚えておいてください。
 日本国内で最初にインパクトを与えた暗号資産流出事件と言えば,「マウントゴックス事件」でしょう。

マウントゴックス事件年表
2009年 ジェド・マケーレブ(Jed McCaleb)氏、トレーディングカードの交換所として「マウントゴックス」が設立される。
2010年 マウントゴックス、ビットコイン交換業へと事業転換。
2011年 マーク・カルプレス(Mark Karpeles)氏、事業を買収しマウントゴックス社が設立される。
2013年 マウントゴックス、世界のビットコイン取引量の約7割を占める。
2014年 2月25日 マウントゴックス、全取引を停止。
2月28日 マウントゴックス、東京地裁に民事再生法の適用申請。約85万BTCの消失公表。被害額は480億円相当(当時)。
4月16日 東京地裁、民事再生法適用申請を棄却し資産保全命令を出す。
4月24日 東京地裁、マウントゴックスの破産手続き開始を決定。
2015年 8月1日 警視庁、マーク・カルプレス氏を私電磁的記録不正作出・同供用容疑で逮捕。
2017年 4月1日 改正資金決済法施行。「仮想通貨」は「暗号資産」と呼ばれるようになり、取引業は金融庁への登録が必要になり、取引所の資産と利用者の資産を分け、適切に外部監査を受けるなど規制。
7月26日 米検察、アレクサンダー・ピニック容疑者をマネーロンダリングへの関与で逮捕。マウントゴックス事件への関与も疑われる。
11月24日 債権者、東京地裁へ民事再生手続申し立て。
2018年 3月7日 破産管財人、東京地裁の許可を得てビットコインとビットコインキャッシュを売却。
6月22日 東京地裁、マウントゴックスの破産手続きを中止、民事再生手続開始を決定。背景には保有しているビットコインおよびビットコインキャッシュの評価額が上がり、債権総額をほぼ充当できたことがある。
2019年 3月15日 東京地裁、マーク・カルプレス氏について懲役2年6月、執行猶予4年の1審判決。
2021年 6月 破産管財人、再生計画案を東京地裁へ提出、債権者による投票をもって可決。
2023年 債権者の弁済情報の登録期限が満了。

 マウントゴックス事件はおよそ9年前,2014年の出来事です。
 マウントゴックスは2009年に設立されました。「Mt.GOX」のカタカナ読みで,「マジック:ザ・ギャザリング オンライン エクスチェンジ(Magic: the Gathering Online eXchange)」の略です。名前こそゲーマーに関係がありそうですが,トレーディングカードの売買を生業とはせず,2010年にはビットコイン交換所に鞍替えし,世界最大級の仮想通貨取引所に成長しました。
 2013年の春には,世界のビットコイン取引量の7割をこの取引所が占めていたと言います。驚くことにこの取引所は東京・渋谷にあったのですが,皆さん,その頃ビットコインなんて知ってました?

※筆者撮影
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 この取引所は2014年2月,不正アクセスによって利用者が預けていた75万ビットコインと同社が保有していた10万ビットコイン(当時のレートで約480億円)が消失したことが発覚,顧客からの預り金約28億円も不足している状況がわかり,東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請,破綻してしまったのです。
 これが明るみに出たのは2月末で,翌日3月1日の朝刊では「ビットコイン大手 破綻」の文字が一面を飾ることになります。

 そしてその後,破産手続きへと移ったのですが,2015年の夏には元CEOが電磁的記録不正作出及び供用の容疑(最高裁まで争って2021年1月27日,懲役2年6月,執行猶予4年が確定)で逮捕され,さらには業務上横領の容疑(後に無罪)で再逮捕されたのです。キナ臭さを漂わせながらも,2017年にはこの不正アクセスに関わったとしてロシア人男性が逮捕されましたが,全容の解明には時間がかかっています。

 そのうちにビットコインの価格が急騰し,翌2018年にはビットコインの急騰で破産管財人が地方裁判所の許可のもと残されたビットコインの一部を売却します。債権者(被害者)に対しての充当に目途をつけようというわけです。
 売却額は約430億円とのことでしたが,何とも奇妙な話です。ビットコインが大量に流出して顧客に日本円で返せそうもないという状況が,4年経ったら価値が上がったことでほとんど返せるようになるだなんて……。

 そしてこれ,まさに本稿の執筆中にも新たな動きがありました。一般紙ではもう取り上げなくなったのか,暗号資産系のニュースサイトでしか見つからなかったのですが,弁済開始に向けてまた一歩進んだと言えます。

外部サイト:マウントゴックス,債権者の弁済情報の登録期限が満了 弁済開始の準備へ



当時の理解=RMTと同じじゃん!?


 さて,この事件を僕が最初に知った2014年当時,ビットコインについてはズブの素人だったのですが,理解はとても早かったです。それはオンラインゲームの「RMT」について知り過ぎるほど知っていたからです。
 ビットコインは今でこそ日本の資金決済法に定められる暗号資産ですが,当時はブロックチェーンのデータであることを知らなくても,いわゆる「ゲーム内ゴールド」と同じじゃん,と解釈したんですね。RMT業者にゴールドと取引用現金の両方を預けていたら,ドロン!と消えてしまった的な。
 僕のSNSの履歴を見たところ,両方預けておくとかバカじゃねーの,くらいのことを書き散らしていました……。

 RMTは,言わずもがな「Real Money Trading」の略です。オンラインゲーム,特にMMORPG(Massively Multi player Online Role Playing Game,大規模多人数接続型オンラインロールプレイングゲーム)を中心に20年以上使われている言葉で,早くは1990年代後半からその名を耳にしています。
 仮想通貨(暗号資産)だと紛らわしいので前述のとおり「ゲーム内ゴールド」と呼びますが,それらやアイテムを現金で売買することを指します。黎明期のRMTとしてもっとも有名な取引対象は「Ultima Online」(1997〜)の「家」でしょうか。それ以外にも,生産素材や船,ゲームアカウント(現代のスマホなら機種変更データ引継ぎ用のコード)の売買や,キャラクターの育成代行なんかも含みます。

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 今でこそスマホゲームに代表されるオンラインゲームのほとんどは「基本無料+アイテム課金」や「VIPシステム」が主流ですが,当時はサブスクという言葉が生まれるより前の「月額料金制」が一般的だったんですね。月あたりで同じ料金を支払ってもプレイできる時間はプレイヤーによって差がありましたし,プレイ時間の長短はすなわちレアアイテム獲得への試行回数の多少に繋がりますから,いわゆる「廃人」のほうが装備が良かったり,ゴールドをめちゃめちゃ持っていたりするのが当然でした。

 その格差を,お金の力で埋めることにもRMTは用いられていました。プレイヤー同士で金銭の遣り取りを行い,ゲーム内でゴールドなりアイテムなりを受け渡す。いずれ個人間の取引にとどまらなくなり,それを生業とするRMT業者が生まれ,業者が抱えるプレイヤーはゴールドファーマーと呼ばれ,ゲーム内資源を貪り,botを駆り,挙句の果てにエスクローサービス(信頼のおける第三者として取引をしたい二者双方からアイテムと現金を一時的に預かり,相互に渡すことで一方的な詐取を防ぐ)を掲げて取引の仲介もやってのける。

 そういった状況下で,RMTを目的とした不正アクセスやパケット改ざん,ゲームソフトの改変や外部アプリでのチート,プレイヤー同士のトラブルや詐欺,マネーロンダリング,反社会的組織の気配……様々な問題が起こりました。

 下記は,当時の空気感が最も現れた記事だと思います(編注:およそ17年前の2006年の記事なので,デザインが現在のものに対応しておらずやや読みづらいかもしれませんがご容赦ください)。

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関連記事:メーカー vs. 業者 RMTがはらむ問題と可能性をめぐる座談会


 写真が若いな! そして話がケンカ腰で始まってとっ散らかっていくところに青さと勢いを感じつつ,囲みで若干の訂正を入れているところに,当時何らかの圧力があったようななかったようなことをぼんやりと思い出しました(笑)。
 この対談記事が掲載された後,業界団体を中心にRMTに関する勉強会やガイドライン策定,利用規約への盛り込みなどの足並みが揃っていき,現在のブロックチェーンゲームやNFTゲームをどう解釈するかという線へとつながっていったことを考えると,ゲームの歴史における過渡期ならではの対談なのだろうなと思え,とても感慨深いです。それに,まとめでちゃんとRMTを内包したゲームの登場を予見して議論してるあたり,いつもぼくは発想が早すぎるんだよなぁ,って自分で思います。

 こういった背景がありつつ,2000年代中頃から「基本無料+アイテム課金」モデルが登場したことによって,必要なアイテムは運営企業が公式で売るようになったほか,オンラインゲームの範疇にソーシャルゲームが含まれるようになった2010年代には,以前取り上げた「コンプガチャ問題」にともなって,トレード機能をふさぐゲームが出てきました。
 それだけではなく,アイテム属性やプレイヤーのレベル,プレイ日数などをもとに譲渡制限を課したり,RMTそのものをどう潰すかではなく,新しいビジネスモデルやゲームデザインが生まれることで,結果的に抑止につながる状況になっています。とはいえ、どれだけRMT抑止のノウハウが蓄積され、ガイドラインや利用規約が整備されても、RMTがなくなったわけではありません。

 そして現在。ブロックチェーンゲームの登場で,状況は一変します。

 取引されるアイテムの「NFT」は,アイテムと暗号資産の交換をスマートコントラクトによって齟齬なく実装でき,何よりもアイテムや暗号資産が取引されることを前提に,ゲームデザインがなされるようになったのです。
 しかも,アイテムを取引できる場として,トレード機能だけでなく,第三者が運営するマーケットサービスも使用可能で,そこにはアイテムだけでなく,アートと名の付くNFTやら下手クソな絵やら誰がこんなもんに価値を見出してるんだアホかという,よくわからないデータなども並んでいます。

……今,「誰がこんなもんに価値を見出しているんだアホか」と書きましたが,ゲームのアイテムだって,ゲームをしない人から見たら「なんでそんな形のない,どうでもいいものにお金を出してるの?」っていう代物ですよね。

 ということで,次回は「Re:人はなぜ形のないものを買うのか」ということで,デジタルデータと購買行動について,掘り下げていきたいと思います。

(続く)

■■しおにく■■
20年前にMMOのゲームマスターからオンラインゲーム業界でのキャリアをスタートし,RMT対策やコンプガチャ問題などゲームと社会の課題に取り組んでいたらいつの間にか選挙に出たり自治体の顧問をしたりするようになった。近著は「日本が世界で勝つためのシンID戦略」。推している #ババババンビのメジャーデビューが決定し,狂喜乱舞している。


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