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[GDC 2023]インディーズゲームは,誰が,どのように,何を期待して購入しているのか? 調査結果が示された講演をレポート
一方,インディーズゲームシーンがこれほどまでの盛り上がりをみせるがゆえに,そこそこの規模のパブリッシャが手がけるタイトル以上の予算が投じられたインディーズゲームや,国際的な大型IPを使ったインディーズゲームといったものも珍しくなくなろうとしている。
そんな変化が生じると,必然的に「いったいどういう人々がインディーズゲームを購入し,どんなゲームジャンルが好まれているのか」という疑問も大きくなっていく。
GDC 2023では,こういった疑問に答える形で,Humble Gamesが行った市場調査の結果が「IDENTIFYING INDIE: A STUDY OF WHO PLAYS WHAT AND WHY」と題された講演において公開された。発表されたスライドを中心に,Wrap-up roomで行われた質疑の内容など,必要となる補足を簡単に行っていきたい。
インディーズゲームを巡る,3つの集団を想定
この調査はHumble Games社が調査会社に委託して行ったものだ。母数は6か国からの4800人以上で,年齢は18〜45歳。6か国の内訳はアメリカ,ドイツ,ブラジル,スウェーデン,ロシア,中国となる(ただし中国は他の5か国と大きく異るデータが出たので,データセットを分けることを検討しているらしい)。
調査では母集団を「Regular Indie Buyer」(以下,Regular)「Light Indie Buyer」(以下,Light)「Traditional Game Buyer」(以下,Traditional)に分けた。Regularは過去12か月間にインディーズゲームを5本以上購入した集団,Lightは同期間に1〜4本購入した集団,Traditionalは同期間にまったくインディーズゲームを購入していないが,AA/AAAゲームを1本以上購入した集団である。
母集団のうち,40%がRegularとLightに属する結果となった。つまり60%は1年間に1本もインディゲームを購入していない。
ちなみに「1年に5本以上というしきい値は低すぎるのではないか」「45歳を調査の上限とするのは,先進国市場の高齢化を鑑みるに,適切とは言えないのでは」といった意見も後に聴講者から出されている。だが調査全体を見ると,「5本」というのはそこまで低い値ではなさそうだ。年間5本を「まったく買っていない」と思う人がいたら,そちらが外れ値なのかもしれない。
Traditionalが購入するゲームのプラットフォームはPCとコンシューマが主体で,週当たり12.3時間ゲームを遊ぶ。好みのゲームジャンルとしてはFPS/TPSが強く,オープンワールドが次に続く。ジャンルでみた購買傾向の違いを調べると,インディーズゲームを購入する集団との間での最も大きな差が出たのは「スポーツ」ジャンル。Traditionalはインディーズゲームを購入する集団の1.44倍,スポーツゲームを購入する。
Lightに属するプレイヤーは基本的にPCを使い,週当たり14.9時間ゲームを遊ぶ。好むゲームジャンルはTraditionalと大差ないが,3位にRPGが入ってくる。Traditionalとの購買傾向の違いとしては,「ローグライク」(4.97倍),「メトロイドヴァニア」4.60倍あたりが極めて顕著な差として観測できる。また「インタラクティブストーリー」もTraditionalの2.59倍購入している。
Regularグループのプレイヤーは基本的にPCを使い,週当たり18.3時間ゲームを遊ぶ。好むゲームジャンルのトップはRPGで,それ以外は他のグループと顕著な差はない。「ローグライク」「メトロイドヴァニア」「ボスラッシュゲーム」といったジャンルに対する傾倒は凄まじく,順にTraditionalの12.23倍,10.03倍。7.36倍という飛び抜けた嗜好の違いが見て取れる。
LightとRegularのグループは,実のところAA/AAAゲームもたくさん購入している。Lightは年間にインディーズゲームを平均2本購入するが,AAA3本,AA3本を購入しており,インディーズゲームへの傾倒はさほどではないことが分かる。
Regularは年間平均14本のインディーズゲームを購入しているが,AAA7本,AA7本と,インディーズゲームと同じだけAA/AAAゲームも購入している。そしてこの「AA/AAAで合計14本」という数は,Traditionalの年間購買数である合計10本を上回っている。また,全ジャンルにおけるゲーム購買数を合計すると,最も購買数が少ないのはLight層(8本)であることが分かる(ただし週当たりのプレイ時間はTraditionalより長い)。
それぞれの集団がゲームという文化・趣味に対しどんな態度を有しているかのデータも示された。それによるとRegularグループのプレイヤーは「ゲーマーであること」に自己のアイデンティティを置きがちであり,より多くのジャンルのゲームを遊びたいと考えているが,ゲームは1人で遊ぶほうを好む。Traditionalはほぼこの逆で,マルチプレイを好む(ただしTraditionalも1つのジャンルのゲームに固執するよりは,より多くのジャンルのゲームを遊びたがる傾向がある)。
「インディーズゲームについてどんな印象を持っているか」という質問に対し,インディーズゲームを購入する集団は「ユニーク」「実験的」「イノベーティブ」といった印象を強く持っている。
一方,インディーズゲームをまったく遊ばないTraditionalグループは(当然ながら)インディーズゲームにこれといって目立つ印象は抱いていないが,「インディーズゲームだから品質が低い」と考えるプレイヤーも,集団の10%程度に過ぎない。
インディーズゲームに期待されている要素は何か?
インディーズゲームを買う集団(Regular+Light)と,インディーズゲームを買わない集団(Traditional)それぞれに対して「ゲームに何を期待するか」を尋ねると,いずれの集団も,ストーリー,操作性,コンテンツの量を重視しているが,インディーズゲームを買う集団はユニークさ/イノベーティブさを重視し,買わない集団はグラフィックを重視するという点では大きな違いが見受けられる。
インディーズゲームを遊ぶ集団に対し,「インディーズゲームに対して期待すること」と「あらゆるゲームに対して期待すること」を尋ねると,インディーズゲームには「ユニークさ/イノベーティブさ」「自己表現」を求める一方,コンテンツの量は期待していない。
だが,これはひとつ上の調査において「インディーズゲームを買う集団」と「インディーズゲームを買わない集団」の双方ともに「コンテンツの量」を重視するという結果と微妙に矛盾する。これについてHofman氏は「インディーズゲーマーはコンテンツが少ないことに一定の理解を示すが,コンテンツが多いからと言って不満を抱かない」という解釈を述べた。
3つの集団それぞれが好むテーマについてのデータも公開された。Regularは「ファンタジー」と「SF」を強く好む傾向があり,「ポスト・アポカリプス」と「ホラー」は未だに一定の人気を持つものの,そろそろ旬が過ぎようとしているのも見て取れる。Traditionalは「戦争」を好むが,同時に飽きてもいる。Regularは「戦争」を好まず,大いに飽きている。
「戦争」と同じくらい危機的なテーマは「スーパーヒーロー」で,Traditionalはこのテーマをそれなりに好むものの,飽きたという声も強い。インディーズゲームを購入する層になると,4割ほどが飽きているようだ。
さて,統計から見る「理想的なインディーズゲーム」の姿は,以下のようになる。
- ストーリー(またはナラティブ)が重要で,オリジナルのIPや世界観が好まれる。一方,カットシーンが多用されるような派手な展開である必要はなく,一本道ではないストーリー展開などのほうがより好まれる。
- 開発者が「リスクを取りにいっている」ことに対し,イノベーティブさを感じるプレイヤーが多い。新しいタイプの物語やキャラクター,ゲームシステムも,イノベーティブであると評価される要因になる。
- 三人称視点が好まれ,ゲームのペースはゆっくりしているほうが好まれる。シングルプレイゲームが好まれ,マルチプレイは協力型が好まれる。
- グラフィックスは様式化されたものや,明るい色使いが望まれる。2Dでも3Dでも構わないが,2Dでは手描き風のアートが好まれる。サウンドトラックも大きな評価ポイントになる。
- 何かを作るゲームの場合,作ったものをコミュニティとシェアするよりは,自分自身が満足することを選ぶ。キャラクターがカスタマイズできればできるほど喜ばれる。プレイスタイルも複数あったほうが好まれる。
- 探索すべき広大な世界があることは好まれる。長時間プレイできるゲームも好まれる。20〜100時間程度のプレイ時間が求められる。
どのようにしてインディーズゲームが購入されるのか
ビジネスモデルとしては,あらゆる集団が「買い切り型」を好む。ただしRegularとLightは基本プレイ無料+アバターアイテム課金方式も許容する。バトルパス,章ごとに分割しての販売,サブスクモデルは,あらゆる集団が同じくらい好んでいる。Traditionalはインディーズゲームを買う集団より,広告付きFree to Playや,アイテム課金を好む傾向がある(ただしそれらを,とても好ましく思っているわけではない)。
ゲームの購入時期については,全集団において,「リリース直後に購入する」割合は決して高くなく,数か月待ってから購入するのが一般的(Traditionalはリリース直後の購入比率も高め)。何らかのセールがあったときに買う層はどの集団においても(そして購入対象をインディーズゲームに限っても)50%を割っており,仮にアーリーアクセスを割引販売に含めたとしても,50%程度に留まる。
ゲームの存在を知るルートとしては,YouTubeが“一強”と言っていいほど支持されている。また購入にあたって調べる情報ソースとしても,ゲームプレイ映像を参考にする比率が圧倒的に高い(オフィシャルのトレイラーはあまり参考にされていない)。購入を決意するにあたっても,ゲームプレイ動画を見て購入が決断されることが多く,「セールで割引だから買う」確率の3倍弱に及ぶ。
ほかのプレイヤーが書いたレビューは購買の決定に影響をほとんど及ぼしていないが,より早い段階(そのゲームについて調べてみようと思い立つような段階)において,ユーザーからの全体的な評価が強い影響を与えるという調査結果が(この調査とは別に)出ているらしい。
ちなみに「プレイヤーはストーリーを重視するが,ストーリーを把握しづらいプレイ動画が購買の参考とされる」という問題については,「ストーリーを重視」と言っても具体的な物語展開というよりは,世界観やキャラクターなど「ストーリーに対する期待感」などが重視されているのではないか,という見解がWrap-up Roomでの議論で他の聴講者から提示された。
インディーズゲームを積極的に購入する人物像や購入の動機をまとめると,以下のようになる。
人物像
- ゲーマーであることがアイデンティティの一部
- インディーズゲームだけを遊ぶわけではない
- イノベーティブであることに価値を認める
期待するゲーム体験
- 挑戦的なゲーム体験
- ストーリーが創造的
- 個性的な美的表現
購入パターン
- 買い切り型が基本
- リリース後しばらく経ってから買いがち
- ゲームプレイ動画は神
そもそも「インディーズゲーム」とは何なのか?
非常に有益なデータ群が公開されたわけだが,実は似たような調査は1年前にも行われており,それと比べるとプレイヤーが好むテーマには明らかな違いがあるという。
これについては解釈がいろいろと難しい(母集団の違いなど,考えられる要素が非常に多い)が,「1年の間に市場が求めるテーマがシフトしている」可能性が高いという指摘がなされた。
例えばSFテーマのゲームがヒットすれば,それに続こうとSFテーマのゲームが増え,その結果インディーズゲームのファンがSFに飽き,結果として別のテーマ(例えばファンタジー)を扱うゲームがヒットして……といったトレンドの推移を読み切るのは非常に難しい課題となるだろう。
また,バンドルやサブスクリプションが購買モデルに与えている影響も,いまだはっきりとはわかっていないようだ。こればかりはHumble Gamesもバンドルやサブスクリプションモデルを運営しているのだから,もう少し力を入れた調査をしてほしいところではある。
それはそれとして,こういったデータをもとに市場の流れを読み,より多くのユーザーに受け入れられるゲームを企画する……のが,果たしてインディーズゲームという文化にとってどういう影響を与えているのかという点は,別口で考える必要があるだろう。
ただし,当然ながら「市場性なんて知らない,俺は俺の作りたいゲームを作る」という姿勢でゲームを作って大赤字を出し,次のゲーム制作に挑戦できなくなってしまうのでは,これまたインディーズゲームファンとしては「残念」と言わざるを得ない。
このあたりの課題についてHofman氏は,「ユーザーは開発者がリスクを取りに行く姿勢を高く評価するが,ありとあらゆる面でリスクを取りに行くことまでは期待していない」「何かひとつ,新しい挑戦があれば,ユーザーはそれをイノベーティブでリスキーな挑戦だと認めてくれる」と語っていたのが印象的だった。
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