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[GDC 2023]独創的なコントローラを使ったゲームが展示されたalt.ctrl.GDCと,それらの作品の背景が語られた講演の模様を,あわせて紹介
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印刷2023/03/25 21:09

イベント

[GDC 2023]独創的なコントローラを使ったゲームが展示されたalt.ctrl.GDCと,それらの作品の背景が語られた講演の模様を,あわせて紹介

 ゲームの開発技術にまつわる知見が交換されるGDCの会場は,大まかに分類すると2種類に分かれる。1つは講演やラウンドテーブルが開催されるエリア。もう1つは各種企業が自社の製品やサービスを展示したり,各種イベントが開催されたりするエキスポエリアだ。インディーズゲームの祭典である,「Indie Game Festival」のノミネート作品が試遊できるのもエキスポエリアとなる。

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 このエキスポエリアで定番となっている大きな催しが,alt.ctrl.GDC。ここでは,一般的ではない形状のゲームコントローラ(たいていは開発者が自作する)を用いたゲームが展示されており,キーボード+マウスやゲームパッド,タッチパネルなど,現代のコンピューターゲーム産業で標準的に用いられるデバイスを使ったゲームとは異なる,独特のゲーム体験ができる。

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 2016年の東京ゲームショウで展示されて大人気を博した「Line Wobbler」や,alt.ctrl.GDCをモデルにした日本の「make.ctrl.Japan」を思い出す読者もいるかもしれない。

 本稿では,GDC 2023のエキスポエリアで開催されたalt.ctrl.GDC展示作品のいくつかを写真で記事の最後に掲載している。まずは,こうした,一般的ではない形状のコントローラを使うゲームの意義が語られた講演「Alternative Controller Game Design: From Game Design to Controller Design」の模様をお伝えしたい。


エンタメからアートまで,幅広い可能性を持つジャンル


MechBirdのPlayful Experience Designer,Tatiana Vilela dos Santos氏
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 講演に登壇したのは,MechBirdでPlayful Experience Designerを務めるTatiana Vilela dos Santos氏。まず最初に,サンフランシスコをゴール地点とするイベント「alt.ctrl.GDC」(Alternative Controller。代替コントローラ)についての紹介が行われた。これは,オリジナルの専用コントローラを使うゲームを展示,試遊するイベントで,アメリカ南西部6州7都市をめぐり,最後にGDCにやってくる。それぞれの会場では,さまざまなゲームが楽しまれたという。

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 このイベントを通じて改めて示されたのは,こうした,一般的ではない形状のコントローラを用いるゲームは,必ずしもゲームの枠に収まるものではないということだ。
 展示されてきた作品のいくつかは,ゲームというよりはむしろインタラクティブアートや新しいメディア,現代美術といったカテゴリに分類したほうがいいようなものも存在する。その一方で,エンタテイメントに寄せた作品もたくさんあり,これらはアーケードゲームやテーマパーク,ARスポーツといったカテゴリに属すると考えられる。

 そのうえで重要なのは,より多くの作品が,この両極の中間に多彩なグラデーションで存在していることだろう。それくらい,このジャンルは多様な体験を提供しているという。同時に,このジャンルの作品には明確な共通点も存在する。それは,ゲームコントローラが,ゲームデザインに組み込まれているという点だ。

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ゲームを画面の外へと拡張する試み


 ゲームの歴史を振り返ると,コントローラは特定のゲームがよりプレイしやすいように,あるいは特定のジャンルのゲームがプレイ可能なようにデザインされ,洗練されていった。
 例えば十字キーは,2Dで表示された画面にいるキャラクターを,水平,垂直方向に(あるいはその組み合わせで斜めに)動かすというアクションに対して,最も自然な入力が可能なインタフェースだ。
 同様にツインスティックは,3Dの時代に入ったゲームでカメラをより自由に動かすことが可能であるため,その利便性の高さによって広く普及したと考えられる。2D時代にもツインスティックはあったが,現在ほど一般的なものではなかった。

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 これはつまり,ゲームコントローラとは,ゲーム画面(ディスプレイ)に仕えるものということでもあるとdos Santos氏は指摘する。
 プレイヤーは,ゲームをゲーム画面の中にあるものとして認識するが,それは同時に,画面の外にはゲームが存在しなかったということでもある。コントローラは,画面に表示されるドットを動かすためのものでしかなかったのだ。

 だが,ゲームを1つの体験として捉えた場合,必ずしもゲームが画面の内側だけに留まっているものではないことが分かる。ゲーム世界と現実世界の間に存在するのがインタフェースであり,ゲームコントローラ(=インタフェース)は,ディスプレイ(=インタフェース)同様,ゲームの一部へ拡張可能なのだという。

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 そもそもゲーム体験は,何によって構成されるのだろうか?
 dos Santos氏はまず,著名なゲームデザイナーJesse Schell氏「良いゲームを作りために,現実世界における体験を完全に複製する必要はない。必要なのは,それらの体験のエッセンスを捕えることだ」という言葉を引用した。

 そして,無数のパターンが存在し得る体験のエッセンス(より絞り込んでいえば,「楽しい体験のエッセンス」)を構成する要素として,「ゲームメカニクス」「物語体験(ナラティブ)」「世界」の3要素があるという仮説を提示した。たとえ「楽しい体験のエッセンス」が架空のものだったとしても,その架空の体験は「ゲームメカニクス」「物語体験」「世界」によって構築できるという。

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コントローラを媒介とした実装手法


 さて,「ゲームメカニクス」「物語体験」「世界」からなるこのモデルは,それぞれの要素について,異なる要素や実装方式を持ち得る。dos Santos氏は一般的ではないコントローラを用いるゲームを3つ紹介しながら,さらに議論を深めていった。

・Last Ball Standing:サーカスの玉乗りがモチーフ。ボール型コントローラを用い,最後までバランスを保ったプレイヤーが勝利する

・Buy! Sell!!:株の売買がモチーフ。コントローラは電話機(そういう時代の株式売買がモデル)で,より多くの利益を目指す

・Echo Squad:潜水艦の運行がモチーフ。大きな括りでいえば「リアル脱出ゲーム」と同じ構造

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・ゲームメカニクス
 ゲームメカニクスでは,プレイヤーがどのような挑戦をするのか(障害に立ち向かうのか)が中心的な役割を果たす。コントローラを通じて,さまざまな障害をどう提供するかが問題になる。
 ここでdos Santos氏はプレイヤーが立ち向かう障害を「身体的挑戦」「精神的挑戦」「社会的挑戦」の3種類に分類した。これらは,どれか1つしか実装できないわけではなく,社会的挑戦を除けば,ある程度まで組み合わせることが普通だ。

 「身体的挑戦」を重視したのが,「Last Ball Standing」だ。この作品は「ボールの上に立ち上がってバランスを取る」という身体的挑戦を提供するが,プレイヤーに実際にボールの上に立たせるのは危険すぎる。そのため,バランスを取るというところだけを切り取り,大きなボールというコントローラを通じて体験を提供している。

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 「精神的挑戦」を重視したのが,「Buy! Sell!!」だ。この作品では株式をいつ売り,いつ買うかという思考上の挑戦を提供するが,本当に株式投資をシミュレートすると,考えるべきことや選択可能な戦術が多くなりすぎる。したがって,そこから株の売買によって利益を得るという最もシンプルな体験だけを切り取り,「電話機」というコントローラを通じてそれを提供している。

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 「社会的挑戦」を重視したのが,「Echo Squad」だ。この作品は上記のように,潜水艦のクルーとなったプレイヤー全員が協力して困難を乗り越えることが目標だが,中心となるのは「それぞれのプレイヤーが役職ごとに異なる情報を獲得し,そうした情報を共有しながら協力する」という体験だ。言うまでもなく,実際の潜水艦の運行はもっと複雑だが,本作では不均一な情報獲得と,その共有という社会的な挑戦だけを切り取り,潜水艦に見立てた室内をコントローラとしてプレイヤーにゲームを提供している。

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・物語体験と世界
 「物語体験」と「世界」については,もう少し内容を要約してお伝えしよう。

 「物語体験」は,「ストーリー」「テーマ」「ナレーション」に分かれる。これらは大なり小なり,何らかの形ですべて実装されることが多い。
 いずれのカテゴリでも重要なのは,適切な取捨選択を行うことだ。あまりにも多くを詰め込むと,情報のほとんどはノイズになってしまう。必要なのはプレイヤーが物語を的確に捉えるための道標であり,その道標としてコントローラが存在していることだ。

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 「世界」は,「相似・複製」「空間的連続」「時間的連続」で描かれる。これもまた,どれか1つだけ実装するものではなく,「あえて実装しない」という選択肢もあり得る。
 どれを選んでも重要になるのは,「リアル世界とバーチャル世界を連続させる」ことだ。例えば「相似・複製」は同じアイテムをリアルとバーチャルの両方に置くことで連続感を出している。

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いくつもの伝説的な商業的成功を収めてきたジャンルとして


 本講演は30分枠の短い講演だったが,内容は上記のように非常に充実した……あるいは大変ギッチリと詰め込まれたもので,これもまた60分枠で聞きたかった講演だと思わされた。とはいえ,えてして,こうした濃度の高い講演をする登壇者に倍の時間を与えると,内容(やスライドの枚数)を4倍にした講演を持ってきたりする。

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 ともあれ,このようにコントローラまでをゲームデザインの一部に組み込んだゲームには,やや深刻な課題がある。それは「お金にしにくい」ということだ。
 コントローラが独自仕様である以上,ダウンロード販売オンリーというわけにはいかないし,本気で商業展開するなら製造に品質管理に在庫管理に発送にと,パッケージゲームの悪夢をすべて引き受けることになる。間違ってもインディーズ向けではないように思える。

 だが「ダックハント」「Wii Fit」,最近では「リングフィット アドベンチャー」が示すように,このジャンルのタイトルはときに途方もないヒットを生み出す。そもそもゲームセンターの歴史は,こうしたジャンルのゲームから始まっており,むしろこちらのほうがコンピュータゲームの原始的な姿に近い――つまり,伝説的なヒットを出してきたという実績が大量にある。

 さらに,上で「インディーズ向けではない」と書いたものの,実はこのタイプのゲームで成功を収めているインディーズ開発者は実際に存在する。というのも,本講演の冒頭でdos Santos氏が指摘したように,このジャンルのゲームは「アート」としても成立するからだ。つまり,ワンオフの作品(あるいはオーダーメイド作品)として,アート市場の価格で取引が成り立ち得るのだ。

 alt.ctrl.GDCで展示されているような作品を見ると,つい「実験的で面白そうだけど,商業的には難しいな」という感想を抱きがちだ。だがこういった作品は,dos Santos氏が示すようにゲームデザインの可能性を拡張する優れた実験であると同時に,大小さまざまなマネタイズが成立してきたジャンルのゲームであることは,本稿の最後に強調しておきたい。


alt.ctrl.GDC会場の模様
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