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[GDC 2023]文化としてのヒップホップをいかにしてゲーム内部で“語る”のか。「パラッパラッパー」「Undertale」の話も出た講演をレポート
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印刷2023/03/25 08:00

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[GDC 2023]文化としてのヒップホップをいかにしてゲーム内部で“語る”のか。「パラッパラッパー」「Undertale」の話も出た講演をレポート

 コンピューターが一定の進化を遂げてからこのかた,ゲームと音楽は切り離せない関係になっている。(効果音まで含めるなら,その関係性のスタート地点はさらに過去へと遡り得るが)。
 そして,シューティングやRPG,アクション,アドベンチャーといったジャンルを問わず,多くの傑作が多くの優れた音楽と結びついてきた。

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 また,ゲーム文化が成熟するにつれ,音楽がより中心的な役割を果たす作品も増大している。
 いわゆる音ゲーは当然として,リズムアクションとローグライクRPGやFPSを組み合わせた作品がヒットすることも珍しくなくなっている。
 そしてまた,ある音楽に象徴される文化や世界観を踏まえたゲームも,着実に増えているのだ。これは,さまざまな種類の絵画が,ときに文化レベルでゲームと完全に融合していることを鑑みれば,なんら不自然なことではないだろう。

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 そんな中,GDC 2023で「TO THE BEAT Y'ALL: WHAT DESIGNERS CAN LEARN FROM HIP HOP」と題された講演が行われた。
 ヒップホップ文化をゲームがより的確に取り込んでいくため,まずはヒップホップが持つテキストの構造に絞り込んで解説したこの講演を,簡単にレポートしたい。

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HousemarqueのTechnical Narrative Designer,Jarory de Jesus氏

これまでのゲームにおけるヒップホップ文化


 登壇したのは,HousemarqueのTechnical Narrative DesignerであるJarory de Jesus氏だ。同氏は多彩な活動をしているが,ゲームに関連では,「Madden NFL 20」「Star Wars Jedi: Survivor」といった大型タイトルの開発にも協力している人物である。

 講演は,大学でも教鞭をとるJesus氏らしい「ヒップホップとは何か」と「ヒップホップの歴史」といった内容から始まったが,これについては割愛させてもらう。「ヒップホップは文化であり,音楽単体に留まるものではない」という点を理解しておけば,本稿を読み進めるうえでは十分だろう。

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 次にヒップホップを取り入れたゲームとして,「パラッパラッパー」などの作品を指摘しつつ,「やはりリズムゲームが多い」と語った。中でも好きなのは,アクションゲームの「ジェットセットラジオ」だという。
 氏は,「この時代の日本のゲームらしく黒人のプレイアブルキャラクターが極端に少ないという問題はあるし,ヒップホップ文化の奥深くに踏み込んだ作品というわけではない」と話すも,「だが,サントラを含めて非常に素晴らしい作品である」と高く評価している。なお,後の質疑応答で「Hi-Fi RUSH」も高く評価していたのが印象的であった。

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クラシックな物語構造とは異なる,ヒップホップの物語構造


 続いて,物語を描くうえでの一般的な構造について,簡単な紹介が行われた。
 三幕構成や,「ファイナルファンタジー」「ファイアーエムブレム」シリーズを例に挙げたイン・メディアス・レス(物語を事件の途中から描き始める手法),起承転結である四幕構成,英雄の旅を描いたヒーローズ・ジャーニーといった構造のついてだが,こちらも詳しい説明は省略したい。

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 しかるにこれらを踏まえ,Jesus氏は「ヒップホップが持つ物語構造は,これらとは異なる」と語った。
 では実際に,ヒップホップにて表現される物語は,どのうような構造が一般的なのだろうか。

 氏はまず,ヒップホップでは「3」が魔法の数字になっていると話す。様々な構造が,なんらかの形で,3種類(または3部)に分けられるからだ。

 最も基本的な物語構造は,
(1)彼らは何者か(Character)
(2)私はなぜ彼らに注意を払わねばならないのか(Care)
(3)彼らの直面する問題は何か(Conflict)
 という3つの問いから成り立っていおり,Jesus氏はこれを「3C構造」として示した。

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 講演で例として用いられたのは,「Hip-Hop Saved My Life」(Lupe Fiasco, Nikki Jean)だ。
 この作品の歌詞の内容を,先の3Cで色分けすると,
・Character
・Care
・Conflict
 の順に綺麗に並んでいることが分かる。またこれは偶然かもしれないが,筆者は3つのブロックの比率が,三幕構成の基本比率である1:2:1に近い事に対して,興味深く感じた。

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ヴァース-コーラス形式を利用した「Undertale」


 もちろん,3Cだけがヒップホップの物語構造のすべてではない。Jesus氏は別の構造として,ビネット形式を示した。ビネットとは,文学における「小品」「スケッチ」程度の意味で,ここでは代表的な作品としてはジョイスの「ダブリン市民」が示されている。

 ビネットは,人生の切片が短くいくつも示されるのが特徴で,Jesus氏はこれを「複数の要約されたナラティブの繰り返し」と語った。

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 また特にゲームが利用しやすい構造として,ヴァース-コーラス形式が示された。これはコーラス部分がヴァースと対照する形で出現する形式であり,コーラス部分が強調されるようになっている。そしてコーラスは,ヴァースで示されたナラティブを,シンプルな言葉の繰り返しで描いている。

 Jesus氏は,このヴァース-コーラス形式をほぼそのままゲームに取り込んで大成功したのが「Undertale」であると指摘した。
 RPGであるこの作品は,ボス戦がコーラス部分として,各セクションはヴァース部分として機能しているという。そして本作をプレイした人であれば,「繰り返されるコーラス」が持つ効果を感じられたはずだ。
 この点についてJesus氏は,「作者であるToby Fox氏は,作曲家でもあることから,おそらく意識的にこの構造を使っているのではないか」と述べた。

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最優先事項はキャラクターの行動を描くこと


 講演で示されたヒップホップの物語構造は以上となるが,Jesus氏はさらに「ヒップホップにおける言葉の使い方」にも踏み込んでいった。

 氏はヒップホップで用いられる言葉の特徴として「一言一言を大切に使う」という大前提があるとしたうえで,
  • 繰り返しによってその力を強める
  • 副詞が少なく,説明的な言葉も少ない
  • 表現の優先順位は,行動>理念>描写の順番
 という3つのルールを示した。

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 中でもJesus氏が詳しく解説したのは,行動>理念>描写という優先順位である。例として挙げた「Alright」(Kendrick Lamar)の歌詞をこの3種類に従って分析すると,歌詞の最初の一言は行動を表現しており,そこから先も行動を表現するフレーズが頻出する(当然ながらコーラス部分はすべて行動を示すフレーズで占められている)。
 そして理念を表現するフレーズは少なく,描写を行うフレーズはさらに少ない。

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 この分析をもとに,Jesus氏は「ヒップホップ文化に基づいた物語を提示する場合は,キャラクターを表現するにあたっても,キャラクターが何をするのか>何を考えるのか>どんな人間であるのか,という優先順位で表現すべきだ」と語った。

 Jesus氏の講演は,概念レベルの解説においても,実践レベルの解説においても,充実していた。30分という時間は短く,このような講演こそ60分の枠で聞いてみたいと,強く感じさせられるものでもあった。

 人によってとらえ方が異なることもあり文化がテーマということもあり,「この講演はヒップホップのことを何もわかっていない」と感じる人も出るだろう。だが,そのように生まれる反発心まで含めて,活発な議論がさらに深まっていくことを切に期待したい。

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