連載
それって,ブロックチェーン使わなくてもいいんじゃないですか? 第1回:あなたのWebはいくつ?
お久しぶりです,しおにくです。
昔からの4Gamerの読者からすると「まだ生きてたんだ?」という感じかと思いますが,ご無沙汰しております。
最近の読者の皆さんに自己紹介をしておくと,今から20年ほど前にMMORPG「SealOnline」の運営会社の社長兼ゲームマスターとして,ゲーム業界でのキャリアをスタートしました。その後もソーシャルゲームやスマホゲームの企画開発運営を続けつつ,RMT(Real Money Trading)対策に取り組んだり,コンプガチャ問題の解決で業界ガイドラインを作ったりしながら,ゲームとそれを取り巻く社会について考え続けています。
今回の連載のテーマに関連したところですと,直近で「NFTゲーム・ブロックチェーンゲームの法制」(商事法務,2022年)や,小説「ブロックチェーン・ゲーム 平成最後のIT事件簿」(インプレスR&D,2019年)を上梓しています。
「NFTゲーム・ブロックチェーンゲームの法制」(Amazonアフィリエイト)
「ブロックチェーン・ゲーム 平成最後のIT事件簿」(Amazonアフィリエイト)
ということで,僕自身の経歴として“RMTから最新のブロックチェーンゲーム”まで,デジタルデータの売買にまつわる諸事情に居合わせる機会が多かったものですから,このたび連載の白羽の矢が立ったというわけです。
自己紹介はこのくらいにして,テーマについてお話しします。
近年のトピックスである「NFTゲーム」や「ブロックチェーンゲーム」ですが,4Gamer読者の皆さんにとって一番最近間近で見た例としては,東京ゲームショウ 2022があったと思います。ブロックチェーンゲームやその周辺事業の出展が2019年に比べて激増し,ブースの構えもそれぞれ派手に見えましたし,関連するトークショウもひときわ目立っていました。
4Gamerも,TGSではそれらのブースやイベントを取材していましたが,それに限らずいくつかの企画記事でブロックチェーンゲームにスポットを当てています。
Access Accepted第738回:業界の大ベテランたちが次々にブロックチェーンゲームに参入
バブルが崩壊したと言われながらも,ブロックチェーンゲームの話題でゲーム市場は盛況だ。今回は,ウィル・ライト氏,ピーター・モリニュー氏,リチャード・ギャリオット氏,そしてグレアム・ディバイン氏ら大ベテランが関わる新作ブロックチェーンゲームを紹介してみたい。
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- ライター:奥谷海人
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[インタビュー]ブロックチェーンによって新しい価値を提供して,ユーザーがもっと夢中になれる環境を作りたい―――YGG Japanは,ゲーム業界に何をもたらそうとしているのか
もはやバズワード化した「ブロックチェーン」と「NFT」だが,まだまだゲーマーの皆さんに普及しているとは言いづらい。そんな中,東京ゲームショウでちょっと目立っていたのがYGG Japanだ。彼らはブロックチェーンゲームで,何を目指しているのだろうか。
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- 編集長:Kazuhisa
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ブロックチェーンゲーム業界の人達は,こんな人。業界を引っ張る28名に,ブロックチェーンの今と未来を聞いてみた
4Gamerの年末恒例企画に,今年から「ブロックチェーンゲーム業界人コメント」が仲間入りだ。「うさん臭いもの」だと考えている読者の皆さんも少なからずいるとは思うが,どのような形にせよそのテクノロジーは,おそらくこのあとゲーム業界に深く入り込んでくるだろう。彼らの目指す先を,ぜひ確認しておこう。
しかしながら,熱狂的ともいえるWeb3関連への投資ブームや,NFT販売事例の金額の大きさ,国内外におけるブロックチェーンゲームでのキナ臭い話などもあり,直近ではやまもといちろう氏によって,快刀乱麻を断つが如くの記事も掲載されています。
【山本一郎】無知を騙す仕組みになっちゃった「NFTゲーム」界隈の行方
テクノロジーの最新動向を追っている人でなくても,最近ちょくちょく耳にするであろうマジックワード「NFT」。大手の会社含めてどこもかしこも最近はNFTにまみれていますが,実はこれ,なかなか厄介な代物なのです。
ふむふむ。「ポンジ・スキーム」だの「賭博」だのという怖い言葉が飛び交っています。しかし法解釈はそれぞれの事例でなされるものとして,海のものとも山のものとも分からないものを,ただ胡散臭いと避けてしまうのももったいない話です。テクノロジーに罪はありません。
ぼくはよく「鵺(ぬえ)」を例えに出しますが,人は未知のものや理解不能な事象に出会ったときに,「頭は猿,胴は狸,手足は虎,尻尾は蛇」というように,知っているものを組み合わせて認識を試み,恐怖を克服します。
ブロックチェーンゲームも同じで,Web3,NFT,GameFi……分からないことが多すぎるわけです。これらを丹念に解き明かし,未知のものから既知のものへとチェンジすることで不明な点を克服すれば,ゲーム業界にとってより適切な未来を選び取ることができると思います。
その上で,胡散臭いものをバッサリ斬り捨てたり,面白さの本質に迫ったりができるようになるのではないかと,そう考えます。
世界的にもブロックチェーンゲームが話題になり,東京ゲームショウでもビジネス的拡大の象徴として多くの予算が投下され,適法か違法かで世間が湧いている今だからこそ,その意味は大いにあると言えるのではないでしょうか。
この連載では,ブロックチェーン技術とその応用であるトークンを用いたサービス,さらには周辺のビジネス事情の解説,そして実際のゲームのレビューを通じて,ブロックチェーンゲームとは何か,それが作り上げる未来はどんなものかを浮き彫りにしていきます。
少しゲームから遠いところの話もしていくことになりますが,4Gamerならではのゲーム的観点での連載記事になるよう努めてまいりますので,お付き合いいただければ幸いです。
あなたのWebはいくつ?
2022年に大流行したキーワードに,「Web3」があります。
ブロックチェーンを中心に,NFTやDAOやDeFi,何やらゲームに関係ありそうなGameFiなど,次世代Web技術を用いて作られる世界観を示しているようなのですが,いまひとつ分かりにくい言葉です。
しかも「Web3.0」という用語もところどころで目にしますし,どういった状況で小数点以下が付いたり付かなかったりしてるのか,それともまったく別の言葉なのか,パッと見ただけでは区別がつきません。
そこで,簡単な表を作ってみました。これは,世の中で語られる「Webいくつ」を表にしたものです。
Webいくつ? | 意味 | その由来 | キーワード |
---|---|---|---|
Web1.0 | Web黎明期を指す | Web2.0との比較として後付けで登場 | いわゆる“ホームページ” |
Web2.0 | 現在日常的に使われているWeb | ティム・オライリー氏(オライリーメディア創立者)が2004年ごろ提唱 | プラットフォーマー,SNS,Eコマース,検索・広告モデル |
Web3.0 | (1)セマンティックWebの再定義。コンピュータが自律的に処理できるメタデータの付与されたWeb (2)ブロックチェーン技術によって実現する非中央集権的な分散型Web (3)下の(4)(5)に勝手に小数点以下を補ったもの |
(1)ティム・バーナーズ・リー氏(科学者,WWWを考案)により2006年ごろ用いられる (2)ギャビン・ウッド氏(イーサリアムの共同創始者)が2014年ごろ提唱 (3)政治家や役所の文書によく見られる |
(1)XML,RDF,メタデータ (2)非中央集権,分散型システム,ブロックチェーン (3)とくになし |
Web1/Web2 | (Web1.0/Web2.0を参照) | Web3と比較するために後付けで登場 | とくになし |
Web3 | (4)トークンエコノミーを含む明確な定義のない分散型アーキテクチャ (5)上の(1)〜(4)が混ざったり小数点が削られたりしてバズワードになったもの |
(4)クリス・ディクソン氏(投資家)2021年ごろ提唱 (5)2021年から大流行 |
(4)NFT,DAO(分散型自律組織),DeFi(分散型金融),GameFi(ゲームで稼ぐ事) (5)とくになし |
Web5 | Web3へのカウンターの立場 | ジャック・ドーシー氏(起業家,Twitter創始者)が2022年に提唱 | 非中央集権型Webアプリ,DIDs |
こうやって整理すると,今回の連載で取り上げるブロックチェーンを含んだ意味合いで「Webいくつ」が最初に使われたのは上記表の(2),技術者のギャビン・ウッド氏が提唱した「Web3.0」だと言えそうです。
ĐApps: What Web 3.0 Looks Like
上記リンク先は,ギャビン・ウッド氏による2014年のブログ記事です(本人による再投稿なので,文字だけです)。ここでは,Web3.0と呼ばれる新しいインターネットは,従来のWeb2.0に見られる中央集権型システムではなく,ユーザーのプライバシーとデータの所有権を尊重する分散型システムであると説明されています。
また,彼はブロックチェーンネットワークの1つであるイーサリアム(Ethrium)の創始者でもあるので,イーサリアムを「真のWeb3.0プラットフォーム」として位置づけ,今後は信頼できる履歴が必要な投票や,各種取引で用いられていくだろう,としています。
そしてその背景には,アメリカの国家安全保障局(NSA)が大量の個人情報を収集してテロ対策に用いていたことをスノーデン氏が暴露した「スノーデン事件(2013年)」があることも,同記事から分かります。
なるほど。国家であれ大企業であれ,個人にまつわる情報が大きな組織に集約されてしまうのを解消することでいいことがたくさんある,そのために分散型システムは活躍する,という世界観なのですね。
単にバズワードとして消費するにはもったいないほど,社会そのものを変えていこうという意志と試みと実践が感じられます。
では,小数点以下をなくした「Web3」のほうはどうでしょうか。
Web3界隈のメタ・ゲームであるベンチャー投資
さきほどの表のとおり,「Web3」というキーワードを提唱したのはクリス・ディクソン氏です。氏が2013年からリードして投資を進めた暗号資産取引所「コインベース」の上場に際して,同社の時価総額は759億ドル(当時で約8兆2700億円)と巨大なものになりました。
その膨らんだ利益がベンチャーキャピタルへと還元されると,その資金で新たなファンドが組成され,さらに幅広く暗号資産界隈に再投資されました。こういったダイナミックな出来事があって,「暗号資産ってイケるのでは?」という流れが世の中にできます。
その流れの中心にいるのは「a16z」というベンチャーキャピタルです。ご存じない人のために説明するとこれは暗号や仮名などではなく,アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)の略です(最初のAと最後のzの間に16文字あるからこのように略されています)。世界的にイケイケのベンチャーキャピタルと考えて差し支えないでしょう。そしてクリス・ディクソン氏は,a16zのパートナーです。
投資家筋が新規分野に名前を与えて資本家たちの参入をより一層促す,というのはよくあることです。ITと言えばカネが集まり,バイオと言えばカネが集まり,ソーシャルと言えばカネがあつまり,AIと言えばカネが集まった時代を経て,2021年からは「Web3と言えばカネが集まった時代」と表現できるでしょう。
果たしてa16zに続けとばかり世界中の資金がこれらへ投下されました。卵が先か鶏が先か,お金の流れが活発な業界だと知って事業を興し,新たに参入する人も現れます。となると「Web3」は,鵺のままでいたほうが効果が高そうです。言葉の説明だけで分かってしまうのなら,みんなの興味は持続しません。
見たことのない妖怪を「非中央集権的な分散処理だ」「DeFiが金融の姿を変える」「DAOこそが組織の未来形だ」「ブロックチェーンゲームならアイテムが不滅の資産になる」「メタバースもWeb3に関係ありそうだ」(ないだろ,という反論から目を逸らしつつ)……などなど。ああでもないこうでもないと人々が言い合う状態のほうが,鵺の得体の知れぬ威厳は保たれ,ブームも続きます。
SNSでの炎上案件などでも,当事者が隠していることが多ければ多いほど,考察(?)が捗り,邪推や決めつけが論議を呼んで長く火種がくすぶり続けますよね。実態は分かりにくいほうがいいのです。
そういった点でWeb3はこれからも,表の(5)で示されるように色々な定義や思想が渾然一体となったもののままで居続けるのかもしれません。
そして,Web3の中でもとりわけブロックチェーンゲームは,2017年ごろからお金が集まっていた分野です。2018年あたりに投資を受けた企業が2020年頃にゲームをリリースし,それらの代表格である「Axie Infinity」や「STEPN」(iOS / Android)の評判を聞いて2021年からまた投資が増えているでしょうから,おそらく2023年には雨後の筍のようにブロックチェーンゲームがリリースされることになるはずです。
みんなゲームをやっているんだ!
投資家の話が出てきたところで,ざっくりとビジネスの枠組みについてお話します。
下記は,資本主義市場において,ゲームを実際に作るクリエイターから管理職,経営者,投資家まで,それぞれがやっていることを端的に並べたものです。
(A)
ゲームクリエイターの役割:おもしろいゲームを作る
・そのためにすること:労力をかける
・勝つために必要なこと:作りきる
・勝率を上げるのに必要なこと:邪魔をされない
・リスク:ゲームを作りきれるか事前に分からないこと
(B)
ゲームプロデューサーの役割:ゲームサービスを完成させ,集客して売上利益に換える
・そのためにすること:予算とスケジュールと人員の管理,集客(広告)
・勝つために必要なこと:ゲームサービスが,LTV(集客した客数×継続率×客単価×利用期間)の最大化された換金システムを備えている
・勝率を上げるのに必要なこと:リソース確保
・リスク:ゲームが利益を生むかどうか事前に分からないこと
(C)
ゲーム企業の役割:時価総額(≒株価)を上げる
・そのためにすること:事業と経営
・勝つために必要なこと:10本のサービスをリリースしてそのうち1本が100倍当たる
・勝率を上げるのに必要なこと:資金集め
・リスク:ゲームが当たるかどうか事前に分からないこと
(D)
投資家の役割:資産を殖やす
・そのためにすること:投資
・勝つために必要なこと:100社へ投資してそのうち1社が1000倍当たる
・勝率を上げるのに必要なこと:自分以外の投資家たちも大量に参加してくる
・リスク:出資先の企業が当たるかどうか事前に分からないこと
身も蓋もロマンもない書き方ですみません。番号を振って役割を書きましたが,それぞれが置かれた場所ごとのルールにもとづいた「ゲーム」をしているとも言えますね。
そしてそれぞれが「勝率を上げるのに必要なこと」をすると,それより若い番号がやりやすくなることもわかると思います。
例えば,(D)で大量に業界に資金が投下されると,(C)の「勝つために必要なこと」である10本のゲームをリリースすることがやりやすくなります。(C)が資金集めをしていれば(B)の……というように連鎖し,見た目には潤ったり余裕が出てくるわけです。
この構図は,今後の連載記事の中で,いずれ振り返ることになりますので覚えておいていただければと思います。「ブロックチェーンであること」を必要としているのは誰で,「ゲームであること」を必要としているのは誰なんだろうか? そんなことを考えてみてください。
ということで,今回はブロックチェーンゲームが話題であるということから,Web3とは鵺であるというお話と,そのビジネスにおける枠組みについてでした。
次回はブロックチェーンの仕組みについて説明します。ゲーマーにとってサトシと言えばポケモンですが,ブロックチェーンの世界でサトシといえば……誰だ!?
では,また!
20年前はMMOのゲームマスターだったのが、経営者、作家、都知事選候補、地方自治体顧問などを経ることで、RPGで転職を繰り返したようなスキル欄になった。守備範囲はゲーム、特撮、アイドルで、最近の推しは #ババババンビ
「それって,ブロックチェーン使わなくてもいいんじゃないですか?」連載一覧
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