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ゲームで競馬に興味を持った人に今オススメしたい競馬小説「黄金旅程」と「ザ・ロイヤルファミリー」(ゲーマーのためのブックガイド:第8回)
「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載だ。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,さまざまなテーマでお届けする。
第8回で取り上げるのは,「黄金旅程」と「ザ・ロイヤルファミリー」という2冊の競馬小説。実在の著名馬と親から子への継承をそれぞれモチーフに,競馬の持つ魅力の深さを知ることができる。史実とはまた違った面白さや楽しみ方がある,ゲームで競馬に興味を持った人に今オススメしたいフィクション作品だ。
黄金旅程(馳 星周/集英社)
馳 星周さんの第163回直木賞受賞後第一作。稀に見る素質を持ちながらもその気難しい性格でレースを勝ちきれない競走馬と,その一頭に夢を託した人々の物語を描く作品だ。
物語の中心となる競走馬エゴンウレアのモデルとなっているのが,競馬ファンなら書名ですぐピンと来るであろうステイゴールド。1990年代半ばから2001年まで活躍した競走馬で,三冠馬のオルフェーヴルやウマ娘ファンにおなじみのゴールドシップなど,多くのG1馬を輩出した名種牡馬としても有名だ。ほかにも実在する競馬界の人物やエピソードを感じさせるものもあり,長く競馬を追っている人ならそのあたりも楽しめるだろう。
馳さんと言うと代表作の「不夜城」などで“ノワール小説の名手”というイメージがあると思うが,直木賞受賞作の「少年と犬」や犬種別の物語を全7編収録した「ソウルメイト」など,実は“動物ものの名手”としても知られている作家である。それだけに,“一頭の競走馬にどれだけの人が関わっていて,どれだけの人の思いが乗っているのか”という人と動物との関係の描き方も絶妙で,作品の大きな魅力となっている。
舞台の中心となるのは馬産地で,主人公が装蹄師を生業に養老牧場(休養馬,引退馬を受け入れる牧場)を営む人物というところも面白い。浦河出身で日高育ち,現在も夏の数か月を浦河で過ごしているという馳さんだけに,北海道の暮らしの空気感がとても伝わってくる描写もまた素晴らしく,“どさんこ”の筆者の推しのポイントだ。
なお,馳さんは現在,オール讀物(文藝春秋)にてメジロマックイーン産駒のギンザグリングラスをモデルにした「ロスト・イン・ザ・ターフ」,小説すばる(集英社)では凱旋門賞がテーマの「フェスタ」という二つの競馬小説を連載中だ。黄金旅程を読んでピンとくるものがあったら,こちらも追いかけてみるといいだろう。
「黄金旅程」
著者:馳 星周
版元:集英社
発行:2021年12月03日
価格:1800円(税別)
ISBN:9784087717747
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集英社公式サイトの「黄金旅程」詳細ページ
ザ・ロイヤルファミリー(早見和真/新潮社)
もう一冊,今推したい競馬小説が,2019年のJRA賞馬事文化賞と第33回山本周五郎賞を受賞した早見和真さんの「ザ・ロイヤルファミリー」。クセの強いワンマン社長で個人馬主の山王耕造が持ち馬のロイヤルホープでG1制覇に挑む「希望」,“相続馬限定馬主”となって父の遺志を継いだ耕一がロイヤルホープの子ロイヤルファミリーとともに大舞台に挑む「家族」の2部構成で,競走馬に夢を託した人々の物語を描く作品だ。
特徴となっているのが,馬主の耕造や耕一の視点ではなく,耕造の秘書で元税理士の栗須栄治を語り手とした文章とその文体。ひょんなことから競馬界に足を踏み入れることになった栄治の視点で,競馬の魅力である親から子への“継承の物語”が,丁寧で優しい“です・ます調”の文体で描かれる。競走馬のドラマ,人のドラマその両方でロマンのある物語となっているのだが,この文体もあってそれが情緒的になり過ぎていないところも個人的にお気に入りな点だ。
人によっては読みにくさを感じるかもしれない文体は好みが分かれそうだが,11月28日には文庫版と電子書籍が刊行されるので,これを機にぜひ読んでみてほしい。
「ザ・ロイヤルファミリー」
著者:早見和真
版元:新潮社
発行:2019年10月30日
価格:2000円(税別)
ISBN:9784103361527
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■文庫版
発行:2022年11月28日
価格:990円(税込)
ISBN:9784101206936
購入ページ:
Honya Club.com
e-hon
Amazon.co.jp(文庫版)
Amazon.co.jp(電子書籍)
※Amazonアソシエイト
新潮社公式サイトの「ザ・ロイヤルファミリー」詳細ページ
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■■Junpoco(4Gamer編集部)■■
本企画の担当で,書店の文芸書担当,DTPデザイン,雑誌編集と,かつて本を売る人&作る人の両方をしていたことがある4Gamerスタッフ。本もゲームも,気になったものはジャンルや主義主張問わず,流行のものからニッチなものまでわりと何でも手を出すが,自身の“attitude(姿勢)”にあった作品へのこだわりもけっこう強かったりもする。
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