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各社文庫の夏フェア対象作品で,ゲーム好きに手に取ってほしい5冊(ゲーマーのためのブックガイド:第3回)
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印刷2022/08/11 12:00

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各社文庫の夏フェア対象作品で,ゲーム好きに手に取ってほしい5冊(ゲーマーのためのブックガイド:第3回)

画像集 No.001のサムネイル画像 / 各社文庫の夏フェア対象作品で,ゲーム好きに手に取ってほしい5冊(ゲーマーのためのブックガイド:第3回)

 「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載だ。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,さまざまなテーマでお届けする。
 第3回のテーマは,「各社文庫の夏フェア対象作品で,ゲーム好きに手に取ってほしい5冊」。小説好きにはおなじみの,新潮社,集英社,KADOKAWAがそれぞれ実施している夏の文庫フェア「新潮文庫の100冊」「ナツイチ2022」「カドブン夏フェア2022」の対象作品からピックアップして紹介しよう。



残穢(小野不由美/新潮社),予言の島(澤村伊智/KADOKAWA)


 まずは「夏と言えばホラー」と言う人にオススメしたい,新潮文庫「残穢」と角川文庫「予言の島」。残穢(ざんえ)は,十二国記やゴーストハント(悪霊)シリーズなどで知られる小野不由美さんの“ドキュメンタリー・ホラー”作品だ。
 ある日,主人公である小説家の元に届いた,“転居したばかりのマンションの部屋に,なにかがいるような気がする”という読者からの手紙。主人公はその読者(久保さん)と共にこの部屋の怪異現象を調べていくことになり,同じマンションの離れた部屋でも似た怪異が起きていたことを知る。さらに,マンションの近隣にある団地でも奇怪な出来事が起きていたことがわかり,この土地一帯の歴史や出来事を調べ,地元住民やかつてこの土地に住んでいた人への聞き込みを進める2人の前に,とある因縁が浮かび上がってくる。
 一見とりとめのない住民との会話が,ほかの人による新たな証言と結びつくことで見えてくる“怪異”の因縁。ルポルタージュ風に描かれるその物語は現実の話のようで,「もしかして,自分の住んでいる土地にも……」と想像して震えるようなリアルな恐怖がある。

画像集 No.002のサムネイル画像 / 各社文庫の夏フェア対象作品で,ゲーム好きに手に取ってほしい5冊(ゲーマーのためのブックガイド:第3回)
「残穢」

著者:小野不由美
版元:新潮社
発行:2015年8月1日
価格:630円(税別)
ISBN:9784101240299

購入ページ:
Honya Club.com
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Amazon.co.jp(文庫版)
※Amazonアソシエイト


新潮社公式サイトの「残穢」特設サイト



 澤村伊智さんの「予言の島」は,かつて一世を風靡した霊能者が予言を残した土地である,瀬戸内海の霧久井島という島を舞台としたホラーミステリーだ。
 霧久井島に残された予言というのが「霊魂六つが冥府へ堕つる」。つまり,予言された期間に,この島で6人の人が死ぬというものだった。予言から二十数年が経ち,興味本位でその“予言の日”に島へとやってきた天宮 淳とその幼馴染みたちは,“1人目の死”で始まる島の惨劇に巻き込まれることになる。
 年寄りばかりが住む閉鎖的な島と,島に残る因習。嵐で隔離されたその地で連続して起こる陰惨な事件。そして,予言と呪い。本作には“初読はミステリ,二度目はホラー”というキャッチコピーがあるのだが,そのコピーのとおり,物語の謎がすべて解けたのちにいままでを振り返る(もう一読する)ことで,背筋が寒くなるような気味の悪さのある“ホラー”が楽しめる。

 題材や文体,描こうとしている恐怖はまったく異なる2冊だが,どちらも物語を読み進めていくことで謎が解け,そして恐怖がやってくる作品となっている。探索系のホラーアドベンチャーが好きなゲーマーに,ゲームとはまた違った“新たな刺激”を与えてくれるはずだ。

画像集 No.003のサムネイル画像 / 各社文庫の夏フェア対象作品で,ゲーム好きに手に取ってほしい5冊(ゲーマーのためのブックガイド:第3回)
「予言の島」

著者:澤村伊智
版元:KADOKAWA
発行:2021年6月15日
価格:680円(税別)
ISBN:9784041113127

購入ページ:
Honya Club.com
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Amazon.co.jp(文庫版)
Amazon.co.jp(電子書籍)
※Amazonアソシエイト


KADOKAWA公式サイトの「予言の島」詳細ページ



しゃもぬまの島(上畠菜緒/集英社),レプリカたちの夜(一條次郎/新潮社)


 続いて取り上げるのが,集英社文庫「しゃもぬまの島」と新潮文庫「レプリカたちの夜」。上畠菜緒さんの「しゃもぬまの島」は,主人公の祐と,祐の地元である人口1000人ほどの小さな島に生息する「しゃもぬま」の奇妙な生活を描く物語だ。死期が近づくと島の人間の中から1人を選び,死の世界へ共に連れていくというしゃもぬま。その不思議な生き物が,島から離れて本土の街で暮らしていた祐のところにやってくることで物語は動き出す。
 しゃもぬまの死の誘いから逃れる方法は,“しゃもぬまを誰かに譲る”こと。仕事や家族との関係でわだかまりを抱えており,二十代前半ながら“危うい”ものがある祐が,生と死の狭間で何を考え,どんな答えを導き出すのか。現実なのか夢なのか分からなくなるような,不思議な感覚がある幻想的な作品だ。

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「しゃもぬまの島」

著者:上畠菜緒
版元:集英社
発行:2022年2月25日
価格:560円(税別)
ISBN:9784087443493

購入ページ:
Honya Club.com
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Amazon.co.jp(文庫版)
Amazon.co.jp(電子書籍)
※Amazonアソシエイト


集英社公式サイトの「しゃもぬまの島」詳細ページ



 かなり癖があり読む人を選ぶ作品ではあるが,一條次郎さんのデビュー作「レプリカたちの夜」も取りあげたい。物語は,動物のレプリカを製造する工場に勤める主人公の往本が,ある夜,工場内で動くシロクマと遭遇するするところから始まる。本物か? しかしこの世界では,すでに野生のシロクマ絶滅している。では,産業スパイか? 工場長から特命を受け,シロクマの調査を始めた往本だが……と,ここから物語はなんとも説明が難しい,カオスと不条理に満ちた世界へと突入する。
 文庫本の裏表紙のあらすじにある言葉を借りると“デヴィッド・リンチ的世界観”で,好みによっては読み進めるのも難儀な作品だが,シュールな物語と描写の中に「人間という存在って,なんなのだろう」と思わされるものがある。

 ここで紹介した2冊はどちらもちょっと(かなり?)不思議な読後感があり,幻想的な話やシュールな設定ながら“何か考えさせられる”ようなゲームが好きな人にオススメしたい作品だ。

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「レプリカたちの夜」

著者:一條次郎
版元:新潮社
発行:2018年10月1日
価格:590円(税別)
ISBN:9784101216515

購入ページ:
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Amazon.co.jp(電子書籍)
※Amazonアソシエイト


新潮社公式サイトの「レプリカたちの夜」詳細ページ



クジラアタマの王様(伊坂幸太郎/新潮社)


 最後に2022年7月に文庫化されたばかりの1冊,新潮文庫の「クジラアタマの王様」を紹介しよう。
 著者は,軽快な文体に洒脱でユーモアあふれる会話,緻密な構成,驚きの仕掛けと伏線回収が魅力の人気作家である伊坂幸太郎さん。2019年7月に描き下ろし文庫版としてNHK出版から発行されたクジラアタマの王様は,そんな伊坂さんのこれまでの作品とは雰囲気が違う,“ゲーム小説”としての一面を持つエンターテインメント小説だ。

 主人公は,製菓会社の広報部勤務の岸。妊娠中の妻と暮らすごく普通の会社員である岸は,商品への異物混入事件の対応を担当することになったことでさまざなトラブルに追われるようになり,平穏な日々は思わぬ方向へと動き出す。
 そんな岸は,昼間の会社員としての“戦い”とは別に,夢の中でも戦っていた。記憶の片隅には残るが,しかし何をしていたのか覚えていない不思議な夢。詳しくは伝えられないが,この“夢”での戦いの描写と,干渉しあう“現実”と“夢”の二つの世界とその“結果”で動く物語が,ゲーム的でありながら,小説だからこそできる表現や展開で楽しませてくれる。
 クレーム対応に追われる岸の昼の様子の描写はサラリーマン小説のようにシビアで,感染症の流行によって起きる出来事(※本作の発刊はコロナ禍以前)などの描かれ方も現実的だ。さらに物語の展開だけではなく,構成も漫画のような挿絵を使用した実験的なものになっており,ゲーム的かつ“これまで読んだことがないような作品に触れたい”という人に手に取ってほしい一冊だ。

画像集 No.006のサムネイル画像 / 各社文庫の夏フェア対象作品で,ゲーム好きに手に取ってほしい5冊(ゲーマーのためのブックガイド:第3回)
「クジラアタマの王様」

著者:伊坂幸太郎
版元:新潮社
発行:2022年7月1日
価格:750円(税別)
ISBN:9784101250335

購入ページ:
Honya Club.com
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Amazon.co.jp(文庫版)
Amazon.co.jp(電子書籍)
※Amazonアソシエイト


公式サイトの「クジラアタマの王様」詳細ページ


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■■Junpoco(4Gamer編集部)■■
本企画の担当で,書店の文芸書担当,DTPデザイン,雑誌編集と,かつて本を売る人&作る人の両方をしていたことがある4Gamerスタッフ。本もゲームも,気になったものはジャンルや主義主張問わず,流行のものからニッチなものまでわりと何でも手を出すが,自身の“attitude(姿勢)”にあった作品へのこだわりもけっこう強かったりもする。
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