イベント
クラウドゲーミングに対する各社の取り組みと今後の課題とは。EXNOAとBLACKによる講演をレポート
このイベントでは,クラウドサービスに関わるメーカーの担当者による講演が行われたが,本稿ではクラウドゲームのサービスを展開しているEXNOAとBLACKによる2講演をまとめてレポートしよう。
クラウドゲーミングへの取り組みと展望
最初に紹介するのは,EXNOAの坂本 学氏による「クラウドゲーミングへの取り組みと展望」と題された講演だ。
あらためて説明すると,EXNOAはDMM GAMESのブランドでゲーム事業を展開している企業だ(2017年に合同会社DMM GAMESとして設立され,2018年にDMM.comのゲーム事業を承継し,2020年に現社名へ変更)。DMM GAMESのサービスは今年で10周年を迎え,累計会員数は3000万人を超えるなど,堅調だそうだ。
同社は今後スマートフォンにも注力する方針とのこと。坂本氏はその理由として,DMM GAMES(=ゲーム関連のサービス)と,DMM.com(=ゲーム以外のサービス)の両プラットフォームにおける,PC:スマホの売上構成比のグラフを紹介した。
このグラフで,2021年におけるスマホの売上比率を見ると,DMM GAMESは約28%,DMM.comは約57%となっている。つまりDMM GAMESにおけるスマホの売上比率は,DMM.comと比較するとまだ伸びしろが多く残っていると考えているようだ。
クラウドゲームの導入事例
同社はクラウドゲームに関して,オンラインゲーム,買い切り型ゲーム,サブスクリプションサービスの3つの形式で展開している(※いずれも現在はβバージョン)。今回の講演では,それらの各クラウドサービスの紹介も行われた。
(1)オンラインゲームにおけるクラウド展開
「DEAD OR ALIVE Xtreme Venus Vacation」(コーエーテクモゲームス)は,DMM GAMESが2019年4月にクラウド版のサービスを開始したオンラインゲームだ(関連記事)。もちろんクラウドなので,ゲームプログラムをダウンロードせず,かつPCスペックに依存せずに楽しめる。
坂本氏によると,DMM GAMESはライト寄りのユーザーが多いとのこと。軽い気持ちで興味を持ったら,ワンクリックでゲームを開始できる本作は,DMM GAMESとのシナジーを感じているようだ。
(2)買い切り型ゲームにおけるクラウド展開
買い切り型ゲームにおけるクラウド展開に関しては,「ATRI -MY Dear Moments-」(ANIPLEX.EXE),「9-nine-」(ぱれっと),「PARQUET」(ゆずソフトSOUR)の3タイトルが軽く紹介された。これらのクラウド版は,上述したクラウドならではのメリットのほか,PCだけでなくスマホでもサービスされているため,より幅広いユーザーにアプローチできているとのこと。
(3)サブスクリプションサービスにおけるクラウド展開
「GAME 遊び放題」は,DMM GAMESが2017年8月にサービスを開始した,サブスクリプション型のサービスである。現在は合計で3500以上のタイトルが対応しており,そのなかの約120タイトルがクラウドに対応している。
これらのクラウド版に触れるユーザーの動向を追ってみると,最初に軽い気持ちでクラウド版に触れ,もし本格的に興味を持ったら,あらためてダウンロード版をじっくり遊ぶ人が多いそうだ。
クラウドゲームにおける課題と今後の展望
同社は上記の各種クラウドサービスを展開することで,さまざまなフィードバックを得ているという。
まず,サービスの開始前は,通信遅延がクリティカルな問題にならないか不安視していたそうだが,アドベンチャーゲームなどのジャンルを多く採用することで,ある程度回避できているとのこと。一方で画質や音質に改善の余地があるほか,クラウド版の開発期間の短縮や,インフラコストの圧縮など,多くの課題が残されているそうだ。
上記の課題はあるにせよ,坂本氏としては,クラウドゲームに対し大きな手応えを得ているとのこと。2020年までは,リリース済みのタイトルを後からクラウドに対応させるケースが多かったが,昨年から新作タイトルを最初からクラウドでも同時展開することも注力しているそうだ。
そのほか同社のクラウド関連の動向としては,iOSのブラウザ上でDMM GAMESのコンテンツを提供する,「Apk クラウドゲーム」の開発も進められている。今後はブラウザゲームのほか,PC,スマホ,そしてクラウドと,多方面での展開が期待できそうである。
「EXNOA」公式サイト
講演:ゲームをプラットフォームから解放するための手段としてのクラウドゲーミング
続いて,BLACKの小川楓太氏による,「ゲームをプラットフォームから解放するための手段としてのクラウドゲーミング」の講演を紹介する。
同社は現在,クラウドサービスの「OOParts」を展開している。ほかのクラウドサービスと比べると低遅延,高速起動,低サーバーコストをウリとしており,特に最後のコスト部分に関しては,エンジニアでもある小川氏にとっても大いに自信があるようだ。
また,OOPartsのサービス開始後も,エンジン部分を中心にアップデートが続いている。現行バージョンのサーバーの費用は,初期と比べて約73%も削減されているとのこと。
上のEXNOAの講演でも言及されているので軽い紹介に留めるが,ゲームをクラウド化することで,さまざまなメリットが生まれる。たとえば,ゲームのマルチプラットフォーム展開が行いやすくなること。使用デバイスのスペックに依存すせず,リッチなゲーム体験を楽しめること。そして,チートや海賊版への対策が万全であることなどが挙げられる。
そして小川氏は,クラウドでもうひとつ注目すべきポイントがあると述べる。それは,“プラットフォームの規約に縛られない課金システム”を構築できるという部分だ。
詳しい経緯は4Gamerの過去記事でも言及しているが(関連記事1,関連記事2),現在のApp Storeでは,課金システムの利用時に30%の手数料をAppleに支払うことが義務づけられている。これを不服とするEpic Gamesは,現在もAppleとの裁判を続けており,各国でさまざまな反響が起こっているのは読者もよくご存じだろう。
そして小川氏によると,上記裁判第一審判決の90日後である2021年12月9日までに,App Storeの規約が「アプリ内に外部決済のリンクボタンを置いても構わない」と変更される見通しだったそうだ(関連記事)。
この規約変更に対応する形で,BLACKは新サービスの「Project Anplatform」というモバイルゲームメーカーがクラウドゲーミングを簡単に導入できるSaaSを開発中で,今回の講演ではデモが紹介された。
このデモでは,スマートフォンアプリのゲーム内に外部決済用のリンクボタンが追加されており,プレイヤーがタップすると,いったんブラウザの画面に遷移する。そして,ブラウザ(クラウドゲーミング)を通じてクレジットカード決済を行い,それによりAppleに支払う30%の手数料を回避するという仕組みのようだ。
Project Anplatformの価格はこのサービスを通しての決済額の「10%」を予定しており,その中にクレジットカード手数料やクラウドゲーミングのサーバー費用なども含まれていて,従来よりも20%ほど低い手数料で課金が行えると小川氏は説明していた。
ところが,このサービスは現在暗礁に乗り上げている。というのも上記の規約改正命令に対してAppleが控訴審の決定が下されるまで期限の猶予を求めており,それが認められてしまったのだ(関連記事)。この規約改正が行われないと,アプリ内に外部決済のリンクボタンを置けないため,アプリからクラウドゲーミングにスムーズに移行する体験を提供できない。現状でもクラウドゲーミング機能だけなら提供可能だが、完璧な体験を目指してProject Anplatformのサービス開始はAppleの規約が改正され次第を予定している。
「BLACK」公式サイト
- この記事のURL:
キーワード