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「ゲームマーケット2021秋」の新作をピックアップで紹介。一般ブースで見つけた気になるインディーズ作品は?
ときとして,そこには個人の趣味が自由に発揮されたからこその原石が埋まっているものだ。J-POPを再生しながら頻出単語をかるたのように獲得していく「狩歌(かるうた)」,手札を組み合わせて10秒で最強のプロポーズの言葉を考える「たった今考えたプロポーズの言葉を君に捧ぐよ。」,今回も独自の企画を展開していたワードゲーム「ボブジテン」など,ゲームマーケットで華々しく登場し,大手メーカーから製品化されたり,手作りのパッケージだったものが翻訳され海外でも販売されるケースは,もはや珍しいことではない。
本稿ではそんな一般ブースの中から,筆者が気になったインディーズゲームをいくつか紹介してみたい。今回のゲームマーケットは参加を見送ったという人も,熱気あふれる会場の様子を感じ取ってもらえたら幸いだ。
アナログゲームの祭典「ゲームマーケット2021秋」全体レポート。“わざわざ行こう!”をスローガンに1万8000人が会場を賑わす
2021年11月20日と21日の2日間,アークライトの主催によるアナログゲームの祭典「ゲームマーケット2021秋」が,東京ビッグサイトで開催された。2日間で1万8000人の来場者が集い,さまざまなアナログゲームの展示や販売,頒布が行われたこのイベントをレポートする。
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- ANALOG
- ライター:マシュー
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「ゲームマーケット」公式サイト
アナログでしかできないゲーム体験「WOLFUME -香水人狼-」
異質なたたずまいに客足の絶えなかったのが,通常の人狼ゲームに「香り」という要素を加えた「WOLFUME -香水人狼-」(会場価格:税込3000円)を頒布していたアーアーアーゲームズのブースだ。
パッケージ内にはピーチやローズなど9本の香りの小瓶が含まれていて,これを使って人狼ゲームをやろうというのが,同作の主旨である。
具体的にはこうだ。2〜8人の参加者は,それぞれ香りのついた綿棒(9本が同梱)を手にゲームをスタートし,これを嗅いでその匂いを言語化し,ほかのプレイヤーに伝えようとする。しかし人狼だけは異なる香りの綿棒が渡されているので,正直に話すわけにはいかない。そもそも人狼が誰であるかは自身ですら分からず,村人側も自分を含めて疑わざるを得ない状況なのだ。匂いを言葉で伝える難しさに翻弄されながら,人狼を見つけ出していくわけである。
またパッケージには,このほか「香りの語彙リスト」も付属する。「すっぱい」「つんとする」「アルコールのような」などといった例が記載されていて,香りに関する語彙に自身がない人も安心して楽しめるとのことだった。
本来,香りの感じ方は人それぞれだ。それを専門とする職業――例えばワインを選ぶ手助けをするソムリエなどは,人によって表現がバラつかないように,ある程度定型的な表現――花のニュアンスなら「バラ」「スミレ」「ボタン」,スパイス香なら「バニラ」「シナモン」「ナツメグ」など――で統一するそうだが,「WOLFUME -香水人狼-」はこの感じ方の違い(クオリア)に注目することで生まれたという。
その着眼点の面白さ来場者の琴線に触れたのか,2日間をとおして約300セットが売れたという同作。嗅覚というアナログゲームにしかできない体験を追求した,インディーズならではタイトルと言えるかもしれない。
BOOTH内「WOLFUME -香水人狼-」販売ページ
それは果たして妄想か推理か。「勝手に相関図〜ミステリはお気に召すまま〜」
サスペンスものの映画やドラマでおなじみの「人物相関図」だが,あれを見るとどこか心が高鳴るのは,きっと筆者だけではないはずだ。ICHIROKUがリリースした「勝手に相関図〜ミステリはお気に召すまま〜」は,そんな相関図をモチーフにしたボードゲームだ。
遊び方は二つ。相関図に捜査カードによって示される人物や犯行現場,証拠品を追加していき,プロファイリングカードや追加の捜査で判明する新たな人間関係などを加えたうえで,条件を満たす人物を特定していく「A SIDE」。そして「A SIDE」と同じ手順で作った相関図を元に,物語を作っていく「B SIDE」だ。
とくに面白いのは,推理といいつつ物語を創作していく「B SIDE」だろう。「犯人」「殺害方法」「動機」――いわゆるフーダニット,ハウダニット,ホワイダニットを全員が考え,順に披露していく必要があって,そのためには手持ちの証拠品を新たに提出してもいい。もちろん話の整合性がとれていないとほかのプレイヤーからつっこまれてしまうが,結果的にいちばん面白い(最多得票の)推理を披露した人が勝ちというルールなので,かなり“なんでもあり”な展開が予想される。
この事件はコミカルな喜劇か,ドロドロの愛憎劇か,はたまた殺伐とした連続殺人事件か。想像力次第で無限に広がるドラマが楽しめる,というわけだ。
なおゲームマーケットでは早々に完売してしまったが,ボドゲーマによる通信販売が12月1日にスタートするとのことだった。山札から引いたカードで作った相関図を元にお話を作るという,一風変わった大喜利ゲームともいえるので,その手のゲームが好きな人は,ぜひチェックしてみるといいだろう。
ICHIROKU公式Twitter
カードを重ねて影絵を作る「シルエッティア」
東京・立川のボードゲームカフェ「ジョルディーノ」は,都心からはやや距離があるものの,広々とした店内とアンティーク調の内装,そして丁寧な接客に定評のあるボードゲームカフェだ。またマーダーミステリーの公演も多く手がけていることで知られ,2022年1月にはマーダーミステリー専門店を吉祥寺にオープン予定とのこと。
そんなジョルディーノが制作したオリジナルボードゲームの第5弾「シルエッティア」が,ゲームマーケット2021秋で販売されていたので紹介しよう。
同作は,影を操る妖精をテーマにした,3〜5人用のクイズゲームだ。プレイヤーは,まず各々カードによって決められたお題に合わせて,シルエットの描かれた透明なカードを重ねて影絵を作っていく。
全員の影絵が完成したら,次はお題当てのフェイズだ。手番が回ってきたら自分以外のプレイヤーを一人指名し,そのプレイヤーのお題がなんであったかを回答する。正解なら当てた人と当てられた人,双方がメダルを一つ獲得できる仕組みだ。これを繰り返し,5種類あるコインすべてを集めると,そのプレイヤーが勝者となる。
ここでのポイントは,勝利条件がメダル“5枚”ではなく“5種類”という点だ。仮に正解できたとしても同じコインでは意味がなく,いまいち確信が持てなくとも勝負にでなければならないタイミングはやってくる。
また純粋に影絵を見て推測するだけでなく,ほかのプレイヤーの状況や,残った透明シートを観察することも求められるので,単なる疑似お絵描きクイズに止まらない奥深さがあるのも面白いところだ。
なお上記は対戦ルールのみを紹介しているが,このほかに使用できるカードに制約を加えた協力プレイルールもあって,シンプルながらさまざまな楽しみ方ができるのもありがたい。これもまた,アナログゲームならではの楽しみが詰まったタイトルといえるのではないだろうか。
「シルエッティア」製品ページ
「ボブジテン」を拡張する新プロジェクト「ボブキカク」
ルールが簡単で,人数も割と自由で,1ゲームのプレイ時間が短く,誰でも楽しめる……ゲームデザイナーを悩ませる理想のボードゲーム像がこれらだが,そのすべてを高い水準でクリアしていると筆者が感じているゲームに,TUKAPONのワードゲーム「ボブジテン」がある。シリーズ展開もされているかなり有名なタイトルで,改めてここで取りあげるのも躊躇われるくらいなのだが,この「ボブジテン」を利用した新プロジェクト「ボブキカク」が進行中なので,こちらを紹介してみたい。
「ボブジテン」は日本語が大好きな友人・ボブのために,カタカナ語として定着している単語を日本語のみで説明する……という大喜利系のワードゲームだ。例えば「マヨネーズ」なら「卵と酢を混ぜて作る調味料」,「プライバシー」なら「あまり知られたくない個人情報」といった具合である。
「ボブキカク」は,この「ボブジテン」をベースにして,色々なサークルにまったく別のゲーム……言うなればサードパーティ製の拡張パックを作ってもらおうという試みだ。「ボブジテン」はすでにかなり普及しているタイトルであり,さらに「ボドゲカフェなどの店舗に置かれている率が高い」「カタカナのワードが1000以上収録されている」といった特徴を利用して,販売元であるTUKAPONが参加を呼びかけている。
参加にあたってのマージンなどは一切不要で,制約はほとんど設けられていない。「ボブジテン」のコンポーネントをそのまま流用してもいいし,もちろん新たなコンポーネントを追加したって構わない。企画力が一つで勝負できるプロジェクトとなっている。
例えば「ボブキカク」の一つであるイオピーゲームズの「TOKYOボブキャブラリー」は,ボブジテンのワードを使って東京観光を行うというタイトルだ。タクシーで東京観光中のボブと仲間達をモチーフに,文字を集めてお題のワードを完成させていくワードゲームの要素と,チェックポイントを巡ることでポイントを稼ぐルート最適化の要素を合わせ持つ,野心的な一作となっている。
企画の中には無料で頒布されているものもあり,すでに40弱のタイトルが発表されている。今後どれほど増えるのか,また本家「ボブジテン」を超えるような作品が現れるのか。今後が楽しみなプロジェクトだ。
#ボブキャブラリー
— イオピーゲームズ@ゲムマ21秋おつかれさまでした! (@iop_games) November 18, 2021
基本ルールのみだと100点満点、拡張ルール?まで入れると200点満点です。
何人でも遊べますが、1人でスコアアタックも楽しいですよ。
これまでの最高点は175点です。これを越えられるかな。 pic.twitter.com/p0xn7CcBfg
TUKAPON 公式ブログ
イオピーゲームズ 公式Twitter
正月の感動を,もう一度。新感覚の駅伝ボードゲーム「HAKONE」
日本発祥の陸上競技「駅伝」をモチーフに,西暦5000年の駅伝優勝を目指す,2〜5名用の対戦ダイスゲームがPaixGUILDの新作「HAKONE」だ。プレイヤーは各大学の駅伝部の監督となり,戦略カードを駆使してランナーを強化し,駅伝大会「HAKONE」の優勝を競い合う。
出場するのは「小魔澤」「碧山学院」「島海」「和稲田大学」「冥慈大学」などと,どこかで聞いたことがあるような大学が名を連ねている。大学にはそれぞれ特徴があり,大学選びの時点で戦いは始まっているのだ。
大学が決まったら,次は各区間への選手の配置だ。選手には10000mの参考記録や,アップダウンの得意/不得意などの特徴が設けられているので,区間の高低差なども考慮しつつ配置し,さらにチームのエースや補欠選手を決めていく。
出走前には監督インタビューがあるのも面白い点だ。チームとしての評価を語ってもいいし,「練習の成果を出してほしい」「エース次第ですね」と選手達にエールを贈ってもいいだろう。ゲーム自体にはとくに影響はないので,監督になりきって場を盛り上げるてほしい。
人事を尽くしたら,後はダイスという天運に身を任せるのみ。ただしレース中も,じっと見守っていればいいわけではない。選手の疲労管理や,天候や気温に対する対処,転倒などのトラブルを潜り抜け,ときには監督や恋人からの叱咤激励が飛ぶ――まさに箱根駅伝を視聴しているがごとく,ドラマがドラマを生む展開になるだろう。
現代のボードゲームには,その背景となる世界観――“見立て”が重要だが,「HAKONE」には随所に“らしさ”が散りばめられている。コアな駅伝ファンを唸らせるキーワードを織り交ぜつつも,シンプルで駅伝に馴染みがないプレイヤーでも楽しめる仕上がりになっている「HAKONE」。ぜひ手に取ってもらいたい一作だ。
PaixGUILD公式Twitter
ゲームマーケットのインディーズゲームを巡りながらブースの間を飛び回るのは,言わば宝探しに近い感覚だ。「ボブジテン」のように目をつけたゲームが世界に羽ばたくのを見るのも感慨深いものがあるし,世間ではあまり評価されていないが,自分の嗜好にピッタリと合うゲームを見つける楽しみもある。
この記事を読んでいる読者も,次回のゲームマーケットでは公式サイトのサークル情報で,カタログで,そして当日自分の足で,自分だけの宝物を見つけてみてはいかがだろうか。
「ゲームマーケット」公式サイト
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