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[CEDEC 2021]スクウェア・エニックスの過去資産サルベージプロジェクトや,「ワンダープロジェクトJ」開発当時の資料が紹介された講演をレポート
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印刷2021/08/25 13:15

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[CEDEC 2021]スクウェア・エニックスの過去資産サルベージプロジェクトや,「ワンダープロジェクトJ」開発当時の資料が紹介された講演をレポート

 ゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2021の初日となる2021年8月24日,スクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏藤本広貴氏が,「資料を資産へ、スクウェア・エニックスにおけるゲーム開発資料発掘プロジェクト [Wonder Project J編]」と題したセッションを行った。
 スクウェア・エニックスの過去資産サルベージプロジェクトや,スーパーファミコンソフト「ワンダープロジェクトJ〜機械の少年ピーノ〜」(以下,「ワンダープロジェクトJ」)の開発資料,さらに,当時どのようにゲーム開発が行われていたのかなどを紹介したセッションの模様をレポートしよう。

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「CEDEC 2021」公式サイト


 まずは三宅氏から,スクウェア・エニックスの過去資産をサルベージするプロジェクト「SAVE」について語られた。SAVEは立ち上ったばかりのプロジェクトで,メンバーは開発経験者を含めた3名だ。開発経験者は,資料の分類や由来の判断などを行い,もう1人の事務業務全般に精通したメンバーは社内のコミュニケーションをとるなど,それぞれの長所を活かして連携しているという。専任スタッフはおらず,全員,本業と兼務する形で携わっている。

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 SAVEで扱う過去資産は,スクウェア・エニックスグループ全体におよぶ。合併前のスクウェアとエニックスのものだけでなく,タイトーも含まれるため,約70年分の資料があり,複数の倉庫に分散して1万箱以上もあるそうだ。
 この膨大な資料は,部署ごとに管理フォーマットが異なるため,どのような形で残っているかはバラバラ。そこで,フォーマットを統一し,内容物の全体写真や個別写真の撮影,一覧表の作成,紙資料のPDF化などを行っているという。何がどこにあるのかを明確にすることで,今後必要になったときに迅速に手配できるように整理しておくわけだ。

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 SAVEは,2019年夏に動きだした。もともとは,三宅氏が研究に必要な技術資料を探すために旧エニックスのデータを調べたところ,デジタル化されておらず,アナログ資料を取り寄せたのに端を発するものだった。
 詳細な倉庫管理情報がなかったので,なんとなく該当資料がありそうなところから1倉庫ぶんをまるまる取り寄せたところ,開発資料や設計資料など,開発者にとっては宝の山となるものが眠っていることに気がついた。これはきちんと管理しなければならないのでは,と考えたのがSAVEの始まりだ。
 2019年秋にバンダイナムコが開発資料のアーカイブ化を行ったという話題が学会で取り上げられるなど,参考になる事例もあったという。

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 スクウェア・エニックスの過去資産は,基本的にすべてダンボールで倉庫管理されている。ただし,管理表にあるのは大まかな情報で,ダンボールの中がどうなっているのかは不明だ。
 例えば,先に三宅氏が取り寄せた旧エニックス地下倉庫のダンボール群は,50箱強。箱ごとにラベルがついているが,詳しい中身は開けてみないと分からない。
 これらについて三宅氏は,旧エニックス地下倉庫でホコリが積もる状態で管理されていたものが,引っ越し時にそのままダンボールに詰められ移動したものではないかと予想した。つまり,現状を把握している担当者が存在しない資料だ。

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 このようなおおまかな状況が把握できたのが,2019年の冬で,そこからどうすべきかの検討を開始し,管理フォーマットの定義や作業マニュアルの作成といった対応策が決まっていった。
 2020年春には,社長に直接プレゼンを行って過去資産を資料にすることのメリットを説明し,承認を得たという。

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 かくして正式に始動したSAVEだが,最初は細く長く続けていく予定だったという。しかし,いきなり問題に直面する。COVID-19の影響で作業が滞り,全社的な在宅ワークの推奨も始まったのだ。物理メディアのデジタル化作業である以上,出社しなければ作業ができない。
 さらに問題になったのは,(その時点で正式な予定はなかったが)在宅ワークが進むとオフィス縮小の可能性が出てくることで,そうなると,開発資料が廃棄されかねない。

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 そこで,三宅氏はSAVEの活動を伝える動画を作成し,社内広報活動を行ったという。会社全社の業務を行う総務部とも連携したところ,功を奏し,さまざまな部署からの問い合わせが入り始めた。
 このような活動を続けた結果,2021年夏までには,旧エニックスの資料のデータ化およびインデックス化が終了する。とはいえ,まだ膨大な量の資料が倉庫に眠っているため,「俺達の戦いはこれからだ!」という状況なのだそうだ。

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ワンダープロジェクトJの開発を振り返る


 続いては,SAVEの取り組みによって発掘された「ワンダープロジェクトJ」の開発資料を,当時,同作のプロデューサーを務め,現在もスクウェア・エニックスでさまざまなタイトルに携わる藤本氏が紹介した。

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 「ワンダープロジェクトJ」は,1994年に発売されたスーパーファミコン用ソフトだ。ジャンルは「コミュニケーションアドベンチャー」で,勝手に動く主人公のピーノに対して,ときには誉め,ときには叱り,彼の能力を伸ばしていくという特徴的なシステムが採用されていた。

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 「ワンダープロジェクトJ」は,「コンペット」という企画から始まったという。当時,新しいゲームを作りたいと考えた藤本氏は,画面の中の犬に芸を教えるMacintosh向けのゲームから着想を得て,「架空のペットを育てる」企画を思いつく。
 藤本氏は,当時のスクウェアの社長だった福嶋康博氏(現スクウェア・エニックス・ホールディングス名誉会長)からよく,「世の中に出ているゲームは同じようなものばかりだ。新しいものを作らないとダメだよ」と言われていた。

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 福島氏の話には説得力がある。(当時)1年に100本のゲームが出るとすると,そのうち97本は今まで見たことがあるようなもので,まったく新しいものは3本ぐらいしかない。この100本の中でヒットするのは5本ぐらいだが,そのうち4本は,今まで見たことのある97本の側から出ており,1本は新しい3本から出ている。4/97を狙うよりも,1/3を狙うほうが確率が高いのだから,新しいゲームを作るべきだと福島氏は述べ,その話が心に響いた藤本氏は,とにかく新しいものを企画したと当時を振り返った。

「コンペット」の企画書。斬新さを説明するために細かく書いた結果,100ページ近いものになったという
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 しかしこの企画は,斬新さこそ評価された一方,それがゲームとして面白いかという部分は伝えきれなかった。企画を見直した藤本氏は,「画面の中にペットがいる」ことではなく,「画面の中にいるペットと画面の前のプレイヤーがコミュニケーションを取る」ことが面白いのだということに気づく。

 その方向で練り直した企画が,「ジェッペットの息子」だった。コミュニケーションの対象がペットではなく人なら,より面白いのではないかと考えたものの,本物の人間では「こんな反応はしないよ」とプレイヤーが違和感を覚えてしまうかもしれない。そこで,「ピノッキオの冒険」を題材に,人形のピノッキオとコミュニケーションを取るゲームとして企画された。
 「ワンダープロジェクトJ」の前身らしく,コミュニケーションだけでなく,アニメーションを取り込んで動きを表現することも,この時点で決まっていたそうだ。

新しい企画書は,ゲームの内容を理解してもらえるように細かな部分まで書き込んでいった。その結果,133ページにわたるものになったという。行動に対して誉めるか叱るかをプレイヤーが選ぶ「ワンダープロジェクトJ」らしい部分が,すでに記載されている
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 藤本氏は当時,企画書を作るにあたって「○○ みたいなゲームです」とは絶対に言うなと教わったという。それを言った瞬間,「じゃあ○○ でいいじゃん」となり,そのタイトルは越えられない。企画が新しくないということを宣言しているだけなので,そうした説明にならないゲームを作ることを心に刻んでいた。

 藤本氏はまた,当時のゲーム作りは「容量」との戦いであったことを振り返った。「ワンダープロジェクトJ」のゲーム容量は最終的に24メガになったが,企画書では16メガだった。実はこの「メガ」は「メガバイト」ではなく「メガビット」で,16メガビットをメガバイト換算すると約2MB。環境にもよるだろうが,現在のPCでスクリーンショットを撮影し,bmp形式で保存すると,だいたいそのぐらいの容量になるという。つまり,画像1枚程度の容量にグラフィックスやサウンドも含めて,ゲーム1本が入っていたわけだ。

容量問題を解決するために,サウンドは削られがちだった。1曲削るだけでもけっこうな容量が稼げるため,泣く泣く諦めたこともある
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キャラクターの動きのパターン。企画書の時点で,主人公の動きは詳しく想定されていた
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1つのアイテムに対して,どのような動きをするのかというパターン。この例では,ボールに対する行動が体系化されている
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画面構成の資料。マップに何があるのか,どのようなイベントがあるのかまで決められる
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 ここまで企画書を練り込んだ藤本氏だったが,この時点でも会社から正式な承認を得ることはできなかった。そこで最終手段として,実際にゲームが始まってからプレイヤーが行う一連の流れをコンテにして,部屋の壁にズラっと貼り,プレイヤーがどんな気持ちでプレイを進めていくのか,どれだけ面白いゲームなのかを説明したという。
 この藤本氏の熱意が伝わり,ようやく承認が出て,開発が進められることになった。

壁に貼って熱意で承認を勝ち取ったというコンテ
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アニメーションの監督,演出は飯田馬之助氏,キャラクターデザインは川元利弘氏が担当。一流のクリエイターを起用して,質の高いアニメ表現を実現できたと藤本氏は述べる
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本作のキモがコミュニケーションにある以上,キャラクターが「生きている」ことを感じてもらわなければならない。そこで,通常のアニメのように原画を描き,ゲームに取り込んでいくという手法が用いられた
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ある日の定例会議の議事録。開催時間は19:30〜21:30で,そのあとは「第二企画室」(近所の居酒屋)で会議の続きが始まる
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バグの内容を記載したデバッグシート。当時はバグの様子をビデオで録画していたが,テープは劣化して画質が悪くなるので,せっかく録画したのに何だか分からないといったことも発生した
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デバッガーはアルバイトが多かったが,本作を気に入ってくれていたようで,デバッグシートにイラストを描き込んでバグの様子を伝えてくれた。効率を考えれば無駄な手間に思えるかもしれないが,作り手としては懸命にデバッグしてくれる人達がいるということが感じられ,連帯感が高まったという
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 藤本氏は,今も昔も,「面白いものを作りたい」というクリエイターの思いは変わっていないと述べた。しかし現在は,いろいろなものが便利かつ効率的になり,ゲーム制作をビジネスとして計算しやすくなった。それは悪いことではないが,不便だから工夫したり,効率の悪さを思い入れや行動でカバーしたりなど,やる気と情熱で突っ走った部分にも良さがあったのではないかと言う。
 今は便利になったぶん,かける必要のなくなった時間や自分の脳みそを,より面白いものや新しいものを生み出すために使うのが良いのではないかと述べていた。

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 藤本氏の話を踏まえ,三宅氏は最後に,過去資料の資産化について改めて目的を語った。SAVEの活動には,資料の有効活用による開発支援,社内外に向けて活動内容を発表する広報支援,そして,会社のルーツを明確にしていく人事支援としての価値があるという。

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 三宅氏は実体験として,2004年にスクウェア・エニックスに入社した当時,専門であるAI開発について資料が残っておらず,どうやって作ってきたのかが理解できずに困ったそうだ。これまでの流れが分からなければ,これからの流れも作れない。ベテランの先輩の頭の中だけでなく,誰でも見られる形で開発の流れを残しておくのは,社内教育の観点からも重要だと,三宅氏は述べた。

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 資料を資産に変えるのはコストがかかることだ。しかし,それは未来の開発につながるもの,自分達は今何ができて,何ができないのかという,現在の位置を知ることができるものになる。
 さらに,過去を掘り起こすだけではなく,今の自分の仕事を会社全体が見えるように残しておくことも,ゲーム開発の流れを伝えていくという点で重要だと述べ,三宅氏は講演を締めくくった。

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「CEDEC 2021」公式サイト

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