連載
【島国大和】ゲームと特許と開発現場。虎の尾を踏まないためにどうするか
島国大和 / 不景気の波にもがく,正体はそっとしておいて欲しいゲーム開発者
島国大和のド畜生 出張所 |
「皆さんデスマーチしてますかー!!」(挨拶)。 どうもお久しぶりの島国大和です。
いやいや正直なところ令和になってもまだデスマーチがあるとは思いませんでしたよ。死ねる死ねる。
コロナでテレワークでデスマーチです。この進行管理の難しさ。
といったグチはさておき,今回のお題は「ゲームと特許」に関してです。
なぜかと言うと,編集さんにいろいろと聞かれたのです。てへ。
いやー,正直に言いますが,このあたりはそんなに詳しくないんですよ。でもゲーム開発の仕事では避けて通れないところでもあるので,ほかの人の力を借りながら進めています。
というわけで今回は,知っている範囲で答えつつ,分からないところは詳しい人に助けてもらって書き上げた次第です。
特許にまつわる「知的財産戦略」は非常に熱いらしいですぜ。
では,質問に1つずつ答えていきましょう!!
ゲーム開発における特許とは?
まず特許とは,「発明」を保護するための制度ですね。
発明した人や会社に,発明を独占する権利「特許権」を与えて守りつつ,発明内容や技術内容を公開することで発明を促し,産業の発達に寄与することが目的とされているそうです。ゲームの場合,ハードウェアにもソフトウェアにも特許があります。
特許を申請(出願といいます)後,1年6か月でその内容が公表されます。ただ,出願しただけで特許が取れるわけではありません。そこから審査を請求して,その審査で問題なしと認められたら特許として登録され,めでたく特許権の取得となるようです。
出願から20年間,その特許は保護されます。別の言い方をすれば,20年経てばみんなが使ってもいいということになりますね。ゲームの場合は,初代PlayStation世代以前に登録された特許は切れていて,PlayStation 2世代のものがこれから失効していく感じです。
初代PlayStationの頃に有名だった特許に,ローディング中のミニゲームがありました。最近ソシャゲでよく見かけますが,これは20年経ったものなんでしょう。
コントローラの振動関連の特許は,同時期に複数の会社が商品を出したので,結構エグかった記憶がありますが,これの期限もそろそろ切れるころです。
特許情報プラットフォーム(外部リンク)で,「ゲーム」+「タッチパッド」とか,「カメラ」とかで検索すると結構な数の特許が出てきます。
個人的に見ていてヒヤヒヤハラハラできる単語としては「コナミ」「セガ」「任天堂」「カプコン」とかがあります。
まぁ一度見てみてくださいよ。
同業者の人は見飽きてるかもしれませんが,微妙な気持ちになりますよ。「これを全部回避しながらゲームつくるの? マジかよ」みたいな。
特許の取得には,どれくらいのお金がかかるの?
- 特許の出願 1万4000円
- 出願審査請求 13万8000円+請求数x4000円
ですって(ゴメン。分からなくてググった)。
ちなみに維持費用もかかりますが,計算が細かくなるので正確な数字はご自身で確認することをおすすめします。
ちなみに,自分も特許を出願したことがあります。
某社にいた時,「今回開発中のゲームで特許申請できそうなものはまとめて提出しろ」というざっくばらんなお達しがあって,仕様書から切り出してまとめたって程度ですが。
おそらくその後,社内の知財担当部署が精査し,弁理士の先生に申請書類化してもらって出願……という流れだったのだろうと思いますが,私にとってはブラックボックスで良く分かっていません;
いい会社だったので,申請書類にちゃんと自分の名前を載せてくれてましたよ。素晴らしい。まったく発明に関係ない上司の名前も載ってましたけど。
開発者が注意するゲームの特許ってあるの?
タッチパネルとか,タッチペンとかは結構鬼門です。
ゲーム関連企業が特許係争バトルを一通り経験したくらいのタイミングで本格化(ニンテンドーDS関連で大量に出願)してきた技術なので,特許がめちゃくちゃ多いんです)。
個人的にもみなさんにとっても記憶に新しい任天堂とコロプラ間の裁判(現在も係争中)は,「白猫プロジェクト」で使われているバーチャルパッドのシステムが,任天堂のもっている特許に抵触するとして争われています(関連記事)。
コロプラは裁判中の2020年2月に,白猫プロジェクトの操作を変更しています(関連記事)。
一方の任天堂は2021年2月にコロプラへの損害賠償請求金額を当初の44億円から49億5000万円に増額。この原稿を書いている最中に,96億9900万円へとさらに増えました(関連記事)。どこまでいくんでしょうか,これ。
もひとつあげると,セガとレベルファイブの間でも,「イナズマイレブン」のタッチペン操作がセガの特許の侵害であるとして裁判がありました(関連記事)。どうなったんでしょうね,これ。
タッチパネルやタッチペン以外では,3Dグラフィックスゲームでの操作やカメラ関連の特許は割と多いです。
カメラと被写体の間に遮蔽物が入った時にどう処理するかは,いろいろ特許があって面倒だった記憶があります。「遮蔽物を半透明にする」「遮蔽物から被写体がシルエットで見える」「カメラをY方向に跳ね上げる」といった感じの特許がありました。
カメラ切り替えボタンは「バーチャボタン特許」(セガが「バーチャレーシング」の開発で出願)と呼ばれて,一時期は開発者なら誰もが意識していました。
ちなみに,セガが特許への取り組みを強化したのは,1992年の「コイル事件」(個人発明家のジャン・コイル氏がセガを訴え,セガが数十億円の和解金を支払った)から……という話を,4GamerのCEDECレポートで読みました(関連記事)。
いやー特許って恐ろしいですね。
なぜ開発現場は特許に詳しくないの?
いえ,自分が詳しくないだけって可能性もあるんですけれども。
まずほら,開発者にもいろいろいるじゃないですか。プログラマーとか,デザイナーとかプランナーとか。
プログラマーはプログラムを書いて,デザイナーは絵を描いたりモデリングしたりモーション作ったり。
なので,「特許を気にするのは俺じゃない」っていう構えの場合が多いんじゃないかと思います。
デザイナーの場合,特許はさておきIP(知的財産)は意識しておかないと,使っちゃダメな画像やデザインを使っちゃって大変なことになりますが,そこは今回とまた別のお話。
さて,そうすると特許を意識しないとダメなのはディレクターとかプランナーとかその付近なわけですが。
実際のところ,開発期間が2年間あるとして,そのうち特許を意識した仕事をしてるのなんて2〜3日ぐらいのもんです(もちろん人とプロジェクトによります)。
例えば100人くらいの開発チームで,特許を意識する必要があるのが3人ぐらいで,それも2年のうち2〜3日。
ものすごく雑な計算で,ゲーム開発前仕事の中の,0.00005ぐらい。
だから,やっぱり開発者で特許に詳しい人って,あまりいない気がします。できる人はスゴイなと思うし,頼っちゃう。
自分も切羽詰まった時にその場で慌てて調べたり,詳しい人や担当部署に丸投げごめんなさいがほとんどです。
特許侵害チェックの流れってどんな感じ?
これは自分の経験についてを書きます。
「今回のゲームで,他社特許に引っかかりそうなところはまとめて書類を作ってください」「今回のゲームで,新たに特許が取れそうなとこはまとめて書類作ってください」みたいなことを言われて,「はーい」つってまとめたぐらいです。
最近はこれに合わせて,「ガチャやゲームシステムが法務的に大丈夫か」みたいなチェックもありますね。
大きいゲーム会社であれば知財管理をしている部署・部門があるので,そっから先はソコの人たちの領分です。
小さい会社はそもそもそんなに危ない橋を渡らないし,下請け会社の知財チェックはクライアントの大手パブリッシャが行う場合がほとんどです。
特許侵害はどうやって回避する?
他社が持っている特許であっても,ライセンス料を払えば正々堂々と使えます。でも,会社としては払わなくていいなら払いたくないので,いろいろと考えます。
まず,クロスライセンスをしている会社の特許なら問題ありません(ウチの特許使っていいけど,代わりにオタクの特許を使わせてね,という取り決め)。
例を挙げると,コロプラとカプコンはマルチプレイの分野で(関連記事),カプコンとバンダイナムコはオンラインマッチングで(関連記事)特許をクロスライセンスしています。
開発現場の工夫でなんとかなるケースも割とあります。
例えば前述したタッチペン特許に「長押し→開放で対象へチャージ攻撃」みたいなものがあるのですが,「対象」をキャラが向いている方向に特定したり,自分を中心とした半径Xメートルという範囲に限定したりすることで侵害を回避できる……という説明を,当時の同僚から受けたことがあります。
「そこ変えるだけでいいの?」と言いたくなる人もいると思いますが,実際そんな感じなのです。
もっと単純に,タッチペンで取得されている特許なら指タッチにして回避,といったケースもあります。
ソシャゲ系では,レベルアップ時の「行動力が限界を超えて回復する」という嬉しいやつ(満タンだったのにレベルアップが来ちゃった! という無駄を避けられる)の特許がありますが,これも別ゲージにするとか,各社いろいろ工夫していますね。
開発現場としては,「これはダメです」と担当部署に言われたら,修正した仕様書を書いて「コレで回避できてますかね?」と確認をお願いする……みたいな仕事の流れになります。
それでも特許侵害しちゃったらどうなるの?
もし他社の特許侵害が分かっても,フツーはまず警告とかから始まって,それなりの押し引きがあると聞きます。
例に出した任天堂とコロプラの件は賠償金額が40億以上ですから,もめるだけで数千万の費用がかかりますし,簡単に“数億で手打ち”というわけにもいかないと思います。思いますが,いきなりこんな争いを始めることは想像しづらいですね。
ちなみに,「この特許は気をつけろ」リストは,どの会社でもそれなりに作っていると思いますし,実際見たこともあります。それは特許の所有者に関係がないものでしたが,会社によっては「この特許は“あの”会社が持っているから特に気を付けろリスト」があったりもするんじゃないですかね。知りませんけど。
小さな会社とか,個人開発者はどうやって特許問題をクリアしてるの?
担当部署がない会社や個人だと,特許を広くチェックするのは難しいです。
ただ,先に書いたとおり,ある日いきなり裁判バトルをふっかけられる,ということにはそうならないと言われますし(ほんとかしら),あまり儲かってないようなゲームの場合は,訴訟を起こされないかもしれません(大した賠償額にならないし,そもそも目立たないから)。
虎の尾を踏むならそっと踏もう,みたいな感じでしょうか;
ましてやインディーズともなれば,殊勝な態度でいれば,お目こぼしの可能性もなくはなさそうです。もちろんあくまでもお目こぼしで,それもあるかもという可能性の話ですから,本来ならちゃんと調べなくてはいけません。それが難しいなら祈るしかないです。
開発中の特許攻撃でリリースが中止されたタイトルもそれなりにはあるようです(海外タイトルでいくつか検索に引っかかりました)。
自分の場合だと,仕事でのゲーム開発は知財関係部署やクライアント様におまかせ, 趣味で作っているゲームは,誰も気が付かないマイナー路線かつ非営利といった感じなので,そういう危機にはめったにあいませんが,人によってはハラハラドキドキでしょうね。
まとめ
先にも書いたとおり,特許には「権利者を守る」「発明が公になることで産業の発展を促進する」という2つの大きい目的があるわけです。
ただ,ゲーム系の特許って見た瞬間にほぼ理解できちゃうようなものとか,「ええええ,そんな誰でも思いつくようなもので特許取んのかよ;;」みたいなものもありますので,「発明が公になることで産業の発展を促進する」とは相性が悪いような気もしています。ややこしいし,モヤモヤしますね。
もちろん,「このアイデアは素晴らしい! 特許で守られるべきだ!」ってのもたくさんありますよ。
それでは今回はこの辺で!
アディオスアミーゴ! デスマーチ反対!
■■島国大和■■ 有名ゲーム系Blog「島国大和のド畜生」の管理人で,不景気の波にもがく,正体はそっとしておいてほしいゲーム開発者。自宅にいる時間が増え,最近はYouTube漬けの島国氏。お気に入りチャンネルの1つは「山田五郎 オトナの教養講座」で,「みうらじゅんと同じ扱いしてちゃダメだったんだよ!」とのことです。 |
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