インタビュー
DAISOの100円ボードゲーム誕生秘話に迫る! 企画責任者&ゲームデザイナーインタビュー
4Gamerでも,TRPG好きの声優・武田羅梨沙多胡さんをゲストにお招きしてDAISOの100円ゲームをプレイしていただいた動画を配信しているので,ご存じの読者も多いのではないだろうか。
そこで今回は,アナログゲーム業界に大きな革命をもたらした100円ボードゲームの企画立案者である大創出版代表取締役社長の西田 大氏と,アドバイザーとして企画に参加しているゲームデザイナーのMasao Fukase氏に,100円ゲームの誕生秘話と今後の展望についてインタビューをさせていただいた。
2人の運命的な出会いと関係性に注目して読み進めてほしい。
「大創出版」公式サイト
YouTubeチャンネル「大創出版」
「DAISO」公式サイト
「DAISO」公式Instagram
きっかけは人狼ゲーム
4Gamer:
まずはワンコインショップDAISOを運営する大創産業についてご紹介いただけますでしょうか。
大創出版代表取締役社長・西田 大氏(以下,西田氏):
今や国内約3500店舗,海外約2200店舗を展開する,いわゆるワンコインショップのリーディングカンパニーであります,DAISOを運営する会社です。私もイチ個人としてよく行きますが,7万点を超える品ぞろえは,もはや日常消耗品はほとんど網羅されているといっても過言ではありません。
4Gamer:
西田さんが代表取締役をされている大創出版はどういった会社なのでしょうか?
西田氏:
弊社は出版部門の子会社として,書籍を中心に商品開発をしております。
3年前に父から代替わりとなり,今期20年目を迎えますが,今は書籍を中心に携帯グッズやステーショナリー,ジグソーパズル,かるた等々,幅広いジャンルにチャレンジしております。
4Gamer:
かるたを制作されていたことがボードゲームを企画するきっかけにつながったということでしょうか。
西田氏:
ノウハウという意味ではそうですが,直接のきっかけは社員が遊んでいた「人狼」に参加したことです。これまでボードゲームといえば,それこそ「人生ゲーム」ぐらいしか遊んだことがなかったのですが,社員に誘われて「人狼」を遊んだところ,とても面白くて,すっかりハマってしまいました。社員も社員で日ごろの恨みなのか,すぐに私を狙ってきたりして面白いんですよ(笑)。
4Gamer:
ボードゲームはコミュニケーションのツールとしても楽しいですよね。
西田氏:
社員に聞くと「人狼」をはじめ,ボードゲームがブームになっているということだったので,「人狼」もカードだけで遊べるなら100円で販売できるのではないかと考えました。
ですが,我々は「人狼」についてあまり詳しくはありませんでした。そこで監修として「人狼」に詳しいクリエイターの鈴木カズ氏(以下,鈴木氏)にお声がけさせていただいて「人狼 Dead or Alive」という商品を制作したのが今のボードゲームシリーズが誕生したきっかけです。
4Gamer:
鈴木氏といえば,「人狼ゲーム〜牢獄の悪夢〜」などのスマホアプリや,「人狼」の小説なども手掛けている第一人者ですよね。
西田氏:
はい。鈴木氏は「人狼ゲーム」という言葉を誰でも無料で自由に使えるようにと,商標登録もされていたので,ご連絡させていただいたところ,好意的にご対応していただき,ルールの監修も快く引き受けてくださいました。
イラストに関しましては,日本神話をモチーフにしたタロットカードなどを制作されているヤマモトナオキ氏(以下,ヤマモト氏)にお願いしているのですが,これは私の完全な一目惚れですね。ヤマモト氏のイラストを見たとき,「この人しかいない」と思い,無理を承知で直接交渉させていただきました。
4Gamer:
そんな誕生秘話があったのですね。「人狼」をきっかけに,大創出版のボードゲームシリーズがはじまったとのことですが,御社のサイトを見ると「人狼 Dead or Alive」はボードゲームというカテゴリーではなく「トランプ・カードゲーム」というカテゴリーになっていますが,これは何か意図があるのでしょうか?
実は「人狼 Dead or Alive」の企画をはじめる前から,クオリティの高いトランプを出したいという想いがありまして,トランプを作っている会社と交渉を重ねていたんですね。やっとOKが出て,リリースできることになったのですが,トランプだけでは寂しいだろうということになり,企画が進んでいた「人狼 Dead or Alive」と「大富豪」専用のトランプを使った「革命大富豪」いう商品と一緒に,同じカテゴリーでリリースすることにしたんです。
それと,やっぱりボードゲームというジャンルは少しハードルが高いのではないかという考えもありました。遊び始めるまでが大変なボードゲームというカテゴリーではなく,まずはトランプなどのなじみのある商品の延長線としてリリースして,売れ行きも見つつ,次の展開を考えることにしたというわけです。
4Gamer:
「人狼 Dead or Alive」は「人狼」ファンの間で大きな話題を集めましたね。
西田氏:
ありがとうございます。「人狼」や,その後にリリースさせていただいたゲームも通常は1000円以上で販売されているような作品ばかりですから,いくらロットがあるとは言っても簡単に100円で販売することはできません。製造原価を抑えれば抑えるほどクオリティが下がり,結果,その作品やクリエイターのお名前を汚すことになります。
100円で販売するからこそ,クオリティを極限まで高めることで,ゲームの内容はもちろん,品質も含め,あらゆる面でご満足いただける価値を生み出さなければならないと思っています。
妥協せずにクオリティを追求することは大変ではありますが,お客様はもちろん,参加してくださったクリエイターの皆様にもご満足いただけるような商品をリリースできるよう,工夫を重ねています。
ゲームデザイナー・Masao Fukase氏(以下,Fukase氏):
ボードゲームのカードはハードに扱うことも多いので,例えばエンボス加工をしてくれていたりと,品質にこだわって商品を作ってくださっているのは本当にありがたいことですよね。
「人狼」もそうですが,カードが薄いと透けてしまい,ゲームとして成立しなくなってしまう恐れもあります。そのあたりはクオリティにこだわって作ってくださっているので,デザイナーとしてもプレイヤーとしてもうれしく思っています。
100円ボードゲームを展開するための戦略
4Gamer:
クオリティの高さもあって実際,「人狼 Dead or Alive」はかなり売れたとのことですが,そこからボードゲームシリーズを展開されるまでにはどういった経緯があったのでしょうか。
西田氏:
「人狼 Dead or Alive」を企画した段階で,ボードゲームシリーズを展開したいとは思っていましたし,売り上げも好調でしたが,ボードゲームというカテゴリーで展開をしていこうと考えた場合,いろいろと戦略も必要でした。
4Gamer:
詳しくお聞かせください。
西田氏:
「人狼 Dead or Alive」の企画を立ち上げたあと,いろいろと調べていく中で,私自身もボードゲームが盛り上がっていることは肌で感じていました。
実際に細かな市場調査を行ったわけではありませんが,ボードゲームカフェが増えているという情報を目にすることもありましたし,弊社の所在地であります巣鴨にもボードゲームカフェがオープンしたと知り,「お年寄りの町というイメージがある巣鴨にもボードゲームカフェができたということは本当に盛り上がっているのだろう」と確信しました。
ですが,それでもDAISOでお買い物をされるお客様が「ボードゲームを買おう」という目的で来店されるかといえば,違うと思うんですね。日用品を買いに来られたお客様が,たまたま目にして買うといったイメージでしたので,ボードゲームを展開するなら,お客様の目に入りやすい商品をリリースしなくてはならないと思い,第1弾はピザーラやスシロー,クア・アイナといった有名な外食チェーン店とコラボした商品にしました。
4Gamer:
ピザーラやスシロー,クア・アイナとコラボしたボードゲームは売り場でも目立っていますよね。戦略的にコラボされたということは分かりましたが,なぜ外食チェーン店とのコラボを選択されたのでしょうか?
西田氏:
弊社は本やジクソーパズルなど紙の商品を多く企画しているので,普段から紙を使ったさまざまな商品の研究や調査を行っているのですが,最近,幼年誌や小学生向け雑誌の付録に注目していまして。
4Gamer:
組み立てて遊ぶ紙製のATMやガシャポンなどが話題になりましたね。
西田氏:
ええ。そんな話題の付録の中に「幼稚園」の2019年6月号に同梱されていた「やきにくリバーシ」がありました。
これは,焼き肉の網に見立てたゲーム板の上で,お肉のコマをひっくり返して遊ぶオセロなんですが,話題になったポイントは焼き肉チェーンの牛角さんとタイアップされていることでした。お肉のコマや焼き網型のゲーム板には,実際に牛角で提供されている商品の画像が使用されており,ネットで「リアルだ!」と話題になっていたんですね。
「やきにくリバーシ」が話題になったのが,ちょうど,我々がボードゲームの企画を進めていたころでもあったのと,もともと弊社の書籍でピザーラさんとお付き合いがあったこともあり,コラボをお願いした次第です。
西田氏とFukase氏の運命的な出会い
4Gamer:
ピザーラやスシロー,クア・アイナとコラボしたボードゲームの第1弾や,その後にリリースされた第2弾では鈴木氏以外のデザイナーさんも参加されていますね。
西田氏:
ボードゲームシリーズのデザイナーさんに関しては,国内最大級のボードゲーム即売会である「ゲームマーケット」で弊社から直接お声がけをさせていただいたり,参加してくださったデザイナーさんからの紹介だったりとさまざまですが,一番大きかったのはFukaseさんと出会えたことですね。
4Gamer:
Fukaseさんは現在,大創出版のボードゲームシリーズにアドバイザーとして参加されているとのことでしたが,西田さんとの出会いも含めて,企画に参加されることになった経緯をお聞かせください。
Fukase氏:
僕はもともとアナログゲームデザイナーをやりながらスマートフォン向けのゲームを開発する会社で働いていたのですが,ちょうど西田さんと出会う数か月前に退職しまして,ひとまず失業保険をもらいながら職を探していたんですよ。
でも,気づくと失業保険がもらえる期間もあとわずかとなり,「これはまずいな」と思っていたところ,ハローワークで大創出版の求人を見つけたんです。
西田氏:
ちょうど「人狼 Dead or Alive」をリリースする少し前だったと思うのですが,Fukaseさんがグラフィックデザイナーの求人募集に応募されてきたんです。デザイナーの応募なのに封筒にチラシが入っていまして,それがボードゲームのチラシだったんです。
Fukase氏:
西田さんは僕がいきなりボードゲームのチラシを送りつけたことで驚かれたと思うのですが,僕が大創出版の求人に応募した理由は,もちろん収入を得るためという側面もありますが,僕自身が常日頃抱えていた想いにも関係しているんです。
4Gamer:
それはどういった想いだったのでしょうか?
僕がボードゲームのデザイナーとして活動している理由は,日本のボードゲーム市場を大きくして,家族で遊ぶ時間や人と接する時間をもっと増やしたいという想いがあるからなんです。
もしも,全国各地に展開しているDAISOで,しかも100円でボードゲームが買えたら,自分の想いを実現できるのではないかと考え,求人に応募しました。
4Gamer:
それで応募書類にボードゲームのチラシを同封されたんですね。
Fukase氏:
履歴書にボードゲームを作っていることは書きましたが,具体的にどんなゲームを作っているのか説明したくて僕がデザインした「Ostle」のチラシを入れました。「Ostle」のチラシは,チラシだけでも遊べる体験版になっているので,一番分かりやすいかなと思いまして……。
4Gamer:
西田さんは,Fukaseさんの応募書類を見てどう思われたのでしょうか?
西田氏:
弊社としてはグラフィックデザイナーを募集していたのですが,まさかゲームデザイナーから応募があるとは思っていませんでした。ご自身が作られたゲームのチラシを同封して送ってくるなんて,きっと面白い人なんだろうなと思い,すぐに面接させていただくことにしたんです。
Fukase氏:
面接していだたけるということで,これはアピールしなくてはと思って,自分が作ったゲームを広げて,面接を担当してくださる方が来るのを待っていたら,部屋に入ってきた人がいきなり,「これ,どんなゲームなの?」って聞いてきたんです。
そのまま僕のゲームで遊ぶ流れになったので,いろいろと説明しながら一通りゲームを遊んだあとに「面白いね。あ,代表取締役の西田です」って挨拶されて,「この人が社長なの!?」と驚きました(笑)。
西田氏:
面白そうなゲームが並んでいたんでつい(笑)。でも,そのあとはしっかりと面接させていただいて,先ほどFukaseさんがお話しされていたボードゲームへの想いも伺いまして……。
4Gamer:
採用に至ったということですね。
西田氏:
いえ,不採用にしました。
4Gamer:
え?
西田氏:
ちょうどボードゲームの企画を進めようとしていたときですので,Fukaseさんに入社していただいたら大きな戦力になっていたと思います。
でも,Fukaseさんのお話を伺う中で,彼は弊社でボードゲームの制作をするよりも,ボードゲーム業界全体のために活動されたほうが良いと思い,Fukaseさんに「社員として採用はしませんが,フリーランスとして一緒に100円ボードゲームを作りませんか?」と提案させていただいたんです。
Fukase氏:
西田さんにそうおっしゃっていただいたのはとても光栄なのですが,フリーランスで活動することには不安もあったので,「考えさせてください」とお答えして帰路につきました。
面接の帰り道で,いろいろと考える中で,まずは「来月の家賃どうしよう」と悩みもしましたが(笑)。「自分の理想を実現するためにはやるべきだ」と思い,一人暮らしをしていた部屋を引き払って,実家に帰ることを決め,西田さんの提案を受けることにしました。
4Gamer:
出会いも運命的ですし,あえて不採用にしようとされた西田さんも,フリーランスで企画に参加しようと決めたFukaseさんもすごい決断をされていますね。
Fukase氏:
西田さんの決断には本当に感謝しています。結果的に,西田さんと僕がそれぞれの役割を果たすことで,企画が上手く進むようになったので,本当にありがたい提案だったなと思います。
「ぷよぷよ」の米光一成氏デザインの作品が話題に
4Gamer:
Fukaseさんは企画への参加が決定したあと,最初にどういったお仕事をされたのでしょうか。
Fukase氏:
まずはゲームデザイナーのアテンドですね。僕は「これはゲームなのか?展」というボードゲームの展示会に運営として参加しているのですが,そこでデザイナーさんにお声がけをして,100円ボードゲームの企画に参加してもらいました。
西田氏:
ボードゲームシリーズの第2弾で「変顔マッチ」を作ってくださった米光一成氏(以下,米光氏)もこのとき,Fukaseさんにご紹介いただきました。
Fukase氏:
米光氏も「これはゲームなのか?展」に参加されていて,僕が「DAISOで100円のボードゲームを出す企画に参加することになりました」とお伝えしたところ,「じゃあ,こんなのどう?」と「変顔マッチ」を提案してくださいました。
米光氏といえば,「ぷよぷよ」の生みの親としておなじみですが,最近ではテレビでも紹介されて話題になった「はぁって言うゲーム」など,たくさんのアナログゲームもデザインされています。実際,「変顔マッチ」がリリースされたときは,Twitterで「DAISOの100円ゲーム,米光氏がデザインしているんだ」と話題になりました。米光氏に参加していただいたことは,DAISOの100円ボードゲームが,特にコアなボードゲームファンに認知されるきっかけになったと思います。
西田氏:
米光氏や「人狼」の鈴木氏,それに国内外で活躍している「TOKYO HIGHWAY」のNaotaka Shimamoto氏など第一線でご活躍されているデザイナーの皆さんに参加していただき,DAISOのボードゲームシリーズはおかげさまで,お客様からは100円でもクオリティが高いと評価をしていただいています。
4Gamer:
ちなみに2021年3月の時点で大創出版からは全部で何タイトルリリースされているのでしょうか?
西田氏:
弊社で手掛けているタイトルとしては,花札やトランプも含めれば19タイトルになります。
ラインナップは以下のようになっています。
「人狼Dead or Alive」
「人狼Dead or Alive 拡張版」
「おおかみ少年だあれ?」
■クリエイターズボードゲーム:9タイトル
「変顔マッチ」
「イロピッタン」
「ぼくちく!!」
「トウキョウのハト・エサババトル」
「18-イチハチ-」
「Ostle」
「クローバーブーケ」
「エリートイケメンマッチョ」
「ぺあってにゃ〜」
■企業コラボ:3タイトル
「アロハ! バーガー」
「オーダーピザーラ」
「寿司ポーカー」
■その他:4タイトル
「革命大富豪」
「CURCUS赤」
「CURCUS青」
「花札」
4Gamer:
こんなにあるんですね。お恥ずかしながら,プレイしたことがないタイトルもいくつかありました。
西田氏:
実際,一部の商品は品薄状態が続いていましたので,無理もないことかと思います。ご好評をいただきました反面,商品が手に入りづらい時期が続き,ご迷惑をおかけいたしましたが,今後はいつでも購入していだたけるような環境を構築できるよう尽力していきたいと思います。
Fukase氏:
僕のところにもたくさんの反響がきていて,それまではTwitterで「Ostle」について検索しても月に2,3件ぐらいしかヒットしなかったのですが,DAISOで「Ostle」をリリースさせていただいたあとは,毎日のように20件も30件もヒットするようになりました。
遊んでくれた皆さんの感想をチェックするのが楽しみなのですが,急に感想が途絶える瞬間がありまして……。
4Gamer:
感想がなくなったということはお店から商品がなくなったということですね。
Fukase氏:
はい(笑)。
幅広い層に支持されるラインナップ
4Gamer:
アナログゲームファンの間で話題になっていることは存じ上げておりましたが,品薄状態が続いたということは,アナログゲームファンだけでなく幅広い層に支持されているということだと思います。
実際に100円ボードゲームを購入された方の男女比や年齢層はどうなっているのでしょうか?
西田氏:
細かな統計をとったわけではありませんが,SNSの反響を見ているとボードゲームをよく遊ばれる20〜30代の男性にまず遊んでいただけていましたが,そのあと家族で遊んでいただいているという投稿も多く目にしました。
予想していなかったこととして,3歳くらいの小さなお子さんにも遊んでいただけているようです。「イロピッタン」や「ぼくちく!!」などルールが簡単なゲームがあるというのも理由ですが,100円なら折れても破られても安心というのも大きな理由のようです。
また,安いことで知り合いへ勧めやすく,ママ友同士のコミュニティからご家族に広まるケースも多かったようです。
4Gamer:
確かに「イロピッタン」や「ぼくちく!!」なら3歳のお子さんでも遊べますね。3歳のお子さんも一緒に遊んでくださっているというのは,先ほどお話しされていたFukaseさんの理想にもつながるのではないでしょうか?
Fukase氏:
そうですね。以前の職場でボードゲーム会を開催したとき,女性の社員がちょうど3歳ぐらいのお子さんを連れて来られていたんですね。でも,3歳ぐらいのお子さんが遊べるようなゲームがなくて,その子がすごく寂しそうにしていたんです。そんな出来事もあって,僕は家族で遊べるようなボードゲームがもっと広がってほしいと思っていたので,3歳のお子さんに遊んでいただけたというお話を聞いて,とても嬉しく思いました。
先ほど西田さんがお話しされていた「100円なら折られても破られても」ということにも関連しますが,例えば「ぼくちく!!」で使われている動物のコマはもともと木製でしたが,DAISOからリリースされている商品はコマがスポンジでできているので,小さなお子さんでも安心して遊べるんです。
Fukase氏が抱いた理想の原点
4Gamer:
アナログゲームというジャンルに熱い想いを抱かれているFukaseさんですが,Fukaseさんはどういったきっかけでゲームデザイナーになられたのでしょうか?
Fukase氏:
小学生のころにトレーディングカードゲーム(以下,TCG)にハマったのが最初のきっかけですね。お小遣いやお年玉を全部,TCGにつぎ込んでしまい,とんでもない金額を使いました。
小学生ながら「これはさすがにまずい」と思って,TCGを封印することにしたんですが,そんなときに「ドミニオン」というボードゲームに出会いまして,「最初から同梱されているカードだけでこんな面白いゲームができるんだ」と驚きました。
4Gamer:
「ドミニオン」はコンポーネントとして同梱されている複数のカードだけで,プレイヤーがデッキを構築しながらプレイするゲームなので,TCGに共通する面白さがありますよね。
Fukase氏:
新しくカードを購入しなくても,プレイしながら自分のデッキを作って対戦していくところが面白くて,感動しました。それからたくさんのボードゲームを遊んでいく中で,今度は自分でボードゲームを作ってみたいと思うようになったんです。もともと,コンシューマゲームを作りたいという想いはあったのですが,デジタルのゲームは一人で作ることは難しいことも分かっていました。
でも,ボードゲームなら面白いアイデアさえあれば一人で作ることもできるんですよね。コンシューマゲームの場合,ゲームのシステムだけでなくグラフィックやストーリーやUIなどさまざまな要素でゲームの「面白さ」が成り立っていますが,ボードゲームは極端なことを言うと,面白いルールだけで成立するゲームです。ボードゲームなら一人でも作ることができると考え,インディーズでの制作をはじめました。
4Gamer:
ボードゲームの制作を続けられる中で,先ほどからお話しされている理想をもたれるようになったのは,何かきっかけがあったのでしょうか?
Fukase氏:
最初のゲームを作り終えたあと,これから本格的にボードゲームを作っていくにあたって,世界の市場を見てみようと思い,ドイツに行ったんです。ドイツで開催されている世界最大のアナログゲームイベント「エッセンシュピール」に参加して衝撃を受けました。僕らのような20代〜30代の男性はもちろん,小さな子供からおじいさんやおばあさんまで,幅広い年代の方が参加されているんです。
例えば会場の隅で,ゲームを売ってる人におじいさんがルールについて質問しているかと思えば,テーブルを囲んで雑談しているだけだと思ったおばあさんのグループが雑談しながら手癖で「カタン」をプレイしていたりするんです。
4Gamer:
日本でいうと麻雀をプレイしながら雑談している感じですね。
Fukase氏:
そうなんですよ。盤面をほとんど見ずに雑談しながらプレイしていて,「これが日常なんだな」と思いました。
ほかにも例えば,1日目と2日目で客層が変わるのも面白かったですね。1日目は,日本の「ゲームマーケット」に近い感じで,コアなゲームファンがカートを押しながら,ゲームを買い漁っているんですが,2日目の参加者はカートではなく別のものを押しているんですよ。
4Gamer:
カートではなくて別のものを?
Fukase氏:
2日目はお母さんやお父さんが,小さなお子さんを乗せたベビーカーを押しながら,ボードゲームを買いに来ているんです。そんな様子を見て感動するとともに,コミュニケーションツールとしてのボードゲームにさらなる可能性も感じました。
日本でもこういう光景を見たいと思い,帰国した直後に作ったのが「Ostle」です。
西田氏:
やっぱりあのとき,採用しなくてよかった(笑)。
西田氏とFukase氏がお互いに求める役割
4Gamer:
もしも西田さんがFukaseさんを社員として採用されていたら,今とは違った関係になっていたかもしれませんね。
西田氏:
そうでしょうね。最近では私たちがゲームマーケットで声をかけさせていただいたり,Fukaseさんをはじめとするデザイナーさんからの紹介以外に,弊社に直接,提案のご連絡をくださるデザイナーさんもいらっしゃったりするのですが,私は何でも「面白い! すぐに商品化しよう!」と言ってしまうので,いつもFukaseさんに叱られています(笑)。
Fukase氏:
いや,そこじゃくなくて,さすがにいきなりボードゲームを20個も渡されて「4日ぐらいで全部遊んで確認しておいて」なんて無茶なことを言うから怒るんですよ。
土日でがんばって遊びましたけど。
4Gamer:
お二人の関係性があってこその100円ボードゲームなんですね。
Fukase氏:
そうですね。僕が大創出版に入社しなかったことで,僕と西田さんの役割がとても明確になったと思います。
僕はボードゲームとしての面白さやデザイナーさんの立場だけを考えれば良くて,一方で西田さんは多くのお客様に届く商品をリリースすることだけを考えれば良いわけです。デザイナーから持ち込まれたゲームを僕が「面白い」と感じても,コアなボードゲームファンじゃない西田さんがプレイして「難しすぎる」と感じたら,それはDAISOのお客様のニーズにマッチしていないことになるので,テストプレイではいつも西田さんの言葉や表情を見ています。
西田氏:
テストプレイは大事ですね。やはり遊ばないことにはゲームの魅力が分からないので,そこに時間を割くことは大事だと考えています。私だけでなく,社内のメンバーもまだまだボードゲームには詳しくないのですが,その分,ボードゲームを初めて触るDAISOのお客様と同じ目線で作品に触れられることができます。
お客様目線のボードゲームを知るという意味でもテストプレイは欠かせませんし,その場でFukaseさんとお互いの意見をできるだけ忖度なく言い合うようにしています。
Fukase氏:
言い合うだけじゃなく,お互いに思っていることを全部,紙に書き出してそれぞれの意見について検証するようにしています。西田さんは,お客様目線で売れるか売れないかをジャッジして,僕はボードゲームとしての面白さについて言及します。ここで僕がポイントにしているのは,あえて少しだけ難しい作品もラインナップに加えてもらうようにしていることです。
西田さんが「難しい」と感じた作品をすべて排除してしまうと,ラインナップそのものがライトになりすぎてしまうんですね。ライトなゲームをきっかけに遊んでいただきつつ,ちょっとずつ難しいゲームに触れていただく環境を作って,ボードゲームの深みみたいなものを,DAISOに日用品を買いにきたお客様にも知ってほしいと思っています。
西田氏:
私もFukaseさんの考え方そのものには同意しています。デザイナーさんの意図を尊重して,できるだけ多くの作品をリリースしていきたいと思いますが,販売戦略についてもお話しさせていただいたように,段階を踏んでいく必要もあると考えているわけです。
Fukase氏:
そこは僕も分かっていますし,西田さんがデザイナーを尊重してくれていることも分かっているので,毎回,その時点での着地点を探している感じですね。
西田氏:
幸いなことに多くのお客様に弊社のボードゲームが認知されはじめ,ご好評をいただいていますが,さらなる商品展開を続けるためには,もっと多くのお客様に100円ボードゲームの存在を知ってもらう必要があります。
そのために,例えばYouTubeの大創出版チャンネルにアップしているルール解説動画を店頭ですぐにご覧いただけるようにしたいと思っています。具体的には,商品のパッケージにQRコードを印刷させていただき,スマホで読み込むだけでその場ですぐにルールを確認できるようにします。さらに多くの方々にもっと楽しんでいただけるよう,いろいろと取り組みをしていきますので,ご期待ください。
DAISOの役目はボードゲーム業界の裾野を広げること
4Gamer:
YouTubeにアップされているルールの解説動画はとても分かりやすくていいですよね。初めてDAISOの100円ボードゲームを遊ぶ人にルールを説明するときなど重宝します。
西田氏:
正直に言うとルールの動画を作るのは予算的にかなり厳しいのですが,私もFukaseさんと同じく,より多くの人にボードゲームを遊んでほしいと思っていますので,多少は無理してでも続けていかなくてはいけないと思っています。
Fukase氏:
ルールの動画もそうですが,僕はDAISOのゲームがボードゲームに触れるきっかけになってくれればと思っています。西田さんがお話しされていたママ友さんのエピソードもそうですが,100円ならボードゲームを一緒に遊びたい家族や友人のためにプレゼントするのも簡単ですし,地方に住んでいてボードゲームショップに行けなくても,DAISOならどこにでもありますしね。
よく「最初に買ったCDは?」とか「最初に遊んだプレステのゲームは?」とかって質問があると思うのですが,ボードゲームがもっと広まったときに「最初に遊んだボードゲームはDAISOの100円ゲームだったなぁ」と皆さんが思い出してくれるような存在になったらいいなと思っています。
西田氏:
我々がボードゲーム市場でできることは,購買者のピラミッドの裾野の部分を広げることだと思うんです。裾野が広がれば,ボードゲームの深みにハマってくれる人も増えるでしょうし,デザイナーになりたいという人も増えるのではないかと思います。
ボードゲーム市場が大きくなれば,Fukaseさんがおっしゃっていたように家族で遊ぶ時間や人と接する時間がもっと増えると思うのです。
Fukase氏:
それが僕の理想ですし,より多くの人にコミュニケーションツールとしてのボードゲームの魅力に触れていただきたいと思っています。
4Gamer:
今後も新しい100円ボードゲームのリリースを予定されていることかと思いますが,次のラインナップが店頭に並ぶのはいつごろになるのでしょうか?
西田氏:
デザイナーさんからご提案をいだたいて,内容の検討,ルール調整,制作,製造,と結構時間がかかりますので,おおよそ10か月程度の制作期間を設けています。
通常の制作期間から考えると次のラインナップは夏ごろになると思います。
Fukase氏:
その後もまだまだ商品の展開が続きますので,もしこの記事を読んで,DAISOからボードゲームをリリースしたいと思ったデザイナーさんは僕のTwitterアカウント(@SN_COKE_BW)にダイレクトメッセージでご連絡いただければと思います。
4Gamerから100円ボードゲームの企画を提案
4Gamer:
Fukaseさんに直接,提案して大丈夫なんですね。
Fukase氏:
はい。僕にご連絡いただくのが一番早いと思います。
4Gamer:
例えば4Gamerがボードゲームの提案をしても良いということですか?
Fukase氏:
もちろん,大歓迎ですよ。
4Gamer:
では,さっそくですが今,思いついたアイデアを聞いてください。
西田氏:
いきなりの提案ですね。どんなアイデアをご提案いただけるのか楽しみです。
4Gamer:
「ディクシット」みたいなゲームなんですけど,架空のコンシューマゲームのゲーム画面を描いたイラストを印刷したカードが複数あります。
例えば同じファンタジー系のゲーム画面でもRPGからアクション,シミュレーションに恋愛ゲーム風のものなど複数あります。「ディクシット」の語り部と同様に,プレイヤーは交代でゲームライターという役を担当します。
ゲームライターは手札のゲーム画面カードを裏向きにして場に置き,そのカードに書かれている架空のゲームのレビューを述べます。RPGやアクションといったジャンルを言ってしまうとすぐに分かってしまうので,あえてジャンルは言わずにレビューを述べるというルールです。
ゲームライター以外のプレイヤーは,ゲームライターがレビューしたゲーム画面に似ているであろうカードを裏返してにして場に置きます。
Fukase氏:
全部のカードがセットされたら,シャッフルしてオープンして,ゲームライター以外のプレイヤーがレビューをヒントにゲームライターの出したカードを当てるというわけですね。
4Gamer:
ほぼ「ディクシット」ですが,4Gamerらしくゲームに置き換えてみました。
Fukase氏:
僕はなかなか面白いと思いますが,西田さんはどうですか?
西田氏:
面白そうな気はしたけど,ゲームライターという仕事がDAISOのお客様にはなじみがなさそうな気がしますね。
Fukase氏:
僕もそこが気になりました。
4Gamer:
残念です。またリベンジさせてください。
100円ボードゲームはヘビーなゲームへの橋渡し
Fukase氏:
今のやりとりでひとつ大事なことが分かったと思うのですが,ボードゲームファンは「○○のようなゲーム」で会話が成立するんですよね。
でも,ボードゲームを普段遊んでいない人に別のボードゲームで例えてルールを説明することはできませんよね。DAISOのボードゲームシリーズがもっと普及してくれたら,「DAISOから出ている○○のようなゲーム」といった感じでルール説明も楽になると思うんですよ。
動画でのルール説明もありますし,比較的ライトな100円ボードゲームを,もう少しヘビーなボードゲームを遊んでもらうきっかけだったり,そういったゲームのルール説明に使っていただけるとうれしいですね。
4Gamer:
ありがとうございます。それでは,最後に西田さんとFukaseさんからDAISOの100円ボードゲームに期待している皆さんにメッセージをお願いします。
西田氏:
ボードゲーム,とっても面白いです。
ルールが分かりづらいなという方にも説明動画をご用意したので,ぜひご覧いただき,興味を持っていただけましたら,実際に手に取って遊んでみてください。こんなに楽しい世界があるんだと驚いていただける自信作を揃えています。
これからもどんどんボードゲームをリリースしていくので,すでに楽しんでいただいている皆さんもどうかご期待ください。
Fukase氏:
今後も面白いボードゲームを継続してリリースしていきます。ボードゲームはブームと言われていますが,まだ市場規模が小さく,最先端のドイツの10分の1ほどしかありません。
ありがたいことに日本でDAISOの100円ボードゲームは話題になりましたが,実はアンテナを張っている海外のボードゲームファンからも,早く遊びたいという歓迎の声をさっそくいただいています。国内のインディーズ発のボードゲームは海外で入手困難なので,これをきっかけに海外のボードゲームファンにも日本の作品をより知っていただければと思います。
そして,もちろんDAISOのマーケットで裾野が広がることで,日本のボードゲーム業界全体の活性化にも貢献できることを願っています。
──2021年3月10日収録。
「大創出版」公式サイト
YouTubeチャンネル「大創出版」
「DAISO」公式サイト
「DAISO」公式Instagram
最後は4Gamerからゲームの企画を提案させていただいたりと,和やかな雰囲気で進んだ今回のインタビュー。終了後には,西田さんとFukaseさんに記者と編集者も加わり,実際に大創出版がリリースしているボードゲームをプレイさせていただいた。
全国のDAISOでたったの100円で購入でき,簡単なルール説明で,すぐに遊べる100円ボードゲーム。
今回は大創出版のご厚意により,Fukase氏のサイン入り「Ostle」をはじめ,いくつかのボードゲームタイトルを4Gamerの読者3名にプレゼントさせていただけることとなった。
詳しい応募方法は,4月11日に掲載される「Weekly 4Gamer」を参照してほしい。
YouTubeチャンネル「4GamerSP」
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