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[CEDEC 2020]アナログとデジタル,それぞれの利点とは。「ボードゲームのゲームデザイン手法の類型と デジタルゲームへのフィードバック」レポート
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印刷2020/09/08 12:42

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[CEDEC 2020]アナログとデジタル,それぞれの利点とは。「ボードゲームのゲームデザイン手法の類型と デジタルゲームへのフィードバック」レポート

 ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2020」では「ボードゲームのゲームデザイン手法の類型と デジタルゲームへのフィードバック」と題されたセッションが行われ,「FILLIT」「おーくしょんパーティ」といったアナログゲームを手がけたラディアスリー 取締役副社長の中村 良氏が登壇。ボードゲームの世界におけるゲームメカニクスの詳細分類や,アナログゲームとデジタルゲームの違いについてが語られた。

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「システム派」「世界観派」「コンポーネント派」「印象派」……ゲームデザイナーをタイプで分類


 中村氏は「FILLIT」「おーくしょんパーティ」といったアナログゲームの作者として知られているが,もともとはドリームキャストやPlayStation 2でデジタルゲームを手がけていた人物だ。そんな氏がアナログゲームとデジタルゲームの違いや留意点について語るのが本講演だ。

ラディアスリー 取締役副社長の中村 良氏
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 中村氏はボードゲームデザイナーを「システム派」「世界観派」「コンポーネント派」「印象派」の4タイプに分けられると語る。もちろん,実際にゲームを作るときは複数の手法を組み合わせるのだが,自分のタイプを知っておくことが創作に役立つという。

●「システム派」

 ゲームシステムから考え始め,複数のメカニクス(ゲームシステムの構成要素)を組み合わせて作る。枠を越える新規性を生み出すことが難しく,システム構築後に世界観と組み合わせたときに齟齬が生まれる可能性がある。

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●「世界観派」

 世界観やテーマを作り,そこにシステムを合わせるので齟齬が生じにくく,新しいメカニクスが作られやすい。その性質上,版権ものゲームに向く。

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●「コンポーネント派」

 100均ショップで見つけた品をゲームに活かすように,さまざまな材質・素材からゲームを考案する。身近なものからネタを見つけられるのでスランプになりにくい。

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●「印象派」

 まず「最終局面で盛り上がるプレイヤー」など,ゲーム中の一場面を思いつき,そこに向けてシステムを設計する。突如閃くことが多く,そのためには知識や経験といったインプットが必要。コンポーネント派とは逆に,閃きがないとスランプになりやすい。

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 中村氏も「システム派」「印象派」といったさまざまな手法でゲームを手がけているが,取り組みの例として面白いのが「印象派」手法による「アイドル発掘!Diggers」のケースだ。
 まずは「タップしたところの色が変わる」というシーンが発想され,地面からアイテムを掘り出すアプリが作られた。これをアナログゲーム化しようと思い立ち,「発掘」のキーワードからアイドルものという世界観が誕生。こうして,アイドルのカードを集めてメジャーデビューを目指す「アイドル発掘!Diggers」(外部サイト)が作られた。

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 アプリの方は,バンダイナムコエンターテインメントの「カタログIPオープン化プロジェクト」(関連記事)により,歴代ナムコ主人公を強化しつつ,フィールドからキャラクターを掘り出す「トレジャー発掘!Diggers」外部サイト)として発表されている。
 一つのアイデアがボードゲームとデジタルゲームの両方に活用でき,媒体の特性を活かした世界観やシステムを付与することで別物となっているのだから,ゲームデザインの妙味が感じられる。

「FILLIT」は「コマが進んだところに色が塗られ,プレイヤーたちが互いに塗りかえし合う」シーンが発想された。世界観については,どんなものも付けられそうだが,あえてテーマ性をなくしたアブストラクト(抽象芸術)的なものとしている
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 この分類で提示された,システム・世界観・コンポーネント・印象という4要素はいずれも入り口であり,どれもゲームにとっては大切なものである……と中村氏。自分がどのタイプであるかを知ることにより,行き詰まったらほかの手法を取り入れるなどの新発見ができるのではないか,と語った。


ゲームシステムを「メカニズム」に分類する


 デジタルゲームの世界で「ゲームジャンル」といえば,アクションやRPG,パズルといった感じで大まかに分類されている。しかし,アナログゲームでは,ジャンルを表す「Category(カテゴリー)」と,ゲームシステムを分類した「Mechanisms(メカニズム)」という考え方により,細かく分類されていると中村氏は語る。

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 例えば,カードを使ったメカニズムにしても,配られたカードから1枚を手札にし,残りをほかの人に回すことで戦力の平均化が実現される「ドラフト」や,ゲームを進めつつ自分のデッキを育てて高得点を目指す「デッキ構築」というように分類がされている。
 また,タイルを配置する遊びは,マップを作る「モジュラーボード」や,配置の仕方で得点や効果が変わる「タイルプレイスメント」。そして,エリアに対して有限のコマを配置する遊びは,エリアから報酬を手に入れる「ワーカープレイスメント」や,最も多くコマを配置した人が優先権を得る「エリアマジョリティ」……というように,1つのアイデアがさまざまなメカニクスとなり,それぞれに名前が付けられていることが分かる。

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 分類され,名前が付けられているということは,新たなゲームを作るときに参照したり,組み合わせることが簡単であるということ。アナログゲームの世界では,こうしたメカニクスの組み合わせが行われており,デジタルゲームでもこうした分類を行うことが有効だと思われるので,ぜひ取り組んでみてほしいと中村氏は語った。


アナログゲームとデジタルゲームの違いとは


 1つのアイデアがボードゲームとデジタルゲームになった「アイドル発掘!Diggers」と「トレジャー発掘!Diggers」のように,媒体が異なれどゲームデザインという考え方には共通点がある。しかし,両者にはそれぞれ違いがある。
 違いとして中村氏が挙げるのは「複雑な計算」「判定の厳密性」「リアルタイムの処理」「ランダム値に対する納得感」「盤面の見通し」「ダウンタイム(待ち時間)」の5点である。

●「複雑な計算」

 デジタルゲームは,各種の判定をコンピュータに任せるため,複雑な計算式を作っても良い。条件分岐で多様性を演出したり,数値を少しだけ変えてさまざまなバリエーションを作れるのだ。しかし,アナログゲームでは人間が処理するので,複雑にし過ぎるとプレイしてもらえなくなる。

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●「判定の厳密性」

 ゲームにおいて判定を行うとき,これが簡単に割り切れないようなものだと,アナログゲームではプレイヤーの合議制となる。判定の結果が勝敗を左右するものである場合,負けたくないが故に強い主張をするプレイヤーが出現してしまう……というのは,アナログゲームを遊んだ人なら見覚えのある光景だろう。

 こうした状況について「ゲーム以外のところでゲームが発生する」と中村氏は語る。ゲームで勝敗を決める前に,盤面の外でいかに主張を通すかという戦いが起こってしまっているわけだ。
 一方,デジタルゲームだと,こうした心配はない。判定はすべてコンピュータが行い,その結果を覆したり,異議を唱える手段は存在しないからだ。プレイヤー同士の人間関係や主張力,声の大きさではなく,純粋にゲームルールによって判定の結果が決められるわけで,公平であるといえるだろう。

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●「リアルタイムの処理」

 リアルタイムに進む時間を扱う場合,アナログゲームではこれが困難な場合がある,と中村氏は指摘する。計算がややこしくなると,プレイヤーの能力によって時間内に処理できる場合とそうでない場合が生まれ,不公平が起こるというのだ。
 しかし,デジタルゲームなら,長さが異なる複数のタイマーを同時にリアルタイムで減算するような処理も可能だし,プレイヤー個人の能力によらない公平なプレイが担保される。これはデジタルゲームの強みである,と中村氏は指摘した。

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●「ランダム値に対する納得感」

 このテーマについては,アナログゲームの方が優れている。何らかの乱数を発生させ,その結果に納得できるか否かということだが,双六などのボードゲームをアナログゲームとデジタルゲームで遊ぶことを想像すると分かりやすいだろう。

 アナログゲームの場合,プレイヤー自身がダイスを振るため,どういった結果が出ても納得感を得られる。ダイスという実体を,自分の手で操作しているため,その責任は自分自身に帰結するわけで,不利な結果が出ても納得できるのだ。

 一方,デジタルゲームの場合,自分でダイスを振るわけではなく,コンピュータからどのような過程を経たのか分からない数値が提示される。自分に不利な値や,CPUプレイヤーに有利な値が出た場合,「内部的に何らかの操作が行われているのではないか?」という疑問をぬぐうことは難しいだろう。どういった表現にすべきかという明確な答えはないものの,注意に注意を重ねていくべきだと思う……と中村氏は語った。

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●「盤面の見通し」

 アナログゲームでは盤面の全体像を一目で見渡せる。しかし,デジタルゲームの場合,画面サイズの問題からそうできない場合があるため,UIの整理が必要となる。
 とはいえ,人間の注意力には限界がある。アナログゲームでは“盤面の隅々に注意を払えるわけではない”ことをゲーム性に昇華した作品も存在している。

 そうした作品の1つである「そっとおやすみ」は,「手札から1枚を選んで隣の人に渡していく」という流れでゲームが進む。その中で,同じ絵柄が4枚揃った人はカードをそっと伏せるのだが,これを見つけた人も(絵柄が揃っているか否かに関係なく)真似してカードを伏せていく。

 そして,カードが伏せられていることに最後まで気づけなかった人が負けになるのだ。つまり,ほかの人に渡すカードを選びつつも,周囲を見渡して誰かがカードを伏せているかどうかも探さなければならないわけで,盤面のすべてに対し,均一に注意を払えないことがゲームになっているのである。

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●「ダウンタイム(待ち時間)」

 ボードゲームを皆で遊ぶ場合,デジタルゲームのオンラインプレイでは待ち時間が大きな問題としてのしかかる。相手の顔が見えないため,長考しているのか,勝負を諦めてゲーム機の前から離れているのかが分かりづらいのだ。
 アナログゲームの場合,相手の様子が見えているのでこうした問題は起こりづらい。また,他のプレイヤーとお喋りをするなどして待ち時間を潰すのも容易である。

 中村氏のボードゲーム「おーくしょんパーティ」は,当初アナログゲームとして制作され,後にデジタルゲーム(アプリ)化されている。アナログゲーム版ではプレイヤーが1人ずつ順番にプレイする手番制だったが,デジタルゲーム版では全員が同時に操作する方式にしたという。
 デジタルゲームとアナログゲームでは得意なことが違っており,それぞれの特徴を考慮したゲームデザインが必要となっていくというわけだ。

 今回のセッションで語られた内容は,デジタルゲームに携わった後,アナログゲームを手がけるようになった中村氏ならではの視点といえるだろう。個人的に興味深いのは,ゲームシステムをメカニクスという形で詳細に分類するという取り組みだ。インディーズゲームなど小規模開発が増えた現状だからこそ,メカニクスを分類,組み合わせることで新しいものを生み出す手法が有効に作用すると考えられるため,デジタルゲームの世界でもこうした分類が進むことに期待したい。

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