業界動向
成長から成熟へ。それでもまだ伸びる中国ゲーム市場全体の2019年の売り上げは4.7兆円。キーワードは「スマホゲーム」と「海外売り上げ」
「2019年中国游戏产业年度报告」(中国語)
※以下はすべて,2020年3月5日のレート,1元=15.15円 1ドル=105.88円で計算している
2019年の「中国ゲーム市場および海外市場での売上」は,売り上げが3100億元(約4.7兆円)を超えた。2018年は売り上げ2806.1億元(約4.25兆円)だったので,YoYで10.6%の伸びだ。
個別に見ていくと,まず中国ゲーム市場の売り上げは2330.2億元(約3.53兆円)でYoY+8.7%となる。スマホゲームの売り上げが安定的な成長を見せ,PCゲーム市場の縮小スピードが落ち着いてきたこともあり,前年比ベースでは昨年時よりも上だ。
さらに細かく見てみると,スマホゲームの売り上げは1513.7億元(約2.3兆円)超えで,YoYで+13%というさらなる成長を見せている。相変わらずの天井知らずだが,いまや中国のゲーム市場は成熟期に入りつつあり,スマホゲームのユーザーからも,ゲームに対するクオリティやゲームとしてのイノベーションが強く求められるようになってきている。来年以降の成長のカギを握るのがこの2つの要素となることは間違いあるまい。
2019年のPCオンラインゲーム市場の売り上げは,安定飛行となっている。とはいうものの,2019年には「Warcraft III:Reforged」が大ヒットとなったにもかかわらず,PCオンラインゲーム市場の売り上げ低減を挽回させるまでには至らなかった。PCオンラインゲームの景気後退はさらに続いている。
2019年のWebゲーム市場は,前年に続いて縮小した。スマホゲームの発展とともに,Webゲーム市場は今後もさらに縮小が進むと見込まれている。なお,Webゲームが縮小するにつれて,Webゲームに対する投資が減ることにより,さらに縮小の速度が加速していくことになる。
2019年の中国PCシングルゲーム市場の売り上げは,大幅に上がって6.4億元(約97億円)のYoY+341.4%となった。シングルゲームのプラットフォームが成熟していることもあるし,数多くの新しいタイトルが登場してきたこともあるだろう。
2019年の中国コンソール市場の売り上げは53.6億元(約812億円)で,安定した成長を見せた。
※コンソールゲーム市場売り上げには,ソフトだけでなくゲーム機本体の売り上げも含まれる
eスポーツ市場はスマホが牽引,ゲームストリーミングは変わらず好調
2019年の中国eスポーツ市場の売り上げは969.6億元(約1.47兆円)で,前年より100億元(1515億円)以上増加した。スマホのeスポーツが主な推進力となっている。
eスポーツ市場というのがどこからどこまでなのかという部分に,議論の余地はあるかもしれないが,今回の報告における中国のeスポーツ市場は下記の表で示す通りの構成となっており,売り上げの大半を占めるのは「ゲームの購入による収入」となる。
eスポーツトーナメントやeスポーツクラブなどは,話題性こそ高いものの産業の中ではとても弱いポジションでしかない。日本も同様だが,eスポーツ産業を発展させていくためには,イベントやクラブなどが収益力を高めることが必要となっていくだろう。
2019年中国eスポーツ市場の構成 | ||
---|---|---|
ゲーム収入 | ゲームの購入による収入 | 88% |
ストリーミング収入 | ストリーミングプラットフォーム内でのゲームストリーミングによる収入 | 10.1% |
イベント収入 | スポンサー・広告・ライセンス・入場料などのイベント収入 | 1.3% |
クラブ収入 | 賞金やグッズなどeスポーツクラブ収入 | 0.3% |
その他 | eスポーツ関連の施設・eスポーツ教育・政府支援などのその他収入 | 0.3% |
モバイルeスポーツの発展により,eスポーツユーザー数は増えてきている。ただ,スマホゲームプレイヤーのeスポーツユーザー率はそもそも高い上,すでにスマホゲームプレイヤー数そのものの成長が鈍化しているために,今後の劇的な伸びは期待できない。
2019年のユーザー成長率は7.2%にまで下がった。すでにプレイヤー数を増やすことで産業の推進を果たすことは難しくなっており,現存のユーザーをいかにキープできるかがカギを握ることになるだろう。
2019年のPCによるeスポーツ市場は,2018年と比べてあまり変わっていない。安定したコアプレイヤー層が,市場の売り上げをキープしている形だ。少数トップランクのタイトルが,PCにおけるeスポーツの売り上げの大半を占めた。
2019年の中国モバイルeスポーツゲーム市場は,高い成長率を保っている。スマホゲーム市場のうち約4割がモバイルeスポーツタイトルで,PCに至ってはその比率が6割となる。モバイルeスポーツ市場は,まだしばらくは成長できるだろう。
2019年のゲームストリーミング市場の売り上げは100億元(約1515億円)を突破しており,高い成長率を保っている。虎牙(Huya),斗鱼(DouYu)といったストリーミングプラットフォームの上場により,動画プラットフォームの快手(Kuaishou),哔哩哔哩(bilibili)など他領域の企業もゲームストリーミングに注力し始め,ストリーミング産業の発展につながっている。今後も極めて高いポテンシャルに期待できるだろう。
2019年1〜6月のストリーミング時間から見ると,トップ5のストリーミング企業が変わっており,ストリーミング時間がトップ3に入っていたPandaTVが倒産し,Kuaishou,bilibiliがトップ5に入った。あとからストリーミングビジネスに乗り込む企業にも,チャンスは残されている。
ただKuaishouとbilibiliは,ストリーミングに参入する前にすでに一定量のユーザー数を確保していたことで,ゲームストリーミング界隈で急速な発展を果たしたとも言えるので,そこは押さえておくべきだ。
2019年1〜6月各プラットフォームストリーミング時間 | |
---|---|
DouYu | 31.4% |
Huya | 21.3% |
Kuaishou | 18.5% |
bilibili | 17.1% |
NetEase CC | 5.3% |
その他 | 6.4% |
海外売り上げは絶好調。世界の市場の3割を中国が占めるモバイルゲームはさらなる強化を目指す
2019年の中国開発ゲームの海外売り上げは,引き続き成長している。特にモバイルゲーム市場のパフォーマンスは注目すべきもので,「PUBG MOBILE」(iOS / Android)「荒野行動」(iOS / Android)「Rise of Kingdoms」(iOS / Android)の売り上げは,成長がとても顕著だ。
2019年のグローバルのゲーム市場売り上げは全体で1488億ドル(約15.76兆円)になると予測される。その中でもモバイルゲーム市場は,ゲーム市場全体の中で一番多いウエイトを占めている。市場の売り上げは681.6億ドル(約7.22兆円)に達する予想で,YoYは+9.7%だ。
5Gの普及やスマホ普及率のさらなる上昇により,世界のモバイルゲーム市場は,今後さらに発展する余地があると考えられている。
2019年のそして中国のモバイルゲーム市場は,グローバル全体の3割を占める。海外モバイルゲーム市場での競争は激しくなると考えられる。
※左から順に:中国,アメリカ,日本,韓国,イギリス,インド,ドイツ,インドネシア,カナダ,オーストラリア
現時点での中国開発のモバイルゲームは,アメリカ・日本・韓国・イギリス・ドイツなどでの売り上げ成長率が,該当国のモバイルゲーム市場の売上成長率を上回っている。開発技術の成熟により,中国開発ゲームの海外配信の将来は明るいものになっていると考えられる。
アメリカを例にすると,アメリカのモバイルゲーム市場規模は中国の次である。アメリカ市場に対する研究は,非常に価値があるものだと言えるであろう。
中国開発のゲームは,中国に次ぐ規模であるアメリカ市場でも良い結果を残している。アメリカのモバイルゲーム市場売上トップ100のうち,23本は中国製のゲームだ。各ジャンルのそれぞれには代表的な中国開発タイトルがあって,例えばシミュレーションでは「Guns of Glory」「Rise of Kingdoms」,FPSでは「PUBG MOBILE」「CoD:Mobile」などだ。
これらのジャンルでは,中国メーカーはすでにノウハウを積み上げて一定の市場優位性を持っているのだが,言い方を変えればそれ以外のジャンルの市場に割り込めていないことでもある。例えば,パズルやカードゲーム,サンドボックスゲームなどにおけるアメリカのローカル市場の理解はまだまだ足りておらず,ユーザーやカルチャーなどの違いから進めなくなっている。
2019年アメリカモバイルゲーム売上Top100産地分布 | |||
---|---|---|---|
アメリカ | 37% | オーストラリア | 6% |
中国 | 23% | ロシア | 5% |
日本 | 8% | ポーランド | 2% |
韓国 | 7% | その他 | 6% |
フィンランド | 6% |
※ジャンル分布左から右順:パズル,SLG,ギャンブル,FPS&TPS,RPG,デジタルカードゲーム,シミュレーションゲーム,サンドボックスゲーム,カジュアルゲーム,スポーツゲーム,カード&チェス,アクション,放置ゲーム,レーシング
「2019年中国游戏产业年度报告」(中国語)
- この記事のURL: