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[TGS 2019]次世代通信規格「5G」についてキーパーソンが意見を交わした基調講演「5Gインパクト〜5Gによって“ゲームチェンジ”は起こるか?」をレポート
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印刷2019/09/13 01:32

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[TGS 2019]次世代通信規格「5G」についてキーパーソンが意見を交わした基調講演「5Gインパクト〜5Gによって“ゲームチェンジ”は起こるか?」をレポート

 東京ゲームショウ2019の初日となる2019年9月12日,千葉・幕張メッセのイベントステージで基調講演「5Gインパクト〜5Gによって“ゲームチェンジ”は起こるか?」が行われた。

 本講演では,2020年に向けて日本国内でのサービス開始が待たれる次世代通信規格「5G」により,ゲームプラットフォームがどのように変化し,ゲームが人々にどのような新しい体験を提供できるようになるのか,また,新しい経済圏が形成され,新たな覇者が登場するのかなどについて,関係企業のキーパーソンがパネルディスカッション形式で意見を交わした。モデレーターは日経 xTECH 副編集長 山田剛良氏が務め,登壇したのは以下の5人である。

  • NTTドコモ 執行役員 5Gイノベーション推進室長 中村武宏氏
  • ガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長 森下一喜氏
  • シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部長 小林 繁氏
  • スクウェア・エニックス 執行役員/ジェネラル・マネージャー 情報システム部 佐藤英昭氏
  • NetEase Vice President Ethan Wang氏

左から,NTTドコモ 中村武宏氏,ガンホー・オンライン・エンターテイメント 森下一喜氏,シャープ 小林 繁氏,スクウェア・エニックス 佐藤英昭氏,NetEase Ethan Wang氏
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 5Gは,4Gの20倍にあたる20ギガビット/秒の高速・大容量,10倍にあたる100万台の同時接続,10分の1にあたる1ミリ秒の低遅延を謳う通信規格だ。ただし,これら3つを同じネットワーク内で同時に実現することはできず,例えばある程度の高速・大容量と低遅延を実現するために同時接続数を犠牲にしたり,同時接続数を最大化するためにほかを犠牲にしたりといったことが必要となる。

モデレーターの山田剛良氏(写真左)
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 そうした特徴を持つ5Gは,ゲームなどのエンターテイメント分野での活用が期待されている。例えばeスポーツではプレイヤー同士を高速・低遅延でつなぐことを,VRコンテンツでは画像表示の低遅延を,配信映像の視聴者向けには4K/8Kの大容量データ転送を,それぞれ実現できる。

 それらを踏まえたディスカッションの最初のテーマは,「『10ギガビット/秒』はゲームをどう変える?」だ。
 Wang氏は,5Gを使った高速化により,クラウドゲームはもちろん,これまでPCでしかプレイできなかったようなゲームやAR/VRを融合したゲームなど,今までにないモバイルゲームを実現できるようになるだろうと期待を語った。

 「率直に言うとすごく嬉しい」と話した佐藤氏は,スクウェア・エニックスのコンテンツが大容量化していることに言及。ダウンロード時間の長さはプレイヤーの離脱につながるため,すぐにプレイ可能になることが重要であるとした。

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 中村氏は,導入当初の5Gはピークでも数ギガビット/秒程度しか出せないだろうという予測に触れ,「過去を振り返ると,各世代の初期の端末はこなれていないため,期待されているほどの速度を実現できない」と説明。技術の進歩とともに徐々に速度も上がっていき,ゲームに特化した端末やNTTドコモ側のバックボーン技術が登場するかもしれないとの見解を示した。

 小林氏は「シャープとしても,先頭集団で5G対応端末をリリースしたい」とし,他社も含めてハイエンド端末は早期に5G対応になっていくのではないかとの予測を述べた。

 森下氏はゲームの作り手として「5Gがスタートしても,当面の間は4Gが混在する。完全に5Gに移行したときに初めて,当たり判定などを素直に作れるようになり,余計な開発工数が不要となる。またプレイヤーにとっては,よりリアリティのある対戦ゲームができる。そのように将来を見据えたゲーム設計を考える必要がある」と語った。

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 2つめのテーマは,「『1ミリ秒』はゲームをどう変える?」である。
 森下氏は,「多人数が参加する通信対戦ゲームでは,遅延は避けて通れない問題。実現したいことが困難なので,これまでは通信部分を非同期にするといった手段を講じてきた」と実情を説明。
 また,仮に1ミリ秒の遅延を実現できるならと前置きしつつ,「これまでのセオリーに従わないゲームが生まれてくることも期待できるが,遅延がなくなるからと言ってゲームが面白くなるわけではないので,その環境下で何ができるかを常に考えなければならない。おそらく一番恩恵を受けるのはクラウドゲームやクラウドサービス」「歴史を振り返ると,遅延が少なくなるのは絶対にいいこと。その中で,どれだけいいサービスを作れるかが重要」とも話していた。

 Wang氏は,低遅延が実現すれば面白いコンテンツを作れるだろうと話し,とくにeスポーツでは公平性が担保されるようになり,プレイ体験の質が良くなって,結果としてプレイヤー増加が見込めるのではないかと展望を語った。
 またNetEaseの「荒野行動」のようなゲームは,クラウドにより多くのデータを置けるようになるので,端末の性能に依存する割合が減るとのこと。

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 佐藤氏は,数年前に社内で5Gに関するプレゼンをしたときに,「遅延のない世界でオンラインゲームを展開できるなら,こんなに幸せなことはない」という感想が出たエピソードを披露。森下氏が語ったように,現在は遅延を吸収するようなゲームデザインにしているのが実情だという。加えて「もしプレイヤーの入力にシビアに反応するゲームを作れたら,より楽しくなるかもしれない。ただシビアすぎると逆に人を選ぶので,それがいいかどうかは別の問題」とも語った。
 また「5Gの性能を引き出す設備を借りるのに,いくらコストがかかるのかが深刻な問題」とし,「ランニングコストは開発コストに影響するので非常に気になる」「本格的に5Gを使えるのがどの時期になるのかを図りつつ,投資のタイミングを見計らっている」と話していた。

 小林氏は,1ミリ秒の低遅延が実現したら,ユーザーインタフェースとなる端末がボトルネックになり得ることを指摘。現在のスマホのタッチパネルは1秒間に60回といった周期で入力を検知しているので,仮にゲーム側で1秒間に100回検知するようになると,それだけで平均10ミリ秒の遅延が発生することになるという。「表示も同様で,一般的なスマホなら1秒間に60回描画しているので,平均16ミリ秒程度の遅延が発生している。つまりタッチして表示するだけで数十ミリ秒の遅延が端末内に発生しているわけで,Wangさんが言ったような公平性を実現するためには我々端末を作る側がかなり努力しなければならない」と意気込んでいた。

 中村氏は,NTTドコモが取り組んでいる「ドコモオープンイノベーションクラウド」に言及し,「これを各都道府県に置けば,ネットワークの遅延はかなり抑えられる。有線部分は基本的に距離の問題なので,各都道府県にあれば遅延は無視できるレベルになる」とコメント。「無線も,5Gを使えば1ミリ秒を越えてしまっても数ミリ秒くらいで抑えられると思っている」と自信を見せた。
 ただし無線は常に安定しているわけではない。品質が悪い場所や移動中はどうしてもデータの再送が発生し,遅延が起こる。中村氏は「安定した場所を基準にすると,動かない(プレイできない)ゲームが出てくるかもしれない」と指摘していた。

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 3つめのテーマは,「『5Gスマホ』はゲームをどう変える?」。これは,あくまでも5Gがスタートしてから3〜4年後,ある程度5G対応端末が普及したことを前提とした話である。
 小林氏は,「その答えは私が聞きたい」としつつ,「瞬間のスピードはどんどん上がっていくが,それをどれだけ持続できるかを競う時代になる」と予想。
 また5G対応端末は,通信周りが高熱を発するとのことで,これまでの設計をそのまま流用できないのだとか。小林氏は「端末の形や構造が大きく変わると予想できるので,技術革新をしていくほかない。VRグラスなども検討しているが,広く浸透させるためにはまずスマホから」と説明した。

 さらにスマホで4K映像を鑑賞する時代が来るかと問われると,「バックボーン側の改良が前提となるが,私自身はそうなると思っている。それは5Gがサービス全体のパフォーマンスを上げていくから」と語った。
 また「5Gが普及すると,今までよりも端末メーカーの差が出るのでは」という問いかけには,「そうなると思う。スペックの差よりも,持ちやすさや放熱性といったアナログな部分で勝負が決まる可能性が出てくるのでは」と回答していた。

 佐藤氏は,熱問題に関して「性能や環境が良くなると,ゲームメーカーは調子に乗ってより熱を発するようなゲームを作ってしまう。とくに,バッテリーマネジメントをもう少しうまくやっていけるようになると望ましい」とコメント。
 ストリーミングについても,「クラウドゲームでサーバーが処理すると言っても,実は画像のエンコードに端末のパワーを使う。5Gでは上りが速くなるので,端末で撮った動画をそのまま配信することがやりやすくなるが,繰り返しているとバッテリーがすぐに減ってしまう」という。
 また,「個人的にスマホはエンターテイメントとライフラインが一緒になっている端末だと思う。エンターテイメントに没入しすぎると,ライフラインとして使えなくなる状態に追い込まれることがあるので,一定のバッテリー残量から先はエンターテイメントにバッテリーを使えなくなるハードウェア的な仕組みがあると嬉しい」と希望を語った。
 なお「ゲーム側でそういう仕組みを作ればいいのでは」というもっともな意見には,「ゲームは熱中させてこそ,という側面があるのでそれはまずい」と返答していた。

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 Wang氏は,NetEaseでは市場に流通している主要な端末を使って,どのくらいバッテリーが持つのかや,どのくらいのパフォーマンスを出せるのかをチェックしていると述べ,それらを最適化していくと,多くの機能をクラウドで実現できることを紹介。
 またスペックの低い端末が普及している国や地域向けに,現在は機能をそのままに画質などを落とした「コアバージョン」を提供していることにも言及。「5Gが普及したら,NetEaseは1つのバージョンしか作らず,それをストリーミングでどんな端末でも遊べるようにするだろう」と展望を語った。

 森下氏は,「パズル&ドラゴンズ」は可能なかぎり低スペックの端末でもプレイできるように開発しているとし,「スマホは一番身近にある端末なので,そこに向けたゲームをきちんと作っていきたい」とコメント。
 また「ハイスペックなゲームを作りたくないのか」という質問には,「ガンホーはコンシューマゲームも開発している。スマホではそれに適したゲーム性を目指し,わざわざコンシューマゲームのようなものを作ることはない」と説明した。

 中村氏は,「ゲーム業界がどんなネットワークを求めているのか,どのくらいの性能があればいいのかが分かれば,それに適したソリューションを提供できる」とし,「1ミリ秒(の遅延)や10ギガビット/秒(の転送速度)まで行かなくとも,かなり面白いゲームができるのでは,という話を双方でもっとしたい」と語った。また「我々も高性能化・高機能化を目指すが,そういった話をすることで,お互いにコストを抑えることができるのでは」という提言もしていた。

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 最後のテーマは,「『5Gネットワーク』はゲームをどう変える?」
 中村氏は,「フェスのように,場所と時間を使って人を集めることに対するニーズが増えている」「イベントではその場でいろんなデータベースを使って,さまざまなことができるようにしているし,建設現場も同じ。そういったニーズがゲームから出てきてもおかしくない」とし,「我々もそれに適したネットワークを用意しなければならない。設置してスイッチを入れたら5Gネットワークで高性能の通信エリアを作れる環境を用意し,ゲームのイベントに使ってもらうのはありかなと思う」と展望を述べた。
 なお,そうしたソリューションの料金はまったく決まっていないが,過去の事例を踏まえるとこれまでと同じくらいのレベルになるとのこと。中村氏は「そうしないと,はやらないから」と説明していた。

 Wang氏は,5Gネットワークによって100人が同時に競い合うようなゲームがより浸透し,eスポーツイベントの開催数や,参加する人も増えるのではないかと展望を語った。
 また中国でeスポーツイベントが盛んな理由については,「一人っ子が多いので,誰かと一緒に遊びたいという気持ちの人が多いのではないか。たぶん日本にも似たような人達がいる」との見解を示した。

 佐藤氏は,「一緒につながる人が増え,かつスピードが速いとなると,皆でシンクロするような遊びが適しているのではないか」と述べ,「音楽に合わせて皆が同調すると,その成果がアウトプットとしてスクリーンに表示される,といったような,そのときだけの体験ができると面白いのでは」と提案した。

 森下氏は,「ガンホーは『ラグナロク・オンライン』の大会を毎年続けてきているが,もっと観戦者が一体化するようなことができればいいと考えている」とし,「サッカーのスタジアムで,サポーターが一体となってチームを応援するようなことができるといい」と例を挙げた。

 また小林氏は,5Gネットワークを据置型の端末などに広げていく構想もあるが,現在はスマホが圧倒的なシェアを誇っているので,シャープではまずスマホから展開していくと話していた。

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 ディスカッションの最後には,登壇者達がそれぞれ感想を述べた。Wang氏によると,NetEaseは常にスマホやAR/VRなどの新しい技術を重視しており,その中には5Gも含まれているという。そして,それらを駆使することで,グローバル市場にチャレンジするチャンスが生まれるとし,次世代のゲーム市場において,より大きなパフォーマンスを生み出していきたいと意気込みを語った。

 佐藤氏は,5Gのパフォーマンスを前向きに捉えなければならないと感じたそうで,「スマホの使い方がすごく変わる可能性があり,それに合わせてゲームデザインをしていく必要が生じるのではないか。それはゲームに限らず,エンターテイメント全体で起こりうることなので,前掛かりで取り組んでいきたい」と話していた。

 小林氏は,ゲーム開発に関する話が参考になったとし,「我々はパフォーマンスを追い求めがちだが,それがゲームの面白さにつながるわけではないことや,広い層に遊んでもらうほうが重要だということに気づかされた」とコメント。「私どもは5Gの環境を整える側に回り,早く普及するよう努めていきたい。そのうえで楽しんでいただけたら幸いです」と語った。

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 森下氏は,改めて「5Gになったから,ゲームが面白くなるわけではない。ゲームを面白くするのは,自分達のアイデアであり技術力」と強調しつつ,「3年後にもタッチパネルが主流とは限らない。何かチャレンジのあるハードウェアが日本から出てきてほしい」と語った。また「これからは組み合わせの時代。5GもAIやARなど,いろんなものと組み合わせて何ができるかにチャレンジしていきたい」とも話していた。

 中村氏は,「我々は5Gをきちんとスタートさせなければならない。まずは安定化して,いいスピードが出るようにすることに注力したい」とし,「こなれてくれば徐々に性能を上げられると考えているので,ゲームとのコラボレーションに活かしたい。例えば2025年のゲームはどんな形になるのか,今からでもチャレンジしたい。一緒にチャレンジしてみませんか」とゲームメーカーやゲーム開発者に呼びかけていた。

 最後にモデレーターを務めた山田氏が,「今日の話を聞いて,5Gによってゲームチェンジが起きると確信された人が多いのではないか」とコメントし,「私は,5Gのメリットを最初に活かせるのはゲームやエンターテイメントだと考えている。『このゲームが遊べるから,5Gを使わなきゃ』というようなゲーム体験の登場を待っています」とまとめて,ディスカッションを締めくくった。

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