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[SPIEL\'18]商業的にも大成功した重量級のインディーズボードゲーム「Tukuyumi: Full Moon Down」のこれからを,デザイナーに聞いた
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印刷2018/10/29 18:54

インタビュー

[SPIEL'18]商業的にも大成功した重量級のインディーズボードゲーム「Tukuyumi: Full Moon Down」のこれからを,デザイナーに聞いた

 Kickstarterをはじめとしたクラウドファウンディングの普及により,インディーズで商業作品並のコンポーネントを持ったボードゲームを作ることは,以前よりもずっと簡単になった。しかしながら,クラウドファウンディングで基本セットを作り,さらにその拡張セットも継続的に作っていくとなると,難度は一気に跳ね上がる。
 「ぱっと見た感じ,すごいゲーム」を越えて,本当にファンの心を(そしてファン以外の心も)掴むゲームでなければ,複数の拡張セットを出していくのは難しい。

画像集 No.002のサムネイル画像 / [SPIEL'18]商業的にも大成功した重量級のインディーズボードゲーム「Tukuyumi: Full Moon Down」のこれからを,デザイナーに聞いた

 SPIEL'18に出展された「Tsukuyumi: Full Moon Down」は,その困難を乗り越えたインディーズボードゲームだ。しかもプレイ時間が2〜3時間で,非対称型のエリア占領型競争ゲームという,いわゆる「重量級」に属する作品である。
 4Gamerは昨年のSPIEL'17でもこの作品のデザイナーにインタビューをしたが,基本セットがSPIEL会場のあちこちで販売され,2つの拡張セットも出たいま,あらめてデザイナーのFelix Mertikat氏に「重量級のインディーズボードゲームを作り続けること」について聞いてみた。

デザイナーのFelix Mertikat氏
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4Gamer:
 まず最初に「おめでとうございます」と言わせてください。SPIEL'18ではあちこちのショップで「Tsukuyumi: Full Moon Down」の白い大きな箱を見ましたし,それらを購入している来場者もたくさん見かけました。素晴らしい成功だと思います。

Mertikat氏:
 ありがとうございます。自分たちもここまでの成功をするとは思っていませんでいた。

4Gamer:
 ところで,SPIEL'18のカタログを見たところ,King Racoon Gamesの隣にAsmodee社の名前が書いてあったのですが,Asmodeeがパブリッシャになったということなのでしょうか。

Mertikat氏:
 いいえ,Asmodeeには販売をお願いしているだけです。現状,我々はまだ自分達でゲームを作って,出版している状態ですね。

4Gamer:
 つまり,インディーズという立場は変わっていないわけですね。

Mertikat氏:
 そのとおりです。我々が作っているゲームにとって,インディペンデントであることは非常に重要だと思っています。
 ただ,販売やローカライズの協力は,複数からオファーを受けています。すでに中国語版が存在しますし,アメリカにも販売を手伝ってくれる会社があります。

4Gamer:
 自分も「Tukuyumi」にとって,インディーズであることは非常に大事だと感じます。
 ところで,この「AFTER MOON FALL」と書かれた赤い巨大な箱は,新しい拡張セットですよね? 拡張セットでは何が変わったのでしょうか。

拡張セット「Tukuyumi: After Moon Fall」。箱は巨大,かつ問答無用で重い
画像集 No.005のサムネイル画像 / [SPIEL'18]商業的にも大成功した重量級のインディーズボードゲーム「Tukuyumi: Full Moon Down」のこれからを,デザイナーに聞いた

Mertikat氏:
 もともと「Tukuyumi」は5人までのゲームでしたが,拡張セットによって最大6人でプレイできるようになりました。これに伴い,マップタイルも増やしています。
 また,プレイ可能な勢力が3つ増えました。いずれも基本セットの勢力に負けず劣らず,個性的な勢力です。それから,「モジュール」という形で,7つの追加ルールを用意しました。

4Gamer:
 「モジュール」というのは,何なのでしょうか。

Mertikat氏:
 簡単に言えば,選択型の追加ルールです。例えば,拡張セットではモジュールの1つとして,ランダムイベントが発生するカードを用意しています。もともと「Tukuyumi」は運の要素が極めて少ないゲームですが,プレイヤーからは「もうちょっと運の要素があってもいいのではないか」という意見も少なくなかったんです。なので,拡張セットではランダムイベントを用意しました。

 ですがその一方で,このランダムイベントには「絶対に嫌だ」「こんなのはTukuyumiじゃない」という意見もあります。そこで我々はこのルールをモジュールとして提供しています。つまり,採用してもいいし,採用しなくてもいいんです。
 そういうオプションルールが7つ,拡張セットには入っています。どのモジュールを使って遊ぶのかは,実際に遊ぶ人が決めてもらえればと思います。また,あえて普段とは違うモジュールを選んで遊ぶのも面白いと思いますよ。

このジオラママップは,ファンによる特別製
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製品版は紙のフィギュアでプレイ
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4Gamer:
 7つのオプションルールを自由にオン・オフして楽しめるというのは,ゲーマーにとっては挑みがいがありますね。

Mertikat氏:
 そのとおりです。加えて言いますと,6人でプレイ2する「Tukuyumi」は,まったく違ったゲームになります。ここだけの話をしますと,拡張セットの箱には基本セットと変わらないプレイ時間が書かれていますが,やはり6人でプレイするとプレイ時間は相応に伸びます。

4Gamer:
 とはいえ,休日の夕方いっぱいで終わる範囲ではあるんですよね?

Mertikat氏:
 そこを越えることはありませんので,ご安心ください(笑)また,プレイ時間が気になる方には,2人用の拡張セットも作りました。

2人用拡張セット
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4Gamer:
 「Tukuyumi」を2人で遊べるようになるセットですか。

Mertikat氏:
 はい。この拡張セットを使えば30〜45分くらいで1ゲームが終わります。一方でルールも使用するマップも,「Tukuyumi」そのままです。VP(ビクトリーポイント)獲得に関する設定が違うくらいですね。もちろんですが,ゲームは「Tukuyumi」同様,非対称的なものとなっています。

4Gamer:
 初心者が「Tukuyumi」を初めてプレイするときに,2人用の拡張セットはちょうど良さそうですね。

Mertikat氏:
 はい。ルールに慣れるにあたっても有益な拡張セットだと考えています。

4Gamer:
 「Tukuyumi」の今後についてうかがいたいのですが,拡張セットはまだ増えていく感じでしょうか。

Mertikat氏:
 はい。来年のSPIELで,次の拡張セットを発表する予定です。
 次の拡張セットでは,5つの新しい勢力が追加されます。1年に1つ,拡張セットを出していきたいと思っています。

4Gamer:
 素晴らしい計画だと思いますが,一方で非対称な競争ゲームで,勢力の数を増やしていくとなると,テストプレイは幾何級数的に困難になっていくように思います。この問題はどのように解決していますか?

アートのセンスが独特,かつ日本のサブカルテイストがバリバリに出ている
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Mertikat氏:
 ご指摘の通り,もはや我々だけでテストプレイをするのは不可能です。なので現状,これから追加する勢力のうち1つを,「Tukuyumi」の購入者やファンに配布するという形で,テストプレイへの協力をお願いしています。
 遊んでもらったプレイヤーからは「強すぎる」「弱すぎる」といったご意見をたくさんいただきますが,どんな意見であれ,たくさん意見をもらえるというのは非常に良いことだと思っています。

 というのも,我々自身や,我々の周囲にいる人達の意見だけを見ていると,どうしても「こういうセオリーがあって,これはこうなる」という軸のようなものを前提に考えてしまうんです。でも幅広い意見を聞くことで,より「平たい視点」が得られます。
 ゲームデザイナーは自分のゲームについて知りすぎていますから,こういう形で「平たい視点」が得られるのは,とてもありがたいことだと思っています。

4Gamer:
 うかがえる範囲で構いませんので,これまで「Tukuyumi」がどれくらい売れたかを教えていただけますか。

Mertikat氏:
 2000〜3000というところです。我々の手元にはほとんど在庫がなくて,基本セットは増刷します。

4Gamer:
 「Tukuyumi」はいわゆる「重たいゲーム」として,商業的にはなかなか厳しいポジションにあるかと思いますが,その中でその数字は素晴らしいですね。
 ところで,「Tukuyumi」は言語依存度の高いゲームです。そこで,もしこのゲームを気に入った人が自国語に翻訳したいと思った場合,どうやって連絡を取ればいいのでしょうか。

コミックやアートブックは別売もしている。コミックはゲームに同梱されている
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Mertikat氏:
 我々にメールしてもらうのが一番良いですね。
 もちろん,あくまで個人利用として翻訳する場合と,翻訳したものを販売する場合で,お金関係の話は変わってきます。個人利用でしたら無料ですが,商品として売るとなれば自ずと違う状況になりますからね。
 ですがいずれにしても,「翻訳したい」という要望があれば,メールでご連絡ください。メールを頂ければ,カードテキストのPDFなりデータなりをシェアします。
 我々としては日本でも「Tukuyumi」がプレイされてほしいと思っていますので,もし日本語訳を作るぞという方がいらっしゃれば,是非ご連絡をお願いします。

4Gamer:
 現状,「Tukuyumi」の拡張セットを作ることにかなりの労力を割いているかと思いますが,完全な新作の予定はありますか。

Mertikat氏:
 もちろんあります! 具体的なことはまだ言えませんが,ケルン大聖堂を建築するゲームを作っています。
 また我々は,日本のアニメや漫画が大好きですので(笑),都市から都市へと移動して破壊の限りを尽くす怪獣を,その怪獣の背に乗ったヒーロー達が倒すというゲームも作っています。

4Gamer:
 どちらも興味深いです。来年のSPIELでプレイアブルなものを見れるのを期待しております。本日はお忙しい中,ありがとうございました。



 いわゆる重量級のゲームは,熱烈に好きな人がいる反面,どうしても売れ数という面で苦戦する傾向があるという。そんななか,インディーズゲームとして始まった「Tukuyumi」は,「運の要素をできるかぎり排除した非対称型の対戦ゲーム」という,玄人好みとしか言いようのないジャンルにおいて成功を収めた。
 あくまでインディーズの立場を貫いたまま,重量級のゲームに対して重量級の拡張セットを出していくのは文字通りの「冒険」になると思われるが,今後も「Tukuyumi」が発展していくことを強く願いたいところだ。

コスプレは今年も健在。これを着た人が会場を練り歩く一幕も
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