インタビュー
コミュニティ+アプリ配信+メディア=「TapTap」。中国スマホ界の急成長プラットフォームは,このあとどこへ向かうのか
ゲーム業界に限らず多くの人に知られていることだが,中国にはGoogle Playがない。というよりGoogle社のサービスが一切使えない。中国全土で10億台以上あると言われていて,生活のすべてをそこで完結させて(日本人の比ではない)呼吸するかのようにスマートフォンを使うあの人達が,どこからアプリをダウンロードしているのかというと,それは星の数ほどある「各種プラットフォーマー」からだ(日本には,実質Google PlayとApp Storeしかない)。
もちろん「巨大プラットフォーマー」も存在する。Tencent(応用宝),Baidu(百度手机助手),Qihoo360(360手机助手),Xiaomi Market(小米応用商店),Huawei(華為応用市場)……これらがだいたい上位勢だろうか。しかしこれらのプラットフォーマーも,それぞれ10〜15%程度のシェアしか持っていない。中国というマーケットにおける「15%」というのは,それはもう膨大な数字なのだが,それでも残り60%弱のユーザーは,それぞれ自分の好きなところからアプリをダウンロードしているというわけだ。
そんな,文字どおり「星の数ほど」あるプラットフォームの中で,設立間もないにも関わらず,急激に利用者数を伸ばし,評価が高いサービスがある。それが「TapTap」だ。普通のアプリプラットフォームならわざわざ4Gamerで紹介することはないのだが,実はTapTapは「ゲーム専用」のプラットフォームだ。
ここでわざわざ書くことでもないが,昨今のゲーム業界勢力図で大きな影響力を示しているのが「インディーズ」だ。言葉は違えどはるか昔からあるものだし,いままでインディーズといえばPCの独壇場だったが,スマホやPS4,Nintendo Switchなど,その範囲が大きな広がりを見せているのは,読者のみなさんならよくご存じのとおり。
そのインディーズの“信頼が厚いプラットフォーム”とあっては,ちょっと話を聞かずにはおられない。上海にある本社で少しだけ時間を取ってもらったので,その様子をお伝えしよう。
TapTap公式サイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
TapTapとはどういうサービスなのか……についてお聞きする前に,まずは立ち上げに至るまでの経緯を教えてください。
TapTap Founder 黄希威氏(Xiwei Huang,以下Huang氏):
いいですよ。最初は趣味で個人のサイトを作って運営してたんですが,そのうち海外サイトの運営の仕事や,TVなどでコンテンツを販売するストアサイトを,XD(X.D.Network)のチームと一緒にやるようになったんです。そうこうしてるうちに,そのチームごとTapTapを設立したという感じです。
4Gamer:
サラりと言ってますけど結構波瀾万丈なのでは……。設立したのはつい最近ですよね。
Huang氏:
2016年の頭ですね。
4Gamer:
ホントに最近でした。今どれぐらいのユーザー数がいるんでしょうか。
Huang氏:
DAU(デイリーアクティブユーザー)は200万人くらいです。
4Gamer:
中国という国の規模を考えるとまだまだ伸びしろはありますが,すでに結構いますね。日本ではTapTapがサービスされていないので,日本のユーザーやメーカーの中には存在を知らない人もいるかと思います。そんな人たちに向けて,TapTapがどういうサービスなのかを説明していただけますか。
TapTapの特徴はほかの一般的なプラットフォームと違い,開発者とユーザーで直接コミュニケーションが取れる機能を提供していることです。また,コミュニティ的な役割もありますし,1つのメディアとしての性質も持っています。あと,ストアとしてゲームをダウンロードできる機能もあります。
一般的なプラットフォームはダウンロードしかできず,ユーザーは質問やニーズがあっても開発者と直接コミュニケーションが取れません。しかし,TapTapではユーザーが直接質問して開発者がそれに答えたり,今後の開発に関する意見を開発者が発信したりできます。
4Gamer:
日本にはご存じのように,App StoreとGoogle Playという,事実上2つのプラットフォームしかないんですが,結局その2つは,プラットフォーマーが売りたいものを売る場所であるという部分から逃れられていません。TapTapはそういうプラットフォームとは一線を画したものであるということですね。
Huang氏:
はい,そのとおりです。
4Gamer:
おっしゃるように,開発者とユーザーをつなぐという部分がフィーチャーされることが多いので,最初はインディーズゲームだけに特化したプラットフォームだったと思います。ここ数年で,インディーズゲームに対する注目度はどんどん上がっているので,それに呼応する形でTapTapの価値もどんどん上がっていると思うのですが,そのあたりはいかがでしょう。
Huang氏:
TapTapの収益方法は主に広告なので,一般のプラットフォームとはそこが違います。彼らはダウンロード料で儲けてますよね。TapTapではインディーズゲームに対してのサポートにも力を入れていますし,開発チームの熱意も段違いなのでどんどんサービスレベルも向上しており,注目度は高くなっているという自負があります。
4Gamer:
サポートというのは,その場合ユーザーとの対話機能という意味……ですよね?
Huang氏:
ええ。インディーズゲームの開発者はユーザーのフィードバックをとても重視しているので,TapTapの持つ「掲示板などでユーザーと直接コミュニケーションが取れる」という特性が,広く受け入れられた要因なのではないかと思います。
4Gamer:
中国のほかの配信プラットフォームにそこまで詳しいわけではないですが,課金ありきのビジネスモデルのため,インディーズの開発者がとてもやりにくいという話を聞いたことがあります*。そういう部分を見ても,ビジネスモデルの主軸を広告に置いたTapTapは,うまく名を広められた気がします。
* 一般的なプラットフォームのビジネスモデルは,ユーザーが払ったお金に対するレベニューシェアなので,お金にならないフリーウェアや売り切りのゲームを配信することを嫌がる傾向にあるという
Huang氏:
おっしゃるとおりです。
4Gamer:
とても下品な言い方で申し訳ないんですが,課金ありきのビジネスモデルにしたほうが絶対に利益は大きくなりますよね。あまり儲からないにもかかわらず,今のビジネスモデルとポリシーを貫いているモチベーションは,どこにあるのでしょうか。
Huang氏:
いやおっしゃることは分かりますよ。「本当にこれでよかったのかな?」と考えることがまったくないと言ったら嘘になりますし(笑)。
でも課金ありきのビジネスモデルだと,ユーザーから課金された売り上げによってレベニューシェアで利益が得られるわけですよね。
4Gamer:
ええ,そうですね。
Huang氏:
つまりそうなると「利益ありき」で物事を進めていくことになって,客観的に運営できなくなってしまうと思うんです。私はそれはあまりしたくありません。現在はいいサービスを提供することで,たくさんのユーザーに注目してもらい,結果として広告を提供してもらっています。こうすれば収益も得られるし,客観的に良いゲームを紹介できます。
4Gamer:
なるほど。
TapTapの基本方針は「平等性,公平性,客観性」
4Gamer:
その発想は,なんというか僕たち(メディア)の考え方と近いので共感はするんですが……。
Huang氏:
ですが?
4Gamer:
この前,シリーズBラウンドの投資を受けたとき,同時にNetEaseの株が入ってませんでした?
Huang氏:
よく見てますね。はい,一部入っています。
4Gamer:
何か影響はないんでしょうか。
Huang氏:
数%しかないので,ほとんど影響はないですよ。そもそも,何か影響を及ぼそうという考えはお互いに持っておらず,いいビジネスの関係を作りたかったという感じです。
4Gamer:
なるほど。でも御社はそもそもXDとの関係性が強いですよね。XD自体がデベロッパでありパブリッシャでもあるわけですが,そこはどうなんでしょう?
Huang氏:
確かにXDもパブリッシャですが,私たちはTapTapを立ち上げるときに「平等性,公平性,客観性」という方針を決めたんです。この方針を受け入れてくれない会社は,そもそも投資してくれないと思いますし,TapTapはこの方針があったからこそビジネス価値が生まれたプラットフォームなので,投資してくれる会社もここは動かせないと思います。実際,XDからもNetEaseからも,何かを強要されたことはありません。
4Gamer:
なるほど。ゲーム配信プラットフォームに対してゲームパブリッシャがお金を入れるというのは,外から見ると「それはちょっとどうなんだろう」と思ってしまう感じもありますが,今の話を聞いてよく分かりました。
Huang氏:
そうであればよかったです(笑)。
でも,XDの持ち分が最初から51%あったので,確かに外から見た人は最初は絶対に疑問を持つんですよね。ただ,「XDとの連係は,確かに公平/平等であるものだ」ということが,この2年間の活動によって完全に証明されたのではないかと思っています。なので,NetEaseの投資も影響はないと言えますね。
4Gamer:
それだけちゃんとしたポリシーで運営されているTapTapですが,この間政府からペナルティを受けてましたよね(外部リンク)。あれはなんだったんでしょうか。
Huang氏:
あぁ,あの件ですか。よく見てますね……(笑)。
これは中国政府の決まりなんですが,ゲームが世の中に流通するとき,それぞれのソフトウェアに「ライセンス番号」が必要になります。TapTapが始まったときは,当局もライセンス番号があるかないかに関してそこまで厳しく取り締まっていなかったんですが,最近当局から指導があって,ペナルティを課せられることになりました。
4Gamer:
ん? つまり,創立の2016年当初からいままで大丈夫だった……というか見逃されていたものが,今になって改めて処分されたということですか?
Huang氏:
そうなりますね。2016年からやっていたことに対して,ペナルティがありました。もちろんいまは,必ずライセンス番号を付けるようにしていますよ。
4Gamer:
なるほど。確かにルール違反ではありますが,このタイミングですか。TapTapの成長を快く思わない「誰か」が当局に言いつけた……とか?
Huang氏:
可能性は大いにありますね。ただ,もともとルールがあったのは事実なので,ペナルティを受けるのも,それを受け入れるのも当然です。「これからも大丈夫だろう」って思ってしまっていた我々の間違いですね。
4Gamer:
具体的にはどんなペナルティがあったのか聞いてもいいですか?
Huang氏:
隠すようなことじゃないですし,いいですよ。「3か月間,広告の出稿を受けてはいけない」というのと「3か月間ゲームをダウンロードさせてはいけない」という2点でした。
4Gamer:
ということは,TapTapの重要なファクターである「掲示板」の機能は使えた?
Huang氏:
はい。そこは交渉によって可能になりました。「ビジネス」の部分だけを禁止された形です。
4Gamer:
なるほど。でも掲示板機能が禁止されなかったのであれば,御社のビジネスの根幹を支える部分へのダメージはあまりなかったですね。
Huang氏:
そうです。もちろん,会社の利益には影響がありましたし,創業したての会社なので,時間をロスしてしまったという点はありますが。
4Gamer:
御社がこれだけ順調に伸びているので,ほかのライバルとなるサービスもたくさん立ち上がってくる雰囲気がありますが,その点は何か聞いていますか?
Huang氏:
すでにいっぱい出てきてますよね。例えばNetEaseやTencentは自社でプラットフォームを持っていますし,ほかにも小さな会社が出てきています。ただ,現状はどこも試験的にやっているような段階で,特にどこかがライバルになっているという感じではないです。
海外進出も目前。日本は,とても独特で成熟したマーケットなので慎重に
4Gamer:
話がちょっと逸れるんですが,なぜ中国の人は,誰であっても「試しにすごく小さく始めてみて,うまくいったら大きくする」というやり方なんでしょうか。「うまくいきそうだと思うからやるんだろうし,最初からもうちょっと大きく張ればいいのに」と思うシーンがけっこうありまして。
Huang氏:
なるほど,日本人らしい見解ですね(笑)。それはたぶん,中国の経済状況と関係があると思います。
4Gamer:
詳しく聞いてもいいですか?
世界の誰もが知るところですが,中国は今,猛スピードで発展しているところです。そしてそのスピードがあまりに速いので,前例がない事態に直面することが多々あります。
4Gamer:
確かにそうでしょうね。
Huang氏:
事前の調査も重要ですし,それがちゃんと出来るに越したことはないんですが,急激な成長のなかでは「タイミングを逃さない」ことがとても重要であって,調査している時間はありません。なので,スピード感を損なわないためにも,まず小さい規模でリスクを抑えながらやってみるんです。
4Gamer:
なるほど。GDP成長率が1%程度でしかない国にいると,そこまでの速度がイマイチ理解できておらず……。
ではその速度の中で生き抜くTapTapとして,それをさらに展開するために海外版を作るプランはないんでしょうか。御社のポリシーや理念はとても共感できるものですし,開発者にとっても必要なことだと思いますし,世界でも求められているのでは?
Huang氏:
いいところに触れますね(笑)。今年の後半から来年の頭ごろに,海外へ進出する計画があります。
4Gamer:
おお,それはなによりです。
Huang氏:
TapTapの運営において最大の強みは,コミュニティを核としたサービスです。そしてコミュニティというものは,現地のゲーム文化に従わなければいけません。中国は確かに市場は巨大なんですが,国内のゲーム文化は実は大体共通で単一的なものなので,やりやすいんです。
海外展開では,その地域の文化を理解しつつやっていきたいので,一気に複数の国に展開せずに1つ1つ真面目にゆっくりやっていこうと思っています。
4Gamer:
当然聞かれることを予想してると思うんですが,日本はどうでしょうか。
Huang氏:
海外は順次広げていきます!
4Gamer:
さすがに直近というわけにはいかないですね……。
Huang氏:
すみません(笑)。でも真面目な話,日本はとても独特で成熟したマーケットなので,かなりのレベルまで状況を把握しておかないと,とてもじゃないですが進出できないと思っています。
4Gamer:
きっと日本の開発者のみなさんも「こういうのあるといいなぁ」と思っているのでは。
Huang氏:
本当にそうですか?
4Gamer:
私自身は開発者じゃないので「はい!」と声を大にしては言えないんですが……。
昔はデベロッパも少なかったので,何かを作って出せば,App StoreであれGoogle Playであれ,ちゃんとそれがユーザーの目に止まって多くの人が遊んでくれました。しかし今は,大資本の会社が多額の資金を使って作った大作をどんどん出してきています。
もちろんマーケットが成熟しつつあるから起こることであって,そのことを否定するわけではありませんが,スマホのインディーズデベロッパのみなさんが,自分たちの作品を出してアピールする場所がどこにもないんですよね。こういう状況の今こそ,TapTapのようなサービスが必要なのではないかと思っています。
Huang氏:
なるほど,ありがとうございます。
4Gamer:
では逆の発想で,日本のデベロッパが中国のTapTapに作品を出すことはできますか?
Huang氏:
可能か不可能かで言えば可能ですが,先ほど述べたように,中国では審査をクリアしてライセンス番号を付ける必要があります。そこがちょっと厄介かもしれません。でも,その費用も全額負担しますよ。
4Gamer:
TapTapで審査するとすごく早いと聞きました。
Huang氏:
もともと私は海外でゲーム運営の仕事をしていたので,ユーザーを待たせるのは非常にツラいことだというのを十分に理解しているつもりです。なので,審査はスピーディに対応することを非常に重視しています。
4Gamer:
中国でアプリをローンチしようと思ったら,外国の会社はやたらと大変な手間がかかるので,それを請け負ってくれるのはすごく大きいです。
Huang氏:
もっと海外のタイトルに進出してきてほしいですね。とくに日本の皆さんが作ったタイトルは,我々も,ユーザーも,心からお待ちしています。
「開発者とユーザーの橋渡しをしたい」というTapTapの理念は,この先もずっと変わらない
4Gamer:
このあとのTapTapは,どういうサービスを拡張していく予定でしょうか。
Huang氏:
ユーザーと開発者が必要としているサービスを,もっと増やしていきたいですね。
4Gamer:
ちょっと抽象的ですね……。直近で実装する予定のサービスがどんなものなのか,差し支えない範囲で教えていただけますか?
Huang氏:
すでに他社がやっているんですが,弊社のSDKのライブラリをゲーム内に埋め込むことで,ゲームをプレイしながら開発者と随時コミュニケーションを交わすことができるようになります。
4Gamer:
ゲーム内からTapTapのフォーラムにアクセスできるということですか?
Huang氏:
ええ。通常であればフォーラムを見たいときには,TapTapのアプリを開かなければならないんですが,ゲームしながら見たい場合に直接見られるインタフェースを入れるという感じです。
4Gamer:
なるほど。そのライブラリはそのためのもの?
Huang氏:
そうですね。あとは,ゲームのセーブデータをバックアップしておいて,端末を変えたときに戻せる機能なども予定しています。
4Gamer:
あぁ……それはぜひ全部のゲームに分かりやすい形で搭載してほしい機能ですね。
でも色々なデータが取れて,それはそれで楽しそうですねえ。
Huang氏:
実は,今のプラットフォームでもかなりデータは取れているので,何か新しいデータを取ることは考えていません。
4Gamer:
あれ,そうなんですね。
Huang氏:
特にコアユーザーはプライバシーをとても重視しているので,そこは私たちも尊重しているんです。
4Gamer:
なるほど。
ではお時間もなさそうなので最後の質問です。TapTapを,最終的にどういうプラットフォームにしたいと考えてますか?
Huang氏:
そうですね……開発者とユーザーの連係がもっと取れるようにしたいと思っています。そしてそれは,TapTapを最初に立ち上げたときの理念と同じであって,この先も変わらないと思います。最終的には世界でサービスができたらいいですね。
4Gamer:
開発者とユーザーの橋渡し役ということなら,PlayStation 4版やNintendo Switch版なんかもあるといいかもしれませんね。
Huang氏:
確かにインディーズが結構盛んですし面白そうだとは思いますが,今のところはコンソール機への進出は考えてないです。
4Gamer:
今後も最初の理念を変えずにどんどんTapTapを大きくして,ぜひ近い将来,日本にも進出してください!
本日はありがとうございました。
Huang氏:
そうできるようにがんばります(笑)。ありがとうございました。
―――2018年8月6日収録
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