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G-Star 2016で韓国メディアに尋ねた“最近の韓国のゲーム事情”。いまだ根強く残る「ゲームなんてやってないで勉強しなさい!」のお叱り
これは韓国・釜山で開催されたG-Star 2016のプレスルーム(※プレス陣が記事を書いたり,休んだりする,プレス専用の控室)での出来事。連日の記事のネタをせっせと文字に起こしているその時,流暢な日本語で話しかけられた。それは“韓国のゲーマーなら誰でも知っているゲームサイト「INVEN」の記者”で,なんでも日本から来たゲームメディアの記者に,「今年のG-Starの印象ってどうですか」と聞いているのだとか。
目の前の仕事の重さもあって,二つ返事とはいかなかったが,「面白そうだし……」の気持ちが勝ってしまい,人生初のインタビューを受ける側に立った4Gamer編集部の2人。とはいえ,一方的に聞かれるばかりでは同じ記者として立つ瀬がない。なのでここはひとつ,こちらもインタビューの体裁で話を聞かせてもらうことにした。
「最近の韓国のゲーム事情ってどうですか」って。
・御月亜希
コンシューマからPCゲームからハードまで,さまざまな記事を執筆している4Gamerの記者。海外取材の経験も豊富。G-Star 2016では主に,PCオンラインゲームの取材を担当していた
・楽器
4Gamerに入社してから日も浅い新人。いきなり海外取材へと飛ばされたことに疑問を禁じ得ない。本稿の執筆者。G-Star 2016では主に,スマートフォンゲームの取材を担当していた
・INVEN記者
韓国のゲーマーには非常に認知度の高いゲームサイト「INVEN」の記者。流暢な日本語を用いて,絶妙に嫌とは言いづらいタイミングでこちらの間隙を突いてきた。今回の記事の仕掛人
韓国のゲーマーもいろいろと抱えているようで
INVEN記者:
ここ最近,G-Starで日本のゲームメディアさんをよく見る気がするのですが。
御月亜希:
うーん,来るメディアは来るってだけで,日本のゲームメディアに関しては大幅に増減していることはないと思いますね。毎回お馴染みのところが取材に訪れている,その印象のままですので。
INVEN記者:
そうでしたか……。では最初の質問なのですが,「今年のG-Star 2016では何を取材しに来たのか」をお聞かせください。
御月亜希:
ネクソンさんのブースが年々大きくなっているので,その出展には注目しています。タイトル的にも大作が揃っていますので。今回はとくにMMORPG「Peria Chronicles」(PC)を推しました。
楽器:
ゲーム画面を見た瞬間から連日,「これはヤバい」「これヤバいよね?」しか言わなくなった結果,しゃぶりつくす勢いで計3本の記事(その1,その2,その3)を執筆してましたよね。
INVEN記者:
僕らもやはり,ネクソンさんの動向には注目せざるを得ません。もちろん「Peria Chronicles」には大注目です。
御月亜希:
日本人からすると“アニメ調”のグラフィックスのMMORPGという点で期待が大きいのですが,韓国でも人気が出そうなタイトルなのでしょうか。
INVEN記者:
現時点で,韓国でも多くのファンが付くと予想できます。
楽器:
「Peria Chronicles」のようなアニメ調と,「リネージュII」(PC)のようなリアル調では,韓国ではどちらのデザインが人気なのでしょう。
INVEN記者:
それが結構揺れているところです。韓国ではこれまで「リネージュII」のようなリアル調が主流で,これに類する作品が山ほどありました。その結果,食傷といいますか,「Peria Chronicles」のような変わり種のグラフィックスに興味を持つ人達が増えているのです。
楽器:
私はスマホ担当でしたので,「Tree of Savior:Mobile Remake」(iOS / Android)に注目しました。日本ではPCオンラインゲーム版の正式サービスが9月に開始されたばかりですので,ホットな話題なんです。
INVEN記者:
なるほど,「Tree of Savior:Mobile Remake」ですか。
御月亜希:
我々日本のメディアの場合,“日本に来そうなタイトルかどうか”“日本で受けそうか”で注目度合いは変わってきますね。もちろん,新作というだけで記事にはしたいのですが,日本の展開が期待できるかどうかで,反響も違いますから。
INVEN記者:
しかし,PCオンラインゲームのタイトル数が毎年減少している傾向にあるのは,ちょっと寂しいです。今年もモバイル化の加速を感じました。
楽器:
それは,韓国でも同様の意見が多いのでしょうか。
INVEN記者:
おそらく,ゲーマーなら誰もが実感しています。スマホゲーム自体の人気は確かなものですけどね。
御月亜希:
スマホゲームは世界中で勢いがありますからね。
INVEN記者:
ですが,時には“一つの作り込んだPCオンラインゲーム”が恋しくなります。スマホゲームの数が多いのは嬉しいことですが,それだと記事にする際,同様のアプローチばかりになってしまって……。
そこで僕らはこうやって,新しい取材の形を模索しているんです。ネットで人気の「ゲーム実況」を試してみたり,今回のように「日本のゲームメディアの記者にコメントをもらう」ことにチャレンジしています。
楽器:
素晴らしいと思います。我々も見習いたい……。しかし,韓国でもゲーム実況というジャンルが盛り上がっているんですね。
INVEN記者:
最近多くなりました。YouTubeに動画をあげている人も多いですし,今回も撮影しながら会場を回っている人が多くいましたよ。
御月亜希:
そういえば,G-Starの一般来場者って,何を目当てに会場まで足を運んでいるのでしょう。近年は,会場でプレイできるタイトルのほとんどがスマホゲームになっているので,イベントで楽しめるものも大きく変わっている印象なのですが。
INVEN記者:
新作のプレイやステージイベントの鑑賞もそうですが,ゲーム内アイテムやオフィシャルグッズの配布なども目的の1つです。あとはコスプレを楽しむ人や,隣接会場で行われる「League of Legends」(PC)の大会などもそうですね。
……話が脱線してしまいましたが,続いての質問です。僕は今年,「東京ゲームショウ2016」へ行ったのですが,初めてだったこともあり,本当にすごいなと感じました。そこで僕らとしては,「日本のゲームメディアから見た,G-Starの良いところ」を聞いてみたいのです。
御月亜希:
そうなると「TGSの良いところ」も気になりますが……そうですね,一般参加者が楽しそうなところでしょうか。
INVEN記者:
楽しそう,ですか。
御月亜希:
もちろんTGSの参加者が楽しそうじゃない,という意味ではないです。ただG-Starは来場者へのプレゼントが数多くあって,配布にしては豪華な品々が用意されているじゃないですか。ノベルティなんて軽いものじゃなく,ほとんどが市販されているようなアイテムばかりです。あと,イベントが双方向なのもいいですね。
INVEN記者:
双方向,ですか。
御月亜希:
日本のゲームイベントは基本的に,壇上の出演者たちが一方的に話すことが多く,簡単に言えば“見ているだけのステージ”が多数です。しかし,韓国のイベントステージはコール&レスポンスが叩き込まれているのか,観客の声も瞬間的に“ワッ!!”と過熱しますし,イベントの見せ方も工夫している印象です。
INVEN記者:
確かに,心当たりはあります。
御月亜希:
あと,G-Starは試遊台の数が多いので,新作を遊ぶのがそれほど苦にはなりません。今年のネクソンのように,PCを250台,スマホを340台用意してほしいとは言いませんが,東京ゲームショウは試遊の待ち時間がかなり長いんです。こういった点から,一般参加者が気軽に楽しみやすいイベントだと思います。
楽器:
それと,とにかく“若い人が多い”です。
INVEN記者:
それはあると思います。
楽器:
日本のゲーマーは年齢別に広く分布していますが,G-Starの場合は若年層が大多数という印象で。まあ,初日の影響もありますけどね……(※G-Star 2016の会期1日目が,韓国の名物「受験戦争(の前日休み)」と被ったことで,学生諸君が大勢押し寄せた)。10代や20代に対してゲームを届けられているのを実感できるのは,非常に羨ましいです。
INVEN記者:
でも,韓国ではいまだに「ゲームは勉強に差し障る」という考え方が根強いです。
楽器:
まあ,受験前日にゲームイベントに来る学生の姿は,確かに日本ではあまりお目にかかれないかもしれません。ですが,それだけゲームに対する熱量がある人達と考えると,素晴らしいバイタリティですよ。
INVEN記者:
それでも,大人たちから見たゲームはいまだに悪者です。僕はゲームメディアの記者として働いていますが,親類縁者では理解してくれる人どころか,この仕事の存在すら知らない人も多いです。その点,日本は「スーパーマリオ」や「ポケットモンスター」と子供向けゲームが人気なので,小さい頃からゲーマーを容認してもらえる環境があるように思えます。
楽器:
それはどうでしょう。確かに一昔前よりは,社会的な地位が高くなったと言えるのかもしれません。ですが,仮に親の前でゲームをやっていたら,いまだに「いつまでゲームやってんの!」と言われる,そんなイメージが容易くできてしまうほどですから,抜本的に解決されているとはとても。
INVEN記者:
どこもそうなのかもしれませんね……。しかし,韓国の場合は子供のみならず,大人に対しての「お前,まだゲームなんてやってるの?」という目が強いんです。韓国では20代や30代になったら,ゲームなんてせず,もっと仕事をしたり,人に会ったり,健康的なスポーツをしなさいと,そう口にする人が大半です。
楽器:
あっ,そういう具体的な言葉を出されると,日本でも同じことを言われてしまいそうな気も……。とすると,韓国でネットカフェが人気なのも,コンシューマゲームがあまり人気ないのも,世間体が芳しくないからなのでしょうか。
INVEN記者:
家でゲームをやっていると,居心地が悪いです。コンシューマゲームに興味を示さないのは,流通関係が大きいことはあれど,ゲーム内容に関心がないわけではありません。前述したような“家庭の目”が一因にあるからだと思っています。
楽器:
そういえば,G-Starの会場では歩きスマホをしている人がとても少ないです(※韓国では「一人ご飯は寂しい奴だと思われる風潮」がある。裏を返せば,友人といるときに談笑することが当たり前であり,友人といても一人でスマホを弄らないのだ。おそらく)。
御月亜希:
確かに。
INVEN記者:
もちろん,いるにはいるんですけどね。ただ,良い印象にとらえる人は少ないはずです。
楽器:
日本の電車内では大半の人がスマホを操作しており,そのうちの半分がスマホゲームを遊んでいるような気がします。気づけば慣れっこな風景になりましたが。
INVEN記者:
韓国でも電車の中でスマホゲームをやっている人はちらほらと見られます。けれども,堂々とゲームを遊んでいることをアピールできるほどには,社会的地位を獲得できていないのが現状です。
楽器:
韓国の50代や60代という年齢層は,ゲームに対して冷たい印象でも持っているのですか。
INVEN記者:
そもそも,ゲームというものを知らない人もたくさんいます。私は母に,スマホで簡単なパズルゲームを遊んでもらったところ,プレイすると一応は楽しんでくれました。こういうのもあるんだ,って。でもそれ以上には根付きづらいですし,私がゲームをやっていたら,「あんた,まだゲームなんてやってるの!」と言います。
楽器:
やっぱり,両国共通の悩みですね。
INVEN記者:
でも,それがほかのゲーム先進国よりも深く,多く残っているのが,私から見た韓国です。祖父や祖母に「おじいちゃん,僕はゲームの記者になったよ」とは言いづらいんです,すごく。
……また別の話で長くなりましたが,その一方で「日本のゲームメディアから見た,G-Star 2016の悪いところ」はいかがでしょう。
御月亜希:
ビジネスデイがあるといいですね(※関係者のみが入場できる日。TGSの1日目・2日目がこれに当たる)。G-Starでは一般参加者がいつでも入場できます。ゲームの行く末を応援してくれるユーザーさんらは何も悪くないのですが,仕事としてプレイや撮影をし,記事にする身としては,ビジネスデイがないのは中々厄介で。一言でいうと,取材が大変なんです……。
INVEN記者:
でしたら,BtoBの取材に注力するのはいかがでしょう(※企業と企業の取引の場。G-StarにおけるBtoBでは“まだ世に浸透していない掘り出し物”を探せる)。
御月亜希:
もちろん,BtoBエリアも取材していますよ。ただ,日本のゲーマーの感心としては,近いうちに日本に来る可能性があるプレイアブルのタイトル,つまりBtoC(※企業と消費者の場。G-Starではメイン会場を指す)の出展物のほうが高いですから,注目すべきタイトルは優先して取りかかる必要があります。
今年ですと,「Peria Chronicles」に注力しましたが,あれは開場直後に行かないと,混雑でまず取材できないですよね。ビジネスデイがあれば,より詳しい取材ができるだけに,少し残念な気持ちがあります。
楽器:
ちなみに,韓国におけるVRの認知度ってどんなものでしょう。
INVEN記者:
まだ一般層にまでは届いていません。彼らはVRに接する機会がほとんどないので。しかし,興味関心は強いようで,会場にはVRを遊ぶために駆け込むんですよ(※SIEのVRブースは連日長蛇の列を形成していた)。
楽器:
韓国でVRは普及すると思われますか。
INVEN記者:
可能性はありますが,やはり値段的に難しいのかも。
御月亜希:
日本では,PS VRは予約争奪戦から発売日の駆け込みまで,エネルギッシュな商戦が繰り広げられましたが。
INVEN記者:
それを聞いて僕は驚きました。韓国でもそういう人達はいるにはいますが,あくまで少数です。その少数が目立つから,結果的にそう見えてしまうことはあるかもしれませんが,韓国でそういう商戦が行われたら,持続はしないと思います。
それでは最後の質問です。G-Starでは年々スマホゲームの割合が増えています。今年も全体の8割近くがスマホゲームという状況です。そこで「日本のゲームメディアはG-Starの状況について,どう考えているのか」をお尋ねしたいです。
御月亜希:
私はPCオンラインゲームのファンとして答えますが,近年のG-Starは「しょうがないけど,寂しいものがある」というのが正直なところですね。近年,韓国で大作級のPCオンラインゲームをG-Starで発表している会社は,ネクソンをはじめとする,一部の体力のある大手だけです。その結果,BtoCエリアのPCオンラインゲームが年々減っているだけでなく,今年はBtoBエリアでさえほとんど見られなくなってしまいました。
そのうえ日本に来るPCオンラインゲームは,韓国で展開された後,「厳選された当たり」のみがサービスされます。果たして来年以降,日本に何本のタイトルがやってくるのかと考えると……。
INVEN記者:
なるほど,日本のPCオンラインゲームファンならではの悩みですね。
御月亜希:
だから,「Peria Chronicles」のようなパワーのあるタイトルが出てきたら,メディアとしてしっかりと応援したいです。幸い,本作のグラフィックスは日本人受けが良さそうですので。まあ,いつ日本に来るのかは分からないですけどね(苦笑)。
楽器:
私はスマホゲームのファンとして,現在スマートフォンゲームが全盛を見せていることに,良し悪しはないと思います。あくまで状況がかみ合った,自然な流れなのかなと。スマホゲームによって,絶対にゲームに触れる機会がなかったであろう人たちがつながり,ゲームユーザーの間口が広がったことは確かです。端末スペックの向上が見せる,次のブレイクスルーにも期待できます。
それに数字面で見ても,内訳はどうであれ,ユーザーがお金を支払うのはスマホゲームです。コンシューマゲームのソフトに6000円払うか,スマホゲームのアイテムなどに6000円払うか。結局のところ,それらの一つ一つが投票みたいなものになりますので。社会的なイザコザはあれども,提供している楽しさに変わりはないと考えています。
御月亜希:
こちらからもお聞きしたいのですが,最近のG-Starにはソニー・インタラクティブエンタテインメントがブースを出展していますよね。会場では,PS VRの試遊も人気です。韓国のゲームメディアから見た場合,韓国のゲーム機市場というのは,どういった印象なのでしょう?
INVEN記者:
実は昨日,日本でコンシューマゲームを取り扱う,複数のゲームメーカーさんとお話をさせてもらいました。しかし,韓国でのコンシューマゲームの取り扱いがあまり良好とは言えないのは,ご存じだと思います。そのため,「韓国語版を作る予定は?」と聞いても,「韓国での展開はビジネス的に厳しい」と,皆さん口を揃えて仰っていました。
楽器:
日本でもコンシューマゲームの英語版をはじめ,グローバル展開の例がかなり増えてきましたが,確かに韓国語版となると聞かないかも。
INVEN記者:
そういうのを聞くと,韓国のゲーム市場はこのままでいいのかなと……。韓国はこれまでPCオンラインゲームの本場でした。しかし,PCオンラインゲームの比率がスマホゲームによって反転した今,逆に“コンシューマゲームがない国”として浮き彫りにされつつあります。スマホゲームはそれこそ,全世界が乗り出している市場なので,これ一つを国のゲーム的な特徴として伸ばしていくには,若干弱い気がするんです。
楽器:
日本以外のアジア圏は長らく“PCゲームが正義”と,コンシューマ文化がうまく咀嚼されませんでしたよね。コンシューマゲームのAAAタイトルがグローバル展開され,世界共通のエンターテイメントとなっても,韓国のゲーマーの大半はそれに気付けない,と。
でも思い返すと結構いるんですけどね,「コンシューマゲームで対戦/協力するときにいる,韓国籍のプレイヤー」って。
INVEN記者:
韓国のゲーム文化が今後どのようになっていくのか,僕らはこれからも追っていきたいと思います。本日は良い意見をありがとうございました。もしまた機会があれば,その時はたくさんネタを用意して待っています。
御月亜希:・楽器:
こちらこそ,ありがとうございました。
というわけで,これが韓国のゲームメディアとの交流の一幕であった。数えてみるとたったの数問しか質問されていなかったが,なかなかどうして充実したものだ。
近年の韓国では,「青少年夜間ゲームシャットダウン制」によって,夜間のPCオンラインゲームのプレイが制限されてしまい,往年のMMORPG大国としての姿は見る影もなくなっている。まあそれでいて,さまざまなジャンルでプロe-Sportsプレイヤーを輩出し,ゲーム人気を高めているのだから,そのゲーマー根性は逞しいというほかない。
しかし,本当に流暢な日本語であった。こちらは韓国語を話せないから,毎日のご飯ですら必死だったのに。海外取材に行くたびに思う,海外ゲームメディアの記者のバイタリティは見習わなければいけないなー,と。
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