インタビュー
内田明理氏は,「AR performers」でどんな世界を実現するつもりなのか。その意図を聞く
生のタレントにはできないような
デジタルだからできることを追求したい
4Gamer:
AR performersがイベント中心となると,マネタイズの方法にも,何かしらの工夫が必要になりそうですよね。
β Liveでも,スマホを振って応援していただくような試みをやってみたんですけど,ああいったものでマネタイズできないかと考えています。コメントやエフェクトを出せるようにするなど,もっと細かいことをいろいろできるようにして,より多くの応援ポイントを集めた陣営の勝利みたいな。
4Gamer:
それをリアルタイムで?
内田氏:
やれたら面白いと思うんですよね。音ゲーをライブでみんながやるっていうのが実現できないかな? って。
4Gamer:
お客さんそれぞれが,絶対に負けられない戦いに挑むことに。
内田氏:
そうそう(笑)。来場者の応援によって得られるポイント数を競い合うんです。
4Gamer:
ちょっとヒーローショーを彷彿とさせますね。
内田氏:
僕は小さい娘がいるんで,「プリキュア」の映画を一緒に見に行ったりするんです。劇中でプリキュアがピンチになると,マスコットキャラが客席側に振り向いて「みんなでペンライトを振って応援して!」みたいに話しかけてくるんですよね。そうすると,さっきまではおとなしくしていた子供達が一斉に応援し始めるんですけど,そういうのが楽しくて楽しくて(笑)。
4Gamer:
要は,AR performersを,観客参加型のエンターテイメントにしていきたいということですよね。
内田氏:
そのほうがより,体験価値というものが向上すると思うんですよ。
4Gamer:
体験価値というところに直接つながるかもしれない部分として,キャラクターの人数がこれからどうなっていくのかも気になります。
内田氏:
本公演までにもう1組増やす予定です。
その後も随時増やしていきたいんですが……1人を作るのにけっこうな手間と時間とお金がかかるんですよ(笑)。
4Gamer:
で,ですよね。
内田氏:
ただ,それこそステージに乗らないぐらい大勢用意すればいいかというとそういうことでもないとは思っているんです。捨て駒みたいなキャラクターは作りたくないですし。
4Gamer:
しかしキャラクターを増やすと,曲も用意しなければいけないですよね。ちゃんとした公演となると,それなりの曲数が必要になるでしょうし。
内田氏:
そういう前提で,何十曲も作らなければいけないと思っていたんです。β Liveでは約45分で2曲しかやらなかったので,不満の声もあるかな? と思いきや,アンケートの結果を見ると,「もっとMCを聞かせてほしい」という意見が多かったんですよ。
なので,やみくもに曲を増やすよりも,そういったコミュニケーションの時間とか,例えばコントみたいなことをやってみるとか(笑)。そういった形もあるのかな? ということも考えています。
4Gamer:
デジタルなら,衣装や背景も瞬時に切り替えられますしね。
内田氏:
そういう話をチームでしているとき,「どうせなら,ドラゴンでもやっつけます?」という話にもなって(笑)。
4Gamer:
それは燃えますよね!
思いつきレベルでも構わないんで,AR performersでこういうことをやってみたい! みたいな構想はほかにもありますか?
内田氏:
そうですねぇ……。
これ,原理的には“中の人”はその場にいなくても成立するんですよ。つまり,出力装置としてのステージさえ現地にあれば,東京にいたままロンドン公演やパリ公演だってできるんです。もちろん,いろいろと解決しなければならない問題はありますけど。
あとは,複数のロケーションで同時に公演することも可能なので,一日で全国ツアーもできるんです。
4Gamer:
えっ,それはどういうことですか?
内田氏:
キャラクターごとの出演時間が重ならないようにすれば,さっき東京で歌っていたシンジが,今度は大阪で歌う……みたいなことができるわけですよ。
4Gamer:
その発想はありませんでした。
まさにデジタルならではですよね。
内田氏:
やっぱり生のタレントさんでは不可能なこと,つまり,デジタルじゃないとできないことをやりたいんですよ。
ユークスが培ってきたさまざまな技術が
AR performersに生かされている
4Gamer:
ちょっと違う話も聞かせてください。
今年は「VR元年」と言われていますが,その方面へのご興味はありますか?
もちろん興味はありますし,アイデアもあります。ただ正直,VRのほうが難しいだろうなと思っています。
本当の意味でVR空間に浸るには,まだまだインフラその他,解決しなければならない問題がたくさんあると思うんですよね。そういう意味でも今の段階で仮想空間,仮想世界を楽しむためには,ARのほうが向いているのかなという実感があります。
4Gamer:
そうなんですか? 現実世界にデジタルなものを重ねる分,ARのほうが使い方が難しそうなイメージがありました。
内田氏:
確かにマッチングや演出面を考えないと,キワモノにはなりがちですよね。
でも,そうならないような雰囲気作りとか演出さえしっかりしていれば,入り込める世界って作れると思うんですよ。β Liveのときも,デジタルであるがゆえの引っかかりみたいなものを見せちゃいけないとか,常にシームレスでなければいけないとか,そういうところを綿密に演出していく手間や気配りは必要でしたけど,技術的にはARのほうが仮想的な世界を演出しやすいんです。
だから今は,AR performersの技術や演出をもっと洗練させていくことに注力したいと思っています。
4Gamer:
その方向を突き進めていくと,デジタルなキャラクターがどんどんアナログに近くなるというか,人間くさくなっていきそうなのが興味深いです。
内田氏:
そうそう。β LiveのときもキャラクターがMCで噛んじゃったんですよ。で,言い直したんですけど……それがまあ,受けましたね(笑)。
4Gamer:
それは予期していなかったわけですよね?
内田氏:
もちろんです。その場でのトラブルで。セリフだけじゃなくて映像もそれに合ったものになって。
4Gamer:
ええええ。それ,どうやってるんですか?
内田氏:
リアルタイムキャプチャの技術です。ただリアルタイムキャプチャするだけだと,動きがガクガクになっちゃうんですね。だから普通はポスト処理と言って,そのモーションデータを手直しする必要があるんです。
4Gamer:
ですよね。
内田氏:
でもユークスは,そこをある程度自動で再生するエンジンを持っているんですよ。これまでも人体のリアルタイムアクションをずっと開発してきたので,服や髪の動きなんかもリアルタイムで物理演算することができて。
4Gamer:
これまでWWEのゲームを作り続けてきて培ってきたものが,AR performersに生かされているんですね。意外でした。
さて,そんなAR performersに関する直近のご予定は何かありますか?
内田氏:
8月3日にAR performersのデビューCDを発売しました。これは,YUKE'S CD OFFICIAL SHOPとローチケHMV,それと渋谷のHMV&BOOKS TOKYOでご購入いただけます。
実はインディーズのCDのつもりなんですけど,それならばHMVのインディーズコーナーに置いてあったらかっこいいよねなんて話になって,実際に交渉してみたらOKしていただけたという。
4Gamer:
これまた,現実と架空の世界がうまく重なりましたね。
内田氏:
それと,8月12日,13日にコミックマーケット90に出ます。そこでもAR perfomersのCDやグッズを販売しますので,興味のある方はぜひお立ち寄りください。
4Gamer:
それでは最後に,まだAR performersを知らない人に向けたメッセージをお願いします。
内田氏:
作った本人が実際にステージを目の当たりにしたとき,ものすごく強い衝撃を受けました。頭では分かっていてもそれが現実になる,平たく言うと2Dのキャラクターがリアルタイムで動いて,自分と目を合わせているということの感動や衝撃を,ぜひ多くのお客さんに味わっていただきたいと思っています。
2Dのキャラクターなのにこっちが見られている緊張感,生だからこそできる一期一会の体験など,今までの2Dの世界ではあり得なかった状況が現実のものになりました。機会があればぜひ,それが一体どういうものなのか,ご自身に何をもたらすものなのかを体験していただければと思います。本当にあの,自分で言うと変ですけど感動的ですらあります。
4Gamer:
では次の機会をめちゃくちゃ楽しみにしております。
ありがとうございました!
「AR performers」公式サイト
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