イベント
[CEDEC 2014]ゲーム実況の台頭はゲームのあり方に影響する? 「『ゲーム実況』時代のゲームプロモーション niconicoの事例から」聴講レポート
本セッションでは,ドワンゴ 会長室ゲーム戦略グループの伊豫田旭彦氏が,ニコニコ動画やTwitchなどに投稿されるゲーム実況動画に関するコミュニティの動向と,それを生かしたゲーム企画やプロモーション戦略を紹介した。
ドワンゴ 会長室ゲーム戦略グループ 伊豫田旭彦氏 |
その理由の1つを,伊豫田氏は「そもそもゲーム自体が人気だから」と単純明快に分析した。実際,ニコニコ動画およびニコニコ生放送で,再生数や生放送番組の数がもっとも多いジャンルはゲームなのだという。また,YouTubeの日本における上位100chの再生数割合でもゲーム動画は音楽に次いで2位につけているそうだ。
しかし,一口にゲーム動画といっても,さまざまな種類がある。その中でゲーム実況だけが飛び抜けて人気なのはなぜだろうか。
伊豫田氏はその理由として,人気のゲーム実況動画では,ただゲームをプレイするだけでなく,子どもと一緒にプレイしたり,スポーツ中継風の実況を付けたりなど,視聴者を楽しませるために配信者がさまざまな工夫を懲らしている点を指摘した。
また人気のゲーム実況プレイヤーの大きな特徴として,ほぼ毎日のようにゲーム実況動画を投稿していることが挙げられる。伊豫田氏によれば,「笑っていいとも」や「オールナイトニッポン」といった人気テレビ/ラジオ番組よりも頻繁に,ゲーム実況動画を見ている人達がいるのだという。
以上をまとめて,伊豫田氏は,ゲーム実況の人気が高まった理由を「もともと人気の高かったゲーム動画で」「新しいコンテンツを作り」「毎日投稿して視聴習慣を作ったから」とした。
続いてのテーマは,「ゲーム実況で(ゲームの)売上は伸びるのか」だ。伊豫田氏いわく,「売上は伸びる」とのことで,その根拠は,ニコニコ動画のアフィリエイトサービス「ニコニコ市場」の売上数である。伊豫田氏は,「ニコニコ市場を介さない売上が,この数字の3〜5倍はあるのではないか」との見解を示した。
またゲーム実況によって売上が伸びることを示すもう一つの事例が,スパイクチュンソフトの「テラリア」(PS3 / PS Vita)だ。このタイトルは,発売以来,継続的な売れ行きを見せているが,その要因となるのが,ゲーム実況動画を使ったプロモーションだという。
テラリアでは,PS3版の発売前にゲーム実況プレイヤーを募集し,ゲーム本編をプレゼントするキャンペーンが行われた。彼らが作ったゲーム実況動画は,発売日に公開され,120万回以上の再生数を記録したという。さらに実況プレイヤーによる公式プレイ動画の配信や,定期的な実況生放送などを行った結果,PS3版の発売から1年が経過してもなお,同タイトルの動画がニコニコ動画に投稿され続けているのだという。ニコニコ動画でもここまで動画投稿が継続するタイトルは,あまりないとのことだ。
3つめのテーマは「ゲーム実況は(ゲームメーカーにとって)ビジネスの敵なのか」。このテーマについて伊豫田氏は,「物語が最重要となるゲーム以外は,敵ではない」とした。その理由は,ゲームを取り巻くビジネス構造が,買い切りのパッケージ販売から,アイテム課金制やダウンロードコンテンツ配信などの「運用型」へと移行していることを挙げた。
昨今,メーカーがコミュニティとそのプラットフォームを重視している例として,ニコニコ動画を使ったオンラインゲームタイトルの定期番組配信が紹介された |
最後のテーマは,「ゲーム実況をゲームメーカーが使いこなすには?」というもので,伊豫田氏は以下の5つの点を挙げた。
会場では,著作権のガイドラインを示すサービス「ニコニ・コモンズ」が紹介された |
・音楽,声などの権利関係を制作時からクリアにしておく
・実況を単なる露出と考えず,コミュニティ形成の核として積極的に用いる
・動画,生放送の特性の違いに気をつける
・シェア機能や実況SDKなどを用いる
実況ポリシーを明確にするのは,ゲーム実況プレイヤーの多くは本当にゲームが好きな人達なので,メーカーやクリエイターの言うことに従う傾向があるからとのこと。ただし,複雑なポリシーだと「面倒だ」と投げ出される可能性があるため,明快な内容にしたほうがいい。
また,実況を単なる露出と考えないというのは,たとえばタレントを起用するにしても,知名度の高さだけで選ぶのではなく,プライベートでそのゲームを遊び込んでいる人をチョイスするといった意味だ。うまく視聴者に「へー,あの人も本当にプレイしているんだ」と思わせれば,それだけコミュニティが広がる可能性が増えるということなのだろう。
最後に伊豫田氏は,現在のゲーム実況動画の状況は,カラオケが1980年代半ばから1990年代にかけて台頭してきた頃に類似していると持論を展開。かつてカラオケは,日本の音楽コンテンツのあり方を変えたが,ゲーム実況が今後,ゲームコンテンツにどのような影響を与えるのか,多くのゲームクリエイターとともに前向きに考えていきたいと意気込みを語り,講演を締めた。
- この記事のURL:
キーワード