インタビュー
「DARK SOULS II」の剣術指導をしたジェイ・ノイズ氏に「騎士道剣術」を教えてもらった。中世文化を伝えるティンタジェルの門を叩く
今回,ジャパン・アーマードバトル・リーグを開催した「キャッスル・ティンタジェル」に取材を申し込んだところ,城主(代表取締役社長)のJay E Noyes(ジェイ・ノイズ)氏に,「アーマードコンバット」(Armored Combat)と呼ばれる騎士道剣術を指南してもらう機会を得られた。その体験レポートをお伝えしたい。
「いくら武具を使った競技とはいえ,ゲームとどう関係があるのか」と疑問に思うかもしれないが,実のところ,今回の取材は大いに関係があったりする。というのもノイズ氏は,これまでに「ファイナルファンタジー XII」の剣術スタントアドバイザーや,「DARK SOULS II」(PS3/Xbox 360/PC)の剣術指導などを行い,西洋刀剣が登場するゲームの制作に協力してきた人物なのだ。ゲーム以外にも,アニメ映画「ベルセルク」の西洋剣術スタントアドバイザーや指導担当などを務めたこともあるという。
活動歴を見てみると,1993年に全米規模の中世剣術愛好会(Society for Creative Anachronism,SCA)に参加。2000年には日本で西洋甲冑愛好会「Avalon」を設立し,それ以降は国内での西洋剣術と文化のインストラクターとして活躍しているそうだ。なるほど,ゲーム内で剣術のモーションを表現するために声が掛かるというのは,納得のできる話だったりする。
ノイズ氏が城主として活動するキャッスル・ティンタジェルは,東京・目白に居を構えており,ドイツ剣術のトレーニングや甲冑を装備してのバトル,中世文化講座などを行っている。
もちろん,見学や体験も可能。ティンタジェルショップでは衣装や甲冑なども購入できる。
取材に訪れた有名人などのサインも |
「キャッスル」だけに,内装はお城をイメージしたものになっている |
実は資料の少ないアーマードコンバット
実際に体験する前に,キャッスル・ティンタジェルで行っているトレーニングや,ノイズ氏が行ってきた指導について聞いてみたので,まずはそちらを以下のとおりお伝えしてみたい。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,今回指導いただくアーマードコンバット,騎士道剣術というものについて教えてください。
ジェイ・ノイズ氏:
はい。アーマードコンバットには流派がいくつかありますが,資料の極めて少ない剣術です。たとえば,これは最も古い資料と言われていて,ソードとバックラーの記述があるのですが……(※と,書物を開く)。
4Gamer:
これはどういう姿勢なのでしょう?
ジェイ・ノイズ氏:
分かりにくいでしょう? イラストが平面で,足の位置などがまったく掴めません。これは13世紀の資料にあるものなんですが,この頃の騎士の剣術はいったん途絶えてしまい,後世にあまり伝わっていないんです。20世紀になってから,ようやく資料が発見され始めて,今もまだ世界中の人が研究している段階なんですよ。もちろん,私も研究者の1人です。
4Gamer:
13世紀の資料があまりないとすると,キャッスル・ティンタジェルで教えているのは,いつ頃の剣術になるのですか。
ジェイ・ノイズ氏:
15世紀に使われていたものになります。
4Gamer:
時代が変わると,剣術もまた変わってくるんですか?
ジェイ・ノイズ氏:
もちろんです。たとえば,18世紀頃には,ロングソードやバックラーを使った剣術は姿を消しています。代わりに,決闘用にレイピアを使う時代になるんです。剣術といっても,時代が変われば武器も変わるわけですね。
この本は(※と,別の書物を開き)イタリアンレイピアについて書かれていますが,この時代になると資料も豊富です。
4Gamer:
それでも15世紀という時代の剣術にこだわっているのはなぜでしょう?
ジェイ・ノイズ氏:
14〜15世紀に使われていた剣術が実戦的で,私は好きなんですよ。もし自分が歳を取ってアーマードコンバットができなくなったとしても,同じように実戦的で面白い,スパニッシュレイピアをやると思います。甲冑は重いですからね。
4Gamer:
ただ,「15世紀のアーマードコンバット」「騎士道剣術」と言われてもピンとくる人はあまり多くないと思います。どういった特徴がある剣術なのでしょうか。
ジェイ・ノイズ氏:
剣道や空手のように,「ストレートに相手を狙う」ことがない。これが特徴です。最短距離で効率的に動くことが多い剣術ではあるのですが,端から見ると不自然な動きがあると言いますか。
4Gamer:
不自然というのは,例えば中国拳法のような?
ジェイ・ノイズ氏:
似ているかもしれません。円の動きがあって……。
理論を説明すれば理解してもらえるんですが,ただ見せるだけでは不自然に思われるんですよね。ロングソードを例にすると,これは刃が両方にあるので,どちらも活用するんですけれども,そのせいで「なぜこう構えているのか?」と,不自然に見えるアングルも多くなるんです。
それと,アーマードコンバットで重要視されているのは,生き残ることですね。相手に向かっていくだけなら簡単ですが,そこからいかに生還するかといったことに注力しています。
4Gamer:
アーマードコンバットと聞くと,ゴツい鎧を着るイメージをどうしても抱きがちですが,キャッスル・ティンタジェルの指導では,鎧は着用するんでしょうか。
指導内容によります。
ティンタジェルでは,大きく分けて3つの内容を教えています。まずは鎧を着ていないとき,いわゆるアンアーマード(Un-armored)の剣術,そしてチェーンメイルなどのライトアーマーを着用した剣術,そしてフルプレートの剣術ですね。
同じロングソードでも,装備によって剣術は当然変わってきます。フルプレートが相手のときは,隙間や関節などの鎧のないところを狙わないと,ダメージを与えられませんから。
4Gamer:
ライトアーマーのときは,手首や膝裏などの末端を狙う感じなのでしょうか。
ジェイ・ノイズ氏:
ライトアーマー相手だと,斬撃は必ずしも有効な手ではありません。露出している部分は別ですが,相手によって装備が異なりますから,臨機応変な対応が求められます。たとえば,チェーンメイルとヘルムを装備している一方,下半身には鎧をつけていない,なんてこともあるわけです。ヘルメットの下からノドを突くとか,脇の下や手のひら,股関節など,狙う場所を柔軟に変えていくことが重要になりますね。
甲冑の写真。一見,剥き出しの部分は少ないように思えるが,ヘルムの隙間や関節部は急所となる |
筆者が待っているものがチェインメイル |
4Gamer:
スパーを行う場合も,そういった戦い方を前提にしているんですか?
ジェイ・ノイズ氏:
そこだけを突き詰めると殺人術になってしまいますから,そこはルールを設けてゲーム形式にしています。ただ,だからといって特定のことだけを学んで,あまりにスポーツ寄りになってしまい,本物から離れてもいけません。
4Gamer:
ベアナックルとボクシングの違いのようなものですか。
ジェイ・ノイズ氏:
そうですね。ベアナックルのときは拳で戦い,時間制限もありませんから,顔をすごく後ろに置いて急所を狙っていくスタイルでした。これが,大怪我を負わないようなルールが定められたボクシングになって,大きなグローブを付けた結果,構えが変わり,グローブで顔を守るというスタイルに変化しましたよね。
ティンタジェルとしては,あくまで本物をやりたいので,試合ごとに形式を変更して,いろいろなシチュエーションから生き残るスキルを学べるようにしています。それともう1つ,欧州の人は“カンペキ”を考えていないんですよ。パーフェクトにできるのは神様だけですから。なので,柔軟な対応を取ることに注力しているというわけです。
4Gamer:
鎧を着ているかどうか,武器は何かに合わせて,さまざまな局面における戦い方,生き残り方を指導していると。
指導といえば,ノイズさんはゲームなどでも剣術指導を行っているんですよね。直近のタイトルではDARK SOULS IIで行ったそうですが,どういった指南をされたのでしょうか。
ジェイ・ノイズ氏:
「実際に使われていた剣術」のインストラクターをしました。アクションしたのはアクターの人ですが,いろいろな剣の使い方のテクニックを見せたり,レクチャーしたりしてから,アクターの人にやってもらうという。もちろん,鎧を着てもらってね。
普通に考えると,ゲームの中での動きと実際の動きは違うんですが,教えたのは本物の使い方です。
4Gamer:
では,そこからどのようにゲームの動きに落とし込んでいくのでしょう。
ジェイ・ノイズ氏:
本物のテクニックを見せたうえで,もっとファンタジー寄りなものがいいと言われれば,アレンジして見せる感じです。本物は,極端に言えばツンって刺すだけで相手が死んでしまうので,地味ですから。
でも,派手さをアピールするだけではウソっぽい動きになってしまいます。「リアルで,かつファンタジッックな動き」というのは,苦労しますよ。
4Gamer:
それを披露できるのも,本物の剣術を理解されているノイズさんならではなんでしょうね。実際にDARK SOULS IIのゲームを見て,どう感じましたか?
ジェイ・ノイズ氏:
「YOU DIED!」というあたり,ストイックなゲームだと思いますね。無茶をするとすぐ死んでしまうから,どうやって生き残るかを考える部分がすごく良い。そういう意味では,キャッスル・ティンタジェルで臨機応変な対応を学ぶと,生き残りやすくなるんじゃないかな(笑)。
4Gamer:
ありがとうございます。それでは,実際に教えてください!
ジェイ・ノイズ氏:
分かりました。ではまず,これにサインしてください。「生けにえ」の契約書に(笑)。
まずは基本を学ぶ
さて,いよいよ次は武器を持っての体験に入る。ショートソード+シールド,ロングソード,メイス,槍,ポールアームから好きな武器を選んでとノイズ氏が言うので,とりあえずショートソードを選択してみた。
筆者は武術・武道経験はあるが,武器の練習はあまりしていないのでドキドキである。木剣と杖,九節鞭(中国アクション映画にたまーに出てくる金属製の鞭),青龍刀で遊んだことがあるくらいだ。どちらかというと,肩と肘を極めた状態で,外門頂肘や入り身投げからネックブリーカードロップにつなげるような「当て身」――いわゆるゲームの当て身ではなく,打撃のこと。ゲームのそれは「当て身取り」と表現するのが正しい――を入れながら投げたり,極めたりするのが好きなので,武器に関してはほぼ初心者と言っていいだろう(※編注:こんな説明をつらつらとできる初心者はいません)。
好きな武器を選んでいいと言うノイズ氏。まずはショートソードを選んだ |
まずは準備運動から。これはよくあるタイプのものが中心 |
レクチャーされた範囲で言えば,アーマードコンバットにおける基本の構えは「ショートソードを肩に担いだ状態」となる。DAKR SOULS IIで喩えると,バスタードソードなどの大剣を両手持ちしたイメージである。そして右手持ちの場合,足は肩幅よりも少し広めに開いてから,左足を前に出す。前に出した足先はまっすぐ前,後ろ足は70度くらい角度を付けるようだ。
なぜ足先を真正面に向けるかというと,相手にチャージをされたときに,そうしないと踏ん張れないため。また,後述するソードの振りを効率よく行うためでもあったりする。
構えを覚えた後は,そのままフットワークの練習に入ったが,これは「肩を上下させずに踏み込み,それから後ろ足を引き寄せるように動く」というのを,前後左右で行うといったものだった。
基本の斬撃は,構えの状態から真正面にソードを振り下ろすというものだ。ゲームならここで1アクションが終了するが,実際には戦闘中での動きなので,連続した動作が必要となる。そのため,アクションの後は次撃,もしくは防御のために,元の構えに戻さなければならない。
このとき,「元の構えに戻す」動きは下記のとおり3つある。
- 斬り下ろした後,そのまま腰を戻す力でソードで半円を描いて元の構えに戻す
- 顔の左側面を通過させるようにソードを元に戻す
- ソードをぶつけた反動でそのまま元の位置に戻す
半円を描いて元の構えに戻す動きは,DAKR SOULS IIでメイス二刀流のときに,「2本のメイスで殴った後,右手のメイスでさらに打撃を加える間の動き」をイメージしてもらうと分かりやすいだろう。顔の左側面を通過させて元に戻す動きは,特大剣(グレートソードなど)の両手持ち時に[R2]ボタンを押したアクションと似た動きだ。
文章では伝わりづらいかもしれないが,タオルを持って3つの動きをやってみると,各アクションへの移行をスムーズに行えることが,なんとなく分かると思う。真正面に斬り下ろすのに慣れてきたら,左右の横斬りも入れてみると,より理にかなった動きだと体感できるはずだ。
斬撃は,手でぶん殴るようにするのではなく,下半身を使う。足の裏(親指の付け根あたり)から駆け出す要領で力を得て,それを膝,腰,背骨,肩甲骨,肩……と伝えていく。これは空手でも中国拳法でもボクシングでも同じことである。
記事を読んでいる途中だと思うが,ちょっと試してみてほしい。まず足を肩幅に開き,ラジオ体操第1にある「手を広げて体をねじる」運動をする。このとき手はリラックスしており,腰の回転から生まれた力で両手を振り回しているはずだ。
次は腰からでなく,足を利用してその運動をしてみると,先ほどよりもパワフルに振り回せているだろう。そこで今度は,ペットボトルなどの握れるものを持って,先の要領で力を出し,真正面を斬るような動きをしてみてほしい。すると,「肩から先は方向を調整するだけで,腕で斬撃を放つというわけではない」というのが実感できるのではなかろうか。これがうまくいかない場合は,腕に力が入っていることになる。
鋭い読者であれば,ストレートパンチも同様のやり方で出せると気付くかもしれないが,ともあれ,体の基本的な使い方は同じというわけだ。
振り方を一通り教わった次は,シールドの運用方法を指導してもらった。シールドを構えるとなると,まずイメージするのは「顔を出した状態で体の前にシールドを出す」といった感じだと思うが,実際には,顔面への刺突に対応する必要から,シールド上部を鼻よりも上に持ってくるのが基本形なのだそうだ。
また,シールドを構えた状態だと必然的に死角が増えるため,先に紹介した基本の動きで攻撃を上下左右に散らされると,ガードはとても大変になる。体験してみると,三人称視点のゲームで,カメラがキャラクターの後ろにあるありがたみを知ることができるだろう。
鼻よりも上にする理由は写真のとおり,刺突が入ってしまうため |
連続攻撃で上下左右にシールドを散らされて,顔が露出している状態 |
約25kgの鎧を装備
キャッスル・ティンタジェルではいきなりフルプレートを装備するのではなく,まずはアンアーマーもしくはライトアーマーで動きを学ぶそうだが,今回は「せっかく来たんだし」ということで,いきなりフルプレートでスパーを行うことになった。
装着は,鎧下(布製の衣服のようなもの)を装備してから,それに甲冑をつけていくという流れ。貸し出し用のものなので,筆者の体にはフィットしておらず,装着が終わるまで40分ほどかかった。そのため,下半身は非常に動かしにくいものの,肩のあたりはちょうどよく,ここの感覚は甲冑を装備していない状態と変わらない。ただ,約25kgもあるフルプレートは,とにかく重かった。正直,歩くだけでもキツい。
レッグアーマーと鎧下を装備した状態。このときはまだ動ける重さだった |
ヘルム以外を装備した状態。歩くのもつらい重さである。重量は約25kgだそうだ |
ガントレット。写真のように可動部が多く,見た目以上に自然に拳を握ることができる |
肘の部分も可動領域が確保されている。重さはともかく,動かす分にはストレスを感じにくい |
下半身の関節部も可動部が豊富に用意されているのが分かるだろう |
背中ははほぼ鉄板1枚な印象だが,腰部には可動部が設けられている |
チェインを利用して肩当てを接続している。これのおかげでだいぶ肩周りは動かしやすかった |
つま先も当然守られているが,可動部が4つあり,動きやすさは確保されている |
ヘルム内部にはクッションがあった。ボディアーマーも同様の処置がされており,ハードヒットされてもそれほど痛くはない |
というわけで,40分ほどかかって装備を終えた筆者。体格によっては1時間くらいかかる場合もあるそうだ |
スパーのルールは,自己申告制だ。ヘッドやボディにハードヒットが1発入った場合は死亡判定であり,「Good」(グッド)と言って仕切り直し。手にヒットした場合は,ヒットした側を後ろに回して続行する。足の場合は前後に1本動けるだけの状態で続行といったものだった。また開始前には「My Lord」(マイロード)と,武器を正面に立てての挨拶もある。
もっとも,そういったルール以前に,ヘルム内から見える視界が予想以上に狭く,何が起きているのか把握するのも一苦労。そもそもノイズ氏が相手では「YOU DIED!」されまくりだ。
スパーの装備。この時点で,鎧の重さに負けてすでに疲れている筆者。同行していた編集者から「見るからに動けてない」との寸評をもらう |
ノイズ氏の装備。バケツである。ちなみにバケツヘルムに対しては上手く打撃を加えるのが難しく,筆者の中におけるバケツヘルム信仰度がアップした |
写真で見ると,踏み込みが足りていない。おそらく,ヘルム越しで感覚が狂っていたのだろう |
器用に絡め取られることもしばしば |
勢いよく初手からフルスイングしてみたが,ガードされたところ。また握力不足でソードがすっぽ抜け寸前である |
「どうしようかなー」と考えていたら,サクッと刺突された |
こちらはロングソードも使用してみたところ |
ガードされて隙間から刺突されてしまった |
ソードで受けてから,バックラーを利用してこちらの動きを封じているノイズ氏 |
ロングソードの動きに慣れてきて,懐まで踏み込んだところで,頭をかち割られる寸前である |
先に述べたとおり,キャッスル・ティンタジェルは東京・目白にあるので,都内在住であれば訪れやすい。また,見学・体験は随時受け付けているとのことである。西洋剣術を本格的に学べる貴重な場所なので,剣術に興味を持った人は,その門を叩いてみるといいだろう。ゲームで見慣れているつもりの剣や鎧が,現実ではまた違って見えてくるはずだ。
キャッスル・ティンタジェル公式サイト
- 関連タイトル:
DARK SOULS II
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(c)2012 NAMCO BANDAI Games Inc. (c)2011-2012 FromSoftware, Inc.
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