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[PAX 2013]これからはPCゲームだ! 次世代コンシューマ機登場を前に,PCゲームの伝説的開発者達がパネルディスカッションで言いたい放題
「PAX 2013」公式サイト
パネルのメンバーはPCゲーム界の有名人達で,まず紹介されたのが,Bohemia Interactiveのディーン・ホール(Dean Hall)氏。ニュージーランド陸軍の士官だったという経歴の持ち主で,「Arma III」の開発にも参加しているが,彼を有名にしたのは,同作開発の傍らに制作したMOD「DayZ」のほうだろう。DayZが予想を超える大きな反響を呼んだことから,現在スタンドアロン版「DayZ」の開発を行っている。最近の報道によるとホール氏はヒマラヤに行っているはずなのだが,いつの間にか戻っていたようだ。
また,クリス・ロバーツ(Chris Roberts)氏は,Origin Systemsに在籍していたときに手がけた「Wing Commander」や「Privateer」など,名作スペースコンバットシムの生みの親としてベテランゲーマーによく知られる人物だ。しばらくゲームを離れ,ハリウッドでプロデュース業などを行っていたが,オンラインゲーム「Star Citizen」で復帰した。
もう一人のクリスであるクリス・テイラー(Chris Taylor)氏については,PCゲーマーに説明の必要すらないかもしれない。RTSジャンルの黎明期に「Total Annihilation」をデザインし,その後Gas Powered Gamesを設立して「Dungeon Siege」シリーズなどを開発。現在は「World of Tanks」で知られるWargaming.net傘下のデベロッパとして,詳細は不明ながら新作の開発を進めている。
パネルの4人の中では,知名度があまり高くないかもしれないジョン・メイヴォー(Jon Mavor)氏は,テイラー氏の片腕として,主にゲームエンジン開発を受け持ってきたプログラマーだ。2008年に独立して,インディーズゲームの開発チームUber Entertainmentを設立し,「Super Monday Night Combat」で高い評価を得た。
始まったパネルディスカッションは,PCゲームの歴史に名を残す上記の有名人達が「PCゲームはこんなにスゴい!」という賞賛を繰り返すという,ある意味,予想どおりだったが面白いものになった。コンシューマ機専用タイトルが大ヒットしたり,新型コンシューマ機が発表されて話題になったりするたび,「PCゲームは死んだ」と言われてカチンときていたPCゲーマーも少なくないはずだが,このディスカッションでは,そうした鬱憤を晴らすような発言が続き,そのたびに笑いや拍手が巻き起こるという,なんとも賑やかな雰囲気で推移したのだ。
なにしろ,ディスカッション開始前に「DOOM」のテーマが流れ,全員が起立してそれを拝聴するという“PCゲーム至上主義者”の集まりだっただけに,当然かもしれない。
というわけで,以下にパネラーの発言を書き出しておこう。
「20年経って,コンシューマ機はやっとPCに追いついた」(ホール氏)
これは,PlayStation 4やXbox Oneの中身がほとんどPCだということに関連して述べられたもので,テイラー氏がそれに応じて「これまでずっと,妙なプログラミング言語や開発ツールを押し付けられてきたが,やっとコンシューマ機の開発もラクになる」と続けた。
メイヴォー氏も「1990年代にPCで起こったインターネットやグラフィックスの革命が,ようやくコンシューマ機でも起こり始めたという感じだ」と述べた。
「オープンであることが,PCゲームの良さ」(テイラー氏)
Steamが行うセールは,ときに80%引きなどという,これまでのゲーム業界の常識を覆す内容だったりするが,忘れられていた作品でも利益を生むということを再認識させるものでもある。ホール氏は,「SteamがPCゲーム市場を独占化していると批判する人がいるが,やりようによってはSteamを覆すチャンスはいくらでもある。それこそが,オープンなPCゲームの良いところだ」と熱弁をふるった。
テイラー氏はまた,来場者に対して「Steamで買っただけで,まだ遊んでいないソフトが50本以上ある人は,どれくらいいるか」と質問し,多くの人が手を上げたことについて「同じような人がいっぱいで良かった。これで夜も寝やすくなる」と笑いを誘った。
「Call of DutyとGrand Theft Auto以外で目立つのはPCゲームばかり」(ロバーツ氏)
最近話題になるゲームソフトは,例えば,Free-to-Playという,欧米では珍しかったビジネスモデルを導入して大ヒットした「World of Tanks」や「League of Legends」であったり,アーリーアクセスという手法でファン層を増やして成功した「Minecraft」であったりなど,PCタイトルが多い。ロバーツ氏は,最近「Star Citizen」のスペースシップ格納庫部分だけをプレイできる「Hanger Module」をリリースしているが,これは「コンシューマ機なら絶対にできないファンサービス」と,PCならではの特徴を強調した。
「PCゲームの未来は,WindowsとDirectXのない世界」(メイヴォー氏)
PCゲームの未来像を語るのもディスカッションの大きな要素だったが,それについてメイヴォー氏は「Microsoftは,完全にPCゲームの将来を見誤った」と話す。ホール氏も,「我々は,自分で好きなパーツを用意したり,好きなソフトを入れたりできるPCで育った。MicrosoftはAppleのビジネスモデルに憧れているだけで,PC市場の在り方などが分かってないようだ」と力説。
ロバーツ氏も,「OpenGLやLinuxにはまだ問題があるが,いずれは乗り換える必要があるだろう。そうすれば,Googleや(Linuxベースのコンシューマ機“SteamBox”を開発している言われる)ValveがPCゲームを一気に制圧する」と語るなど,Microsoftは,少なくともPCゲーム開発者達の視点からは,あまり歓迎されていないようだった。
「誓って言うが,DRMなんて使いたくなかった」(テイラー氏)
テイラー氏によると,彼の知る限り,どんなゲーム開発者もDRM(デジタル権利マネージメント/不正コピー防止ソフト)を使いたい人はおらず,すべては企業トップの指示によるものだという。「いつも開発の最後に指示が出て,オプティマイズに苦労するのに,結局はユーザーに批判され,パッチで削除する。なぜこうした馬鹿げたことを繰り返すんだ」とテイラー氏は語った。
メイヴォー氏は,「違法コピーを含めても,より多くの人に遊んでもらいたいという意見がある」と話し,ホール氏は「認証などを含めて,オンラインを活用することが最善の方法」と付け加えた。
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