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カプコンサウンドのコンセプトと演出手法を次々に解説。こだわりのサウンド作りが公開されたセミナー「カプコンサウンドの創り方」レポート
このセミナーは,カプコンのサウンドクリエイターが同社のゲームタイトルにおけるサウンド制作について,ゲーム本編の映像や音声,効果音の収録風景などの具体的な事例を交えて解説するといった内容で,2005年から続いている人気のものだ。
今回のセッションでは,カプコン サウンド開発室のスタッフ3名が登壇し,「バイオハザード6」(PC/PS3/Xbox 360),「Dragon's Dogma」(PS3/Xbox 360),「エクストルーパーズ」(PS3/3DS)などのケースを紹介した。
カプコン サウンド開発室 サウンドディレクター 山東善樹氏 |
カプコン サウンド開発室 コンポーザー 北川保昌氏 |
カプコン サウンド開発室 サウンドマネージャー 岡田信弥氏 |
カプコンサウンドチーム公式WEB「CAP'STONE」
セッションの冒頭,カプコンが今年で設立30周年を迎えたことにかけて,往年の代表作のサウンドが披露された。会場では,カプコン黎明期のアーケードタイトルを始め,「ストリートファイター」「バイオハザード」「モンスターハンター」「逆転裁判」などのBGMやSEが次々に流れた |
ゲームにおけるサウンドの重要性とは
セッションの最初のコーナーは「音が映像に与える影響力」。会場では,ゲーム本編に使われるカットシーンに,本来のBGMやSEとは異なるカートゥーンムービー調のサウンドを付けたらどうなるかを示す実験映像が上映された。
この映像では,キャラクターが歩くと「ポヨンポヨン」,投げ飛ばされると「ビューン」といった感じのコミカルなSEが流れ,ボイスも甲高くなっている。こうしたサウンドの変化に引きずられるように,映像自体はシリアスな内容にも関わらず,カットシーン全体がコミカルなイメージに包まれるのだ。
続いて,本来のサウンドを付したカットシーンを上映。改めてサウンドの違いが,全体のイメージに与える影響が示された。
以上の検証により,山東氏は,ゲームというものは,グラフィックスやサウンドといった個々の要素が優れているだけではダメで,それらがきちんと融合したときに初めて完成する「総合芸術」であるとまとめている。
BGMや効果音のレコーディングは
奏者や収録場所にもこだわる
次の「効果音の録音」コーナーでは,北米のワーナーブラザーススタジオにて行われた,「Dragon's Dogma」の効果音収録の模様が紹介された。
同タイトルに登場するモンスターの声のベースとなっているのは,虎やライオン,アライグマ,そして熊といった動物達の息遣いや咆哮だ。しかし,これを屋内で録音すると反響音が含まれてしまうため,わざわざ動物の入っている檻を屋外に持ち出し,より自然に近い環境で収録を行ったそうだ。
ワーナーブラザーススタジオは,街一つが丸々収まるほどの規模を誇っており,「Dragon's Dogma」の印象的な鐘の音はこの街中で自然に響かせたものを録音している。ちなみに,このとき収録された鐘の音は「レイトン教授VS逆転裁判」にも採用されているとのこと。
このほかにも,武器や防具などのSEを収録する模様が公開された |
さらに「バイオハザード6」に登場するクリーチャー「ナパドゥ」のフォーリー(FOLEY/スタジオで擬似録音されたSE)を,ロサンゼルスのSoundeluxにて収録した模様も披露。ここでは,水枕とチューブを駆使してアナログ的に作った音を,エフェクターの一つであるハーモナイザーでデジタル的に音程を下げる制作過程が紹介されている。
ドラムパートを熱望していたわりには,演奏に対して淡白にOKを出す森本氏(前列右から2人め)。山東氏らは,「もっと喜べないものか」と映像にツッコんでいた |
また,同タイトルの「ジェイク編」のボス曲に関しては,作曲したカプコンの森本章之氏の「躍動感がほしい」というリクエストにより,ドラムパートが追加収録されたという。会場では,このエピソードとともにドラム演奏の収録風景が紹介された。
「中国取材」のコーナーでは,サウンド開発室がハンドメイドで作ったというサラウンド録音が可能なレコーダーが紹介された |
「バイオハザード6」は,同シリーズのナンバリングタイトルでは初の多言語対応仕様。会場では同じカットシーンを,英語/フランス語/イタリア語/ドイツ語/スペイン語で上映し,同じ内容のセリフでも言語によって尺の長さが違うことなどが示された |
さらに,最近のオーケストラ収録の実績も紹介されている。「モンスターハンター4」のテーマ曲は東京フィルハーモニー交響楽団が演奏しているほか,「モンスターハンター3(トライ)」の楽曲はチェコ・プラハのオーケストラ,そして「Dragon's Dogma」の楽曲はブルガリア・ソフィアのオーケストラがそれぞれ演奏しているという。
ゲームならではのサウンドの鳴らし方や
インタラクティブな演出を追求
「ゲームならではの面白い鳴らし方/インタラクティブ演出」のコーナーでは,「バイオハザード5」から「6」にかけて,ゲームのインタラクティブ性を表現するサウンド演出がどのように進化したのかが紹介された。
「バイオハザード5」では,主人公のクリスと相棒のシェバの距離に応じて,2人がやり取りする音声の演出が変化する。2人の距離が近い場合には肉声で直接会話するが,一定以上の距離になると無線機器を通した音声に切り替わるのだ。また,シェバが遠距離かつ地下通路内にいるような場合,無線機器からの音声に反響音も加わり,臨場感を増している。
2人の距離が近いと,肉声のやり取りで会話が進行 |
距離が離れると,無線機器を使った会話に切り替わる |
さらに「バイオハザード6」では,ゲーム内の状況に合わせて声のトーンが変わるようになっている。例えば,主人公のレオンと相棒のヘレナは,静かな場所では小声で,ゾンビとの戦闘中には怒鳴り声で会話するといった次第だ。
なお,こうしたサウンド演出は,プレイヤーの操作に応じてリアルタイムにコントロールしているとのことで,まさにゲームのインタラクティブ性を表現していると言えよう。
「マンガチック爽快アクション」という新ジャンルを掲げた「エクストルーパーズ」は,サウンド的にはゲームならではのインタラクティブ性を追求し,BGMには全編にわたってクラブミュージックを採用するといった試みが行われている。
例えば,時間制限のあるアクションゲームでは,残り時間が少なくなるとBGMのテンポを速くしてプレイヤーの焦りを表現するといった手法がお馴染みだが,「エクストルーパーズ」では同様の手法に加えて,BGMのピッチそのものを上げているという。また,敵の特殊な攻撃により,プレイヤーの動きが制限される場合には,BGMのピッチを下げてもどかしい感覚を表現している。
こうした演出は,クラブでDJがディスクの回転数を変化させて,アクセントを付けるところからヒントを得たとのことで,オーケストラ演奏やジャズではできない,クラブミュージックだからこそ成立するものだ。
続いて,一部の音域をイコライザーでカットする,いわゆる「フィルター」を使った演出が紹介された。例えば,プレイヤーが戦闘不能に陥った場合には,高音をカットして音をこもらせることで,意識が遠のく感覚を表現できるという。
また,ワイヤーを使った移動時は,低音をカットして風切り音を追加することで,スピード感を表現している。これは自動車で走行中,窓を開けた時に車内の音楽の聴こえ方が変化することをヒントにしたとのことだ。
さらに開けたフィールドと屋内とでは,SEやBGMにフィルターを使って,聴こえ方を変える例などが示された。
このほか,ローディング中に次のステージで使われるSEを流す演出が紹介されている。山東氏は,かねてよりゲームのローディングと,舞台の場面転換に類似性を見出していたとのことで,「エクストルーパーズ」では舞台的な演出を取り入れたと語った。
また,ギャラリーモードでBGMを再生すると,ボタン操作によってさまざまなフィルターがかかったり,ゲーム内の再生装置とプレイヤーの位置関係によって聴こえ方が変わったりする要素が示された。
「エクストルーパーズ」では,「長尺の映像に対するBGM演出」にもチャレンジしているという。ここでは,同タイトルの10分近くに及ぶオープニングムービーを例に挙げ,クラブミュージックを効果的に使った演出が紹介された。
ここでは,「展開に合わせてブレイクを入れる」「盛り上がりの前にリズムを止めたり,2小節のループを作ったりしてメリハリを利かせる」などのクラブミュージックのテクニックを応用した演出の数々が,北川氏によって披露されている。なお,同タイトルには,こうした演出が計2時間以上も収録されているとのことだ。
最後に山東氏は,今回のセミナーについて「我々は音楽や効果音を作っているんじゃない! ゲームを作っているんだ!」とまとめている。氏の意図するところは,セッションの冒頭で示されたように,「ゲームとはグラフィックスや音楽が優れているだけでは不完全であり,それらがすべて融合することによって,初めて完成するもの」ということなのだろう。
同内容のセミナーは,前日(8月9日)にも大阪のApple Store 心斎橋で行われた。会場では,カプコン サウンド開発室の青木征洋氏による「ロックマン クロスオーバー」の楽曲が生演奏で披露されたとのこと |
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