インタビュー
ゴミ拾いばかりしてたら「夢の島」が出来ちゃった!――伝説のクリエイター集団Bio_100%の森 栄樹氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第10回
連載第10回めとなる,ドワンゴ・川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」。今回は,元ドワンゴの代表取締役副社長・森 栄樹氏がゲスト。もともとはオンラインゲーム専門のゲーム開発会社としてスタートしたドワンゴですが,当時はどんな会社だったのか。今だから話せるあの頃の裏話をいろいろと語ってもらいました。
森氏は,1990年代に活躍した伝説のクリエイター集団Bio_100%の代表を務めていたことでも知られる有名なプログラマー。マイクロソフトでDirectXの開発に携わり,ドリームキャストのOS開発にも関わるなど,ゲーム業界とも深いつながりがある人物です。そんな森氏にとって,当時のドワンゴはどんな会社で,また川上氏はどんな人物だったのでしょうか。いつものように,雑談混じりの堅苦しくない内容ですので,通勤/通学の途中で,あるいはお昼休みにでも,ぜひご一読ください。
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4Gamer:
本日もよろしくお願い致します。
川上氏:
はい。今日は,ぼくと一緒にドワンゴを創業した森さん(ドワンゴ元副社長)に来てもらいました。
よろしくお願いします。
4Gamer:
4Gamer的には,Bio_100%のalty(アルティ)さんと言った方が,伝わりやすいかもしれませんね。
川上氏:
Bio_100%って言えば,PC-9801時代の伝説的なプログラマー集団だしねぇ。
森氏:
今日は,どういった話をするんですか?
川上氏:
えーと,なんだっけ? ずいぶんと久しぶりだから忘れちゃったけど,この連載では,「日本の社会や経済が混迷しているのは,ゲームをしている経営者が少ないからである。だから,経営者はもっとゲームをやるべきだ」みたいなテーマを掲げさせてもらっていて。ゲームが日本の社会を立て直す原動力になるんじゃないかって問題提起をしているわけですよ。
森氏:
へえ?
4Gamer:
え,そんなテーマでしたっけ。
川上氏:
だから,今日もゲームにまつわる高尚な話をしようかなと!
森氏:
ふうん。実は今回,ここに来る前に4Gamerさんの連載は読ませて頂いてるんですけど……。あれって単に川上さんが自分のゲーム話をしたいだけの連載ですよね?
川上氏:
まぁ実を言うと,本当はそれだけだったんだけどね。でも,4Gamerさんが「タメになる話も盛り込まないと,読者に喜んでもらえませんよ」とか言うんだもん。
森氏:
タメになる話ねぇ(笑)。
4Gamer:
え,えーと……。まず定番の質問からさせて頂きたいんですけど,まず森さんってゲーマーなんですか?
森氏:
いや,僕はゲーマーじゃありません!(キッパリ)
川上氏:
でも,ゲームは結構やるんですよね?
森氏:
人並みにはやりますよ。でも僕は,別にマウスで素振りとかやらないし……。
4Gamer:
素振り?
川上氏:
ああ,ドワンゴの連中はやってたよね。「正確に90度振り向く練習」とか言って,机の上でよくマウスの素振りをしてた。
森氏:
やってたやってた(笑)。ああいうのを見てると,自分がゲーマーだなんて恥ずかしくて言えないですよね。
川上氏:
そもそも,この年齢でゲームをやってるのがなんか恥ずかしいですよね。
森氏:
また,そんなこと言って……。「ゲーマーのために」とか殊勝なことを言いつつ,実はゲーマーのことを見下しているんじゃないですか?
川上氏:
見下してるに決まってるじゃん(笑)。というか,僕にはね,ゲーマーを見下す資格があると思うんだよね。
森氏:
なにそれ(笑)。どういうことか,ぜひ聞きたい。
4Gamer:
聞き捨てならないですね。では,まずそこからお聞きしていきましょう。
川上氏:
え,だって,まず僕ね。この年でゲームをやってる自分が嫌いだもん。
一同:
(爆笑)。
森氏:
それわかる(笑)。ゲームをやってるところを人に見られたくないよね。
川上氏:
人に見られたくないし,ふと冷静になったときに,自分で振り返っても胸を張れないじゃん。
森氏:
恥ずかしいよね,ゲーム。
川上氏:
なんでこんなにやってるんだろうって思っちゃうよね。
4Gamer:
あの,ちょっと……。
森氏:
話,終わっちゃうじゃん。完全否定で(苦笑)。
川上氏:
まぁ毎回,完全否定しているんだけどね。ゲーマーは経営者になれるかっていったら,正直なれないだろうと思うし。
森氏:
むしろ,ならない方がいいよね。経営者なんて。
川上氏:
ゲーマーって本当に頭がいいとは思うんですよ。佐野くん(※)とか,やっぱり超頭いいし,ニコニコ動画のNGコメントシステムも,彼が手がけてくれたんですけどね。
※佐野将基(さのまさき):ドワンゴ ニコニコ事業統括本部プラットフォーム事業本部第一企画開発部第七セクション担当セクションマネージャー。オンラインゲームの黎明期時代にその名を轟かせたゲーマー。ドワンゴ初期に在籍していたメンバー中トップクラスの実力を誇った(ゲームで)。連載第5回「あのとき君は,どうして「Player Kill」ばっかりしていたの?」に登場。
森氏:
昔から彼は才気溢れる感じだったよね。
川上氏:
うん。ただ,凄く優秀なんだけど,例えば,1か月ぐらい仕事をやってくれると,その後の3か月くらい,ヘタしたら半年ぐらいはゲームの世界に戻っちゃうんですよ。
森氏:
そうなんだよねぇ(苦笑)。
川上氏:
だから,ゲーマーってやっぱりね。もうある年齢までいってもゲームを卒業できない人間は,現実社会への適応は無理だなと,最近また再認識しました(笑)。
森氏:
ゲーマーには向いてないよね,現実社会。
川上氏:
常にゲームのことが頭の中にあるわけだからね。仕事をするための人材として見たら,効率悪すぎる。
4Gamer:
私もですかね……。
理系の人間のズルさの限界
森氏:
って,こんな話をしてていいんですか?
川上氏:
ああ,違う違う。今日は,ゲーム会社だった頃のドワンゴの話をしようと思って。
森氏:
え,それはまだ言わない方がいいんじゃないですか。
川上氏:
そう? もうそろそろいいんじゃないの?
森氏:
どの辺りの話を想定しているんですか?
川上氏:
セガネットワークとか,マイクロソフトで次世代ゲーム機(ドリームキャスト2=後のXboxにつながる)のOSを開発をしてた頃の話とか。
森氏:
ちょ,駄目駄目。絶対話せないでしょ!
川上氏:
えー,そうかなぁ。でも,大川さん(※)とかはもういらっしゃらないわけだし。
※大川 功(おおかわいさお):日本の実業家で,CSKの創業者。2001年に心不全のため逝去。当時,CSK傘下のグループ会社であったセガに個人資産の約850億円を譲渡するなど,ハードウェア事業の不振に見舞われていたセガの再建に努めた。また当時,ネットワークを専門とするISAOを立ち上げるなど,ネットワーク事業にも積極的に関わっていた。
4Gamer:
ドワンゴが「セガラリー2」をはじめ,ドリームキャスト向けゲームの通信対戦部分を手がけていたのは有名な話ですよね。
いやぁ,今振り返ってもさ。あの壮大なプロジェクトの案件が,よくドワンゴみたいな会社に入ってきたなって思うんだよね。だってあり得ないでしょ,そんなリスクを取るなんて(笑)。
森氏:
本当にね。あの時のセガ側の動機は,今もってまったく理解できない。“しょうがなしに”とはいえ,よくドワンゴなんかに話が来たなって思います。僕は全然タッチしてなかったけど,あの流れの作り方は本当に凄かったなって思いますよ。
川上氏:
なんと言っても「あのマイクロソフトも採用したDWANGOネットワーク(笑)」だから。っていうか,そこに関しては森さんにも責任の一端があるでしょ。当時は,マイクロソフトでDirectXの開発してた森さんがキーマンの一人だったわけだし。
森氏:
いやでも,あの時,通信部分でまともに使える技術って,本当にDirectPlay(※)に対応したDWANGOくらいしかなかったんだよね。まだまだ貧弱な機能しか持ってなかったんだけど,当時はあれを推すしか選択肢がなかったし。僕も渋々だったんですよ。
※DirectXに含まれるAPIで,ネットワークゲームの開発に必要な機能をまとめたもの。通信環境の差をDirectPlayが吸収してくれるため,従来より容易にネットワークゲームが開発できた。
川上氏:
当時は,「日本唯一のオンラインゲーム専門の開発会社」とか言って,ドワンゴはネットワークソフトの技術開発力をウリにしてた会社だったんだよね。
森氏:
いやぁ,あの時のドワンゴのやり口は,今思い返しても本当に酷かったよねぇ。
川上氏:
うん,酷かった。
4Gamer:
酷かったって,何がですか?
森氏:
当時,社長の川上さんが主に営業をして仕事を取ってきていたんですけど,そのやり方が酷かったんですよ。もう詐欺じゃないかって感じで。
川上氏:
ちょっとちょっと。人聞きの悪いこと言わないでよ。別に騙してなんかいないでしょ(苦笑)。
森氏:
いやでも,なんか当時のドワンゴって,「海外にエンジニアがたくさんいる会社」みたいに思われてなかったっけ? 普通の日本の会社なのに,外資系のテクノロジーオリエンテッドな会社みたいに勘違いされてましたよね。
川上氏:
ああ,思われてたかも。
森氏:
でも,海外にエンジニアなんて一人もいなかったじゃん。
川上氏:
いやいやいや,何人かはいましたよ。ほとんど日本で開発してましたけど。それに僕は海外のエンジニアが開発しているなんてことは,公の場で一度も言ったことがないんですよ。みんなが勝手に勘違いをしてただけで。
森氏:
まぁ,そうなんだけどね(苦笑)。
川上氏:
あと,気をつけたのは,どこかの会社に営業にいくとするじゃないですか。で,相手のエンジニアになにか技術的な質問をされたとしますよね。その時に,まぁこの質問への回答は社内で一番ぼくが詳しいなと思っても,「帰って,うちのエンジニアに確認します」とか答えるようにしていましたね。
4Gamer:
それはどうしてです?
川上氏:
だって,こいつがこの会社で一番分かっているのか,なんて思われた時点でもう仕事を取れないわけですよ。だから僕は,営業のときは「自分より詳しい人間が社内にはゴロゴロいて,そいつらにやらせますから」っていうスタンスを守ってたんですよ。実際,そうだったし。
森氏:
そうしたら先方が勝手に「海外にもエンジニアがいるに違いない」って勘違いしてしまっただけで,悪気はないんだと。
川上氏:
そうですよ。だいたい森さんだってさ,その事(勘違い)をちゃんと否定してなかったじゃん。
森氏:
うん,黙ってた(笑)。だから僕らは,嘘はついてないんだよね。
川上氏:
そうそう。っていうか,“理系の人間のズルさ”って,それが限界だよね(苦笑)。理系の人ってみんなバカ正直で,嘘は言えないから。相手が誤解したことを訂正しないっていうところぐらいでしか,ズルさを発揮できない。
4Gamer:
ちなみにゲーム開発会社としてのドワンゴを,振り返ってどう評価してるんですか?
森氏:
僕だったら……ドワンゴには仕事を頼まないと思う。だって,社長がこんな人だって知ってるし。
川上氏:
そうだよねぇ(笑)。
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