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[TGS 2017]聖地巡礼ビジネスは震災復興や地方創生につながる。「ご当地をゲーム化する『舞台めぐり』の秘密」聴講レポート
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印刷2017/09/23 17:05

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[TGS 2017]聖地巡礼ビジネスは震災復興や地方創生につながる。「ご当地をゲーム化する『舞台めぐり』の秘密」聴講レポート

ソニー企業 コンテンツツーリズム室 コンテンツツーリズム課 「舞台めぐり」チーム代表シニアプロデューサーの安彦剛志氏
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 2017年9月22日,東京ゲームショウ2017で,スマートフォンアプリ「舞台めぐり」に関するセッション「ご当地をゲーム化する『舞台めぐり』の秘密」が行われた。舞台めぐりは,ゲームアプリではないので,今まで4Gamerに記事が載ったことはないが,アニメファンによる,いわゆる「聖地巡礼」に役立つアプリである。
 セッションを担当したのは,舞台めぐりの開発と運用を手がけるソニー企業株式会社 コンテンツツーリズム室の安彦剛志氏だ。安彦氏は,アニメ「ガールズ&パンツァー」などの事例をもとに,聖地巡礼ビジネスを成功させる秘訣を紹介したので,その概要をレポートしたい。

 セッションの冒頭で安彦氏は,舞台めぐりの概要を紹介した。
 舞台めぐりは,「スマホを片手に,アニメ作品に登場する土地や地域(=聖地)をめぐって,ほかのファンと共有しよう」というコンセプトで開発されたアプリであるという。その企画にあたって,安彦氏は,「地域振興にゲーム的な要素を組み込むことで,より高い効果を発揮できないか」と考えていたと述べる。

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 安彦氏は,セッションを4つの章で構成した。
 第1章は,舞台めぐりの実績を明らかにする「数値から見る聖地巡礼」で,2016年に実際に聖地を訪れて,舞台巡りを起動した人数の多い作品のランキングが紹介された。結果は,「ガールズ&パンツァー」(大洗)と「ラブライブ!サンシャイン!!」(沼津)が,作品そのものの人気と現地における取り組みが功を奏して,3位以下を大きく引き離した1位と2位を獲得している。

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 しかし,安彦氏が踏み込んで紹介したのは,1位や2位ではなく,5位となった「ふらいんぐうぃっち」(弘前)の事例である。
 舞台めぐりチームは,弘前コンベンション協会と協力して,弘前を聖地化するべく,2年の歳月をかけて取り組んだという。その内容は,以下のスライドのとおりで,アニメ化される1年前から,弘前にある店舗を中心に,原作コミックで紹介していったそうだ。
 安彦氏によると,こうした紹介は以降の活動において不可欠ともいえるくらい重要であるとのこと。

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 そうした準備の末に,アニメの放映がスタートすると,弘前を訪れたファンが「行ってみたら,現地のおじちゃんおばちゃんがいろいろ話しかけてくれて,いい雰囲気だった」との感想を残し,それらが口コミとなることで,次第に訪れる人も増えていったそうだ。

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 興味深いのは,こうして弘前を訪れた人たちが住む都道府県の分布である。たとえば,「ガールズ&パンツァー」の場合,関東近郊から訪れる人が多いとはいえ,全国47都道府県におよんでいるという。さらには台湾や韓国など海外から訪れる人もいるとのことで,さすが聖地巡礼の代表的作品といったところだろうか。

 一方,「ふらいんぐうぃっち」は,約半数が東北在住の人たちだったとのこと。この点に関して安彦氏は,「よく,『東京近郊だから聖地化が成功する』と言う人もいるが,それは誤り。自分が住んでいるところと近いところに聖地があるなら,行ってみようという人は多い」と述べたうえで,「誰でも行った先でもてなしを受ければ気分がよくなり,また行こうかという気持ちになる。その気持ちを,弘前の人たちはうまく作って,東北のファンを掴んだ」という分析を披露した。
 そうして掴んだ東北のファンが,弘前の評判を口コミで広げた結果,2017年には関東から弘前を訪れた人が大きく増加したことが,データに現れているとのことだ。

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 以上をまとめて,安彦氏は,「東京近郊以外の地域でも,聖地化を成功させる可能性が見えてきた」と語った。

 次に安彦氏が言及したのは,「アニメに登場しない地域は,聖地化できないのか?」という疑問だ。実際,自治体からそういった相談を受けることもよくあるという。
 この疑問に対する安彦氏の回答は「No」。「アニメの聖地だからリピーターが増えるのではない。アニメはきっかけでしかない」として,「WakeUp, Girls! Another Real!」を使った宮城の震災復興イベント事例を紹介した。

聖地巡礼のリピーター率ランキング。1位となった「WakeUp, Girls! Another Real!」のリピーター率が,2位以下よりもだいぶ高いことが見てとれる
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 舞台めぐりチームが宮城で仕かけたのは,「現地体験型ツーリングアドベンチャーゲーム」だ。
 当時の宮城県女川町は,震災によって何もない状態となっていたのだが,安彦氏らは,その風景を見て抱く愕然とした思いを,ほかの人にも感じさせることができたら,もっと臨場感が増すのではないかと考えたという。
 そこで,宮城の各所に,キャラクターたちの思いを込めたオリジナルストーリーを聞けるチェックポイントを多数用意して,それらをすべて通るとトゥルーエンドを迎えられるというゲーム仕立てにしたのである。
 すると,全行程で700kmにもおよぶ壮大な内容であるにもかかわらず,開始1か月後には140人以上がクリアしたとのことだ。

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 さて,ここで重要なのは,「WakeUp, Girls! Another Real!」には,宮城が登場しないことである。つまり,この事例には聖地が存在しないのだ。
 それでも宮城を訪れた人たちは「現実にこんな大変なことが起きていると知ることができてよかった」という感想を述べていたとのことで,安彦氏はやってよかったと感じているという。

「WakeUp, Girls! Another Real!」の事例で宮城を訪れた人の在籍都道府県分布。なお,台湾からの訪問者が多いのは,同時期に,意図して台湾で震災復興プロジェクトを展開した結果だという
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「WakeUp, Girls! Another Real!」の事例では,ツーリングアドベンチャーに加えて,グルメカード施策も展開。カードに記されたキャラクターがボイスでご当地グルメを紹介することにより,そのメニューを扱う店にファンが集うようになったという
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 第2章の「聖地巡礼と地方創生」では,最初に「聖地巡礼とは何か?」という疑問が提示された。
 実際,聖地巡礼と似たようなことは,そんな言葉が生まれる前から存在している。その分かりやすい例が,NHKの大河ドラマで舞台となった土地に観光客が集まるといったものだ。2016年にヒットした大河ドラマ「真田丸」の効果により,「信州上田真田丸大河ドラマ館」の来場者は100万人を超えたそうで,その規模は,アニメ作品の聖地巡礼とは比較にならないほど大きい。

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 ただ,安彦氏は,大河ドラマに触発されてその地に出向くのは「コンテンツツーリズム」であり,舞台めぐりが標榜する聖地巡礼とは,一線を画していると主張する。
 安彦氏の定義によると,コンテンツツーリズムとは,あくまでも「現地でコンテンツを消化し,十分に楽しむ」ことに留まっているのに対し,聖地巡礼ではコンテンツを十分に楽しんだうえで,「現地や,その地の人に魅力を感じる」というところに違いがあるという。そのため,聖地化が成功している地域には,リピーターが生まれるのである。

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 さらに安彦氏は,「各地域が求めているのは,一度きりの人集めではなく,地方創生」であるとし,そのカギを「いかにして人がその地域に行き,お金を落とし,繰り返し訪れてくれるようになるか」にあると述べた。具体的には,「SNSで情報を発信したくなる何か」「リピートしたくなる何か」があれば,人はほかの人を呼び込むようになるとのことで,安彦氏はそのための仕かけを作らなければならないとした。

聖地巡礼のようなリピーター型のコンテンツを作ることにより,その地域に根ざす人たちにお金が回ることも示された
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 また,こうした取り組みで成功した事例とうまくいかなかった事例を分析したことにより,リピーターを生む法則があることも分かったという。それは「美味しい」と「やさしい」の2つで,安彦氏はこれらをまとめて「2Cの法則」と呼んでいるそうだ。
 ここでいう美味しいとは,現地に行ってなにかご当地の美味しいものが食べられると教えてあげること。これによって,たいていの人は8割程度満足するという。
 一方のやさしいは,アニメ作品などのファンに「自分はこの土地にいてもいいんだ」と思わせる(自己肯定できる)雰囲気作りを指す。

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実のところ2Cの法則は,ほぼすべての観光に関わるものであると,安彦氏は指摘する
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 以上をまとめて安彦氏は,舞台めぐりでは,ファン向けにはコンテンツを楽しむためのイベントを,地域にはファンをもてなすためのノウハウをそれぞれ提供することにより,「ファンと現地を結ぶ摩擦を大きくし,熱を発生させること」を目指しているとし,これこそが「聖地的リピーター作成」を成功させる道であると語った。

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 第3章は「街をゲーム化する」。ここでは,アニメ作品や聖地化に頼らずともリピーターを生む手法として,現在舞台めぐりチームが注力しているという,街をゲームにしてしまう手法が紹介された。
 この手法は,地域の人たちによる「地元のいいところを知って,リピーターになってほしい」という欲求と,それ以外の人たちの「コンテンツをきっかけに旅行や休日を楽しみたい」という欲求の双方を満たすためのものだという。
 「街のゲーム化」というと,小難しく聞えるかもしれないが,実は古くからあるスタンプラリーもそのひとつである。

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 また,安彦氏は,現在検討中であるというクイズ形式の事例を紹介した。これは,街の特定の場所に行くと,舞台めぐりのアプリからそこにまつわるクイズが出題されるというものだ。クイズに正解できるかどうかは,それほど重要ではなく,答えるために周囲を見渡して,今まで知らなかった何かを発見したり,街の住人とコミュニケーションを取ってヒントを得たりするといった,行動を起こさせることが重要なのだとか。

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 安彦氏はこれを,「地域がテーマパークとなり,人がキャストとなる」とまとめ,そのポイントを「現地に移動するきっかけを作る」「現地で消費するきっかけを作る」「現地を知るきっかけを作る」「現地を体験するきっかけを作る」の4種類であると定義した。

街のゲーム化とアニメ作品を組み合わせた体験型アドベンチャーゲーム「ガルパンうぉーく!」も紹介された。なお,このゲームは2017年9月30日でサービス終了がアナウンスされていたが,このたび延長が決まったとのこと。また「新ガルパンうぉーく!」のリリースも決定したそうだ
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コンテンツツーリズムを意識したアニメ作品が増えていることや,ARコンテンツの没入感にはボイスの存在が大きく関わっていると考えられることも紹介された
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舞台めぐりチームでは,新しい施策として「ふるさと納税」にも取り組んでいる。2016年には,実に3000万円を超える実績を残したという
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 最後の4章め「地球丸ごとテーマパーク」では,まず以下のスライドのとおり,舞台めぐりの設立趣意が示された。
 それを総じて表現したのが「地球丸ごとテーマパーク」という言葉であり,その意味するところは「地球のどこであってもテーマパークにできる可能性がある」と安彦氏は述べている。

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 その言葉を具現化した事例のひとつが,「待機列めぐり」だ。これは物販の待機列に一定間隔でQRコードのついた看板を設置することにより,並んで待っている間も楽しめるようにしようという試みだ。実際,「うたの☆プリンスさまっ♪」の待機列で実施したときは,並んだ人の7割が参加して,非常に好評だったという。
 同様の試みは,TGS 2017の日本ファルコムブースでも実施されているので,興味のある人は体験してみてはどうだろうか。

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安彦氏らが手がけている,コンテンツツーリズムビジネスの事例も紹介された
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 セッションの最後には,安彦氏があらためて街をゲーム化するポイントを紹介。さらに地域を活性化させたい,手持ちのコンテンツを利用させたいという人はぜひ舞台めぐりチームに声をかけてほしいとして,セッションを締めくくった。

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