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ゲームエイジ総研によるゲーム市場分析とPRIORI DATAの海外進出に関するプレゼンが行われた,JOGAマーケティングセミナーをレポート
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「ログデータの裏側にあるユーザー行動を探る」
2005年12月に設立された同社は「ゲームビジネスに特化したマーケティングリサーチ&コンサルティングファーム」をうたい,家庭用ゲーム機(以下,記事内ではゲーム専用機と表記)における主要タイトルの週次認知度調査,ヒットタイトルの発売後定点調査,ゲームマーケットの総合月次レポートなどのサービスやコンサルティングを行っている。
同社では,インターネット調査と社会調査を併用したパネル調査を実施している。
インターネット調査では,提携調査会社が保有する260万人分のパネルから40万人分を無作為抽出したゲーム調査専用パネルを構築し,目的に応じた規模で実施している。社会調査では,提携調査会社が日本全域で行っている訪問調査で聴取した毎月1200件のサンプルから,ゲームビジネスに必要な項目を抽出。ネットバイアス(偏り)のかかっていないユーザーを含めたマーケットの全体規模を把握できるとしている。
両調査結果のデータを合わせ,性別や年齢,さらには同社独自のユーザー分類別にWB(ウェイトバック)値を付与し,調査マーケットにおけるユーザー規模を推計しているとのこと。
ユーザー分類では,同社独自の指標であるIPS(Innovative Power Segment)とMBS(Mobile Behavior Segment)の2つを紹介。前者はゲーム専用機向け,後者はスマートデバイス向けで,それぞれの概要は以下のとおり。
IPS(Innovative Power Segment) コンソール(ゲーム専用機)向けのユーザーセグメンテーション指標 |
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イノベータ | コンソールゲーム(家庭用ゲーム)に対する関与度・先行性が最も強いユーザー群 | 市場構成比 4.9% |
年間ソフト購入本数 12.2本 |
アーリーアダプタ | 比較的早期に購入に踏み切るユーザー群 | 市場構成比 8.7% |
年間ソフト購入本数 5.9本 |
ブリッジピープル | 自身の判断基準はそれほど明確ではないが,マジョリティへの情報伝達機能を持つユーザー群 | 市場構成比 9.7% |
年間ソフト購入本数 1.1本 |
アーリーマジョリティ | 周囲の状況や流行の影響を受けて,比較的早期に購入に踏み切るユーザー群 | 市場構成比 11.1% |
年間ソフト購入本数 2.9本 |
レイトマジョリティ | 周囲の状況流行を確認したうえで,ようやく購入に踏み切るユーザー群 | 市場構成比 16.8% |
年間ソフト購入本数 0.1本 |
ラガード | ゲーム専用機を1台も所有していない,ゲームビジネスのマーケット対象外の消費者群 | 市場構成比 48.7% |
年間ソフト購入本数 − |
MBS(Mobile Behavior Segment) スマートデバイス向けのユーザーセグメンテーション指標 |
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エクストリームゲーマー | 課金本数と課金率は全セグメント中で最も高く,プレイ頻度もフリーライダーと並んでトップクラス。最もゲーム適性が高く,スマホ用のゲームが生活の一部に組み込まれているユーザー群 | 市場構成比 2.3% |
スペンダー | 課金額は平均額/過去最高額ともにエクストリームゲーマーに次いで高く,課金意欲も比較的旺盛なユーザー群 | 市場構成比 7.8% |
フリーライダー | プレイ頻度は全セグメント中トップ。ただし,無料であることを最も重視しており,課金に対する忌避感が強いユーザー群 | 市場構成比 9.0% |
カジュアルプレイヤー | スマホ用ゲームをプレイするのは,専らまとまった空き時間や終末などが中心という,それほどプレイ頻度が高くないユーザー群 | 市場構成比 20.0% |
スリープユーザー | スマホ自体は所有しているものの,現在はゲームをプレイすることがほぼなくなっているという休眠ユーザー群 | 市場構成比 29.4% |
スマホ非所有者 | 基本的にはスマートフォンゲームビジネスとしては対象外のユーザー群 | 市場構成比 31.5% |
ゲーム専用機とスマートデバイスの比率では,北米では6割弱,欧州では7割がゲーム専用機であるのに対し,日本ではスマートデバイスが7割以上と,完全に逆転しているのが特徴的な傾向となっている。
直近の2年半分のデータを見ると,ゲーム専用機では1100万人近辺で上下に推移していたが,2015年12月,および2016年5月と6月で1000万人を割る数字になっている。
スマートデバイスでは,2014年3月にゲーム専用機のユーザー数を抜いてから2014年8月までは右肩上がりだったが,それ以降上昇曲線は緩やかになり,2015年に入ってからは横ばいの状態が続いた。2016年2月から上向きピークを記録したものの,4月以降は右肩下がりとなり,光井氏はピークアウト(頂点を過ぎて落ち目になること)しているのではないかと分析していた。
なお,ゲーム専用機とスマートデバイスで,重複していない人口はゲーム専用機が361万人で,スマートデバイスのみが1888万人という数字になる。
さらに,ゲーム専用機やスマートデバイスの機種別で年齢・性別ごとの詳細なユーザー構成も紹介された。
PlayStation 4は,発売された2014年から2年でユーザー数は4倍近くに伸びたが,前年比での伸びはわずかだ。光井氏は,IPSの傾向から,ユーザーがイノベータ層に集中している傾向が変化しておらず,マジョリティ層にまで届いていないと指摘。VRのプラットフォームとして,非ゲームユーザー層がどう動くかに注目したいと光井氏はコメントしていた。
PlayStation Vitaに関しては,ユーザー数で100万人近辺を推移していることが多いという。
光井氏曰く,PlayStationプラットフォームでは据え置き型,携帯型ともに同じ傾向が見られるとのこと。グラフを見ると,ユーザー層に関しては男性比率が圧倒的に高く,20歳代のユーザーが一番多くなっている。
スマートデバイスでは,iPhoneとAndroid端末それぞれで傾向が提示された。
iPhoneは,2014年6月の639万人から2015年6月の1376万人と大幅に伸びたが,2016年6月はほぼ横ばいの1422万人という数字になっている。対するAndroid端末も,2014年6月から2015年6月で大幅に伸びたが,2016年6月時点では前年よりやや減少し,1054万人となった。
光井氏はこれらのデータから,ピークアウトを迎えたのではないかと分析していた。また,エクストリームゲーマー,スペンダーといった課金者層は,20歳代後半から30歳代にかけてのユーザーが多いのは,iOS/Androidいずれも同様の傾向にあるとしていた。
光井氏はさらに,タブレット端末やフィーチャーフォン,PCにおけるゲームユーザー層の経年変化データも提示した。タブレットユーザーの人口規模はスマートフォンの10分の1程度で,若年層の比率が高いのが特徴だ。
これについて光井氏は,いつも持ち歩くスマートフォンと異なり,タブレット端末は主に家で使うケースが多く,スマートフォンを持てない若年層が家族のタブレット端末を使うために稼働率が高くなっているのではないかと分析していた。
PCでは,2013年に「艦隊これくしょん-艦これ-」や「ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア」のサービスインで盛り上がったが,以降は右肩下がりになっていると説明。とくに若年層は流行りものに目が行きやすく,そもそもPCを使わない層が多くなっているのが原因の一つだと述べていた。
モンストのアクティブユーザーは10歳代男性の比率が約35%と圧倒的に高い。エクストリームゲーマーやスペンダーといった課金者層の比率が高まっているので,成熟期に入りARPPU(Average Revenue Per Paid User,課金ユーザー1人あたりの平均売上金額)は上がっているのではないかと推測。ツムツムのアクティブユーザーは女性層が約64%と非常に高く,1年前と比べて全体的にアクティブ率が高まっているというように,実演を交えてZoomAppの利便性の高さを来場者にアピールした。
最後に光井氏は,これからのマーケティングでは,データ重視のPDCA(plan-do-check-act)サイクルより高次の,潜在データを事前に把握する「態度観察」が重要になってくるとコメントし,プレゼンを締めくくった。
「海外市場における日本のスマートフォンゲームの現状と今後の市場機会」
高橋氏はまず,ドイツのスマートデバイス向け市場分析データ提供会社であるPRIORI DATAを紹介。「2016CESAゲーム白書」や「スマホ白書2016」で採用されているといった実績を提示した。
PRIORI DATAでは,App StoreおよびGoogle Playにおける推定ダウンロード数や推定売上金額といったデータを提供している。
アプリストアのランキングデータと,提携しているアプリパブリッシャの実データを基に,統計的な手法で推測モデルを作成し,これをもとに推定ダウンロード数や売上金額を算出しているとのこと。
なお,高橋氏が行ったプレゼンでは,インターアローズのパートナー企業であるcomScoreのデータを利用している部分があると前置きされた。comScoreは,インターネット利用に関する消費者動向情報の収集・分析などを行っている企業である。
高橋氏は,スマートフォンやタブレットのユーザー数とシェアに関するデータを提示し,日本および北米(アメリカ,カナダ),EU5か国(イギリス,イタリア,スペイン,ドイツ,フランス)を比較した。
それによると,日本におけるスマートフォンユーザーは5438万人で,(おそらくは人口に対する)シェア率は52.3%となる。ほかの国々と比べると,スマートフォンのシェアが圧倒的に低いことが目立っている。
タブレットのデータを見るとさらに顕著で,日本ではタブレット人気がないことが浮き彫りになっている。ユーザー数は8か国中5位の1230万人,シェア率は11.8%で最下位となっている。
スマートフォンのOSに関しては,8か国で見るとAndroidのシェアが大きく,すべての国でiOSを上回っている。iOSシェアが高く25%を超えているのは,カナダ,アメリカ,イギリス,日本の4か国だ。
高橋氏はさらに,日本国内ではスマートフォンユーザーのシェアがまったく伸びていないとコメント。MVNOによる“格安スマホ”も,その多くはスマートフォンユーザーの乗り換えとなるためユーザー数増加の起爆剤にはなりにくいと,データを提示しながら考察を示した。
海外市場に目を向けると,スマートフォンゲーム市場は全世界で3兆円規模となっており,売上額トップの日本,およびアメリカと中国の3か国が市場を牽引している形になる。なお中国にはGoogle Playストアがないため,Androidの売上規模は把握できていないが,日本やアメリカと同等かそれ以上の市場が存在するとされている。
日本市場は売上比率で全世界の約3分の1を占める巨大市場だが,言い方を変えれば,海外には日本の2倍規模の市場が存在しているとも言える,とコメントした。また,App StoreやGoogle Playの売上げランキングトップ10に日本のアプリ4タイトルがランクインしているが,その売上を占める割合は日本が多く,グローバルではヒットを飛ばせていない状況だと説明する。
つまり,スマッシュヒットを狙うのが難しい日本市場に固執するよりも,海外市場でのヒットを狙うべきではないかというのが,高橋氏の言い分だ。
続いて高橋氏は,日本のアプリが中国,韓国,台湾,アメリカといった国や地域の市場でどれだけ成功しているのかを紹介した。中国のApp Storeでは,「聖闘士星矢」を筆頭に,「NARUTO-ナルト-」「ドラゴンボール」「ONE PIECE」といったIPものばかり。韓国では「ONE PIECE」「パズドラ」「LINE PLAY」,アメリカでは「ドラゴンボール」「KINGDOM HEARTS Unchained χ」「ブレフロ」「パズドラ」が上位100位内にランクインしているが,日本ほどの勢いはない。
台湾は日本のアプリが最も多くランクインしており,その数は10本。LINEが強くうち6本を占める。「白猫プロジェクト」「クラッシュフィーバー」「オルタンシア・サーガ」「モンスターストライク」など,ランクインしているタイトルが日本とは異なる傾向を示している点にも注目だろう。
また,ローンチ直後にピークを迎えてしまった「Miitomo」と比べ,「Pokémon GO」はダウンロード数や売上が今後も伸びていくケースのグラフになっていると高橋氏は述べていた。
まずは“日本製IP”の活用。「デビルマン」や「キャプテン翼」など,海外でも愛されている日本のコンテンツはまだまだあると高橋氏は述べる。また,お互いの顔を入れ替えた写真が撮れるライブフィルター系のアプリなどを例に挙げ,AR,VR,GPSといったテクノロジーの活用もポイントだとした。
高橋氏は,「Flappy Bird」「白いとこ踏んだら死亡」「Slither.io」「Color Switch」のようなアプリを例に挙げ,とくに英語圏で広告モデルでの展開を検討したほうがいいだろうと述べる。英語圏ではどこかでヒットすれば口コミでダウンロードが増える傾向にあり,広告モデルでも収益が上げられるというわけだ。うまくいけば「Slither.io」のように,あとから課金モデルを入れてハイブリッド化することもできる。
なお,こういったオリジナルアイデア重視で短期間開発・低予算の場合,「白いとこ踏んだら死亡」のように模倣が横行し,クローンアプリのほうがヒットしてしまう可能性もあるが,それでも享受できるメリットは大きいとまとめた。
今回のレポートは以上となる。いずれのプレゼンも,ビッグデータを活用したマーケティングの重要性をうたったものだった。内容はスタンダードなものだったと筆者は感じたが,その過程で出てきたデータには,興味深いものが多かったのではないだろうか。また,こういった調査・分析情報をビジネスにする企業が目立って増えていることも,モバイルゲーム市場が成熟化してきた証と言えるのかもしれない。
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