インタビュー
[E3 2017]SIE WWS 吉田修平氏に訊く,PS4版「ワンダと巨像」や“HDRと広色域”への取り組み,そしてPS VR&PS Vitaのこれからについて
※以下,PlayStationはPSと略記します。
電撃的に発表されたPS4版「ワンダと巨像」
もともとはPS2向けタイトルとして登場し,その後は3D立体視に対応したPS3向けHDリマスター版がリリースされている。そして,今回のPS4版である。「ワンダと巨像」はPlayStation史上でも珍しい,3世代のプラットフォームにわたる名作というわけだ。
いったい,どのようなコンセプトで再登場を果たすことになったのだろうか。
吉田氏:
「PS2時代の名作」として知られる「ワンダと巨像」ですが,今回はあらためて「PS4時代の新作」というコンセプトで制作が進められてきました。なので,サブタイトルなしの「ワンダと巨像」になりました。
詳細は追って公開されていくことになりますが,ゲーム内容は基本的には原作に忠実です。操作性に改善要素を入れたり,一部のゲームメカニクスにアレンジがあったりといったPS4版ならではの要素も盛り込まれています。
開発を担当するのは,PS3版と同じくBluepoint Gamesです。世界で最も「ワンダと巨像」を熟知しているゲームスタジオですから,オリジナル版のファンの方も完成度や品質に期待していただいて大丈夫ですよ。
今回の発表を見る限り,グラフィックス表現は完全に近代化されていて,確かに「PS4時代の新作」然とした面持ちとなっていた。グラフィックスはどのあたりが新要素になっているのだろうか。
吉田氏:
テクスチャや3Dモデルなど,すべてのアセットをゼロから作り直しています。ビジュアル面において,完全に新しい映像体験ができると思いますよ。
ご存じのように,「ワンダと巨像」の原作者である上田文人氏はSIEを退社している。今回のPS4版では,どれくらい制作に関わっているのか。
吉田氏:
「そこまで関わっていない」と言えます。ただ,原作者へのリスペクトは怠らずに開発を進めてはいますね。
そして,気になる発売時期は「2018年」という大きな括りになっていたが,開発の進捗度はどのくらいだろうか。
吉田氏:
比較的,長い開発期間を経て今回の公開に至っているので,今はかなり完成に近いところまで到達しています。
PS4のタイトルでは発売延期となったものが相次いだので,我々はこれを反省しております。
「グランツーリスモSPORT」は今秋,「V! 勇者のくせになまいきだ R」も今秋,「GOD OF WAR」は2018年初頭など,昨日のプレスカンファレンスでは発売時期を発表していますが,しっかり制作を進めたうえで正確な日にちをお知らせさせていただくことにいたしました。
PS4世代の大型タイトルの開発では,やはりデバッグ面での難度が高いという面がありますね。
「HDRと広色域」への取り組み
昨年,PS4 Proの発売とほぼ同じタイミングに,従来のPS4も含むPS4プラットフォームは「HDRと広色域」への対応を果たした。
先日,正式に発表されたXbox One Xやマイナーチェンジ版のXbox One Sにおいても,「HDRと広色域」がプッシュされている。
ゲームグラフィックスの「HDRと広色域」化の波が一気にやってきそうな,業界の気運を感じているところだが,吉田氏率いるSIE WWSはファーストパーティとして,「対応への舵取り」を指揮しているのだろうか。
吉田氏:
「HDRと広色域」と言えば,直近では「グランツーリスモSPORT」が代表格です。ポリフォニー・デジタルが4年前から次世代の映像表現として「HDRと広色域が重要になる」と独自に考え,開発を進めてきたものです。
また,SIE WWSや関連ファーストパーティにも「HDRと広色域」への対応を進めてほしいという指示も出してはいません。ただ,各スタジオが高い関心を持って,「HDRと広色域」に取り組んでいるという状況はあります。
むしろ,我々は逆に「HDRと広色域への対応は難度が高いですよ」という注意を喚起しています。たとえば,HDR対応において,ゲームメカニクス上,見えてはいけないところが見えてしまう(例を挙げると,暗がりに隠れているゾンビがSDRでは見えないが,HDRだと階調とコントラストが豊かになるため,姿が見えてしまうことがある)といった問題に直面して,アートディレクションなどの調整が二度手間になるといったケースがあります。
「グランツーリスモSPORT」のような「現実世界を再現する」タイプのゲームではこうした問題は起きにくいですが,従来のゲーム表現を主体としたグラフィックスでは直面しやすい問題なのです。
もし「HDRと広色域」へ対応するのであれば,ゲームの初期設計段階から対応前提で開発を進める必要がありますね。
今年のCOMPUTEXでは,バックライトのエリア駆動には対応しない,フレームバイフレームでのHDR表現に留まる「簡易型HDRディスプレイ」などが発表されていた。「HDRと広色域」対応ディスプレイ(テレビ)にも,さまざまなグレードの製品が台頭してきたと言える。これまでは「HDRと広色域」対応ディスプレイやテレビは高級品のみだったが,今後は安価な製品も増え,普及が進んでいくかもしれない。
今後,「HDRと広色域」が広がりを見せるとして,そこに課題があるとすれば,プレイしているゲームの映像が「HDRと広色域」であっても,それを第三者に届けたり見せたりすると「HDRと広色域」ではなくなることだ。具体的にはPS4のシェア機能を活用して,ゲームの映像を録画したり配信したりすると,SDRに落ち込んでしまうのである。
この点について,PS4プラットフォームとして何か対策を行う予定はあるのだろうか。
吉田氏:
確かに「HDRと広色域」の映像をシェアすると,そうではなくなってしまいます。これを可能にする仕組みを実現するには,動画配信サイト側の「HDRと広色域」対応も必要になり,SIEだけではどうにもならない部分も多いです。
昨年末,ニューヨークで開催したPlayStation Experienceでも,4KとHDRの映像を広く伝えていくことの難しさを実感しました。我々としては動画配信サービス側の企業の対応に期待しつつ,PS4プラットフォームとしても対応できるように進めていきたいと思っています。
HDR絡みで言えば,PS4プラットフォームが初期型も含めてHDR対応を果たしたのに,PlayStation VRのプロセッサユニットがHDR映像や4Kの18Gbps HDMI映像(RGB888やYUV444)をパススルーできない問題が残っている(関連記事)。この問題はソフトウェア部門のトップである吉田氏の管轄ではないが,あえて話題に出してみた。
吉田氏:
自宅でのソリューションは,PS VRのプロセッサユニットに接続しているPS4からのHDMIケーブルを抜いて,HDMIのメス-メスコネクタを差してあるテレビからのHDMIケーブルにつなぎ替える,といった物理的なつなぎ直しをしています(笑)。
こうしたソリューションでは,4K/HDRになると信号劣化が心配されるが,吉田氏の環境ではケーブルの品質や長さにも気を配っているためか,「グランツーリスモSPORT」の「HDRと広色域」も問題なく見られているそうだ。
なお,この問題について,最近,とある半導体メーカー(ビデオチップメーカー)の独自取材でつかんだ情報によると,ハードウェア的に改善される見込みがあるそうだ。ここからは私見になるが,おそらくマイナーチェンジが行われるのではないだろうか。HDMIキャプチャユニットなどのHDMI関連機器を開発しているとあるメーカーでも,今年後半のロットから,パススルー機能について4K/HDR対応を施すという情報を得ている。どうやら未来は明るそうだ。もっとも,多くのユーザーにとってはあまり関係がないことかもしれないが(笑)。
PS VRについての取り組み
あえて発売時期を遅らせて,対応ゲームを揃えてからローンチを迎えたPS VR。数多くのVRコンテンツがリリースされているが,今回のプレスカンファレンスでは,「Farpoint」や「バイオハザード7 レジデント イービル」に代表される大作VRゲームの存在感が希薄に思えた。端的に言えば,「短い時間で楽しめるコンパクトなVRゲーム」が強く訴求されている印象を受けた。「Monster of the Deep:ファイナルファンタジーXV」もそうした「コンパクトVRゲーム」の1本だ。
PS VRの発売からしばらく経ったが,SIE WWSでは「大作VRゲーム」をどう捉えているのだろう。
吉田氏:
正直に言いまして,「Farpoint」以降,SIE WWSとしてはVR作品の開発プロジェクトが大規模化しています。大作プロジェクトが進行しているということです。
ただ,最近,我々が思い直したこともあります。以前は「VRコンテンツはVR専用として開発しないと,酔いやパフォーマンスの問題を抱え込みやすい」と考えていたんです。
しかし,カプコンさんの「バイオハザード7」は直視型ディスプレイのゲームモードと,VR対応のゲームモードを同一タイトルで両立していました。あれは凄いことですよ。こうしたタイトルも開発できるんだと感銘を受けました。
もちろん,「グランツーリスモSPORT」や「エースコンバット7 スカイズ・アンノウン」のような乗り物系VRゲームであれば,そうしたことは可能だとは思っていましたが,今後は「バイオハザード7」のようなタイトルも増えていくかもしれません。
PS VRの発売から現在に至るまで,最も売れたVRコンテンツも知りたいところだ。
吉田氏:
「PlayStation VR WORLDS」は,世界中で人気が高いです。複数のVRゲームが収録されているタイトルですが,とくに「サメのヤツ」(Ocean Descent)が人気です(笑)。日本では「サマーレッスン」の購入率も高いと聞いています。
PS Vitaについての取り組み
2011年12月に発売されたPS Vitaは,今年で6年目を迎えている。
日本では依然として一定の人気を維持し,ハードウェアもソフトも堅調な売れ行きである。言うなれば,エコシステムとしては好調だ。
そんなPS Vitaに対して,どのような方針で取り組んでいるのだろう。
吉田氏:
PS Vitaは,今も人気の高いプラットフォームですが,サードパーティのタイトルに支えられていて,我々は感謝していますね。
PS Vitaは日本での人気が際立っていますが,実は海外でもインディーズゲームの開発者やインディーズゲームファンの間で人気のプラットフォームなんです。
先日のプレスカンファレンスでも,PS4やPS Vita向けにリリースされるインディーズゲーム「Undertale」が紹介されたときに,大きな歓声が起きていました(関連記事)。
SIE WWSではPS4とPS VR向けタイトルの開発に集中しています。
PS4は今が買い時。PS VRの供給体制が改善
最後に2017年後半に向けて,PS4とPS VRというテーマでユーザーへのコメントをいただいた。
吉田氏:
今年の後半に向けて,我々ファーストパーティのタイトルだけでも凄いラインナップが続きます。「アンチャーテッド 古代神の秘宝」「New みんなのGOLF」「グランツーリスモSPORT」「KNACK ふたりの英雄と古代兵団」など,シリーズ最新作や野心作が目白押しです。「GOD OF WAR」は来年発売ですが,「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」なんて今夏(7月29日)発売ですから。
「Horizon Zero Dawn」「バイオハザード7」「ファイナルファンタジーXV」のDLCも登場しますし,もう遊びきれないぐらいのタイトルが出揃います。
PS4を持っていない方は,今が買い時です!
PS VRについては,「お待たせしました」と言える状況がやってきそうです。
出荷先店舗もこれまでの232店舗から394店舗に増えますから,今度こそ欲しい方が買いやすくなると思います。
今夏から体験会も再始動してプロモーションにも力を入れていきます。6月はVRシューターの「Farpoint」がありますし,「サマーレッスンの新章アリスン・スノウ編も控えています。PS VRも買い時です。
これからもPS4とPS VRをよろしくお願いいたします。
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