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    【島国大和】ゲームを作る立場で,どうやって落とし穴を回避するかを考えるよ。
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    印刷2013/12/02 00:00

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    【島国大和】ゲームを作る立場で,どうやって落とし穴を回避するかを考えるよ。

    島国大和 / 不景気の波にもがく,正体はそっとしておいて欲しいゲーム開発者

    画像集#002のサムネイル/【島国大和】ゲームを作る立場で,どうやって落とし穴を回避するかを考えるよ。

    島国大和のド畜生 出張所

    ブログ:http://dochikushow.blog3.fc2.com/



     皆様,お久しぶりの島国大和です。
     デスマーチ,してますか?

     さて今回は,ゲームを開発していくうえで,ハマりやすい落とし穴をどうやって回避するのか,といったことをゲームを作る側の視点で書いてみようかと思います。

     いつもとかなり毛色が違ううえに,ゲームを開発してない人には,何の役にも立たないことですが,愉快な他人事として話のタネにはなるかもしれません。LINEで主婦に知識をひけらかし,微妙な空気を作ってみたいときなどにご活用ください。


    ゲームの要素を3つに分けると見えてくるもの


     さて,一口に落とし穴といっても,いろいろなタイプがあります。話を分かりやすく進めるために,ゲームの要素をとりあえず,以下の3つに分けて考えてみることにしましょう。

    (1)システム
    (2)フレーバー
    (3)ボリューム


     この考え方の提唱者は,私です。こうした分析方法や考え方はすでにいろいろあるのですが,私はいいのを知らないので,これを使います。
     こういう風に分けておくと,作りかけのゲームや,完成したゲームのいったい何がまずかったのか? というような分析がやりやすくなります。

     では,1つずつ解説していきましょう。

    (1)システム
     仕様とプログラムで構成される部分,データを再生する部分,そういったものを「システム」と呼びます。
     システムはゲームの根幹で骨組みです。だいたい,「システムは前回の使い回しで!」と言っている人の頭の中には,ルールやプログラムで表現されるもののことが浮かんでいます。

     ノベルゲームのようにボタンを押すだけでゲームが進むものもシステムですし,格闘ゲームみたいなものもシステムです。
     さらに,ゲームのルールに関わらない,ウィンドウの開閉やデータのローディングなども広義のシステムです。

    (2)フレーバー
     スチームパンク風だとか,中世風ファンタジーであるとか。マッチョ&ハードであるとか,ほんわかキモカワ系であるとか,ゲームの雰囲気を指すのが「フレーバー」です。
     あのイラストレーターをメインに据えていこう,あのキャラクターデザイナーがいい,あの原作を引っぱってこよう,音楽はやっぱりあの人がいい,みたいな感じです。「世界観」なども含まれます。

     ゲームのウリはコレコレ,という場合,たいていはこのフレーバーの話をしています。
     システムがウリのゲームはマニアックですが,フレーバーがウリのゲームは多くの人に刺さる可能性があります。

     私は,企画書の最初のページにやたら細かく世界観が書かれていると,そっとシュレッダーにかけたくなるほうでしたが,Apple StoreやGoogle Playのランキング上位のゲームを見てください。まったくシステムに触れてないものが,大量にあります。
     そういう時代がやってきたのです。

    (3)ボリューム
     ゲームのボリュームです。物量。
     100面あるとか,モンスターが255匹いるとか,1年間余裕で遊べるクエスト量だとか。そういう部分です。

     ソシャゲ,ネトゲはプレイヤーに長期間ゲームに滞留してもらって初めて利益になりますし,コンシューマゲームだって発売即中古では初期の売上に響きます。ですから,ボリュームはゲーム商売と切っても切れない感じなんですね。
     ボリューム不足で立ち上げに失敗したネトゲとかソシャゲとか,指折り数えるとムカデの足でも足りないでしょう。

     なぜこの3つに分けるのかというと,それぞれ失敗する場合や,足りないものが違うからです。


    それぞれが陥りやすい罠とは


     ゲームはシステムとフレーバーが車の両輪で,その荷台にボリュームを乗っけて走ります。片輪走行もできないことはない,という感じですが。

     んで,こういう考え方をすると先に述べたとおり,ゲームを作るうえでの要注意箇所が分かります。


    (1)システムでコケる
     システムはバグります。開発失敗もあり得ます。
     どれだけいいフレーバーを用意し,ボリュームを積み上げても,完成しなければ全部アウトです。
     なので,システムはどれだけ注意しても慎重すぎることはありません。「あのゲームを丸パクリしろ!」と言っても,表からは知りえないノウハウみたいなものがあるケースもたまにありますしね。目の前に完成したデバッグ済み完動ソースコードがある場合以外は,まったく安心できません。
     システムでつまずいときは,たいてい豪快にコケます。
     発売できない。公開したらバグだらけで遊べたモノじゃない。みたいなのはココの失敗が原因です。

     開発チームの能力を把握し,「やりゃあできる」と思える企画以外,通しちゃイカンのです。また,予算規模的にできない企画も通しちゃイカンのです。
     開発が初めての人を集めて大作MMORPG作ろうぜ! というのは,やる前から敗北が見えてますし,開発未経験者をアタマに据えても負け率は跳ねあがります。
     こういった「座組の時点で失敗確定」なプロジェクトというのは実はごく普通にあって,ここで勘が働かないと沼に沈むんですね。
     さらに,日本のゲームの開発予算で北米風のゲームを作ろう,ってのも無理です。かけてる予算のケタが違います。

     座組と予算は本当に重要で,ゲーム開発者はたいてい,「このメンツでこの開発期間と予算なら,これぐらいのゲームが作れるな」という勘が働きます。これを見誤るのは死活問題です。
     できないものにチャレンジするのは,人の金でバクチを打つ以上なるべくやめておきたいものですが,今,目の前の仕事を受けないと死ぬ,という場合も少なくないので,結果的に死屍累々になることが多いんです。


     システムでコケる原因はまだあります。最大要因は「横ヤリ」です。
     納品ごとのレビューで「あそこを直せ」「ここを修正しろ」「この機能を入れろ」という注文に素直に従った結果,プロジェクトが空中分解するのを何度も見てきました。
     完成度20%なのにチュートリアルの充実を迫られたり,わざと簡単にしたゲームにハードコアな内容を求められたり,レースゲームだった企画が途中でMMOにさせられたり,横画面のゲームを作ってきたのに,「縦画面にならない?」と情報公開の2週間前に言われたり,わざと失敗させたいんじゃないかとさえ感じられる横ヤリというのは,多々あります。

     これは簡単な話で,「1つ機能を追加したら,その時間でやる予定だった作業が1つできなくなる」んですね。横ヤリは,入れば入るほどクソゲーになりますが,偉い人にはそれが分からんのですよ。

     しかし,どうしても必要な横ヤリというのもあるので,横ヤリを入れるのであるなら,狙いすましたうえで入れなければなりません。そのときは,すでに予算と期間の見直しも考えてあることがベストですね。それがないプロジェクトは,簡単にぶち壊れます。

     以上のように,システムで失敗するのは技術力を見誤るか,プロジェクトをハンドリングする能力に問題がある場合です。
     優秀な人間を一人確保して,その人が舵を切れる立場に置けば,この失敗を回避できます。なんと,回避できるんですよ。


    (2)フレーバー
     フレーバーはバグりません。システムに比べてなんとラクチンなことか。
     ただし,ユーザーに刺さらない場合があります。
     超絶技巧プログラマーが頑張ってすばらしいソースができた。絵もいい。だが世界観が驚くほどしょーもなくて,お客さんにまるでフックしない。

     商売大失敗。

     ありがちなのは,複数人であーだこーだやって,誰にも刺さらない,フックのない,普通に良くある量産品型ゲームになっちゃうことです。
     まあ,量産型ゲームでも十分にコストがかけてあると,それだけの価値があったりしますけど。

    (C)2013 DMM.com/KADOKAWA GAMES All Rights Reserved.
    画像集#006のサムネイル/【島国大和】ゲームを作る立場で,どうやって落とし穴を回避するかを考えるよ。
     しかし,そもそもフレーバーはバクチです。ロジックで煮詰めてもハズレはあります。「アルパカにいさん」とか「にゃんこ大戦争」のヒットをリリース前から読めてたヤツはちょっと挙手しろって話です。
     「艦隊これくしょん -艦これ-」の艦娘だって,ヒットしなけりゃキワモノデザインでしょう。でもヒットすると,あれだけの説得力を持つ。

     こういうフレーバーをどうしようか,というのを偉い人が多数で相談すると,どんどんトガった所がなくなって,つまらなくなったりします。
     鋭い表現というのは,人を不快にさせる部分を含むんですよ。でも,一部の人に熱烈に支持されたりする。「エヴァンゲリオン」のヒットって,あんなのにオーケー出せる人がいないとあり得ないんですね。


     そんなわけで,フレーバーによるゲームの失敗,クソゲー化はもう,プロデューサーが悪いということで終わりです。そういうことにしてほしい。フレーバーはもともとバクチなので,最初から誰かが責任を取る前提でいくしかないと思っています。

     反対に,ここに最大の予算を突っ込んで客を呼べる先生を捕まえられたら,ほかは全部手抜きでも商売になったりしますし。

     本当に愚かしいプロジェクトの進め方をすると,フレーバーの決定が遅れて右往左往し,システムやボリュームにも悪い影響を及ぼすことがあります。
     どうせ決め打ちするしかないんだから,とっとと決め打ちしてくれよと現場はイライラするわけです。


    (3)ボリューム
     ボリュームは,お金と時間があれば絶対に解決できます。時間があればバグも潰せますし,根性も効果があります。自分も若い頃は,徹夜でずいぶんとデータを作りました。
     こういうデータが必要だ,このようにしてくれ,というフォーマットがそろっている状態にして,全員でだーっと埋めてけばいいわけです。
     ボリュームの心配は,どれだけお金と時間をかけていいかの心配だけです。もちろん,悩ましいポイントではありますが,ほかの2つに比べると深刻さが一段下がります。システムのバグは直らない可能性があるし,フレーバーは刺さらない可能性がある。ボリュームは予算と時間の許す限り,やりゃあどうにかなるんですよ。

     これがうまくいかないのは,たいてい,ほかで問題があったときです。
     デザイナーの先生の絵が上がってこない。システム開発に難航していてデータを作れない。予算のしわ寄せを,全部食らった,みたいな。

     上でも触れたように,ボリュームは大変重要ですが,ほかに問題があった場合,どうしても最後に手をつけることになってしまいます。そのため,ゲームのオープン直後,大量にプレイヤーが来てホクホクしていたのに,コンテンツの枯渇によって早期に撤退を強いられる,なんてことが起きたりします。

     反対に,どんなクソゲーでもとりあえずボリュームがあれば,ある程度「もつ」んです。
     つまんないと言いながらも,どこかに引っかかりを感じて続けてくれるユーザーは必ずいますから,その時間的猶予を使って起死回生の一打を放てるかもしれません。
     したがって,ボリュームは本当に重要。しかしどうしても後回しになりがち。
     これは,プロジェクトリーダーが常に目を光らせるしかないですね。


    いったんまとめ


     長かったですが,ここで一区切りです。ゲームを3つの要素に分けて考えてみました。

    画像集#003のサムネイル/【島国大和】ゲームを作る立場で,どうやって落とし穴を回避するかを考えるよ。
     フレーバーの失敗はそれを選んだ奴が悪いし,ボリュームの失敗はプロジェクトのスケジュール管理の失敗です。システムは複合的に大失敗する可能性があって,それを「開発が悪かった」とか単純な理由に還元して納得しがちなんですが,そもそもは舵取りと見積もりと座組の問題です。

     これで,あなたが宝くじに当たり,「よし,ヒットゲームでも開発してみるか」と思ったときに考えなければいけないことが分かりました。

    (1)まず,システムの制作工数を見積もれる有能な人を捕まえる
    (2)ヒットするフレーバーを作れる人を捕まえる
    (3)ボリュームを用意できるだけの期間と予算を与える


     あとは「横ヤリは入れれば入れるだけクソゲーになります。偉い人にはそれが分からんのですよ」をキモに銘じておけば大丈夫なんじゃないでしょうか。
     この「横ヤリがなぜ入るか」についてですが,長くなってしまうので今回はオミットしてます。編集部が許せば,それも公開したいな。

     なんにせよ,ゲーム開発者以外が見てもまったくピンとないうえに,ゲーム開発者が見ると「そんなことは知ってるわ」という内容なので,こんなの書いていいのだろうかと,悩み抜いて半年ぐらいかけて熟成されたテキストです。いかがでしたでしょうか。放置してたともいいますが。

     それじゃあ今回はこのへんで。ありがとうございましたー。

    ※2013年12月13日追記:横ヤリはなぜ入るのかについて,掲載しましたよ

    【島国大和】ゲームはこうしてダメになる。横ヤリ刺さって死屍累々。


    ■■島国大和■■
    有名ゲーム系Blog「島国大和のド畜生」の管理人で,不景気の波にもがく,正体はそっとしておいてほしいゲーム開発者。最近,とにかく「艦隊これくしょん」が羨ましいという島国氏ですが,曰く,何よりも「製作者がやりたい事をやりたいようにやった感じがする」ところが羨ましいのだとか。ゲーム制作も仕事(ビジネス)である以上,いろいろな制約のなかで作られるわけですが,ヒットするゲームからは,そこを逸脱する何かを感じるのもまた確かです。かくいう担当編集も,なんでこのゲーム(艦これ)には“データロストの仕様”があるんだろうと驚いたものです。艦これは,そういう“こだわり”が良い方向に働いた好例なんでしょうね。
    • この記事のURL:
    今すぐできる G123のゲーム

    提供:G123

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