レビュー
SATA 6Gbps接続のSSD定番シリーズ,その新型は何が変わったのか
Samsung SSD 860 PRO, SSD 860 EVO
2018年1月24日0:00,Samsung Electronics(以下,Samsung)は,SSDの新製品「SSD 860 PRO」「SSD 860 EVO」(以下順に,860 PRO,860 EVO)を世界市場へ向けて発表した。国内販売代理店であるITGマーケティングによると,国内では2月上旬発売予定とのことだ(関連記事)。
製品名から想像できるとおり,860 PROは「SSD 850 PRO」(以下,850 PRO),860 EVOは「SSD 850 EVO」(以下,850 EVO)を置き換える製品という扱いだ。Samsungはこれまでも約2年周期で製品をリニューアルしてきているので,定例のアップデートといったところだろうか。
860 PROはSerial ATA(以下,SATA)6Gbs接続で2.5インチHDD互換形状を採用するタイプのみ。860 EVOはSATA 6Gbps接続の2.5インチHDD互換形状とは別に,mSATA,SATA 6Gbps接続で物理形状がM.2という3タイプ展開になる(関連記事)。
では,そんな最新モデルで,SamusungのSATA 6Gbps接続型SSDは何が変わったのか。今回4Gamerでは,2.5インチHDD互換形状かつ容量500GBクラスの製品をSamsungの販売代理店であるITGマーケティングから貸し出してもらえたので,性能を明らかにしていきたい。
フラッシュメモリとSSDコントローラを刷新した860シリーズ
そんなSATA 6Gbps接続型SSDの新世代モデルである860 PROと860 EVOは,従来のSSD 850シリーズと同じく,フラッシュメモリとしてSamsung製の3D V-NANDを採用する製品になる。上位モデルとなるPROでは2bit MLC(Multi-Level Cell)を,下位モデルのEVOでは一般に「TLC」(Triple-Level Cell)と呼ばれる3bit MLCを採用するという点もまた,従来製品と変わっていない。
そして同時にSSDコントローラも新しくなった。SSD 850シリーズでは,850 PROの全モデルと850 EVOの容量1TBモデルで2世代前の「MEX Controller」,850 EVOの容量500GB以下で1世代前の「MGX Controller」を採用していたが,今回のSSD 860シリーズは全製品が新型の「MJX Controller」に変わっている。
MJXのプロセッサコア数や動作クロックといったスペック概要は残念ながら明らかになっていないが,Samsungは「最新世代の3D V-NANDへ最適化を果たすべく再設計した」と述べているので,3D V-NANDの刷新に合わせた世代切り換えという理解で良さそうである。
860 PROは容量256GB,
保証期間は860 PRO,860 EVOともに5年。860 PROは850 PROの10年から半減してしまっている――860 EVOは従来モデルと変わらず――ので,ここが気になる人もいると思うが,ITGマーケティングによると,これは期間よりもTBW(Total Byte Written:製品寿命までに書き込めるバイト数)を重視した結果だそうだ。たとえば容量512GBモデルだと従来300TWだったのが860 PROでは倍の600TBになっているなど,信頼性には十分な自信があるとのことである。
Samsungによると,860 PROではとくに,小さいQueue Depth(以下,QD)の性能が大きく向上したとのこと。QDというのは「ストレージに対するコマンドキューの深さ」のことで,Serial ATA Revision 2.5以降,現在のRevision 3.0世代も含め,仕様上の最大は32となっている。
コマンドキューにコマンドを先送りしておいて,ストレージデバイス側ではそのコマンドを実行しやすい順に処理することで性能を上げる仕組みである。
一方の860 EVOでSamsungは,従来世代と比べて耐久性が向上したことをアピールしている。TBWは容量4TBモデルで2400TBだが,これは850 EVOの最大容量である1TBモデル比で8倍という数字だ。今回入手した容量500GBの300TBというTBWも,同容量の前世代モデル比で2倍になっている。
今回は分解して内部を調べることもできなかったので,さっそく性能検証に入っていきたい。
同容量帯の従来製品と性能を直接比較
テストのセットアップを説明しておこう。今回,比較対象としては,850 PROの容量512GBモデルと850 EVOの容量500GBモデルを用意した。
そのほかテストに使用した環境は表3のとおりだが,ここで注意してほしいのは,テスト機のUEFI(=BIOS),そしてWindowsレベルにおける「CPUの脆弱性対策」が完了済みとなっていることだ。
1月11日の記事でお伝えしているとおり,Microsoftは「CPUの脆弱性対策を行うことでI/O性能が低下する」としている。ここで言う「I/O」は主にストレージのことを指しており,本稿で行うような「SSDのベンチマーク」も,まさに性能が低下する項目の1つである。
なので,本稿におけるテスト結果は,脆弱性関連の問題が明らかになっていなかった過去のSSDレビューとスコアを直接比較できない。この点はあらかじめお断りしておきたいと思う。
なお,SSDのテストではいつものことだが,テスト対象のSSDは起動用のCドライブではなく,Dドライブとして接続する。後段で取り上げる「PCMark 8」の「Expanded Storage」は未フォーマットのストレージに対してしか実行できない仕様だったりもするので,当然の選択ではあるのだが,念のため押さえておいてほしい。
CrystalDiskMarkだと有意なスコア差は出てこない
まずは定番のストレージベンチマーク「CrystalDiskMark」(Version 6.0.0)からだ。
CrystalDiskMarkはバージョン6世代でテスト項目が刷新となった。具体的には,QD=1の逐次アクセスが廃止になって,代わりに「QD=8,スレッド数8」の4KiBランダムアクセスのテストが追加になったのだ。CrystalDiskMarkの公式blogによると,NVMeに対応する一部のSSDは高いスペックを持つため,「QD=32,スレッド数1」の設定では十分な性能を発揮できず,スコア差が出にくくなったための措置だそうである。
なお,CrystalDiskMarkのテスト設定は,Kingston Technology製SSD「KC1000 Solid-State Drive」のレビューで採用した「テスト回数9回,テストサイズ8GiB,テストデータランダム」とした。この設定で5回,CrystalDiskMarkを実行し,得られた値の平均をスコアとして採用することになる。
以下,グラフ中ではスペースの都合上,スレッド数を「T」とのみ表記するが,グラフ1はQD=32かつスレッド数1という条件における逐次アクセスのテスト結果だ。ご覧のとおり,新旧2世代でスコアに揺らぎなしといった結果である。SATA 6Gbpsの逐次アクセスはすでにインタフェースの上限に達してしまっており,世代による有意な変化もほとんどない。なので比べるまでもない印象である。
続いてグラフ2は,新たに追加となった,QD=8,スレッド数8という条件におけるランダムアクセスの結果だが,ここでもスコア差はほとんどない。強いて言えば,ランダム読み出しで860 PROのスコアが850 PRO比で約0.6%上昇しているが,有意な違いかと言えばかなり微妙だ。
グラフ3はQD=32,スレッド数1の条件におけるランダムアクセスのスコアをまとめたが,やはりここでも有意な違いは出ていない。
最後のグラフ4はQD=1,スレッド数1という条件の結果となる。前述したとおり,Samsungは860 PROにおいてQD=1の性能が向上したとアピールしているわけだが,ランダム読み出し性能を見ると,860 PROのスコアは850 PRO比で約0.5%高いだけだ。むしろ860 EVOで850 EVOより約1.6%高いスコアを示していることのほうが目を惹く。
しかもランダム書き込みだと,860 PRO,860 EVOのいずれも,前世代比でわずかながらスコアが落ちてしまっている。少なくともCrystalDiskMarkで比較する限り,Samsungが謳う「QD=1における性能向上」は確認できない。
なお,NVMe対応のSSDではテストを重ねるごとに逐次アクセス性能が落ちていく傾向が出たりもするが,今回のテストで,5回のCrystalDiskMarkの試行中に大きな揺らぎは見られなかった。その点では安定していると言っていいだろう。
SSD 860シリーズ前世代比でI/O性能が向上
次は,「Iometer」(Version 1.1.0)を用いたテストだ。
Iometerは,設定したアクセスパターンを使ってストレージに高い負荷をかけ,性能をテストするベンチマークで,I/O性能を確認することができる。
テスト時間は1時間。総合スコアとしてのIOPS(I/O Per Second)値とは別に,スタート直後1分間のIOPS値と終了時1分間のIOPS値を比較する。激しいディスクアクセスを1時間続けることにより,IOPSがどのくらい変化するのかを見ようというわけだ。
その結果はグラフ5のとおり。860 PROは850 PROに対して総合スコアで約15%高い結果を示した。また850 EVOでテスト終了直前の1分間におけるIOPSがテスト開始直後の1分間と比較して約95%まで落ちているのに対し,860 EVOではむしろ約2%高いスコアを示している点も注目しておきたい。1時間にもわたって激しいディスクアクセスを行うと,850 EVOでは有意な性能低下があるのに対し,860 EVOではそれがなく,860 PROや850 PROと同じような傾向を示しているのである。
というわけで,短時間のテストで性能を見るCrystalDiskMarkだと前世代モデルに対する優位性を見せられなかったSSD 860シリーズだが,長時間かつ高負荷のアクセスを行うことで,顕著な違いを見せることが分かる。
Expanded Storageでは明らかな改善が見られるSSD 860シリーズ
ここからはPCMark 8(Version 2.8.704)のExpanded Storageを見ていきたい。
Expanded Storageについては,「HyperX Savage Solid-State Drive」のレビュー記事で詳しく説明しているので,基礎的なところから把握したい人はそちらを参照してもらえればと思うが,簡単に紹介しておくと,「Consistency test v2」と「Adaptivity test」という2つのテストから成るベンチマークである。
Consistency test v2は,以下に挙げる3フェーズで構成される。
- Degradation pass(劣化フェーズ):テスト対象のストレージに大量のランダムデータを書き込み,SSD内部においてデータの再配置が起こりやすい状況を作ったうえで,さらにランダムデータの量を毎回増やしながら,合計8回のストレージテストを行い,「再配置が多発している状況での性能低下」を調べる
- Steady state pass(安定化フェーズ):一定量のランダムデータを書き込んだうえで,やはりストレージテストを5回実行し,劣化の度合いが最大になった状態での性能を調べる
- Recovery phase(修復フェーズ):適切なインターバルを置きつつ,ストレージテストを5回実行し,「性能が低下した状態からどの程度回復するか」を調べる
一方のAdaptivity testでは,上のRecovery phaseに相当するテストを10回繰り返し,ストレージにとっての性能を発揮しやすい環境におけるPCMark 8のストレージテスト結果を求めるものになっている。
というわけで,Consistency test v2の結果を見ていくことにしよう。グラフ6は,Consistency test v2におけるStorage testの平均帯域幅変化をプロットしたものだ。一般的には,Degradation passで性能が徐々に低下していき,Steady state passで最も低くなり,Recovery phaseに入ると性能が徐々に回復するというパターンを示すが,SSD 850シリーズと比べると,SSD 860シリーズではDegradation passからSteady state passに至る平均帯域幅の低下が抑えられているのが分かる。
850 PROでは最小で129.55GB/s,850 EVOでは最小132.97GB/sなのに対し,860 PROは194.47GB/s,860 EVOだと176.00GB/sなので,違いは明白である。
また,850 PROではRecovery phaseに入っても帯域幅が戻らない傾向を見てとれるのに対し,860 PROではおおむね300MB/s前後に回復している点にも注目しておきたい。やや上下動が大きく回復が安定しない傾向は見られるものの,150MB/s前後から回復しない前世代の850 PROとの違いは明らかだ。
続いて,高負荷環境下において体感性能がどの程度下がるかの目安を知るべく,Adobe製の写真加工アプリケーション「Photoshop」を使った,負荷の高いワークロード「Photoshop heavy」を使って,平均ストレージアクセス時間の変化を見ていきたい。
グラフ7は読み出し時の平均ストレージアクセス時間をプロットしたもので,縦軸はms(ミリ秒)だ。結果を見ると,860 PROの安定感が群を抜いている。スコアは0.32〜0.33msと,ほぼブレていない。850 PROも0.37〜0.39msの範囲内に収まっているが,それと比べてアクセス時間が短くなっているのが見どころだ。
860 EVOは,Degradation pass 8でのみ0.43msを記録するものの,850 EVOと比べると安定感が増しており,またアクセス時間も短くなっている。
Photoshop heavyを使って,書き込み時の平均ストレージアクセス時間をプロットしたものがグラフ8となる。
ここにおいて新旧モデルの違いは明らかだ。SSD 850シリーズだとDegradation passからSteady state passに至る過程で10msを大きく超えてくるのに対し,SSD 860シリーズはワーストケースでも6ms強に留まっている。
付け加えると,850 PROのみ,Recovery phaseに入っても平均ストレージアクセス時間が9ms台で留まるが,850 PROだけ2世代前のコントローラを採用している事実を踏まえるに,これはコントローラの世代が生んだ結果という可能性が高そうである。
グラフ9は,Consistensy test v2で実行される合計18回のStorage testから,最も高いスコア(Best score)と最も低いスコア(Worst score)を抜き出したものだ。
ベスト比のワーストスコアを見てみると,860 PROと860 EVOはいずれも約96%。850 PROは約97%で,850 EVOは約91%だった。EVOの2モデルについて言えば,新世代のほうが旧世代よりも性能低下量が改善している。
平均ストレージアクセス時間の違いを見ると,総合スコアにもっと違いが出てもいいような気はするので,その点では不思議なスコアだとも言える。
最後にAdaptivity testの結果もまとめておこう。グラフ10はAdaptivity testで実行されたStorage test合計10回のスコア平均を,グラフ11は平均帯域幅をそれぞれまとめたものだ。どちらも「良好な環境でPCMark 8のStorage testを実行するとこの程度のスコアが出る」という目安になる。
もっとも,グラフ10の総合スコアはほとんど横並びで,スコアから何かを語るのは難しい。
一方,有意な違いが見られるのがストレージの平均帯域幅だ。860 PROは850 PROに対して約10MB/s,パーセンテージにして約3%上がっており,まずまずの向上が見られると言っていい。
気になるのは,860 EVOが最低スコアを示しているところだ。しかも誤差レベルではなく,850 EVO比で約95%と,明らかに低いが,なぜこういう結果になっているのかは,正直なところ分からない。
大きなインパクトはないものの,性能面の安定性が向上した点を歓迎できる新モデル
発表時点の価格で比較すると,容量512GB版860 PROの価格は同850 PRO比で1万円安価になり,容量500GB版860 EVOの価格は1万3000円安価になった。どちらかというと,流通在庫のみになりつつあるSSD 850シリーズの,2018年1月23日現在の実勢価格に近い“初値”設定である。
とはいえ,少なくとも容量512GB版860 PROの価格は,SATA 6Gbpsかつ容量500GBのSSDとしては,かなり高額な部類に入る。なので万人向けとは言えず,SATA 6Gbpsで安定した高い性能と5年保証を求める人向けという位置づけになるのではなかろうか。
一方の860 EVOもミドルクラスのSSDと考えるとやや高めの価格設定だが,他社のハイエンド品と比べて抑えた価格でもある。5年保証という安心感もあるので,ミドルハイくらいの速度と,性能面の安定性を求めるユーザーであれば,検討に値する製品と言えそうだ。
SamsungのSSD製品公式Webページ
※お詫びと訂正
初出時,保証期間について「保証期間はどちらも5年で,ここは従来モデルと変わらない」としていましたが,誤りでした。お詫びして訂正いたします。
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