連載
【西川善司】4Kテレビをディスプレイとして選ぶときに理解しておきたい「倍速駆動」の話。「多画面環境2017」の話題を添えて
西川善司 / グラフィックス技術と大画面と赤い車を愛するジャーナリスト
(善)後不覚 |
西川善司が「大画面と多画面。どちらか好き方を一方だけ選べ。さもなければ地球を滅ぼす」と宇宙人に脅されることがあれば,申し訳ないですが,地球は宇宙の藻屑になります。
そのくらい両方が好きなボクですが,現在,自宅の仕事場は,1台のPCに7画面を接続した環境になっています。これは,WebサイトやPDFファイルといったさまざまな資料を1画面ごとに1つずつ表示しながら仕事をすることが多いためです。
前回この多画面ネタをやったのは2014年ですが,今回は久々に,そんな多画面環境刷新のお話をしようと思います。
……と同時に,知らない人がまだ多い,「倍速駆動」と「遅延」の関係性についても解説してみましょう。
「倍速補間フレーム挿入対応なし」が選択のポイントになり,40M510Xを購入
以前使っていたのも40インチ4Kモデルとなる「40J9X」でしたが,バックライト不調となってしまったので,実質的な後継機である40M510Xを選択しています。
4Kテレビを視距離50cm程度で「液晶ディスプレイ」として使う場合,35〜37インチ程度が視野角的にベターだと思いますが,40インチは「大きすぎない画面サイズ」としてギリギリ容認できるという感じです。
現行モデルで「40インチの4K」となると,東芝レグザでは40M510Xだけなのです。他社を見ても4Kテレビの最小画面サイズは40インチで,35〜37インチの選択肢はまずありません。
「40インチ,4K」という括(くく)りで言うと,たとえばシャープAQUOSの「LC-40U45」あたりもあるでしょう。ではなぜなぜ40M510Xを選択したかといえば,やはり定評ある低遅延性能がゆえです。
40M510Xは,超解像処理を含めても表示遅延は公称約5.8ms。60fps換算で約0.35フレームの遅延で済みます。これは4Kテレビとしては業界最速レベルです。また重要なことに,このスペックは4Kだけでなく,2560
あともう1つ,4Kテレビでありながら「倍速補間フレーム挿入対応なし」というのも選択のポイントになりました。倍速駆動「あり」ではなく「なし」をあえて選んだということです。
「倍速駆動」は「倍速」というキーワードが含まれているので,速そうなイメージがありますが,「遅延」という観点からいうと,実際にはそうでもありません。
どういうことでしょうか。
最低でも1フレームは遅延してしまう「倍速駆動」対応テレビ
テレビ&ディスプレイ業界では,毎秒60コマ(≒60fps,60Hz)表示を基準としていることを知っている人は多いと思います。映画などだと,毎秒30コマだったり24コマだったりすることもありますが,(特殊機能を備えた一部製品を除けば)毎秒60コマに変換して表示される仕様です。
倍速駆動は,この毎秒60コマの表示サイクルを,2「倍」である毎秒120コマへ拡張するものになります。
現在,PCゲームを除けば,民生向けに流通している映像コンテンツで毎秒120コマのものはほとんどありません。なので,毎秒60コマからなる映像を毎秒120コマへ拡張するにあたっては,中間画像を映像プロセッサでリアルタイムに算術合成して表示する必要があります。この中間画像を,実体のあるフレーム(以下,実体フレーム)との兼ね合いで「補間フレーム」と呼んだりします。
このあたりの流れをまとめたものが下の図です。
補間フレームの合成処理に取りかかるためには,あるフレームの全データと,その次に表示する全データが必要です。
最もシンプルなのは「両フレームが揃ってから補間フレームの合成処理に取りかかること」ですが,そうなると遅延があまりにも大きくなってしまいます。そのため,“見切り発車”で合成処理を仕掛けるのが最新世代の映像プロセッサにおける設計トレンドとなりました。
つまり,これから表示する実体フレームのデータが半分(ディスプレイデバイスの外から)やってきたら,その時点で合成処理に取りかかり,さらに,補間フレームの表示も同時進行で行うのです。これなら,次の実体フレームのデータがすべて届いた時点で,補間フレームの表示も完了している計算になります。
このとき注意が必要なのは,上の図でも分かるように,倍速駆動では「実フレームの全データが揃って,やっと実フレームの表示が始まる」ところです。補間フレームを駆使して倍速駆動を実現するテレビやディスプレイにおいて,表示遅延は必ず,最低でも1フレーム以上生じてしまうんですね。
倍速駆動対応ディスプレイデバイスは,補間フレームをキャンセルしても,0.5フレームの遅延から逃れられない
では,もし補間フレームの合成をやめたらどうなるでしょうか。実際,最近のテレビ製品では「ゲーム」モードなどを選択することで補間フレームの合成を無効化できるようになっています。
倍速駆動対応テレビやディスプレイで,補間フレーム表示の機能をキャンセルするということは,すなわち,補間フレームは生成せず,やってきた映像データを最短時間で表示を仕掛けるということです。
その動作を示したものが下の図ですが,ご覧のとおり,表示は0.5フレーム遅延してしまいます。なぜこんなことになってしまうのでしょう。
忘れてはならないこことして,「倍速駆動テレビにおいて,映像パネルは,60Hz比で2倍となる120Hzの速度で駆動されている」点が挙げられます。なので倍速駆動の映像パネルだと,毎秒60コマの映像データがやってきた瞬間から表示を仕掛けた場合,映像データが半分やってきた時点で表示メカニズムは映像データの伝送よりも早く表示を終えてしまうんです。もちろん,それを放置すると,倍速駆動させた時点で映像は画面の半分にしか表示されなくなってしまいます。これはマズいですよね。
そこで逆算して,倍速駆動で補間フレームを生成しない場合には,毎秒60コマの映像データが半分揃ったあたりから(=0.5フレーム分の時間が過ぎたタイミングから)表示を仕掛けるようにしてあるのです。これなら倍速駆動の映像パネルでも,ちゃんと画面全体を表示することができます。
ただこれを遅延の観点から見れば,毎秒60コマの映像が0.5フレーム分やってきたときから表示が始まる以上,倍速駆動対応テレビは,補間フレーム機能をキャンセルしたとしても,表示原理上0.5フレームの遅延が避けられないということになるのです。
まとめると,「倍速駆動モデルに残像低減の効果はあるものの,その分遅延がある」ということです。
つまり,低遅延だけを重視して,ディスプレイ用途でテレビを選ぶ場合は,倍速駆動に対応しない,等倍速(?)テレビの方がいいことになります。
とはいえ,1フレーム未満の遅延,たとえば0.5フレーム遅延などは,実際のゲームプレイではほとんど無視できるレベルです。なので,倍速駆動テレビでも,補間フレームを無効化したゲームモードを利用して,1フレーム未満の低遅延性能を実現している製品を選べば,体感的な遅延はほとんどないとも思います。
おわりに
ちなみに40M510X,2014年モデルの40J9Xで未対応だったHDRや広色域にちゃんと対応しているというのも,製品選びにおいてはポイントでしたが,もともと想定していなかった部分で気に入ったところもあります。
それは,40M510Xが,最近のテレビにしては珍しく,フロントスピーカー仕様だということです。
もちろん音楽を聴くなら専用のスピーカーセットを設置したほうがいいのですが,40M510Xの搭載する内蔵スピーカーは出力10W+10Wという仕様で,しかも最近の薄型テレビによくある下向き出力ではなく,ユーザーのほうを向いた実装なので,けっこうしっかりとした音が鳴ります。一般的なPCスピーカーと比較しても悪くないと思います。
また,このスピーカー前面実装のおかげで,画面の下辺が40J9Xより5cmほど高い位置に来ます。ボクの使用環境だと,40J9Xは画面が下すぎる印象があったので,個人的には,液晶ディスプレイとして使いやすくなったという印象を持ちました。
40J9Xには映像制作現場のリファレンスモニター画調を模した映像モード「マスターモニターモード」があったのですが,これが40M510Xではカットされてしまいました。
そんなわけで,いま40M510Xでは「PCモード」を選択して,バックライトをデフォルトの60設定から40に下げて設定して使っています。
バックライトシステムは40J9Xだと全面直下型LEDバックライトシステムでしたが,40M510Xはエッジ型LEDバックライトシステムになっています。もっとも,40J9Xもエリア駆動には対応しないモデルだったので,実質的なスペックダウンにはなっていません。
液晶パネルは40J9Xも40M510XもVA型です。液晶ディスプレイ的に使うため,斜め方向からは見ないので,視野角に依存した色変移はほぼ無視できますし,VA型特有のネイティブハイコントラスト性能がむしろ心地よい感じです(※ネイティブコントラスト性能はIPS型のほうが圧倒的に低い)。
冒頭で示した写真の説明をしておくと,40M510Xの上にはDCI-4K(4096
左は下からEIZO製で24.1インチ,解像度1920
PCの仕様も実は今年刷新したのですが,そのあたりの話題はいずれ回を改めてお伝えできたらなとは考えています。ちなみに搭載するGPUは「GeForce GTX 960」と「GeForce GTX 750」で,前者が4画面,後者が3画面をそれぞれ担当しています。
最後の最後に,価格についても簡単に。
M510Xシリーズは,3チューナー2番組同時録画にも対応した本格的な4Kテレビでありながらも,相対的には安価なところが魅力です。ボクが買った40インチモデルだと実勢価格は8万8000〜10万5000円程度(※2017年9月16日現在)。50インチモデルの「50M510X」で11万〜13万7000円程度(※同),58インチモデルの「58M510X」で14万8000〜18万円程度(※同)となっています。ディスプレイとしては断然40インチモデルを推しますが,あえて大きいサイズというのもアリかもしれません。
■■西川善司■■ テクニカルジャーナリスト。PlayStation 4で「アケアカNEOGEO」ダウンロード配信が始まって,最近はよくプレイしているという西川氏。なかでも「R-TYPEクローン」と呼ばれる「パルスタ−」を半月練習してノーコンティニュークリアできるようになったそうです。「この時代の宇宙モノ2Dシューティングは,黒主体の背景が多いので有機ELテレビとの相性がいいんだよね。この前評価用に借りた有機ELテレビでは映画の視聴時間と同じくらいパルスターをプレイしてしまったくらい」と,嬉々として語り,こさえたという実況ムービーリンクも教えてくれましたが,そうですか,それが原因で依頼している原稿が全然届かないわけですか。 |
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