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[GDC 2017]次世代「Vive」は視線追跡対応に? TobiiとValveの提携で生まれた視線追跡機能付きVR HMDを体験してみた
GDC 2017の会場でTobiiは,視線追跡機能を組み込んだHTC製のVR HMD「Vive」を使ったデモを公開しており,筆者も体験する機会を得た。そこで本稿では,Tobiiの視線追跡技術を組み込んだVR HMDで,どんな体験ができるのかをレポートしたい。
ゲーム業界の注目を集める視線追跡技術の大手
Tobiiとは,2001年に起業した視線追跡技術を専門に手がけるメーカーで,専門性の高い業務用機器から,PCに組み込む内蔵型センサー,そして「Tobii Eye X」や「Tobii Eye Tracker 4C」といった一般消費者向けのPC用センサーデバイスまで,様々な視線追跡技術の製品を販売しているスウェーデンの企業である。
PC用の視線追跡デバイスを,ゲーム分野に応用しようと積極的に取り組んでいたこともあって,ここ4年ほどは,ゲーム業界から熱い“視線”を投げかけられていた企業だ。
この視線追跡技術が,VR技術の発展にともなって,一層の注目を集めている。たとえば,「VR元年」とも言われた2016年には,Oculus VRの親会社であるFacebookが視線追跡技術を手がけるThe Eye Tribeを,Googleが同様にEyefluenceという企業を買収しており,自社のVR HMDプラットフォームに視線追跡技術を組み込もうと取り組んでいる最中だ。
また,日本をベースに活動するFOVEは,視線追跡技術を標準搭載する開発者向けVR HMD「FOVE 0」のプレオーダーを行っている。VR業界のメジャープレイヤーたちが,視線追跡技術をVR HMDに取り込むのは自然な流れであると捉えているのは間違いない。そうした流れの中心にいる企業がTobiiなのだ。
Tobiiは,2014年にUnityと提携してソフトウェア開発キットをリリースして以降,着実に対応ゲームを増やしてきた。最近の事例では,Ubisoft Entertainmentの「Tom Clancy's Ghost Recon: Wildlands」や「Watch Dogs 2」,スクウェア・エニックスの「Rise of Tomb Raider」や「Deus Ex: Mankind Divided」,あるいはWarner Bros. Interactive Entertainmentの「Dying Light」といったAAAタイトルが対応するなど,本稿執筆時点で50タイトルほどのゲームが,Tobiiの視線追跡技術をサポートしている(関連記事)。
GDC 2017でTobiiは,開発費の出資を含む総額50万ドル規模のゲーム開発者向けサポートプログラムを,VR向けにも展開することを発表しており,より多くのゲームスタジオによる対応が期待されるところだ。
次世代のViveは視線追跡技術を標準搭載?
そんなTobiiがGDC 2017会場に用意したブースでは,Viveに視線追跡技術を組み込んだ技術デモが公開されていた。
デモに使っていたViveは,外観は市販のものと変わらない。違いは内側にあり,映像を覗き込むレンズの周囲に,赤外線を発するLEDが取り付けられていた。このLEDが発した赤外光は,装着者の瞳孔に反射するので,その反射光をHMD内部に組み込んだ赤外線センサーで捉えるという仕組みである。
外側から目視した限りでは,赤外線LED以外に改良が加えられた部分は見当たらず,とくに重さが増えた様子もなかった。
なおVon Bergen氏は,赤外線LED以外にも内部に埋め込むべき機器は存在するので,既存のViveに後付けできるような視線追跡デバイスを製造,販売する予定はないとも述べていた。
視線追跡技術対応のデモ機を体験するときは,まず最初に,体験者ごとに異なる瞳孔の位置と動きに合うようにセンサーを調整する「キャリブレーション」の作業を行う。Tobiiに限らず,視線追跡デバイスを正しく使うには,この作業が欠かせない。
といっても,キャリブレーション作業自体は簡単で,VR空間に表示される点に視線を合わせていくだけ。時間にして1分もかからないものだ。
Von Bergen氏に聞いたところ,厚ぼったい瞼をした人や,斜視の人でも,かなりの精度で対応できるとのこと。「我々はもう15年以上も(視線追跡技術の)研究を続けており,自信があるからVR市場への参入も決めたのです」と,氏は誇らしげに語っていた。
デモ用のViveを被って映像を見ると,自分の左右に鏡が置かれていて,そこにアニメ調のアバターが表示されていた。左側の鏡に映るアバターは,視線追跡を行わず,右側は視線追跡を行うようになっている。左側は既存のVR HMDで得られる体験で,右側が視線追跡技術により実現できる体験と理解すればいい。
左のアバターに目を向けると,筆者の動きに応じてアバターの頭も動くのだが,目は大きく見開いた状態で固定されたままだ。一方,視線追跡を行う右側のアバターは,筆者が見ているところに,アバターも視線を合わせるように目を動かすのである。これは,鏡を覗き込んでアバターを見つめた瞬間に,「何か,これまでのVRデモとは違う」と感じさせるほどのインパクトがある。
目を素早くグルグル動かしたり,まばたきやウインクをしたりしてみたが,そうした動きもきちんと認識して,アバターの目が同じように動いていた。Tobiiでは,視線の角度にして誤差1度という精度を最終的に目指しているそうだ。
2つめのデモは,農場のような場所にいくつもの瓶が置かれているので,それに向かって石ころや宝石を投げつけるという,単純だがインタラクティブなデモだ。
石を投げる操作には,Viveのワンド型コントローラを使う仕組みで,トリガーボタンを押すと石を握り,視線で目標を定めて,トリガーボタンを離せば投げる。投げた石は,視線を向けている場所に飛んでいくため,狙う瓶をじっと見ているだけで,ほぼ百発百中でヒットさせることができた。
かなり遠い場所に置かれた瓶にも当てられたし,遠くに投げた宝石に視線を合わせると,飛んで手元に戻ってくるという具合で,すでに視線追跡の精度はなかなかのものだ。
キャリブレーションから2つのデモと,筆者は体験できなかったガンシューティング風のデモをまとめた動画を掲載しておこう。視線の注視点そのものは画面に描かれないのだが,どこを見て何をしているのかは,把握できるかと思う。
Tobiiはゲームスタジオではないので,体験できたデモは,極めて単純なものだけだ。しかし,すでに視線追跡技術に対応したVRゲームの開発に取り組んでいるゲームスタジオもある。
Against GravityというゲームスタジオがSteamでアーリーアクセス版を公開している「Rec Room」(関連リンク)というゲームがその一例だ。西部劇の酒場のような場所でポーカーするキャラクターたちが,視線を使った心理的駆け引きをしているような短い映像も公開されている。
SteamVRに関連した話題では,LG ElectronicsがGDC 2017で,SteamVR準拠のVR HMDを発表している。今後はTobiiも,これらハードウェアメーカーの協力を得て,開発用機材などをリリースしていくことになるだろう。それほど遠くない将来には,「VR世界は視線追跡で入力」が,ごく当たり前のものになっていく可能性が高そうだ。
Tobii Technologyのゲーマー向け製品公式Webサイト(英語)
SteamVR 公式Webページ
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