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ダミーヘッドを用いた計測で明らかにする,ゲーマー向けヘッドセット46製品の音質(1)出力品質を計測するということ
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印刷2016/10/06 00:00

レビュー

ダミーヘッドを用いた計測で明らかにする,ゲーマー向けヘッドセット46製品の音質(1)出力品質を計測するということ

 4Gamerのゲーマー向けヘッドセットレビューではこれまで長らく,「入力」すなわちマイク性能のテストこそ,周波数特性および位相特性の計測と入力した音声データの試聴を組み合わせていたものの,ヘッドフォン性能を見る「出力」テストでは,筆者(=榎本 涼)の試聴,つまりは主観のみに頼ってきた。

 これはもちろん,面倒とかいう話ではなく,ヘッドフォン出力の計測手段を,筆者も4Gamerも有していなかったのが理由である。「出力を数値化して,マイク入力ともども,客観評価できるようにしたい」というのが,4Gamerヘッドセットレビュー班――筆者と担当編集の2名だけだが――の,長年の希望であり,また野望でもあった。

ダミーヘッド
画像集 No.002のサムネイル画像 / ダミーヘッドを用いた計測で明らかにする,ゲーマー向けヘッドセット46製品の音質(1)出力品質を計測するということ
 ……という書き出しをすれば,ピンときた人も多いだろう。そう,4Gamerではついに,ヘッドセット&ヘッドフォンの周波数特性を計測するのに欠かせないツールである「ダミーヘッド」(ダミーヘッドマイク)を入手できたのだ。継続的にヘッドセットレビューで客観評価を行える環境を構築できたのである。
 これを記念して,今回,ゲーマー向けヘッドセット合計46製品を,メーカーおよび販売代理店からお借りし,一度に全製品の周波数特性を計測し,それをご覧に入れようということになった。内部的には「祝! ダミーヘッド購入記念 ヘッドセット周波数特性比較大会」と呼んでいたりもするが,ともあれ今回は,本稿を入れて全5回という大ボリュームで,ゲーマー向けヘッドセットの出力品質計測結果をお届けしよう。

 記事シリーズの目次は以下のとおりである。

  1. 出力品質を計測するということ(本稿)
  2. 製品検証,ブランド名A〜E
  3. 製品検証,ブランド名H〜Ra
  4. 製品検証,ブランド名Ro〜T
  5. 出力品質で選ぶお勧め製品


なぜヘッドセットの計測にダミーヘッドが必要なのか


 人間の耳がマイクのような“剥き出し”になっていないのは,あらためて説明するまでもないと思う。マイクというデバイスが,人間の耳で言えば「鼓膜が剥き出しの状態」にほぼ等しいのに対し,人間の耳は,かなり複雑に入り組んだ構造になっている耳の中を辿って鼓膜へ辿り着いた音を認識するので,集音結果はマイクとはまったく異なることになる。
 というよりむしろ,「そもそも人間の耳で外界の音を聞いたときの聞こえ方は,マイクで集音した結果とは違う」という理解のほうが正しい。マイクで入力した音は,良くも悪くも人間の耳で聞いたときより特性がずっと良好で,聞こえ方もストレートだ。

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 「ならば」ということで,音響畑の人達が智恵を絞って作り上げた,一種異様な外観のマイクというか録音機器,それが「ダミーヘッド」である。
 「人体のバストアップ模型を用意し,人間で言う左右の鼓膜部にマイクを仕込んで,頭部〜胸部から耳,耳たぶ,耳から鼓膜に至る経路をできるだけ人間に似せてやれば,実際に人間が音を聞くときに近い周波数特性が得られる」という理屈で,これを用いた録音手法を専門用語では「バイノーラル録音」という。
 バイノーラル録音した音をヘッドフォンで聞くと――もちろん人間には個体差があるので,100%完璧ではないが――通常のストレートな録音よりもはるかにリアルな音響特性が得られる。実際,一部のドラマCDなどではバイノーラル録音を活用していたりするので,聞いたことがあるという人もいるのではなかろうか。

 4Gamerでは今後のヘッドセットレビューにおいて,共通のリファレンス信号をヘッドセットから出力し,これを,ダミーヘッド側のマイクで収録のうえ,マイク入力時と同じ手法で解析。周波数特性をグラフ化して掲載し,それを客観評価に用いることになる。今回の大型記事はその記念すべき初回だ。

 とはいえ,「バイノーラル録音用のダミーヘッドなんてものをなぜわざわざ用意するのか」と疑問に思う人もいるだろう。それに対する最も短い回答は,「普通のマイクでは,ヘッドセットが搭載するスピーカードライバーの周波数特性を音抜けなしに計測できないから」となる。

 「音抜け」(おとぬけ)というのは,これまでのレビューでもイヤーパッドに関する言及で出てきた言葉だが,簡単に言えば,ヘッドセットのイヤーパッドが肌から浮いてしまい,そこから音漏れが生じた結果,とくに低周波再生特性が悪くなり,「低音が抜けてしまってスカスカの音になった」状態を指す。

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 ダミーヘッドを使用しないでヘッドセットの音を計測する場合は,よほど特殊なマイクユニットを用意しない限り,音抜けが必ず発生し,周波数特性結果がまったく信用できないものになってしまうのだ。その点,ダミーヘッドであれば,人型の頭部にヘッドセットを装着するため,音抜けの心配は無用になる。
 また,ダミーヘッドであれば,各ヘッドセットが持つ側圧(=左右から押さえつける力)の強弱によって生じる,実際に人間が装着したときの音抜けがどの程度か分かるというメリットがある。

 結局のところ,ヘッドセット(やヘッドフォン)は,スピーカーセットよりずっと近い距離で,人間が装着した状態で音を再生する前提の音響再生機器である。であれば,人間が装着し,人間の耳が持つ,複雑かつ直線的ではない音の伝達経路を経由して鼓膜に届いた状態で計測を行い,評価をすべきなのである。
 ではなぜ4Gamerは今までそれをやってこなかったかというと,それはもう,どこまでも予算の都合なのだった。


国産ダミーヘッド「SAMREC」の導入


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 そんな折,面白い製品を見つけた。それが国内のプライベートカンパニーであるサザン音響の「SAMREC」(サムレック)というダミーヘッドだ。これまでダミーヘッドと言えば,品質はひとまず脇に置いて自作するか,独Neumann(ノイマン)製の業務用製品を導入するしかなかったわけだが,SAMRECは少なくとも一定の品質を得られそうで,かつ,価格は競合製品と比べても圧倒的にこなれている。

 そこでさっそく貸出機をリクエストしてテストを行ったところ,ヘッドフォンやヘッドセットによる音響特性の違いをグラフではっきりと確認でき,また,周波数特性グラフと実際筆者が聴いた聴感上の印象がほぼ一致することが分かった。そこで,購入,導入に踏み切ったわけだ。

AKG製ヘッドフォン「K240 MKII」(上)および「K270」(下)に対して実施した周波数特性計測結果。グラフの見方は後述するが,ここで重要なのは,2つでグラフ形状が大きく異なることだ
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Type2700Pro改の製品ボックス
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 もう少し具体的に述べると,製品群の中から,予算に合致するものとして「Type2700Pro」を選んだうえで,BTO(厳密にはCTO)でマイクをバランス入力対応のAKG製「C417PP」へ,出力端子をXLRへとそれぞれ変更した。なので4Gamerではこのカスタム版を,通常版と区別する意味で以後,「Type2700Pro改」と呼ぶことにする。


SAMREC Type2700Pro改を使うにあたっての注意事項


 もちろんすべての計測機器が万能でないように,SAMREC Type2700Pro改も万能ではない。今後,テストで継続的に使うこともあり,注意すべきことをここで述べておきたい。

接続インタフェースはXLRへとカスタマイズした。なお,製品の底面には「SAMREC 2500」というシールがあるが,そもそもType2700Pro自体が,Type2500というベースモデルを業務用信号レベルへ対応できるようにしたカスタムモデルという扱いだったりする
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 まず,なぜType2700Proをそのまま使わないのかというところだが,ミニピン端子を搭載するベースモデルのままだと民生(−10dB)という入力レベルになり,製品によっては収録されるノイズレベルが大きくなって,いきおい,いわゆるS/N比(音声信号と計測される定常的なノイズ信号のレベル差)が低下し,正しい周波数特性を得られない可能性があるからだ。そこで,+4dBのバランス入力(※)に対応するC417PPと,XLR端子を選択したわけである。
 これにより,Type2700Pro改を,筆者の所有する機材とバランス接続できるようになった。

※ケーブルを使って音を伝えるための信号「オーディオ信号」は交流信号なので,家庭用の壁コンセントと同じようにプラスとマイナス,2つの極性を持っているのだが,このときマイナス側の「Cold」はプラス側「Hot」と形が正反対(=逆位相)であるという特徴がある。そこで,HotとColdの信号線(=銅線)をノイズ対策用の保護膜「Ground」で覆い,HotとCold,Groundと3種類の信号でやり取りすることにして信号の相互干渉を減らしたうえ,アンプのところでHotからColdを引く。つまり「プラスからマイナスを引く」ことになるわけだが,そのとき,ある場所でプラス方向にノイズが乗っていた場合,ノイズはHotとColdの双方に等しく乗るため,「プラスからプラスを引く」ことにより,ノイズを無効化できることになる。この理論を基にした接続方法のことを「バランス」といい,実際,ノイズ無効化の効果により,(リファレンス比で)+4dBという,高い入力レベルを実現できるようになるのがメリットだ。業務用機材はほとんどがバランス対応である。なお,いわゆる「オーディオ機器」の多くは,Ground膜にColdの機能も持たせて信号の相互干渉を受け入れ,アンプ側での「プラスからマイナスを引く」処理にも対応しないため,リファレンス−10dBという低い入力レベルになる(が,安価というメリットのある)「アンバランス」を採用している。

 また,届いたType2700Pro改を試験していたところ,周波数特性計測で利用することになる独RME製オーディオインタフェース「Fireface UCX」との接続時に,左右で入力レベルの違いがあることを確認できた。そこで左右のレベルが少なくとも聴感上等しいAKG製ヘッドフォン「K271」をリファレンスとして確認したところ,レベル差は約±5dBあった。
 そのため,4Gamerのテストでは,とくに断りがない限り,Fireface UCX側のマイク入力ゲインで5dBの差をつけることにした。これは「どんなダミーヘッドでも,どんなC417PPマイクでもそうなる」というものではおそらくなく,単純なマイクの個体差と筆者は考えている。
 なので,マイクが変わればこのゲインレベル差の値は変わる可能性もある。とにかく,現在4Gamerで所有しているType2700Pro改の左右の入力レベル差は±5dBなので,これは,録音時にゲイン差をつけることで対応しているということだ。

Type2700Pro改のテストにあたって設定したFireface UCX側ツール「TotalMix FX」のスクリーンショット。左上にある「Mic 1」「Mic 2」がType2700Pro改と接続したマイクチャネルだ。+48Vのファントム電源を供給のうえ,Mic 1では入力レベルを+31dB,Mic 2では+36dBとした。これは,Mic 2よりMic 1の入力レベルが約5dB高いため,それを是正し,左右の入力レベルを均等にするための措置となる
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 重要な点として,音声信号が空気に一度も触れない,いわゆるラインレベルの信号を計測する計測とは異なり,ダミーヘッドを用いた計測において,計測用テストの音声信号が「空気中を通る」ことが挙げられる。
 なので,テスト結果は必然的に,テストに用いる部屋の音響特性に少なからず影響を受ける。言い換えると,同じヘッドセットを,同じ機材,同じ手順で計測しても,得られる周波数特性は,計測を行う部屋によって異なる可能性が高いということだ。

Logitechの無響室。お値段はざっと1億2000万円であり,4Gamerでこれを用意するのは言うまでもなく無理である
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 この「音響(アコースティック)による計測結果の違い」は,オーディオにおいて一番面白い部分でもあり,一番難儀する部分でもある。以前,ラボ見学レポートをお届けしたLogitech(日本ではロジクール)のサウンド関連製品開発部門では,巨大な音響計測室を用意し,ダミーヘッドをほぼ固定の状態で室内に設置していたが(関連記事),あれは,この「音響による計測結果の違い」を最小化するための大きな努力にほかならない。

 この話のキモは,「今後,ヘッドセットの計測は筆者の自宅スタジオで行うが,本稿のテストは規模が大きく,自宅スタジオに機材をすべて持ち込むことができなかったので,今回に限って4Gamerの会議室を用いている」ということである。
 同じ室内であっても,計測機器の設置位置が変われば音響特性は変わるくらいなので,次回以降,筆者の自宅スタジオを用いてテストするときとは結果が異なる(=次回以降のテスト結果とは横並びの比較に適さない)。今回のテスト結果は,あくまでも,今回のシリーズ記事内における比較のみに使ってほしい。

複数のヘッドセットを比較するなら,同じ場所で,できるだけ同じ日時に収録すべきである。ここではEpicGearブランド製ヘッドセット「THUNDEROUZ」の計測結果を例として示すが,上が一斉検証の日に4Gamerの会議室で取得したもの,下は後日,筆者の自宅スタジオで取得したものとなる。一見して分かるように,グラフは似ているが,微妙に異なる。とくに500Hz以下,低域の出方がかなり異なっている。これは筆者自宅スタジオのほうが吸音性が高いということだ。4Gamerの会議室はサイズが大きく,壁の反射も大きいのが影響しているのだろう。こういう違いが如実に出るのが,「空気を通った」周波数の特性計測である
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 最後に,一番重要で,かつおそらく読者の大多数にとって難解だと思われる「ダミーヘッドを使用した録音におけるプレゼンス帯域の山」について説明しておきたい。
 まず,基本的なこととして,ここまでも何度か示してきた周波数特性のグラフ自体は,これまでのヘッドセットレビューにおいてマイク入力テストに使ってきたものと同じだ。なので細かな見方はマイク入力テスト方法解説を確認してほしいとも思うが,ざっくり紹介すると,グラフは横軸が,左端が0Hz,右端が20kHzとなる周波数特性(=音の高さ),縦軸が音圧レベル(=音の大きさ。「オーディオレベル」ともいう)を示す。波線が示すのは,当該周波数帯域における音の大きさである。

ROCCAT製ヘッドセット「Renga」の測定結果。たとえば横軸「60」の付近の縦軸の値は「−40」なので,「音の高さが60Hzくらいでは,音の大きさが−40dB」ということになる
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 それを踏まえて本題だが,ダミーヘッドを用いたバイノーラル録音では,中高域が必ず実際より強い状態で収録される。実際の周波数特性と,収録した計測結果の中高域部分に乖離が生まれるのである。したがって,たとえば試聴時の印象として「高域がとても弱い」というヘッドセットがあっても,グラフ上では6〜8kHzに山が生じる。まさにすぐ上で示したグラフがそうだが,これをそのまま見てしまうと,「6〜8kHzが強い」という誤った認識をしてしまうケースがほとんどだろう。
 この山を,イコライザ(≒フィルタリング)処理で整えることは可能だが,筆者の設定するイコライザ処理が正しい保証はない。

 この点については担当編集とも長い時間の協議を重ねたが,結論として,「それでも読者が誤解にしにくいほうが重要」ということになり,1バンドイコライザで,中高域の山を下げた状態のグラフを,掲載用として採用することにした。要するに「バイノーラル録音は完璧ではなく,中高域に必ず周波数の山ができてしまうので,誤差が生じるのは覚悟のうえで,共通のイコライザを適用して,山を下げた状態のグラフを掲載します」ということだ。

Waves Audio製の定番イコライザ「Q10 Paragraphic Equalizer」を用い,1バンドだけの「Q1」で,6kHzをピークに,フィルタリング幅を決める「Q」というパラメータは3.0と標準的な値ながら、ゲインは−18dBと,大きく帯域をえぐる設定とした。本記事シリーズで示す「計測結果」は,すべてこのイコライザを通したものとなる
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 イコライザの適用前と後でどう変わるかは,実際の波形を見てもらったほうが早いだろう。下に示したのはSennheiser Communications製ヘッドセット「GAME ONE」(※4Gamerでかつてレビューした「G4ME ONE」のリビジョンチェンジ版)で,イコライザ適用前と後を比較したものだ。2枚は上が適用前,下が適用後で,試聴印象はもちろん下に近い。
 上のグラフを示して,いちいち読者に脳内変換してもらうのはあまりにも不親切だという判断から,見た目にだいたい正しい,つまり試聴印象と合致するグラフを示すことにしたというわけである。

GAME ONEの波形,生データ(上)と,イコライザ適用後(下)のもの
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周波数特性計測テスト方法


 以上,長々と注意点を述べたところで,実際のテスト方法について述べていこう。
 まず,テスト信号はマイク入力テストで用いるスイープ(※20Hzから20kHzまで時間ごとに異なる周波数を計測するための信号)ではなく,「せーの」で一度に全周波数帯域で音を鳴らす,いわゆるノイズ信号であるピンクノイズを用意した。ピンクノイズ信号を選んだ理由は,スイープ信号の計測結果とピンクノイズ信号の計測結果を比較したところ,試聴印象により近かったのが後者だったからである。

ピンクノイズは,周波数帯域ごとのエネルギーがイーブン(=均等)であるノイズ信号で,グラフで計測すると右肩下がり,つまり低周波が強く高周波が弱い波形を示す。4Gamerでは基本的に,ピークではなくRMS(平均音圧レベル)で計測することにしているため,巷に出回っているピンクノイズのグラフとは形状が多少異なる点はご注意を
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 テストに用いたPCはあまり重要ではないが,一応紹介しておくと,「Core i7-6700」と容量16GBのメインメモリ,「Radeon R9 380」を採用する自作デスクトップPCだ。これに64bit版Windows 10 Proをクリーンインストールしたうえで,音楽再生ソフト「foobar2000」を導入し,これからテスト音源としてのノイズ信号を再生することになる。
 アナログ接続時は,PCに接続したPCI Express x1サウンドカード「Sound Blaster ZxR」のヘッドフォン出力――なので,アナログ接続の外付けデバイス「ACM」(Audio Control Module)を用いることになる――となり,USB接続型ヘッドセットをつなぐときは,マザーボード側のUSB 2.0ポートと接続することになる。
 ドライバは,一斉テストを実施した2016年8月末時点の最新版を用い,PC上のイコライザや,バーチャルサラウンドサウンドなどのオーディオプロセッサは,可能な限りすべて無効化した。

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 テスト対象のヘッドセットはもちろんSAMREC Type2700Pro改が“装着”。この状態でピンクノイズを再生して,SAMREC Type2700Pro改側のC417PPマイクに集音させる。
 その音は,+4dBの業務用信号レベルを維持したままFireface UCXに送ることになるが,Fireface UCXは筆者所有のMacbook Air(11-inch, Mid 2012)と接続してあり,Macbook AirにインストールしてあるAvid製ソフトウェア「Pro Tools Software」(Version 12.5.2)で録音することとなる。

 Fireface UCXを選んだ理由はいくつかあるが,最大のものは設定の再現性だ。筆者自宅スタジオの環境だと,計測用マイクプリアンプはRME製の「Quad Pre」で,これはアナログ仕様ということもあり,前述した「左右5dBのゲイン差調整」を,毎回手動で行わねばならない。その点Fireface UCXでは,MacからでもPCからでも小数点第1位までゲインレベルを設定できるうえに,いつでも呼び出せるので,今後の計測においても再現性を担保できるというわけだ。
 なお,テストにあたって,Fireface UCX側のイコライザやコンプレッサといったオーディオプロセッサ類は一切使用していない。Pro Tools Softwareによる録音時も同様である。

 さて,Pro Tools Softwareによる録音が完了したら,前述したQ1イコライザ(※今回は「6kHzを中心とした山型に対し,最大−18dBを適用するイコライザ」)を適用。そのうえで,4Gamerのヘッドセットレビューでお馴染み,Waves Audio製の音響特性計測ツール「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)でグラフ化した。本稿でここまで紹介してきたグラフもすべてPAZのスクリーンショットだが,本記事シリーズの次回以降でテスト結果として示すスクリーンショットも,このPAZを用いたものになる。
 重ねて念を押すが,ダミーヘッドを用いた計測結果は,計測場所における音響特性「込み」の周波数特性である。仮に計測機器や手順がすべて同じでも,計測する部屋やダミーヘッドの設置場所が変われば特性は微妙または大幅に変わるので,このグラフが唯一無二の計測結果ではない。この点は十分に注意してほしい。

テストにおける信号の流れ。PAZで計測されたグラフを図化することで,周波数特性を視覚化して客観評価できる点が,従来の主観評価のみのレビューと異なる
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 なお,従来のヘッドセットレビューでも実施してきた主観(=試聴)テストだが,今回はとにかくテスト対象の製品が大量にあることから,2chステレオの音楽試聴のみとする。「素」の状態で行う音楽試聴と,周波数特性を見る客観テストを組み合わせることで,製品ごとにどういう特徴があるのか把握していこうという考えである。
 試聴時の接続設定は,波形計測時と同じだ。


テスト結果となるグラフ波形の見方


 というわけで,ようやく「波形の見方」である。

 音は室内だと,反射が極めて大きいとか,よほど特殊な環境でもない限り,空気を通った時点で,低周波と高周波から落ち込んでいく。これを「ロールオフ」というが,ロールオフの傾向は,製品だけでなく,計測を行う部屋の音響特性によっても変化する。
 たとえば,今回テストしたヘッドセットだと,多くで約60Hz以下の重低域と超高域(約16kHz以上)でロールオフしている。そのあたりは次回以降の製品評価パートでぜひチェックしてほしいと思うが,これは計測ミスではなく,計測に使った4Gamerの会議室ではこういうロールオフをする,という話だ。

 ちなみに,いましれっと「重低域」「超高域」という表現を使ったが,4Gamerの場合,

  • 重低域:60Hz未満
  • 低域:60〜150Hzあたり
  • 中低域:150〜700Hzあたり
  • 中域:700Hz〜1.4kHzあたり
  • プレゼンス(=中高域※):1.4〜4kHzあたり
  • 高域:4〜8kHzあたり
  • 超高域:8kHzより上

といった感じで区分している。「どのくらいの範囲を何と呼ぶか」に明確な定義づけはないので,筆者の区分をそのまま適用していると理解してほしい。

※プレゼンス(Presence)という言葉のとおり,音の存在感を左右する帯域であり,ここの強さが適切だと,ぱりっとした,心地よい音に聞こえる。逆に強すぎたり弱すぎたりすると,とたんに不快になるので,この部分の調整はメーカーの腕の見せどころとなる。

 また,部屋の音響特性によるロールオフに加え、製品ごとに高域の周波数特性もかなり異なるので,そこは注意して見る必要がある。これまでのヘッドセットレビューでも再三お伝えしてきているとおり,ゲーム,とくに位置情報が重要なタイプの3Dゲームでは,高周波の再生能力が,(2chステレオ出力かバーチャルサラウンドサウンド出力かを問わず)音源位置の把握しやすさに直結するので,高周波特性が良好であることは非常に重要だ。

低周波と高周波がロールオフしたグラフの一例。低周波は60Hz以下で落ち込む。一方,このグラフだと,高周波は目測18kHzくらいから上で急激に落ち込むのが分かるだろう。このように,低域と超高域はグラフ上で必ずロールオフする。リファレンスとなるピンクノイズの波形と比べて「低域と高域が落ち込んでいる! テスト方法が変だ!」と判断するのは早計である
画像集 No.018のサムネイル画像 / ダミーヘッドを用いた計測で明らかにする,ゲーマー向けヘッドセット46製品の音質(1)出力品質を計測するということ

 また,あらかじめ予告しておくと,本記事シリーズの次回以降,製品評価パートでは,「右肩下がり」あるいは「ドンシャリ」という表現が頻発する。
 なので先手を打って述べておくわけだが,右肩下がりというのは,低域が強くて高域が弱いこと,ドンシャリは相対的に低域(ドン)と高域(シャリ)が高く,中域が凹んだグラフになっているという意味になる。もちろん,そうならないグラフもあるが,いずれにせよ重低域と超高域は必ずロールオフするので,それを勘案したうえでのグラフ形状評価となる点はご注意を。

 以上を踏まえて「グラフをどう見るか」だが,とにかく重要なのは,「出力しているのはピンクノイズであって,横一直線のフラットなリファレンス波形にはなっていない」ことだ。
 実際のところ,300Hz〜3kHzは「ほぼフラット」と言って差し支えないかもしれないが,少なくとも300Hz以下は強くなり,逆に3kHz以上からは下がっていく。したがって,ヘッドセットの計測結果グラフが仮に低周波から高周波までほぼフラットだとしたら,そのヘッドセットは,むしろ低域のエネルギーが弱くて,高域のエネルギーは強いということになるのである。

 これをざっくり図式化したものが下の図だ。テスト信号であるピンクノイズは右肩下がりなので,仮に20Hzから16kHzまでフラットな波形がテスト結果として得られたとすると,実際には相当な「右肩上がり」の音として聞こえることになる。
 おそらく,ここまで説明してもまだ難解な部分が残っていると思われ,その点は恐縮だが,実際の試聴印象と近いグラフを得るための結果なので,理解してもらえればと思う。

画像集 No.019のサムネイル画像 / ダミーヘッドを用いた計測で明らかにする,ゲーマー向けヘッドセット46製品の音質(1)出力品質を計測するということ

 ここで,グラフの見方について,いくつか例を挙げておきたい。

絵に描いたような右肩下がり(=低強高弱)。このグラフの場合,100Hz付近が低周波のピークで,そこから下がっていく。20Hz以下は,ほぼ部屋のノイズだと思って構わない
画像集 No.020のサムネイル画像 / ダミーヘッドを用いた計測で明らかにする,ゲーマー向けヘッドセット46製品の音質(1)出力品質を計測するということ

右肩下がりとの区別が若干しづらいが,これはドンシャリ。一見右肩下がりっぽくとも,プレゼンス帯域が角(つの)のような山になっていればドンシャリだという判断で差し支えない。このグラフだと,40〜60Hz付近を低周波,5kHz付近を高周波のそれぞれピークとするドンシャリである。40Hz未満と18kHz以上でロールオフが始まっているのも分かる
画像集 No.021のサムネイル画像 / ダミーヘッドを用いた計測で明らかにする,ゲーマー向けヘッドセット46製品の音質(1)出力品質を計測するということ

中域が強い,中域重視の音質傾向と言えるグラフ。低周波に目立った山がなく,むしろ150〜700Hz付近が一番強くなっている(※ピンクノイズは右肩下がりのリファレンス波形であることに注意)。ロールオフは50Hz以下と18kHz以上で生じている
画像集 No.022のサムネイル画像 / ダミーヘッドを用いた計測で明らかにする,ゲーマー向けヘッドセット46製品の音質(1)出力品質を計測するということ

グラフをぱっと見るとほぼフラットだが,前述のとおり,リファレンス波形は右肩下がりなので,このグラフはけっこうな右肩上がり,つまり低周波が弱く,高周波の強い音質傾向ということになる。ロールオフは低域だと40Hz付近からだが,高周波は10kHz付近くらいから始まっているのも目を引く
画像集 No.023のサムネイル画像 / ダミーヘッドを用いた計測で明らかにする,ゲーマー向けヘッドセット46製品の音質(1)出力品質を計測するということ

 なお,筆者は以前から,レビューで時折「音が右に寄っている」「左に寄っている」とコメントしてきたが,これはヘッドセットの左右エンクロージャで音量差もしくは音響特性差が生じている状態で,音響上よくない(≒左右のエネルギーが均等ではない)のだが,今回導入したダミーヘッドによる計測で,この部分も参考資料的に数値化できる。
 そこで,本記事シリーズの次回以降では,グラフの右上に,測定結果の数字を3つ,重ねることこにした。3つの数字は,左が左チャネルの平均音圧レベル,右が右チャネルの平均音圧レベルで,中央は左右チャネルの合算値だ。

本記事シリーズで採用する,最終的なグラフ画像。こんな感じでグラフの右上に平均音圧レベル値を別レイヤーとして重ねることにした
画像集 No.024のサムネイル画像 / ダミーヘッドを用いた計測で明らかにする,ゲーマー向けヘッドセット46製品の音質(1)出力品質を計測するということ

 空気を通るテストなので,厳密な結果ではないが,試聴テストと合わせて評価する限り,左右平均音圧レベルの違いが±1dB以内であれば,左右どちらかに寄って聞こえるような印象は受けない。一方,±3dBを超えると,露骨に,どちらかに寄って聞こえることがある。
 ただ,「では3dB越えたから絶対ダメ」かというと,そうでもない。音量の違いが中域以上で生じている限りは,3dBでも4dBでも,ほとんど気にならなかったりするのだ。一方,低域だと,1dB台半ばでも,けっこう分かってしまうことがある。なので,示す平均音圧レベルの数字は単独で見ることなく,波形グラフ,そして試聴印象のコメントとセットで確認してもらえればと思う。

 ここで「左右にそれほどの音量が生じるなら,左右の周波数をそれぞれ計測すればいいのではないか」と思った人はなかなか鋭い。というか,実際に試してみたのだが,結論から言うと,メインの周波数特性グラフが左右で2つあるというのは,端的に述べて恐ろしく見づらかった。なので,平均音圧レベルのみ左右に分けた数字を掲載するほうがいいと判断した次第だ。

 あと,マイク入力のテストで示している位相特性グラフを掲載しないのはなぜかという疑問も出てくると思うが,PAZの位相グラフは非常に感度がよく,ダミーヘッドを使用した(=模型自体や模型の耳の中で反射したり吸音したりする)」状態で計測すると,その影響が出て,PAZ上で大きなアンチフェーズが生じ,「位相が悪い」という誤った認識を生む可能性がある。そのため,出力品質検証ではカットしたので,この点もお伝えしておきたい。

これはK271ヘッドフォンの位相グラフ。右下にある3つの数字が,上で紹介した平均音圧値で,ほぼ違いがないにもかかわらず,位相グラフでは盛大なアンチフェーズを起こした結果になってしまった。もちろん,試聴上の印象ともかけ離れている。要するにPAZは,人体模型そのものや信号経路上の反射を全部拾って,それをアンチフェーズとして判定してしまうのだ。そのため,今回のテストで位相グラフはカットし,平均音圧値のみを掲載することにした次第である
画像集 No.025のサムネイル画像 / ダミーヘッドを用いた計測で明らかにする,ゲーマー向けヘッドセット46製品の音質(1)出力品質を計測するということ


“選手入場”とお断り


 以上,長い長い基礎解説を経て,いよいよ次回からは製品検証に入っていく。当然のことながら,次回以降,今回紹介した内容は自明のこととして扱い,細かな解説は行わないので,グラフの見方で疑問が浮かんだ場合は,適宜,戻ってきてもらえればと思う。

 さて,ではどんな製品をテスト対象としたかだが,基本的には,「日本市場へ正式参入している主要ブランド」として,各メーカーおよび販売代理店に声をかけた。ブランドごとに現行モデル最大5製品を以下のとおり貸し出してもらっている。「え,あの製品は?」と思うところもあろうが,今回,製品の選定はメーカーおよび販売代理店へ基本的に任せているので,その点はご了承を。

テスト対象となるヘッドセット

(※リンクは評価記事掲載後に有効となります)

 ただし,機材を集めるうえで,いくつかあらかじめお断りすることが生じたため,その点は以下のとおり列挙しておきたいと思う。

  • ASUSTeK Computerからは正式に参加辞退の連絡があった
  • Logicool Gの「G230 Stereo Gaming Headset」は,後継製品「G231 Prodigy Gaming Headset」へとテスト後へ切り替わったが,Logitech本社から,両者でヘッドフォン周りの仕様に違いはないという確認が取れたため,“疑似G231 Prodigy Gaming Headset”としてG230 Stereo Gaming Headsetのテストを行う
  • Mad Catz InteractiveからMad CatzおよびTRITTONブランドで各5製品ずつ入手したが,うち「F.R.E.Q. TE Tournament Edition Stereo Gaming Headset」は販売終了となっていて流通を確認できなかったこと,「F.R.E.Q.9 Wireless Surround Headset with Bluetooth Technology for PC, Mac, Android, iOS, Apple iPhone 7, Smartphones, Tablets, and Gaming Consoles」「TRITTON Pro+ 5.1 Surround Gaming Headset for PS4, PS3, and X360」「TRITTON 720 7.1 Surround PC Headset」「TRITTON 720+ 7.1 Surround Headset for PS4, PS3, and Xbox 36」ではテストに必須の機材が貸出機に含まれておらず,物理的にテストが不可能だった(※前述のとおり,テスト日は決まっており,追加対応できない)ため,テスト対象から省いた
  • Razerは世界市場に向けて「Razer Kraken Pro V2」「Razer Kraken 7.1 V2」を発表済みだが,国内市場では未発売なので,両製品の存在は(Razer合意のうえで)ひとまず考慮しないこととした
  • SHARKOON Technologiesは,メーカーからの返信がなく,それに気付いたときには国内代理店に連絡できるタイミングを逸していた(※前述のとおり,テスト日は決まっており,追加対応できない)ため,機材を用意できなかった
  • SteelSeriesの販売代理店であるゲートからは「Siberia 800」も入手したが,本製品は原稿執筆時点で終息しており,国内流通も少なくとも4Gamerでは確認できなかったため,テスト対象から外した

 まるでゲームメディアらしくない記事にお付き合いいただいて感謝しかないが,次回からが本番だ。冒頭で簡単に予告したとおり,テスト結果は3回に分けて掲載のうえ,最終回で,価格帯ごとにお勧めできる製品をまとめてみたいと考えている。
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