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優秀作からキラリと光る魅力的な短編まで,CGアニメ作品まとめて紹介。SIGGRAPH 2016「Electronic Theater」レポート後編
2016年のElectronic Theaterは,ほぼ同一の上映プログラムが,北米時間7月25日と27日に大ホールで上映された。ただ,「FINAL FANTASY XV」(PS4 / Xbox One,以下 FFXV)関連の映像作品「The Universe of FINAL FANTASY XV」は,Elctronic Theaterでの上映作品として選出されていたにも関わらず,手違いで初日には上映されなかったりしている。2日めには正しく上映されたので,部外者ながらホッと一安心といったところ。
ちなみに,日本のゲーム作品がCAFに入選するのは久しぶりのことだが,それがElectronic Theaterに選ばれて上映までされるのは,本当に珍しいことだ。筆者の記憶が正しければ,SIGGRAPH 2004で上映された「鬼武者3」のオープニング映像以来かもしれない。
ちなみに,SIGGRAPH 2015では,「Best Student Project」(最優秀学生作品賞)や「Jury's Choice」(審査員特別賞),「Best in Show」(最優秀作品賞)という定番の3部門に加えて,試験的な試みとして,「Best Computer Animated Short」(最優秀CG短編アニメ賞),「Best Animated Feature Film」(最優秀長編アニメ賞),「Best Visual Effects for Live-Action Feature Film」(実写映画作品における最優秀視覚効果賞),「Best Music Video」(最優秀ミュージックビデオ賞),「Best Visualization and Simulation」(最優秀ビジュアライゼーション&シミュレーション賞)という賞が追加された。しかし,どういうわけか今年は,いつもの3賞だけに戻っている。
そんなわけで,去年よりも賞が減ってしまったこともあり,今回は受賞作を紹介する前に,筆者が気に入った作品も紹介したい。
Escargore
Oliver Hilbert氏ほか,Media Design School
最初に取り上げる「Escargore」は,ニュージーランドの映像系専門学校であるMedia Design Schoolの学生による作品だ。同校はCAF入選の常連で,SIGGRAPH 2013のElectronic Theaterレポートでも2作品を紹介している(関連記事)。
畑から収穫したレタスには,5匹のカタツムリ達が住んでいた。自分達がレタスごと人間の家に運ばれてしまったことに気付いた5匹は,それぞれの脱出計画を思いつく。しかし,彼らがいるキッチンには,恐ろしい拷問器具――もちろん調理器具のことだ――が並んでおり,たやすく脱出できるわけもなかった。はたして5匹の運命は?
本作のタイトルは,カタツムリを食材にしたフランス料理「Escargot」(エスカルゴ)をもじったものだが,語尾に「Gore」(ゴア※)とあることからも想像できるとおり,本作は可愛らしい映像のタッチとは裏腹にホラー作品なのであった。
※血の固まりという意味から,残虐な表現という意味でも使われる。
資料によると,本作は,Media Design Schoolの3年生を中心にした22人の学生グループにより,3か月間で制作されたものであるとのこと。フルCGではなく,実写との合成パートも多いというあたりも,本作の映像表現における特徴といえよう。
ちなみにこの作品,2015年11月に神戸で開催された「SIGGRAPH ASIA 2015」のElectronic Theaterにも入選しており,今回が2度めのElectronic Theater入選となる。
Piper
Pixar Animation Studios
日本でも劇場公開されたPixar Animation Studios(以下,Pixar)のアニメ映画「ファインディング・ドリー」。その本編前に上映されている短編アニメ映画「Piper」(邦題は「ひな鳥の冒険」)が,Electronic Theaterに入選した。
本作の題材は鴫(シギ)という鳥。英名は「Sandpiper」なので,本作の題名はそこから取ったものだ。鴫は,波が打ち寄せる砂浜の中から,貝類を上手に探り出して食べる海鳥である。本作は,鴫の雛が初めて貝を捕ることに挑戦するまでの冒険を描いている。
主人公のひな鳥は,鴫にも関わらず海に近寄ることを怖がっており,親鳥からも将来を心配されるほど。しかし,ひょんなことから,浜辺にいた小動物の行動をヒントに,効率のいい貝の見つけ方を考案するのだった。
プロットを書き出せばすぐに終わってしまう6分足らずの作品だが,物語の起承転結が実に素晴らしい。映像美だけではない,Pixar流「ストーリーテリングの妙」を感じさせる感動作といえよう。
None of That
Anna Paddock氏ほか,Ringling College of Art and Design
同校の学生による作品は,2015年のElectronic Theaterで最優秀CG短編アニメ賞を受賞したことがあるほか,2014年や2011年にも入選するなど,高い評価を受けている。実際,初日のElectronic Theaterで,来場者が一番笑っていたのは本作だったように思う。
深夜に美術館を巡回する警備員。普段と変わらない光景のようだが,どこかおかしい。何者かが侵入して,美術品を盗み出しているのだろうか。いや,美術品自体はあるべきところにある。しかし,この違和感は?
実はこの美術館には,敬虔なカトリック教会の修道女が侵入していたのだ。彼女の任務は,展示されている美術品の「けしからん表現」を封じること。深夜の美術館を舞台に,警備員と修道女の戦いが始まる……。
キャラクターデザインは,非常にシンプルかつ分かりやすい造形で,表情アニメーションも分かりやすい記号的表現が中心だ。ライティングやシェーディングも,最近主流のPixar風というかディズニー風のふんわりとした質感で,取り立てて特徴があるわけでもない。しかし,音楽と一体化したダイナミックなドラマの展開が,見る者を飽きさせないのだ。
作品を構成するすべての要素がベストバランスで構成されている作品といえ,本作がなぜどの賞も受賞しなかったのかと,首をかしげてしまうほどの出来映えであった。
【Best Student Project】La légende du Crabe Phare
Benjamin Lebourgeois氏,Claire Vandermeersch氏ほか,Supinfocom Rubika
フランスにおける映像専門学校の名門である「Supinfocom Rubika」の学生による作品「La légende du Crabe Phare」(The Legend of The Crabe Phare)が,Best Student Project(最優秀学生作品賞)を受賞した。SupinfocomもCAF入選の常連校であり,2012年には2本(関連記事1,https://www.4gamer.net/games/017/G001762/20120817108/),2011年にも1本の作品を,4Gamerでも取り上げたことがある。
本作の主人公は,なんと巨大なカニ。このカニは,難破船を捕まえては実物大のボトルシップを作ることを趣味としていた。長年,ボトルシップを作り続けていくうちに,コレクションは増大。さらに,カニ自身も驚くほど巨大になり,甲羅の上には人間の街が作られるほどになる。
しかし,年を取った巨大ガニは,死期が迫ってくることを感じ始める。人生(カニ生?)の最後に,巨大ガニがとった行動とは?
Supinfocomの学生による作品は,独特というか,奇想天外な設定を持つものが多いのだが,本作も同様で,一風変わった世界観と,細かな映像の描写が特徴的な作品となっている。デフォルメしたキャラクターモデルに,リアル志向のライティングを施すという最近ではよく見かける作風ではあるが,海を扱った作品だけに,水面や水中の表現に見どころが多い。
【Jury's Choice】Cosmos Laundromat
Matias Mendiola氏など,Blender Foundation
審査員特別賞である「Jury's Choice」を受賞したのが,「Cosmos Laundromat」という作品だ。意訳すると「宇宙のコインランドリー」といったところか。
黒羊のフランクは,なにも面白いことのない変わりばえのない毎日に絶望していた。我慢の限界に達してフランクは,自殺を決意。丸太を括り付けて崖から飛び降りようとした矢先,怪しげな人間のビクターが現れる。
「君はなんて素晴らしいんだ。羊というよりむしろ狼だ」と語りかけたビクターは,フランクの首にダイヤルを備えた怪しい装置付きの首輪を取り付けると,「あとはそこにいればいいから」と告げて,無責任にもその場を立ち去ってしまう。なにが起きたのかも分からず途方に暮れるフランクだったが,ふと空を見上げると……。というのが,本作の第1話の内容だ。そう,本作は連続アニメなのである。
どことなく,「笑ゥせぇるすまん」のコンセプトに似ている気がしないでもないが,本作は宇宙全体を巻き込む大スペクタクル作品になるそうで,今後の展開が楽しみだ。
この作品,ストーリーが謎だらけなところも魅力的だが,映像の品質,たとえばモデリング精度やライティングの演出,音楽に至るまで,すべてがプロ並みの完成度である。
それもそのはず。Cosmos Laundromatという作品は,オープンソースCG制作ソフト「Blender」の開発コミュニティであるBlender Foundationが行っているクラウドを活用した映像制作プロジェクト「Gooseberry Movie Project」の一環として,国際的に名高いCGスタジオ12社が,18か月をかけて共同で制作した作品なのだ。
制作期間18か月で,12分程度の作品が一話だけというスローペースは,各参加スタジオのスタッフが,ある種の部活動的に制作しているからなのだろう。しかし,一話といえども完成したというのが重要で,プロジェクトがある種のマイルストーン到達となったことは確かだ。今のところ,Gooseberry Movie Projectの公式サイトを訪れても,第二話の情報はない。
「オープンムービープロジェクト」というだけあり,本作に使われた全データを含むプロジェクトファイルは,有償だが公開されている。公式サイトでの販売価格はDVD版が27ドル,Blu-rayディスク版は19.5ドルとのこと。このディスクに収録されたデータを用いて,続編の制作に参加してください,というわけだ。これからBlenderを使い始めようとする入門者にとっても,本作のデータは良い教材となるだろう。
これはあくまでも筆者の想像だが,作品内容だけでなく,プロジェクトのコンセプト全体が評価されて,審査員特別賞を受賞したのかもしれない。
【Best in Show】Borrowed Time
Andrew Coats氏,Lou Hamou-Lhadj氏ほか, Quorum Films
ここ十数年の間に,Electronic Theaterの「Best in Show」(最優秀作品賞)の作品を振り返ってみると,ハッピーな物語よりも雰囲気の暗い物語が,栄冠を勝ち取る傾向にある。2016年の最優秀作品賞に輝いたCGアニメ「Borrowed Time」も,まさにそういう作風である。
険しい岩山の道なき道を暴走気味に走る馬車。その御者台には,保安官とその息子である少年が乗っていた。何者かに追われて逃走を続けた馬車は,速度を出しすぎてカーブを曲がれず横転してしまい,保安官と少年は放り出されてしまう。
なんとか起き上がった少年が周囲を見渡すと,あたりには誰もいない。悪漢は立ち去ったか? そんなとき,崖下から助けを求める父親の声が聞こえてくる。父親のもとに駆け寄り,安堵のため息をつく少年。しかし,少年を襲う悲劇,いや惨劇は,まさにここで幕を開けるのだ。
タイトルである「Borrowed Time」とは,英語の慣用句で「命拾いしたあとの余生」といった意味を持つ言葉である。そんなタイトルの付いた本作は,実に恐ろしくも哀しい物語だ。
脚本と共同監督を務めたAndrew Coats氏とLou Hamou-Lhadj氏は,Pixarでトイストーリーシリーズや「インサイド・ヘッド」「アーロと少年」といったハートウォーミングな作品を手がけてきたクリエイターである。2人はアーロと少年のプロジェクト終了後にPixarから独立してQuorum Filmsを設立。そのデビュー作がこのBorrowed Timeというわけだ。
それまでのキャリアとは正反対ともいえるダークな作風の本作は,明るい物語ばかりを作ってきた反動なのだろうかとも思ったが,作品の出来はすばらしい。キャリアの長い両氏が手がけたものだけあり,デフォルメ具合の強いデザインのキャラクターでありながら,表情の演技がよく,人物の抱える情念や激情を,見る者の心に訴えかけてくる。
暗いシーンが連続する作品だが,映像の情報量は多く,大画面映えする映像として仕上がっているのも見事である。本作の公式Webサイトでは,制作者の細かいプロフィールを掲載しているので,興味のある人はそちらも参照してみるといいだろう。
Computer Animation Festivalの公式Webページ(英語)
4GamerのSIGGRAPH 2016レポート記事一覧
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