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[GDC 2016]VR元年において,中国のVR市場はどうなっているのか? モバイルVRが中心となった独特の市場を俯瞰する
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印刷2016/03/19 15:45

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[GDC 2016]VR元年において,中国のVR市場はどうなっているのか? モバイルVRが中心となった独特の市場を俯瞰する

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 VR関連のセッションが数多く開催され,そこに集まる人も多かったGDC 2016。だが,その盛り上がりは北米の事情を反映していたというのもまた事実だ。例えばHTCとValveが共同開発するVR対応ヘッドマウントディスプレイ「Vive」は,ある程度までプレイヤーが自由に動き回れる「ルームスケールVR」を魅力として謳っているが,これはKinectと同じく,体験としては素晴らしいものの,日本の(特にゲーマーの)住環境にフィットしているとは言いがたい。無論,そういう作品がVRのすべてではないが。

 一方で,アメリカ以外の地域におけるVR技術の盛り上がりも,着実に進行している。そして,北米とは違った形でVRが浸透しつつある地域として,中国を無視することはできない。中国ではスマートフォンを利用する「モバイルVR」が主流なのだ。

 ということで,中国におけるVRの盛り上がり方が解説されたセッション「VR STATUS IN CHINA」の模様をお届けしよう。登壇したのは,ゲームエンジン「Cocos2d-x」で知られるChukong TechnologiesのViivi Li氏だ。

Viivi Li氏, General Manager of Overseas Publishing, Chukong Technologies
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中国のVR市場はモバイルが牽引


 2015年段階で,中国で販売されたモバイルVR機器(「Gear VR」や「Google Cardboard」のような,スマートフォンを利用するVR機器)は70万台。一方でPC向けVR機器や一体型VR機器は1万台という数字になっている。ユーザー数としては,前者が45万人,後者が3万人という,少々寂しい数字だ。

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 事実Li氏は「中国においても,VRは普及しているとは言いがたい」と断言するが,その一方で,無料ゲームのダウンロードやショッピングモールでの体験会などを通じ,ユーザー数は増大傾向にあるとも指摘する。
 それでもハイエンドVRはしばらく苦戦が続く見込みで,写真に示したやけに景気のいいグラフ(iResearch社による調査結果)でも,PCの利用を前提としたハイエンドVRの本格的な普及は2019年を待つ必要があるとされている。

 これは市場規模に関しても同様で,iMediaの調査によると2015年の規模は2.1億ドルと,大きなビジネスとして成立しているとは言いがたい。2016年には4倍の8.7億ドルが期待されており,ここから先は急激な成長が予測されているが……。

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 いずれにしても言えるのは,VR技術をベースにした市場は,中国においてもこれから発展していくところであり,またそこに高い期待も寄せられているということだ。


急激に進むモバイルVRの断片化


 さて,中国のVR市場には,ひとつの顕著な特徴がある。それは,ハードウェアメーカーの参入が,ほかの地域より圧倒的に多いということだ。
 特にモバイルVRにおいては百花繚乱という状況で,ミドルレンジからハイエンドVRのデバイスも,多彩なラインナップとなっている。

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 だがLi氏は,この状況には問題もあると指摘する。というのも,Androidが急激に普及したときと同じように,VR機材においても「断片化」が進んでいるのである。画面の解像度からヘッドトラッキングまで,機種が増えればそれだけ仕様が多くなるのは避けられない。

 その一方で,コンテンツの提供に関しては良好な環境が構築されており,モバイルゲームと同じパイプを使ってコンテンツが提供されている。中国ではApp StoreもGoogle Playも存在せず,市場を寡占するいくつかの大手パブリッシャによるダウンロード販売が行われているのだが,これが「仕様の多様性」「作品の多様性」を受け入れるバッファとなって,断片化しているVR市場でソフトを売るにあたってはプラスに働いているようだ。

 ちなみに現在,中国では100種類以上のVRデバイスが販売されているという。その中でも注目を集めているのが,スマートフォンもPCも必要とせず,単体でVRが楽しめる「オールインワン」型のデバイスだ。GDC 2016にあわせてアナウンスされた「Sulon Q」関連記事)が代表的な製品となる。
 このあたり,主にハイエンドのVRに注目が集まるアメリカとは,大きく違うと言えるだろう。


コンテンツとしてユーザーが期待するのはFPS


 これからの市場としてVRに注目する中国の投資家の目には,今はハードウェアに投資すべき時期だと映っているようだ。VRビジネスに対する投資の52%はハードウェアに向かっており,続いてプラットフォームやポータルサイトが19%,コンテンツが11%となっている。かなり活発な投資が行われているとのことで,それに伴いOEMなどの動きも活性化しており,VRデバイスは低価格化し始めている。

 とはいえLi氏は,「普及のカギを握るのはコンテンツ」と断じる。これはまったくもってその通りだろう。
 ユーザーが期待するコンテンツは,FPSRPGアドベンチャーが3強となる。中でもFPSは突出しており,実にユーザーの34.5%が「VRで遊ぶならFPS」という回答だ。この要望はデベロッパ側も意識しており,中国市場において100以上存在するVRゲームのほとんどはFPSとなっている。

 ちなみにセッション終了後,Li氏に「モバイルVRが人気であるいま,FPSをプレイするにあたってコントローラはどうしているのか」と聞いてみたところ,「スマートフォンに接続するコントローラを,さまざまなメーカーが販売している」とのことだ。モバイルの周辺機器を作るローカルな会社に加えて,携帯電話会社が作っているというケースもあるという。

 このような現状に対し,Li氏は「FPSは確かに強いし,RPGやアドベンチャーのようなタイトルにも期待が持てるが,VRならではの完全に新しいゲームが生まれる可能性もある」と語った。

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マネタイズとコンテンツに問題あり


 さて,最後に中国のVR市場における,現状での問題点が語られた。

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 簡単にいえば,最大の問題はマネタイズである。VRは今のところ,お金にするのがとても難しいのだ。
 まず中国ならではの問題として,やはり断片化の影響がある。ユーザーとしては,たとえ気になるゲームがあったとしても,そのゲームを遊ぶためにどのHMDを買えばいいのか,簡単に判断できないのだ(それだけの選択肢があるというのは,ある意味すごい状況だが)。モバイルVRにしても,そもそもスマートフォン自体が激しい断片化状況になっている以上,自分のスマートフォンがモバイルVRデバイスにフィットするどうかを判断するのも難しい。

 また,これも断片化の影響があると思われるが,課金周りのシステムが,まだスムーズに機能していないという。モバイルゲームにも通じるところだが,課金関係は,UIが悪いだけでも,すぐさま売上の悪さへと反映されがちだ。

 加えて,コンテンツそのものの問題もある。今の中国におけるモバイルVRゲームの継続率は非常に悪く,課金率も低いのである。
 GDC 2016でもさまざまなデベロッパが語ったように,コンテンツがあふれる今,重要なのは差別化だ。たとえ「VRで新しいFPS体験を!」と主張したところで,実際のプレイでVR酔いや操作性の悪さでイライラするようでは「これだったらPCで普通のFPSを遊んだほうがマシ」となってしまうというのは,容易に想像できる。

 実際,講演の最後に,中国でプレイされているVRゲームのデモ映像が流されたが,見ているだけで3D酔いしそうなものもあって「これをVR HMDでプレイしたら,ひどいことになるだろうな」と思わされた。

筆者は3D酔いしやすい体質ではあるのだが,スクリーンで最後の「Fruit Shoot」を見ているうちに,軽く気分が悪くなってきた。もしVR HMDを装着してプレイしたら……
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 ということで,景気の良い数字が紹介されながらも,地に足の着いた見解が示されたセッションであった。スマートフォンはPC(特にVRが利用可能なくらいのハイスペックPC)やコンシューマゲーム機をはるかに上回る販売台数となっているだけに,まずモバイルVRに注目が集まるというのは,自然なところなのかもしれない。

 むしろ課題が「優れたコンテンツとVRならではの体験」「断片化との戦い」「マネタイズ手法の安定化」にあるというあたり,初期のスマートフォンゲーム事情を思い起こさせられて,興味深い。
 VRが盛んに議論されたGDC 2016において,ハイエンドVR機器に比較すると注目度の低かったモバイルVRだが,今の段階からモバイルVRにおける知見を急激に蓄積している中国市場は,これからのVR市場において想像以上の存在感を示してくる可能性がある。そんなことを思わされた。

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