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CG作品の祭典SIGGRAPH ASIA 2015 Electronic Theaterレポート。ネットで話題になった日本人作家のあの作品も入選
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印刷2015/11/21 00:00

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CG作品の祭典SIGGRAPH ASIA 2015 Electronic Theaterレポート。ネットで話題になった日本人作家のあの作品も入選

画像集 No.004のサムネイル画像 / CG作品の祭典SIGGRAPH ASIA 2015 Electronic Theaterレポート。ネットで話題になった日本人作家のあの作品も入選
 CGとインタラクティブ技術の学会,SIGGRAPHといえば,プロ・アマ問わずのCG映像作品の品評会である「Computer Animation Festival」(CAF)が看板イベントの一つとなっているわけだが,SIGGRAPH ASIA 2015でも同名のイベントが開催されていた。
 本家SIGGRAPHと開催コンセプトは同じだが,SIGGRAPH ASIAは「ASIA」という冠が付いているだけあって,作品にはアジア圏の作家作品のものが目立つ。本稿では,CAF入選作からさらに厳選した優秀作を上映するイベント「Electronic Theater」(ET)に入選した日本人作家の作品や,各部門賞を受賞した作品を中心に紹介していくとしよう。
 なお,記事中の写真は一部,SIGGRAPH ASIA事務局から提供された公式写真を許諾を得て使用していることをお断りしておく。

上映会場の様子。筆者も映っている(笑)
画像集 No.001のサムネイル画像 / CG作品の祭典SIGGRAPH ASIA 2015 Electronic Theaterレポート。ネットで話題になった日本人作家のあの作品も入選 画像集 No.002のサムネイル画像 / CG作品の祭典SIGGRAPH ASIA 2015 Electronic Theaterレポート。ネットで話題になった日本人作家のあの作品も入選


開催前に行われたショーの紹介とプロジェクタの仕様


 ET開催直前にはライゾマティクスの真鍋大度氏がプロデュースしたライブパフォーマンスが披露された。
 真鍋氏は,国内外のさまざまなイベントを彩る映像作品の制作からプログラミングまでを手がけてきた人物で,2020年東京オリンピックエンブレム審査委員も務めるという日本を代表するメディアアーティストである。

左端がライゾマティクスの真鍋大度氏
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 公開されたライブパフォーマンスは,3人のバレエダンサーが,24機の自発光するクワッドコプター(ドローン)とシンクロしながら舞い踊るもので,まさにテクノロジー(工)とアート(芸)が融合した総合芸術といった風情であった。幻想的な楽曲に合わせて,24機,すべてのドローンが有機的な動きを見せながら飛び回る様は圧巻で,そのドローン達の飛行軌跡をかいくぐるようにしてダンサー達が舞うので,技術的視点でも芸術的視点でも「よくできている」としかいいようがない。
 ちなみに,すべてのドローンは,プログラム制御されて飛行しているわけだが,各機の位置をリアルタイムに把握するため,光学式モーションキャプチャの技術が適用されていた。舞台装置の全周にわたって設置されていた無数の赤外線ライトや赤外線カメラは,ドローン制御のためのものだ(写真参照)。

ライブパフォーマンスの様子。写真上部に見える赤い光の輪は光学式モーションキャプチャー用のライト&カメラである。写真だと赤く見えるが,赤外線なので肉眼では見えていない
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 非常に素晴らしいパフォーマンスだったのだが,個人的には一つだけ大きな課題を感じた。それはドローン達のプロペラ音だ。24機ものドローンが一斉に飛ぶため,そのプロペラ音が相当に大きな騒音となってしまっていたのだ。パフォーマンス中,終始,「ギャー」というプロペラ音が鳴り響き,せっかくの幻想的なBGM楽曲を阻害していたので,ここは今後の要改善のポイントだろう。

バルコのDP-4K-23B。光源はキセノンランプの一灯式。業務用なので小売り価格は不明だが,筆者が調べて見た範囲では1日レンタル料金で約140万円であった
画像集 No.007のサムネイル画像 / CG作品の祭典SIGGRAPH ASIA 2015 Electronic Theaterレポート。ネットで話題になった日本人作家のあの作品も入選
 さて,恒例のET上映に使われたプロジェクタだが,機種はバルコの「DP-4K-23B」であった。DP-4K-23Bは4KのDMDチップを3枚採用した3板式DLPプロジェクタで,輝度スペックは2万4500ルーメン。最大1000インチ(横幅23m)のスクリーンに対応できるハイエンド業務用プロジェクタである。上映スタッフによれば,今回のETでの上映作品には4Kコンテンツはなかったため,最大でもフルHD解像度での投影が行われたようだ。ちょっともったいない気がする。


ネットで話題になった自主制作アニメ

TOKYO COSMO /東京コスモ


 一時ネット上で「自主制作アニメで,このハイクオリティ!?」という評価が駆け巡った作品「TOKYO COSMO」がET入選作となった。
 仕事を終えた独身OLが帰宅し,電子レンジでコンビニ弁当を温めて夕食をとる。郵便物を整理してパソコンでメールの返信。そんな寂しくも平和な彼女の日常を怪しげに見つめる謎の人物(生物?)の影があった……。
 制作を行った宮内貴広氏(監督,CG制作)と岡田拓也氏(ストーリー原案,絵コンテ),北村翔平氏(プロモーション)ら3人は,いずれも,トライデントコンピュータ専門学校の卒業生で,現在は日本のCGスタジオ大手である白組に所属しているという。
 緻密な大道具,小道具オブジェクトのデザインと配置,間接光を効果的に使った柔らかなライティング,肌触りまでが伝わってきそうな布シミュレーション,漫画的でありながらもどことなくリアリティのある顔面アニメーションなど,見どころは挙げればキリがない。
 作品全編の映像を制作者自らが公開しているので,まだ見ていない人はぜひともチェックしてみてほしい。



世界に類を見ないネオクラフトアニメーション

Blue Eyes -in Harbor Tale-


 「Blue Eyes -in Harbor Tale-」は日本のアニメーション作家,伊藤有壱氏の作品だ。
 本作の世界感は独特だ。横浜をモデルにした架空の港町で,自我を持った無生物(建物,石,道具,乗り物)達の視点で映像が綴られている。主人公は世界を旅することに憧れるビスクドール(身体の一部が陶器でできた人形)で,この街の水先案内人を務める煉瓦(れんが)君との不思議な交流が描かれている。
 この作品は,人間の俳優(女優:五大路子さん)が演じる実写映像と,クレイアニメのようなストップモーション撮影によるアニメーション,さらにCGアニメを合成して作られているという。この複雑で手間暇の掛かる独創的な映像制作手法を,伊藤氏は「ネオクラフトアニメーション」と命名している。
 ストップモーション,実写,CGは,それぞれのフレームレートが違うため,映像全体として見ると少し「違和感のようなもの」を感じる。しかし,実はそれこそが「この作品の狙い」なのかもしれない。そういう視点で見ると,異なる世界に生きるもの同士が一堂に会している不思議な世界観をうまく表現できているといえそうだ。

 映像のダイジェスト版が予告編として公開されているので,紹介しておこう。独特な手法がもたらす映像を確認してみてほしい。



ミュージックビデオが芸術になった

Flaw


 美しい女性ボーカルの歌声に乗せ,広大な草原に真っ直ぐ伸びた道の上にシルクのような布が舞い,寂しげな雰囲気の漂う廃墟内に逞しい男性ダンサーの肉体美が宙に浮く……という,なんとも不思議な世界観の映像作品。制作者は,日本の映像作家,TAKCOMこと土屋貴史氏だ。
 この作品名の「Flaw」とは,実は女性ミュージシャンのNoahのファーストアルバム「Sivutie」に収録されている同名楽曲からきており,実際のところ,この映像作品は楽曲「Flaw」のプロモーションビデオとして制作されたものなのだそうだ。
 舞い踊る布やポリゴン化する男性ダンサーがCGベースのVFX(特殊効果)なのはすぐ分かるが,異国情緒漂う風景は,実写なのかCGなのか判断しにくい。土屋氏によれば,実はこれ,北海道で撮影された実写映像なのだそうだ。
 映像全編は土屋氏自らが公開しており,またNoahのアルバム情報も記載されているので楽曲にひかれた人はそちらも要チェックである。



ゲーム関連で唯一のET入選作

The Witcher3:Wild Hunt Launch Cinematic


 SIGGRAPH ASIA 2015のETで,唯一ゲーム関連から入選を果たしたのは「The Witcher3:Wild Hunt」のプリレンダー予告編映像だった。
 青く輝く月の浮かぶ湖畔で美しい歌声を響かせる美女。そこに現れたのはシリーズ通しての主人公ゲラルトだ。「お前のために雇われてきた」という意味深な台詞を聞いて美女は笑い,衣服を脱ぎ始める。なにやら色っぽい展開かと思いきや……。
 制作はハンガリーのCGスタジオのDigic Picturesだ。同社はゲーム関連のプリレンダー映像制作を数多く手がけてきた実績があり,ゲーム本編の映像タッチを継承し,その世界観を拡張したビジュアルテイストの映像を構築するのに長けたスタジオである。本家SIGGRAPH 2015のETで入選した「Assassin's Creed Unity E3 Cinematic Trailer」(関連記事)をはじめ,「Mass Effect」シリーズ,「HALO」シリーズ,「WATCH DOGS」などのプリレンダームービーも手がけている。
 今作の見どころは,謎の美女の冒頭の演技だ。映像中でそれほど長い時間見られるわけではないが,喋りながらの表情変化,首や身体,手足の演技が非常に自然で,一瞬,本物の俳優の演技と見間違えてしまうかもしれない。ここまで高い完成度の動きが実現できたのは,モーションアクターの女優にヘッドマウンドカメラを付けて,表情や台詞と身体の演技を同時に行ってもらい(いわゆるパフォーマンスキャプチャ),一括キャプチャしたデータをもとにアニメーションを制作したためのようだ。
 ちなみに,レンダリングは映画業界にも採用事例を増やしているレイトレーシングレンダラーの「Arnold Render」を採用しているとのこと。



「自然には意志があるのか」をテーマにした惑星視点の作品

NATURAL ATTRACTION


 CAF常連として名高いドイツの映像専門学校Filmakademie Baden-Wurttembergの学生,Marc Zimmermann氏の作品が,最優秀学生作品賞(Best Student Project)を獲得した。本家SIGGRAPHでも,2013年と2014年の最優秀学生賞は同校の学生が受賞しているので,その安定的な実力たるや,恐るべし……といったところか。

「NATURAL ATTRACTION」のコンセプトアート
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 本作「NATURAL ATTRACTION」は,地上と空が織りなす,噴火,竜巻といった自然現象を超俯瞰視点で淡々と描き出した作品で,人間視点ではあまりにも大きすぎて災害としてしか認識できない事象にも,惑星規模視点で見れば何らかの意志や意図が介在しているのではないか……そんなメッセージが折り込まれている。
 作者のZimmermann氏も,制作にあたって「言葉では"母なる大地"(Mother Earth)とは言うが,むしろ地表に男性的な力強さ,空に女性的な優しさを感じる」といったコメントを残しており,かなり規模の大きい感受性を持ったアーティストであることを思わせる。
 本作「NATURAL ATTRACTION」の本編映像は公開されていないが,Zimmermann氏の公式サイトには過去作の「Start Watching」「INNER SPACE - ITFS Trailer」などが公開されているので,彼の作風に興味を持った人はそちらもチェックしてみよう。

Start Watching


INNER SPACE - ITFS Trailer


午後の授業「あるある」を見事に描ききる

Afternoon class


 審査員特別賞(Jury Award)は,韓国の芸術系大学のChungkang College of Cultural Industriesの学生であるOh Seoro氏の卒業作品「Afternoon Class」が受賞した。
 昼食後の授業。13:30あたり,クラス中の生徒達が眠気と格闘し,戦友達が続々と睡魔に食い殺されていく中,主人公の彼は,目の周りをこねくり回して果敢に生き延びていた。しかし,頭が段々と重くなり,目が回り始め,しまいには,彼の頭は,この世に存在するありとあらゆる「重い物」にメタモルフォーゼしていく。そして,睡魔を与え続けていた張本人である教師は,地獄絵図となったクラス内を見回すと,驚くべき行動に出るのであった。
 本作は,台詞なし,効果音とBGMだけで物語が進行するが,誰しもが経験したことのある「寝てはいけない場所での睡魔との奮闘」を,ユーモラスかつ,最大限に共感できる表現手法で描きっている。
 この作品は,手書きの作画アニメーション風を基調にしつつも,要所要所に3DCGを織り交ぜていくスタイルで制作されており,これこそがSeoro氏特有の作風のようである。Seoro氏の公式サイトで紹介されている過去作品にも,本作のような独特なセルアニメ風×フラットシェーディング風のアートスタイルものが目に留まる。
 Seoro氏の公式サイトには,今回の映像本編は公開されていないが,その予告編は公開されているので紹介しておこう。



3Dプリンタで制作されたアニメーション

CHASE ME


 最優秀作品賞(Best in Show)は,フランスのアニメーション作家,Gilles-Alexandre Deschaud氏が制作した「CHASE ME」に贈られた。
 おどろおどろしい森の中の一本道を,ウクレレを奏でながら進む少女。彼女の影から出現した不気味なモンスターは,彼女を執拗に追いかけ,彼女の行く先々で悪さを仕掛けてくる。このモンスターの目的とはいったい……。
 作品の予告編はDeschaud氏のウェブサイトに公開されているので,映像の雰囲気を感じたい人はこちらを見ていただきたい。



 どうだろうか。ストップモーション風の映像作品なので,「ああ,クレイアニメか」と思ってしまいそうだが,実はこの作品,そんな予想の斜め上をいく制作手法で作られているのである。
 というのも,この作品に登場する,ほぼすべての背景物,キャラクターは, なんと,Formlabs社の3Dプリンタの「Form 1+」によって出力されたものなのだ。
 なので,主人公の女性が動く様子も,歩行ポーズの人形を一コマ,一コマ,3Dプリンタで出力して,これをジオラマの中に置いていきながら撮影したものなのである。フレームレートはDeschaud氏によれば15fpsとのこと。

カメラアングルによって異なるサイズのキャラクターを出力。光硬化型の3Dプリンタなので,一般的な積み上げ式ではなく,レジン溶液の入った皿から1層ずつ上に引き上げて成型を行っているので,台座からぶら下げたような形になっている
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主人公の歩行アニメーションはこんな感じで3Dプリンタでそのものを出力している
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撮影そのものは,3Dプリンタで出力したキャラクターやオブジェクトを配置したジオラマ上で撮影している
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 3Dプリンタで出力された生成物の立体分解能(解像度)は0.1mm精度で,主人公の女性キャラクターはカメラアングルによって3cmのもの(ロングショット用),から7cmのもの(クローズアップショット用)のものまでが作られたという。

劇中に登場する「生長する木」や「流れ落ちる滝」なども3Dプリンタで出力されたものだ
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 この映像制作に使用されたレジン剤の総量は80L。3Dプリンタの稼働時間は6000時間。余りに凄すぎてピンとこないのだが,手間暇のかけ方が尋常でないことだけはなんとなく分かる。
 それにしても,CGとして3Dモデリングしたものをわざわざ実体物として出力して,これをストップモーション撮影する……というのは,制作アプローチとしてアナログなのかデジタルなのかよく分からない。逆に,そこに独特の面白さがあるということなのだろう。
 実際に動いている映像を見た限りでは,非常にクレイアニメ的な味わいなのだが,3Dプリンタで出力されているキャラクターをコマ撮りしているためか,ディテールの付き方が細かくCG的であり,そこに不思議な魅力を感じる作品だった。
 Deschaud氏のウェブサイトには,メイキング映像も公開されており,そちらも見応えがあるのでお勧めだ。

メイキング映像


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