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[GTC 2014]NVIDIAのHMD「Near-Eye LFD」に注目集まるGTC 2014展示会場。次世代GPU「Pascal」で使う3次元メモリも披露
展示会場の各ブースは,大きめのテーブルを2つ並べて椅子を数個配置したらもういっぱいというくらい,手作り感にあふれたコンパクトなものがほとんどだ。会場を回っていると,「そういえば,黎明期の『Game Developers Conference』も展示会場はこんな感じだったな」という思いを抱く。
GTC 2014の展示会場の風景。どのブースもコンパクトで,ザっと見るだけなら1時間もあれば回りきれる。各ブースにはセッションで登壇した人物がいることも多いため,臨時のミーティングスペースになっていることも多い |
本稿では,そんなGTC 2014の展示会場から,興味深い展示を披露していたブースをレポートしたい。
NVIDIAが開発中のHMD「Near-Eye LFD」がGTC 2014でも披露
Sony Computer Entertainment(以下,SCE)が発表した「Project Morpheus」や,Facebookに買収されたことで大きな話題となったOculus VRの「Rift」など,3月はHMDの話題で埋めつくされた感がある。そんなHMDを,NVIDIAも開発をしていることをご存じだろうか。
名前に「Light Field」(ライトフィールド)の文字が入っていることで分かる人もいるだろうが,Near-Eye LFDの基本原理はライトフィールドカメラ「Lytro」(ライトロ)の原理を,HMDのディスプレイに応用したものだ。
普通のデジタルカメラは,視野の情景からレンズに向かって飛んでくる無数の光から,フォーカスの合った距離の光を選択し,撮像素子(CMOSセンサーやCCD)で捉えて写真にしている。一方,ライトフィールドカメラでは,視野の情景からレンズに飛んでくる光のすべてを記録する(※実際の記録解像度は撮像素子の仕様により制限される)。
平面的な撮像素子ですべての光を記録するには,無数の光を,撮像素子状の画素に振り分けなければならない。それを実現するのが,μmサイズの小型レンズを縦横に配置した,昆虫の複眼のようなマイクロレンズアレイ(MLA)だ。
ライトフィールドカメラで撮影された写真には,焦点距離など関係なく視野にあるすべての光が記録されている。だから,撮影済みのライトフィールド写真から,任意の焦点距離に合わせた写真を再構成できるのだ。たとえば,金網越しの風景をライトフィールドカメラで撮影すると,金網に焦点を当てた写真にもできれば,金網の向こう側に焦点を当てた写真にもできるというのが,一般的なデジタルカメラとの大きな違いである。
さて,前置きが長くなったが,Near-Eye LFDはライトフィールドカメラの概念を逆転させて,HMDにしたものだと思えばいい。映像パネル上に配置した画素に,視野の映像を構成する遠近すべての光を書き込み,これMLAを通してユーザーに見せる。すると,ユーザーが現実の風景を見るのと同じように,目の焦点を調整することで,近景でも遠景でも,任意の部分に焦点の合った映像が見られるというわけだ。
Near-Eye LFDでポイントとなるのは,映像パネル上の各画素に書き込む色の計算手法だ。たとえば,ある画素は,近景のある一点の色を表しているかもしれないが,隣の画素は遠景のある一点の色を表しているかもしれない。これらの情報から映像を再現するためには,映像パネル上にある全画素からの光が,MLAを経由してユーザーの眼球を通り,網膜に到達するまでの道筋(光路)を計算する必要がある。これが「とてつもない計算量になるだろうな」ということは,想像できるのではないだろうか。
光路の計算にはレイトレーシングを用いる。各MLAの焦点距離にもとづいて,3D映像上に描かれるオブジェクトの各点から,光を眼球方向に投影して映像パネル上での交点を求める。そして,その位置に当たる画素に,オブジェクトをライティング/シェーディングした計算結果を書き込んでいくわけだ。
このレイトレーシング計算には,NVIDIAが開発したCUDAベースのレイトレーシングエンジンである「OptiX Ray Tracing Engine」が用いられているという。
話を戻そう。Near-Eye LFDは,小型軽量のHMDを目指して開発されており,3Dメガネ程度の大きさにすることを目標としている。
これを実現するためのポイントは2つある。まず1つめは,映像パネルに有機ELパネルを採用する点。有機ELパネルは自発光方式なので,バックライトが不要な分だけ薄くできるわけだ。
2つめのポイントは,MLAの焦点距離をわずか3.3mmとしたこと。これで3Dメガネ程度の厚みを実現することに成功したのである。
「ゲームグラフィックスにリアルタイムレイトレーシングなんて必要ない」という人も少なくないが,こういうライトフィールド用途では意味を持ってくる。今後のNear-Eye LFDの進化はもちろん,NVIDIAのレイトレーシング技術の進化にも要注目だ。
多人数が同時に見られる多視点裸眼立体視ディスプレイが30インチサイズに小型化
ハンガリーのHolografikaという企業を知っている人はそう多くないだろう。同社は多視点での裸眼立体視が可能なディスプレイのメーカーとして,立体視に詳しい人には知られた企業だ。2012年11月に掲載したSIGGRAPH 2012の記事でレポートしているので,覚えている人もいるかもしれない。
このHolografikaが製造する多視点裸眼立体視ディスプレイは,CGを各視点から同時にレンダリングして,その映像を複数のプロジェクタからスクリーンに投影することで,複数人が同時に見ても,それぞれの視線方向に適切な立体映像を表示できるというシステムだ。
複数のプロジェクタに対して,各視点から見たCGを出力する仕組みである以上,このシステムには複数ディスプレイ出力に対応した高性能なGPUが必要になる。彼らのシステムにとって,NVIDIAのGPUは重要な構成要素というわけだ。
さて,Holografikaはこれまで,100インチを超える大画面製品を中心に製品を提供していたのだが,GTC 2014では30インチ前後の小型バージョンを出展していたのが大きなポイントである。
展示機は「Pico Projector」と呼ばれる超小型の単板式DLPプロジェクタを20台用いたとのことで,今までにSIGGRAPHなどで展示されていたものと比べて,格段に小さいシステムを実現した。
さらに展示されていたシステムでは,非接触型のモーション入力デバイス「Leap Motion」を組み合わせて,手の動きでCGを操作できるインタラクションシステムを実現していたこともポイントだ。
ブースのデモでは,立体地図を手振りで操作できるようになっていた。筆者も体験してみたが,本当に建物に触って地図を動かしているような気分になれるのが面白い。
Holografikaの製品は,カスタムメイドを前提としたBtoB製品が中心である。日本ではユニバーサル・ビジネス・テクノロジーが販売を手がけているとのことだ。
次世代GPU「Pascal」に使う3次元メモリのウエハをSK Hynixが公開
3月27日掲載の基調講演レポートで報じたように,NVIDIAが発表したMaxwellの次に来る次世代GPU「Pascal」では,「3D Memory」(3次元メモリ)が採用されることになっている。
GTC 2014には,この3次元メモリを製造する半導体メーカー,SK Hynixのブースがあり,そこではこの3次元メモリのウエハが公開されて,来場者の注目を集めていた。
Pascalで使われる3次元メモリのウエハ |
実際に3次元メモリが使われるときには,DRAMダイ複数枚をベースダイ上で積層し,ダイ上に穴を開けて配線するシリコン貫通ビア(Through Silicon Via)という技術を使って,メモリモジュールを構成するようになっている。
Pascalでこの3次元メモリを採用するのは,当面の間HPC用途や超ハイエンドグラフィックスカードのみという話もある。まったく新しいメモリモジュールなだけに,どのくらいの歩留まりと単価で製造できるのかが気になるところだ。
米OTOY,レンダリングエンジン「OctaneRender 2.0」を発表
クラウドゲームサービスといえば,G-clusterのように,「昔のゲームをクラウドサーバー側で動作させて,自宅のゲーム機で楽しむ」ものというイメージを持つ人は少なくないかもしれない。だが,クラウドゲームサービスによって,ハイスペックPCでも実現できないほどの映像でゲームを楽しめるようになる時代が,そう遠くないうちにやってくるかもしれない。
まずOTOYは,GTC 2014に合わせて,同社が映画産業向けに提供しているレンダリングエンジン「OctaneRender」の最新版,「OctaneRender 2.0」を発表した。
OctaneRenderが採用する「パストレーシング」というレンダリング手法は,レイトレーシングの発展系である。
レイトレーシングとは,視点から飛ばした光線(レイ)と3Dシーン内のオブジェクトとの衝突点を求め,衝突点からさらにレイを飛ばしていき,映り込みや間接光照明の情報からピクセルの色を決定する手法だ。
一方,パストレーシングでは,この衝突点から多くの補助レイをランダムに飛ばして,大局照明のシミュレートを行う点が特徴となっている。単純にいえば,普通のレイトレーシングよりもリアルな映像を実現できるわけだ。
今回発表されたOctane Render 2.0では,GPUアクセラレーションを効果的に活用することによって,パストレーシングのレンダリング時間を大幅に高速化したのが特徴となっている。
そして,このOctaneRender 2.0の技術は,現在OTOYが開発中のクラウドゲームエンジン「Brigade 3.0」に反映されるのだという。Brigadeシリーズは以前からパストレーシングに対応していたが,OctaneRender 2.0の技術を導入することで,リッチなグラフィックスをより高速でレンダリングできるようになるわけだ。
さて,このOctaneRender 2.0やBrigade 3.0は,NVIDIAのGPUサーバーである「GRID VCA」上で動作するように開発されている。そしてBrigade 3.0は,
そのAmazonも,Game Developers Conference 2014ではクラウドゲームでの利用に適したクラウドサービス「AppStream」について講演しており,クラウド側でリッチなグラフィックスをレンダリングすることで,タブレット端末上でも高品位なグラフィックスを表現するという手法を披露している。
Brigade 3.0がサービスされるようになれば,NVIDIAのGPUサーバーとAmazonのクラウドサービスを使って,パストレーシングにより描かれた美しいグラフィックスでのクラウドゲームを楽しめるようになるかもしれない。
現状ではムービーを公開しているだけのBrigade 3.0だが,2014年8月に開催される「SIGGRAPH 2014」では,実動デモが披露される予定とのことだ。
GTC公式Webサイト(英語)
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