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インディーイベント「BIC 2024」は本日から開催。「ゲームへの理解度が高い国,韓国」で行われるインディーゲームのイベントは,韓国ゲーム業界躍進の端緒となれるか[BIC2024]
日本ではあまり知られていないと思うイベントなので,BICの歴史をちょっとのぞいてみよう。
そもそもの始まりは,2015年だ。当時,アジアにおけるインディーゲームの祭典はまだ数が少なく(当時はまだ,日本のBitSummitも2013年に始まったばかり),BICが生まれたことは,韓国のゲーム開発シーンに大きな影響をもたらしたといえるだろう。
どんなイベントもそうだが,始まりはとても質素だ。釜山文化コンテンツコンプレックスで行われた小さなイベントだった最初のBICは,出展タイトルが80タイトル※ほどで,韓国国内のインディー開発者のみがいたという。
※「質素」と書いたものの,最初のBitSummitの出展数が40タイトルほどだったことを考えると,開始時点でそれなりの大きさではあったようだ。
そのころには出展タイトル数は100タイトル以上となり,隣国である日本や中国からの参加者も増え,イベントの国際色も豊かになってきた。Busan Cinema Center,釜山eスポーツ競技場,釜山港コンベンションセンターなどの会場を経て,規模が順調に拡大していったのもこのころだ。
※最初は,政府の文化体育観光部からの支援を受けて始まった。日本で言うところの文化庁と観光庁,スポーツ庁がまとまったような行政機関だ。国家レベルでなくても,2017年7月に釜山市が発表した「釜山ゲーム産業新育成計画」の5つの戦略の一つとして「インディーゲームエコシステムの構築」というものが入っていて,BICはその延長線として順調に成長を続けている。
そして今回のBIC2024は,「この10年の歴史を振り返りつつ,インディーゲームの未来を展望する特別な回」となっている。記念すべき,節目となる10回目なのだ。
その10回目は,過去最大規模の出展数となるようで,昨年比で121%増加の245ものタイトルが展示されている。むろん,「タイトル数」だけで善し悪しを計れるものではないが,先日のBitSummit Driftの出展数が270とのことなので,ほぼ肩を並べるレベルの規模になっているということだ。
日本人である筆者が見ている限りでは,韓国は日本以上に大手メーカーが強い。大手が出資と吸収を繰り返し,さらに大きい規模へとなっていく傾向が強く,「少人数のチーム」や「中小のゲーム会社」というものの存続が,なかなか難しい。そういう意味では,日本や中国のほうが「インディー」という環境を維持しやすいように思う。
しかしそんな韓国だからこそ,インディーゲームのイベントには他国以上に大きな意味がある。もちろん日本やアメリカ,中国においても大きな意味※はあるが,韓国ではとりわけその存在価値が大きい。
※最近では国を問わず,「一体どのあたりがindependentなんでしょうか」と問いたくなるような作品/チームも多い。ただまぁ,いまだ「インディ」の定義はあってないようなものだから「あなたがインディだと言うのならインディ」なのだけど,うーん。
韓国のインディーゲームイベントには,そんな大手メーカー中心の市場構造に一石を投じる役割がある。
100億円規模の開発費を使う大手ゲームメーカーには作れない(というか許可が出ない)であろう珠玉のアイデアを,ゲームという形にして世に放つ。ユーザーもそこに価値を感じ,それらを面白いと思っているからこそ,Steamを始めとするインディーゲーム界隈は大変に盛り上がり,それがフィードバックされる形で,大手メーカーが動き出す。
そしてインディー発のアイデアが大手メーカーの手によって「世界に」流通して,それを見てまた新たな「珠玉のアイデア」がインディーから生まれる。
任天堂やソニーのプラットフォームの例を見るまでもなく,インディーゲームというジャンルは,もはや業界のメインストリームとなって君臨している。誰もが知る大手メーカー達はインディーゲームに目を光らせているし(どんなインディーイベントにも,大体彼らはいる),出資しよう投資しよう取り込もうと,生き馬の目を抜くかのような様相だ。
まぁそんな生々しい話は抜きにしても,インディータイトルが集まるイベントは,そんな大手に対しての良いアピールの場になるし(インディーといえど数名にもなれば,どうしてもまとまったお金が必要だ),そうでなくても来場者や関係者から,その場でフィードバックがもらえる貴重な場だ。
比べてみると分かるのだが,アジア3大ゲーム大国(と暫定的に表現させてほしい)である日本,韓国,中国の中で,もっともゲームに対しての扱いが優しい(?)のは韓国だ。社会の理解度,政府の理解度,ユーザーの理解度など,どこを取っても申し分ない。
そんな韓国は,かつてのPCオンラインゲームの覇者であり,いまでも素晴らしい開発者が山ほどいる。そんな彼らが,または彼らの活躍を見て育った若い世代が,インディー開発者として出航している。PCバン※のこともあってPCゲームの普及度が日本と比べて段違いに高いので,Steamとの相性もとても良い。
それらの状況を複合的に考えると,今後の韓国のインディー界隈は,ますます目が離せなくなるだろう。
※日本で言うところのネットカフェ……なのだけど,個室やマンガ,お泊まりコースなど“癒やしの空間”的に使われる日本とはだいぶ違っていて,「遊ぶため」に行くところがPCバン。ほとんどすべての人がPCゲームをしにいくとか。PCバン自体は1992年に登場したが,ゲームをする場所として大ブレイクしたのは,1998年のStarCraftのブームから。(関連記事)
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