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[GDC 2019]解像度192×160ドットのレトロ調ホラーゲーム「FAITH」はなぜ恐いのか。開発者が語るセッションをレポート
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印刷2019/03/23 21:38

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[GDC 2019]解像度192×160ドットのレトロ調ホラーゲーム「FAITH」はなぜ恐いのか。開発者が語るセッションをレポート

画像集 No.004のサムネイル画像 / [GDC 2019]解像度192×160ドットのレトロ調ホラーゲーム「FAITH」はなぜ恐いのか。開発者が語るセッションをレポート
 インディーズゲームの世界では,ピクセルグラフィックスでレトロ調のゲームが根強い人気を誇っている。そんなレトロ調グラフィックスのホラーゲームとしてアメリカで高い評価を受けたというPC向けタイトル「FAITH」(フェイス)の内幕を,開発者自らが語るセッション「The Art of 'FAITH': Horror at 192x160 Pixels」がGDC 2019で行われた。
 1977年に登場した「Atari 2600」時代を思わせるグラフィックスのFAITHは,なぜ高い評価を受けたのか。開発を担当したAirdorf GamesのMason Smith氏によるセッションをレポートしよう。

講演タイトル(左)と開発者のMason Smith氏(Indie Game Developer, Airdorf Games)
画像集 No.002のサムネイル画像 / [GDC 2019]解像度192×160ドットのレトロ調ホラーゲーム「FAITH」はなぜ恐いのか。開発者が語るセッションをレポート 画像集 No.003のサムネイル画像 / [GDC 2019]解像度192×160ドットのレトロ調ホラーゲーム「FAITH」はなぜ恐いのか。開発者が語るセッションをレポート


伝説のホラーゲーム「P.T.」を絶賛するSmith氏


 セッションレポートを読み進める前に,まずはFAITHのティザームービーを見てほしい。調子外れな歌,陰々滅々とした不気味なビジュアル,おぞましい何かの存在を思わせるオブジェなど,これだけでもかなりキモい。


 Smith氏によれば,FAITHは米IGN誌で「18 Best Horror Games of 2017」に選ばれたそうで,この不気味さだけでも恐怖感が伝わってくるようだ。筆者は,この手の気持ち悪さが大好きである。
 なお,FAITHは公式Webサイトで無料版をダウンロードできるので,興味のある人は挑戦してほしい……全編英語だが。

 Smith氏は,今や伝説的な作品となったKONAMIのホラーゲーム(のトレイラー作品)である「P.T.」を賞賛,というか絶賛しており,自分でもあのようなタイトルを作りたいと考えたそうだ。しかし,リッチなグラフィックスを実現できる高度なゲームエンジンを扱うだけの知識も予算もないSmith氏には,無理な相談である。
 そこで彼が思いついたのは,1980年代前半に登場した「コモドール64」や「ZX Spectrum」といった古典的なPC風のビジュアルで作るというアイデアだった。


1980年代,アメリカの暗部を描くエクソシスト系ホラー


 Smith氏によると,FAITHは,ホラー映画「エクソシスト」でも描かれた西洋における「悪魔払い」をテーマとした作品で,舞台は1987年のアメリカ,コネチカット州の田園地帯にある屋敷とのことだ。
 悪夢に悩まされている主人公の若い牧師は,1年前に悪魔崇拝に関する調査を行った屋敷に,悪夢の答えを求めて再び足を踏み入れる……。

1980年代のアメリカにおける中流家庭。平凡を絵に描いたような労働者階級の家庭における暗部というのは,当時のアメリカにおける平凡を知らない筆者のような日本人には,あまり想像が付かないものでもある
画像集 No.005のサムネイル画像 / [GDC 2019]解像度192×160ドットのレトロ調ホラーゲーム「FAITH」はなぜ恐いのか。開発者が語るセッションをレポート
 ゲームの舞台である1980年代といえば,アメリカはレーガン政権時で経済も軍事も基本的に好調,パーソナルコンピュータが家庭にも広がり始めた頃でもあり,明るい未来が待っている雰囲気のある時代だったと言っていい。しかし,Smith氏がFAITHの源泉としたのは,そうした陽性の1980年代ではなく「1980年代のダークサイド」(Smith氏)だ。
 そこには,夢見られたようなサイバーな未来都市も,空飛ぶデロリアンも,パンクでセクシーな姉ちゃんもいない。労働者階級の住む郊外の一軒屋,面白みのない4ドアセダン,1970年代と代わり映えのない服を着た子供たち。そんなアメリカにおける中流家庭が,FAITHの土台になっているらしい。日本人の筆者にはいまいちピンとこない面もあるのだが,変化に乏しく閉塞感を感じる面もあったということだろうか。


ターゲットとしたハードウェアは192×160ドット,15fpsという非力なPC


 話を戻すと,Smith氏は「未知への恐怖」(Fear of the Unknown)こそが恐怖を生み出すホラーゲームにとって大事なものであると主張する。とくに1980年前後のゲーム機やコンピュータが表現していたピクセルグラフィックスは,何かを表現するためには高度な抽象化をしなければならず,それゆえにゲーマーの想像力をかき立てて「未知への恐怖を生み出す素晴らしい媒体となる」(Smith氏)というのだ。
 そのため,FAITHがターゲットとしたのは,解像度192×160ドットで,アスペクト比6:5,フレームレートは15fpsで,表示可能な色数も非常に少ない1980年代前後のハードウェアであるとSmith氏は説明していた。

FAITHがターゲットとしたハードウェア。極めて非力で,グラフィックス表現は高度な抽象化をせざるを得ないが,それが未知への恐怖を生み出すとSmith氏は主張する
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 そんな非力なグラフィックスで恐怖感を演出する手法として,Smith氏はまず「ネガティブスペース」,つまり意図的に余白――黒バックの画面だから余黒と言うべきか――を配した画面作りを心がけたという。これにより,プレイヤーに信頼できるものがないという不安感を与えて,惑わせる効果を狙ったそうだ。

意図的に余白を作った画面が,プレイヤーに不安感をかきたてるという
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 その一方で,余白の多い部屋のすぐ近くに,密集してものがある小さな部屋を配置することで,プレイヤーに不安や悪い予感といったものを呼び起こすように気を配ったとSmith氏は述べていた。

広い余白に囲まれた小さく密度の高い部屋(左)や,何もない部屋の隣にマネキンを並べた部屋を置いて(右),プレイヤーを不安にさせる
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ロトスコープアニメの制作に用いたソフトは,お馴染みの「Photoshop」とのこと
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 もう1つ,アニメーション手法の1つ「ロトスコープ」を取り入れたこともポイントであるという。ようは写真や動画をPCに取り込み,画像編集ソフトを使って15fpsで動く手書き風のアニメーションを作ったというわけだ。
 トレイラー動画にも出てきたが,このアニメーションシーンは低解像度で色数も少ないグラフィックスによって,実に気持ち悪いものに仕上がっている。

低解像度で色数も少なくフレームレートも低いグラフィックスを逆手にとって,ロトスコープで不気味なアニメーションシーンを作りあげた
画像集 No.009のサムネイル画像 / [GDC 2019]解像度192×160ドットのレトロ調ホラーゲーム「FAITH」はなぜ恐いのか。開発者が語るセッションをレポート

 ちなみに,アニメーションのもとになった実写の動画は,Smith氏自身がモデルとなって作ったものとのこと。いかにもインディーズゲームらしい手作り感といったところか。

開発者自らが演じる動画をもとに,アニメーションシーンを制作した
画像集 No.010のサムネイル画像 / [GDC 2019]解像度192×160ドットのレトロ調ホラーゲーム「FAITH」はなぜ恐いのか。開発者が語るセッションをレポート 画像集 No.011のサムネイル画像 / [GDC 2019]解像度192×160ドットのレトロ調ホラーゲーム「FAITH」はなぜ恐いのか。開発者が語るセッションをレポート

 こうした工夫が狙いどおりとなり,FAITHは高い評価を得ることができた。自信を深めたSmith氏は,続編となる「FAITH chapter II」を2019年2月にリリースしたそうだ。


Webブラウザでプレイできる無料のホラーゲーム「The Wind」
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 さらに,北米で2019年4月5日に公開予定というホラー映画「The Wind」の無料ゲーム版を制作して,GDC 2019期間中にリリースすることにもなったという。

 テキストは英語のみで,独特のビジュアルセンスによる作品であるだけに,ホラーゲーム好きなら誰にでもお勧めできるというものではない。しかし,プレイするだけなら無料,1ドル以上払えば追加要素も入った有料版を入手できるというタイトルでもあるので,興味の湧いた人は挑戦してみるといいだろう。

Airdorf GamesのFAITH公式Webサイト(英語)

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