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[NDC18]FPSのレベルデザインには人間の本能と心理を利用しよう。「サドンアタック」の背景デザイナーが語ったセッションをレポート
キム氏によると,FPSにおけるレベルデザイン制作の工程には,導線のデザイン,環境のデザイン,そしてスクリプトのデザインがあるという。
導線のデザインは「ペース」「道」「空間」「構造物」の制作を指し,梯子や階段も含まれる。一方,環境のデザインには「コンテナを木製にするか,それとも鉄製にするか」といった,さまざまな構造物の質感や空間のテーマがあてはまる。
そして,スクリプトのデザインとは,特定のイベントを発生させるものだ。光が点灯したり消灯したり,ドアが開いたり閉じたりといったことを意味する。
また,全体的な制作には2種類の手法があるという。1つは図面を通じて構成し,テストを経て完成を目指すタイプ。もう1つはお寺や飛行機,病院などをコンセプトとして,制作を進めるタイプだ。
ここでキム氏は,FPSのレベルデザインにおける重要な要素として,「楽しみ」と「自然なプレイの流れ」という2点を挙げた。前者は当然のことであるが,後者については「人間の本能や心理を利用することで,そこにつながる」と語る。
例えば,プレイヤーに右側を進ませたいルートを制作したとしても,プレイヤーが左側に行きたがる傾向にあれば,自然なプレイを阻害していることになる。ただ,看板や矢印を使ってゴール地点までうまく誘導されるならば,プレイヤーは利便性を感じられるだろう。
キム氏は「プレイヤーが何も考えなくてもいい」レベルデザインこそ,理想だと語る。つまり,本能的や心理的に惹かれるレベルの制作に注力しているという。
また,キム氏は人間の本能や心理の中で,FPSの制作に適応できる要素として,「左回り本能」「向光性」「向開放性」「一時経路」「直進経路」「危険回避本能」という6点を挙げた。
左回り本能(右利き本能とも呼ばれる)とは,右利きの人間は左回りに動きやすいという習性のこと。さまざまな分野で利用されており,百貨店やスーパーでは人間が反時計回りに移動することを前提にして,商品のレイアウトが決められることが多い。
FPSのマップでも目の前に巨大な壁が立ちふさがっている場合,ほとんどのプレイヤーが右から反時計回りに移動する形で迂回行動を取るという。
向光性は文字どおり,明るい方向に進むという思考本能。人間に限らず,イカや昆虫も持っているものだ。目の前に道が2つあり,片方には光が射している場合,人間はそちらの道を選びやすい。
向開放性は,広く明るい方向に進むという人間の本能だ。以下のスライドを見ると分かりやすいが,左右ともに同じ空間でも,空が見えている開放感があるほうを人間は好む。
一時経路とは,最初に目に入ったものがよく見えるところに移動するという本能のこと。右→左の順に景色を視界に入れた場合,ほとんどの人は最初に確認した右方向に進むという。もし制作者が左に向かわせたいのであれば,左側にスポットを当てるとプレイヤーを左に誘導できるそうだ。
直線経路は,曲線の道と直線の道がある場合,人間は直線の道を選びやすいという本能だ。そして,最後の危機回避本能はその名のとおり,人間は自ずと安全に見える空間を目指すという本能である。
以上の解説を行ったキム氏は,これらを複合的に使ってレベルをデザインしていくことが重要だとした。例えばデスマッチ用のマップを制作する場合,対称型と呼ばれる形状が最もバランスがいい。
しかし,以下のスライドのような線対称のマップでは,良いバランスとは言えない。両チームのプレイヤーが左回り本能に従って動くならば,行動は非対称型となる。マップの形状が有利不利の状況を生んでしまう。
正しくは以下のスライドのとおり,点対称のマップをデザインすることだという。
ここで,キム氏が実際にレベルデザインを手がけたマップとして,「Combat Arms」のSector 25が紹介されている。このマップはプレイヤーから好評だったという。
Sector 25のデザインにあたって利用した人間の本能は,一時経路,向光性,そして向開放性とのこと。まずはオフィスのような空間でスポーンしたプレイヤーの目線を中央ホールに集中させる。すると,ほとんどのプレイヤーが一時経路の本能に従って,中央ホールを目指す。中央ホールに向かうほど光が強くなり,空間も広くなっていく形状になっており,ここには向光性と向開放性が利用されている。
このようなレベルデザインをすることで,自然なプレイの流れで中央ホールが主戦場となり,プレイヤーにとっても分かりやすいマップとなったわけだ。
最後にキム氏は「レベルデザインに悩む聴講者にとって,この講演が参考になれば幸いだ」と述べて,拍手に包まれながら降壇した。
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