プレイレポート
[TGS 2016]「これこそインディーズゲーム!」といいたくなる怪作,「You Must be 18 or Older」をプレイしてみた
ゲームを作り続けるにはお金が必要だし,売れるゲームを作るためには「類型的な売れるゲーム」を作るのが一番堅実なのだから,これは仕方ないところではある。実際,海外のゲームショウに行っても,似たような状況はいくらでも観測できる。
だがそんななか,明らかにぶっ飛んだゲームが出てくるのも,またインディーズゲームシーンならではのこと。というわけで,筆者が「TGS 2016最高傑作」だと思うゲームをご紹介したい。「You Must be 18 or Older」という,分かる人にはタイトルで内容が分かってしまう怪作である。
往年のアレなサイトでアレやコレやするゲーム
ゲームの構造でいえば,「You Must be 18 or Older」はコマンド選択型のアドベンチャーゲームであり,そこに新しさは何もない。モンスターが出てきたりはしないし,戦って死んでゲームオーバーになるような展開も起きないというところまで含めて,アドベンチャーゲームの類型に収まる作品と言えるだろう。
だが本作は,シチュエーションの設定と,その演出の手際が際立っている。
本作において,プレイヤーは,1990年代における原始的なインターネットサービスを利用している,おそらくは18歳未満の子供をプレイする。
家には「インターネット」に接続できるPCがあり,主人公はたった1人で家にいる。そして主人公は,学校の悪友たちが「ポルノサイト」なるものについて話合っているのを耳にしたことがある。
この条件が揃えば,主人公がやることはひとつ。PCを起動して「インターネット」に接続し,「ポルノサイト」とやらにアクセスするのだ!
本作はアドベンチャーゲームではあるが,「パソコン通信とインターネット時代の狭間で発生したアングラなポルノサイトに,生まれて初めてアクセスする」という体験を再現してくれるゲームでもある。
ゲームのディテールは十分に凝っていて,「インターネット」に接続するときはダイヤルアップモデムの音が鳴るし,グラフィックスはテキストベースだ。利用するプロバイダは「AOL」がイメージされており,ポルノサイトのURLも,なんとなく見覚えのあるものばかり。
最初に,ポルノサイトを検索するところから始まるというのは,想定した時代に少し先んじているようにも思える(※米Yahoo!のサービス開始は1995年)。検索といってもコマンド選択式なので,「ブックマークされていた巨大なリンク集」と,脳内解釈しながらプレイするといいかもしれない。
もちろんだが,画面の横に表示されるバナー広告をクリックすると,「今だけのサービス」から「あなたのコンピューターは汚染されています」まで,さまざまな小窓が開く。
一応,本作では,ポルノサイトにありがちな画像をイメージしたテキストベースの画像――いわゆるアスキーアートみたいなものだ――が表示されるようになってはいる。とはいえ,かなり遠くから見ないと,どんな画像なのかを判別するのは難しい。
一方でこれは,ゲームショウのような場だと,「プレイしている本人にはイマイチ分かりにくいが,後ろで見ているギャラリーには何なのかがハッキリ分かる」という素敵仕様でもある。
「かつてできなかったことを,ノーリスクで楽しむ」という楽しさ
本作を最も楽しめるのは,まさにこの作品が示す時代のインターネットに,この作品の主人公と同年代で触れていたプレイヤーではないかと思う。
この年代のプレイヤーにとって,本作が示すようなポルノサイトにアクセスするというのは,当時の常識からいっても「愚かしいこと」「避けるべきこと」であった。ゆえに,ある程度までリテラシーのあるプレイヤーであれば,本作が示す体験は「自分がしなかったこと」ではないだろうか(もちろん,「自分がかつてしたこと」を懐かしむ人もいるだろうが)。
このように,過ぎ去った若き時代において,自分が「できたけれど,しなかったこと」を精密に経験できるという作品は,プレイヤーに独特の感覚を引き起こす。
実際に開発者いわく,「少なからぬ体験者はナーバスな反応を示す」のだという。だが,大笑いしながらプレイしたり,激しく頷きながらプレイしたりする人も多いようだ。筆者も会場で,そのようなプレイヤーを多数目撃した。
このように,「強い感情を惹起する」という点において,本作はアドベンチャーゲームとして大成功していると言えるだろう。
もともと本作は,インタラクティブノベルとして開発が始まったという。だが開発が進むにつれて,今のような形で完成を迎えつつある。なんのかんので開発には1年半がかかっているというが,細かな作り込みを見るとそれも納得できる。
本作の正式なリリースは,2016年12月の予定だ。開発者によると,「あくまで小さなゲームだが,もう少し追加したい要素もある」ということなので,完成版に期待したいところだ。
なお公式サイトではデモ版のダウンロードもできるので,興味のある方は試してみてほしい。とはいえ楽しくプレイするなら18歳以上ではなく,38歳以上のほうがいいような気もするが……。
「You Must be 18 or Older」公式Webサイト(英語)
4Gamer「東京ゲームショウ2016」特設サイト
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