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[GDC 2015]「暴力の抑制にはゲームが効果的」。虐待や暴力の撲滅を目指す公益団体が語る
このセッションで登壇したのは,アメリカのアトランタに拠点を置く公益団体,Jennifer Ann's Groupでエグゼクティブディレクターを務めるDrew Crecente(ドリュー・クレセンテ)氏だ。Jennifer Ann's Groupは,Dating Violence(恋人の間で起こる虐待や暴力)を防止するために設立された団体で,主に若年層に向けて教育や啓蒙活動を行っている。
そのJennifer Ann's Groupが力を入れている活動が,ゲームによる啓蒙や教育だ。対象となる若年層との親和性が高く,自分のペースで進められることなどの理由から,ゲームを手段として選んだのだという。
同団体は2008年からDating Violenceをテーマにしたゲームのコンテストを開催しており,当初5つだった応募作品が2014年には22に増えたほか,賞金も当初の1500ドルから1万ドルにまで上がるなど,年々規模が大きくなっている。入選作品はJennifer Ann's Groupの公式サイトでプレイ可能だ。
クレセンテ氏は,その作品の中から「The Guardian」と「Grace's Diary」という2つを紹介した。
「The Guardian」は,プレイヤーが天使となってDating Violenceの被害者を助けるというアクションゲームだ。最初にDating Violenceの事例が展開され,その被害者のもとに向かうべく,プレイヤーは天使を操作してステージを進んでいく。見事にゴールすれば,Dating Violenceへの対処法が紹介されて被害者が助かり,クリアという仕組みだ。
もう1つの「Grace's Diary」は,ポイント&クリック型のアドベンチャーゲーム。主人公のGraceは,友人のNatalieが,彼氏のKenからDating Violenceを受けているのではないかと心配し,電話でそのことを伝えようか迷っている。プレイヤーの目的はGraceの部屋にあるものをクリックしていき,彼女にNatalieとKenに関するさまざまなことを思い出させることだ。記憶が十分であれば,Graceの心配がNatalieに受け入れられる。
こうして盛んにゲームを使った活動が行われているわけだが,果たして実際に効果が出ているのかという疑問は残る。そこでクレセンテ氏は,Coventry UniversityのErica Bowen教授が行った実験のレポートを紹介した。これによると,ゲームを使った教育で,生徒のDating Violenceに関する知識が増えただけでなく,暴力的な行動や言動が減ったのだという。
クレセンテ氏は,ゲームを使った教育は生徒が能動的に学べることから効果が高いと説明し,「ペンと紙よりも若年層に合った方法だ」と語っていた。
さて,そうなると,Dating Violence以外の若年層問題にも,ゲームは活用できそうだ。クレセンテ氏は「Bullying」(いじめ),「Pregnancy/STDs」(妊娠/性感染症),「Suicide」(自殺)という3つの問題を挙げ,それぞれに効果がありそうなゲームを紹介した。
最初に紹介された「SchoolLife」は,3Dグラフィックスで表現された学校内をステージとした一人称視点のゲームだ。プレイヤーはいじめの被害者や傍観者となって,その感情を体験することとなる。現在はマルチプレイのみだが,将来的にはAIを使用したシングルプレイモードも実装予定で,人種や民族問題を絡めたり,先生役を追加したりするなどの構想もあるという。
続いての「It's Your Game...Keep It Real!」は,アメリカのミドルスクール(日本でいう小学5年生から中学2年生くらいまで)を対象にした性教育プログラムで,主にクイズ形式で展開されるという。プレイするには許可が必要なようで,今回のセッションでも映像は紹介されなかった。
最後の「Inner Vision」は,3人の自殺志願者と会話して,彼らに自殺を回避させることが目的のアドベンチャーゲームだ。ゲームとしては選択肢を選んでいくだけだが,テーマがテーマだけに,その選択は非常に重いものとなる。
クレセンテ氏は2015年のDating Violenceゲームコンテスト応募作品の募集を告知した後,良質なゲームを生み出す開発者に対しての期待を示してセッションをまとめた。
若年層の問題解決のため,若年層と親和性が高いゲームを利用するというのは非常に合理的だと感じさせられたセッションだった。日本では「ゲーム」そのものが教育の現場から敵視されてしまうことがままあるが,今回紹介されたような,ゲームの「有効な使い方」がもっと広がることを願うばかりだ。
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