連載
[E3 2017]西川善司の3DGE:Xbox One XはPS4 Proと何が違うのか
製品名は「Xbox One X」。下馬評では「Elite」が有力視されていたが,シンプルに「X」が末尾へ追加されただけのネーミングである。
思えばマイナーチェンジ版が「Xbox One S」だったわけで,Microsoftは,「アルファベット一文字のみを付ける」可能性を示唆していたのだ。Microsoftに言わせると,「X」には「No power greater than X」(Xほどパワーがあるものはなし)の意味を込めてあるそうだが,ちょっとピンとこない(笑)。
個人的には「Xbox One Turbo」あたりを希望していたのだが。
Microsoftはこれまで,Xbox関連の新ハードを発表するときは,新機能や新サービス,新しい周辺機器といった話を長めに展開することが多かった。それが「Xbox One Xのハードに関する話はもう済んでますよね?」と言わんばかりに,シンプルにタイトル紹介を行っていた。
Xbox One XはXbox One,そしてPS4 Proと何が違うのか
なお,別途MicrosoftはXbox One Xの詳細なスペックを公開している。それは表にまとめてみたので,参考にしてほしい。
筆者はPlayStation 4(以下,PS4) Proが発売になる前から,「PS4 Proの持つ,4.2 TFLOPS程度の理論演算性能値では,ゲームグラフィックスを4Kネイティブレンダリングするのは難しい」と指摘していた。それに対してSony Interactive Entertainment(以下,SIE)は,動きが少なければ少ないほどネイティブ4Kに肉迫する描画が可能な,ユニークなチェッカーボードレンダリングを活用するという対策を講じてきている。
このあたりは筆者の連載バックナンバー「知られざるPS4 Proの秘密(2)明らかになった『4Kレンダリングのレシピ』」を参照してほしいが,Xbox One XでMicrosoftは,「6対4.2」という,競合に対する明らかな優位性をアピールすべく「True 4K」(真の4K解像度)というキーワードを多用している。
上のスライドには「8+ million Pixels」(800万画素以上)という文句が出てきているが,これはPS4 Proの「少なくとも800万画素には届かない画素数からのアップスケール4K」に対する,明確な差別ポイントということになるだろう。
Xbox One XはあくまでもXbox Oneの高性能版なので,従来のXbox OneおよびXbox One Sとは100%の互換がある。周辺機器もそのまま利用可能で,これはPS4 ProとオリジナルPS4の関係と変わらない。
異方性フィルタリングとは,ピクセルシェーダがテクスチャを適用するとき,当該テクスチャの読み出しにあたって,視線とポリゴンの傾きまで配慮して「テクスチャの読み取り先」を適応させる処理系のことだ。
このあたり,詳しくは筆者の連載バックナンバー「テクスチャの異方性フィルタリングってなに?」を参考にしてもらえればと思うが,効果としては,ポリゴンを視線が“かすめ見る”ような角度の領域,主に遠方の地形や背景などで解像感が上がって見えるようになる。もちろん,微細な凹凸表現を司る法線マッピングにも有効なので,岩肌や水面のさざ波の解像感も上がるため,リアル系のゲームグラフィックスでは恩恵が少なからずあるという理解でいい。
なお,ここまでの説明で想像できた人もいると思うが,既存のXbox OneタイトルをXbox One Xで動作させる場合,そのまま4Kネイティブレンダリングモードでプレイできるわけではない。PS4 Proと同じく,特別なXbox One X向け対応(=アップデート)を適用することで,初めてXbox One Xの性能を引き出せる仕様だ。
そして,そのような「Xbox OneとXbox One Xとでゲーム体験が異なるタイトル」には,製品ボックスなどへ「Xbox One X Enhanced」のロゴが付与されることとなる。
また,この動きはサードパーティにも波及していくそうで,年内にも,発売済みの30タイトルに対して,無償のXbox One X Enhancedアップデートが当たるという。プレスカンファレンスでは,「ファイナルファンタジーXV」「バイオハザード7 レジデント イービル」「ゴーストリコン ワイルドランズ」「Rocket League」などの名が挙がっていた。
PS4 Proでは,PS4よりも上位の体験ができる「PS4 Pro ENCHANCED」対応のゲームで「グラフィックス体験だけが(4Kに)アップグレードされる」ことになっているが,Xbox One Xではどうか。これも基本的にはPS4 Proと同じく,4K化がメインとなるようである。“Microsoft語”で言えばTrue 4K(≒ネイティブ4K)になるというわけだ。
いま「なるようである」と曖昧な表現をしたことに気付いた読者は鋭い。そう,Xbox One Xでも,ゲームによってはレンダリング解像度がTrue 4Kに満たず,PS4 Proと同じようにアップスケールベールの疑似4Kとなるものがあるのだ。
このあたりを区別するためMicrosoftは,Xbox One X Enhancedとは別に,ネイティブ4K対応タイトルに対して「4K Ultra HD」というロゴも与えることになっている。
※2017年6月15日追記:
Microsoft関係者への追加取材で,以下の事実が判明したので補足したい。
それによると,Xbox One Xにおいて,4K Ultra HDロゴを取得するには,ネイティブ4K解像度ではなく,最終的な出力映像が4K(=HDMI信号として4K)であればOKだそうだ。同時にXbox One X向けタイトルにおいても,4K Ultra HDロゴ付与対象としてチェッカーボードレンダリングを採用したものが存在しうることも判明している。
ただMicrosoftとしてTrue 4K(=ネイティブ4K)を推す方向にあることは間違いないという。
これは私見だが,「ゲームにおける4Kの在り方」について,業界的にPS4 Proと足並みを揃えたということなのかもしれない。
仮に,PS4とXbox Oneのマルチ展開になるタイトルがあるとして,PS4 Pro Enhanced版でもXbox One X Enhanced版でもチェッカーボードレンダリング4Kを採用していた場合,PS4プラットフォームでは4Kを謳いながら,Xbox Oneプラットフォームでは4K Ultra HDロゴが付かないということになると,同じ映像品質なのにXbox One X Enhanced版が見劣りしているように思われてしまう。これを回避したい思惑があるのではなかろうか。
なので,ダブルスタンダードな感じはするが,Microsoftとしては「Xbox One XはTrue 4K対応」を推しつつ,ロゴプログラムでは条件を緩和したということだと考えている。
なお,Xbox One X Enhancedタイトルで,True 4KもしくはフルHDを超えた解像度でレンダリングするとき,接続先のディスプレイデバイスがフルHD解像度の場合は,スーパーサンプリング(Supersampling)によるダウンスケールでフルHD表示を行うという。
スーパーサンプリングの場合,テクスチャの精細度が上がり,またカメラが動いたときやオブジェクトがゆっくり動いたときの「時間方向のピクセルのうねり」(Pixel Shimmer,ピクセルシマー)を大幅に低減できるというメリットがある。つまり,4Kテレビや4Kディスプレイを持っていなくとも,Xbox One X Enhancedの恩恵は受けられれるのだ。
では「HDR対応は?」「広色域対応は?」といった点も気になるとは思うが,Microsoftとして「Xbox One Sで対応済み」という立場なので,今回のXbox One X Enhancedロゴプログラムからは切り離されている。
今回のプレスカンファレンスの各タイトル発表においても,タイトルスライドの下にXbox One X Enhancedとセットで,HDR対応を意味する「HDR」のロゴがあったりした。HDRロゴのあるタイトルでは,Xbox One SでもHDRの恩恵を受けられる。
なお,広色域のほうは,今回のプレスカンファレンスで対応を謳ったタイトルが出てこなかった。これは,広色域への対応難度がHDRよりも高いためだ。
COMPUTEX TAIPEI 2017のレポートでもお伝えしているとおり,そもそもゲーム制作に関わるアーティストがテクスチャなどのアセット制作を広色域な色空間で行わないと,ゲームの広色域対応は果たせず,また,そのようなゲーム制作パイプラインの大変革がゲームスタジオ側であまり進んでいないのである。
筆者が知る限り,「ゲーム制作パイプラインの広色域化」に対応済みなのは,グランツーリスモシリーズのポリフォニーデジタルくらい。広色域対応は,Xbox One Sでも対応可能な要素ではあるものの,実際の対応タイトルが出てくるまでは,少し時間がかかるかもしれない。
「Xbox One X専用」のゲームが出てくるかどうか気になる人もいると思うが,結論から言うと「それはない」そうである。この点,プレスカンファレンス上での言及はなかったのだが,Microsoftから各ゲームスタジオに「Xbox One X専用のゲームは開発しないように」というお達しが出ているそうだ。
さて,Xbox One Xでは,12GB搭載するメモリのうち,システム用途などを除いてゲームプログラム向けに9GBを確保している。従来のXbox Oneシリーズだと5GBなので,ゲームで利用できるメモリ容量はXbox One Xのほうが4GBも多い。
We’ll keep tuning Scorpio to empower creators to share the best versions of their games. Unlocked extra GB of RAM for them, now 9GB of GDDR5
— Mike Ybarra (@XboxQwik) 2017年6月8日
実際MicrosoftはSIEと違い,「グラフィックス以外の仕様拡張」をとくに禁じてはいない。
Xbox One用のゲームは,「Xbox Play Anywhere」プログラムの開始以降,PC版と並行してのリリースが当たり前になりつつある。Xbox One Xでは,最上位のゲーム体験を実現できるPC版と同等のゲームスペックを提供しても構わないということなのかもしれない。
もう1つ,Xbox One Xのスペックで非常に興味深いものとしては,「FreeSync」に対応するというものが挙げられるだろう。
念のため説明しておくと,FreeSyncとは,可変フレームレートの映像を,ディスプレイデバイスの標準リフレッシュレートである60Hzに縛られることなく,任意のタイミングで表示できる,GPU主導のディスプレイ同期技術だ。FreeSyncはAMD独自のもので,最近のRadeonが標準でサポートしているのだが,それをXbox One Xがサポートしてきたのは興味深い。
FreeSyncは,既存のXbox Oneシリーズはもちろんのこと,競合のPS4シリーズも対応していないので,地味ながらXbxo One Xの持つ重要な優位性の1つと言うことができそうだ。
「歴代Xbox史上,最もコンパクト」だが,Xbox One Sとのサイズ差はわずか
MicrosoftはXbox One Xについて,史上最も高性能であるだけでなく,史上最もコンパクトなXboxであるともアピールしている。
具体的なサイズは表で示したが,体積は実のところXbox One Sとほとんど変わらず,フットプリントに至ってはXbox One Sより少し大きい。Xbox One Sのユーザーは,「ほとんど変わらない大きさ」と思っておいたほうがいいだろう。
Microsoftは「Liquid-cooled Vapor Chamber」という表現を行っているので,いわゆる簡易液冷クーラー的なものをイメージしてしまう人も多いと思うが,実際のところこれは,ハイクラス以上のグラフィックスカードでクーラーによく採用されているVapor Chamberそのものである点に注意してほしい。
Vapor Chamberでは,中空構造としたヒートシンクに純水や代替フロンなどの作動液を封入しておき,熱源と接触させる。すると内部の作動液は蒸発して,低温部へ移動するが,このとき,作動液は熱源から熱を受け取って低温部へ移動させる役割を果たす。
低温部へ移動した蒸気はさらにファンなどによる強制冷却によって再び液体に戻るのだが,そこで生じる毛細管現象によって,液体は金属メッシュや微細なワイヤ群などを伝い,熱源へと戻っていく。あとはその繰り返しだ。
やっていることは薄型ノートPCやミドルクラス以上のグラフィックスカード用クーラーでよく採用されているヒートパイプと同じだが,ヒートパイプでは文字どおりパイプを使うのに対し,Vapor Chamberでは専用の立体構造を採用する。違いはそれだけである。一般にはVapor Chamberのほうが(専用設計なので)小型化に向いている一方,コストは高くなるとされている。
Xbox One XのサイズをXbox One Sと大して変わらないレベルに留められているというのは,実際のところ,なにげに注目度の高いエンジニアリングポイントなのである。
ちょっと気になるのは,Microsoftがその動作音について何も言及していないことだったりもするが……。
VR&MR対応に関する言及なし。性能だけで日本市場を攻略できるか?
世界市場における発売日は11月7日で,北米市場におけるメーカー想定売価は499ドル(税別)。Microsoftの日本法人である日本マイクロソフトの公式ステートメントでは「日本での発売日および価格は、決定次第発表いたします」(プレスリリースより原文ママ)なので,常識的に解釈するなら,「世界市場での発売日から遅れるが,販売計画はある」といったところか。Xbox One Sがなんとか発売にこぎ着けたことを踏まえると,最終的に出る可能性のほうが高いとは思う。
個人的には,VR(Virtual Reality,仮想現実)デバイスの対応があって,それが起爆剤になるのではないかと考えていたのだが,今回のプレスカンファレンスで,そういう話題は一切出なかった。
Microsoftが,VRブームを仕掛けたOculus VRと技術提携しているのはよく知られている。2016年12月にはXbox One用タイトルを「Xbox One Game Streaming」でRiftへ配信する機能を実装するなど,「Microsoft×Oculus VR」の連携布陣が整ってきた感が強まってきただけに,今回の「華麗なまでのVRスルー」には驚かされた。
現在「Oculus Touch」とのセットで税別7万6600円となっている「Rift」を,Xbox One Xとのセットで安価に……といったことを実現できれば,「巻き返し」は欲張りすぎだとしても,日本におけるXbox Oneプラットフォームへの関心を取り戻すくらいはできたのではなかろうか,と筆者は思ってしまう。
もっとも,今回のプレスカンファレンスでは,VRどころか,Microsoftが近年猛烈に力を入れているMR(Mixed Reality,複合現実)についても,何の言及もなかったので,今後,何か特別な発表の機会を用意しているのかもしれない。期待して待とう。
[E3 2017]「Project Scorpio」の製品名は「Xbox One X」に決定。世界市場では499ドルで11月7日発売
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